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第61話 俺が次の王だ!
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シュリにはギリギリまで手を出さないでくれと頼んである。一応、俺も応戦できるように剣を抜くしかなかった。しかし、それはあくまでも防御のため。この剣でシャルルを殺そうとは、こうして殺意を向けられた今でもなかった。
いや、むしろ、不思議なほど心が凪いでいた。敵を前にして、こんな気持ちになることは珍しい。
「死ね!」
シャルルが思いきり剣を振りかぶって襲い掛かってくる。しかし、その動きはいつも以上にスローモーションに見えた。ふわっと身体を横に動かすだけで、その剣を避けられる。
「なっ」
しかし、シャルルの目から見ると、まるで瞬間移動したように見えた。そして、気づくと俺の姿が背後にある。
「くっ」
まさしく、異能が正しく発動された状態だ。それにシャルルは悔しさに唇を噛む。
「ふざけやがって。外道使いが!」
そして、多くの国で異能者がぶつけられる言葉を俺に向けて吐き出す。
「異能は外道じゃない」
さすがにそれには俺も言い返す。しかし、シャルルはようやく俺の感情を乱せたのが嬉しいのか、今までに見たことがない、暗い笑みを浮かべる。
「外道だよ。この国は呪われているんだ! 俺が正してやる!!」
シャルルはぐわっと牙を剥くように叫ぶと、再び俺に突っ込んでくる。俺はそれを難なく躱しつつ、このまま何一つ元に戻らないまま別れるしかないのかと、悲しくなっていた。
王位を譲れいうのならば、俺はシャルルに譲っただろう。そのままいなくなれというのならば、それも承諾した。廃嫡通知を突きつけられ、ほっとしたのは事実だからだ。
だから、ぎりぎりの段階まで、俺は逃げることしか考えていなかった。
しかし、事態はそれ以上にややこしくなり、シャルルは俺を恨むばかりで、もう修復不可能な場所にまで来てしまった。
総ては自分の身に異能があるから。
この国は、異能に支配されていたから。
たしかに、この国は呪われているのかもしれない。
しかし、それを言い訳に逃げていいわけじゃない。
王族という立場にいる以上、自分のことだけを考えていて済むわけじゃないのだ。
「この国を、守るという立場にあるんだから」
俺はそう言うと、シャルルの剣を真正面から受け止めた。シャルルは驚いた顔をしたが、チャンスとばかりに剣に力を込める。
「過去に、先祖が魔女と血の盟約を結んだという話を聞いたとき、俺だってびっくりしたしぞっとした」
「ああ。禁忌を犯したんだ」
「でも、その時、それ以外に民を救う方法がないとなれば、俺は、躊躇わずに魔女と取り引きするだろう」
「あ?」
シャルルは何を言っていやがると、不可解だという顔をする。
「その時、多くの民が死ぬかもしれないという状況だったら、俺は魔女に魂を売ることも厭わないと言っているんだ。シャルル、お前は、少しでも民のことを考えているのか?」
王位や王族という立場にある以上、それに見合うだけの重責がのし掛かる。そのことを、シャルルはちゃんと考えているのか。
もしも考えていたら、こうやって俺を殺そうとする以外に取る手段があったはずだ。
そう、呪われた王族を総て切り捨て、新たに異能を持たない王族による支配を組み立てる。
簡単な構造改革で、何もかもが丸く収まったはずなのだ。
それを、シャルルは見落としている。
今、こうやって対決して、シャルルには決定的に欠けているものがあるのだと気づいた。
だから、失策が続き、結局は自分に王位が戻ってくることになったのだ。
「お前は、王の器じゃない。俺が次の王だ!」
俺がそう宣言した時、かっと俺の身体が光り始める。それに驚いたのは、俺もシャルルも同じだ。
「なっ」
どんっと身体に衝撃が走り、光りは収まった。俺はその衝撃に膝を突く。が、攻撃に備えて剣を手放すことはなかった。しかし、シャルルからの攻撃はない。
「大丈夫?」
そこで隠れていたマリナが飛び出してきたことで、戦いそのものは終わったのだと気づいた。見ると、シャルルはうつ伏せに倒れている。
いや、むしろ、不思議なほど心が凪いでいた。敵を前にして、こんな気持ちになることは珍しい。
「死ね!」
シャルルが思いきり剣を振りかぶって襲い掛かってくる。しかし、その動きはいつも以上にスローモーションに見えた。ふわっと身体を横に動かすだけで、その剣を避けられる。
「なっ」
しかし、シャルルの目から見ると、まるで瞬間移動したように見えた。そして、気づくと俺の姿が背後にある。
「くっ」
まさしく、異能が正しく発動された状態だ。それにシャルルは悔しさに唇を噛む。
「ふざけやがって。外道使いが!」
そして、多くの国で異能者がぶつけられる言葉を俺に向けて吐き出す。
「異能は外道じゃない」
さすがにそれには俺も言い返す。しかし、シャルルはようやく俺の感情を乱せたのが嬉しいのか、今までに見たことがない、暗い笑みを浮かべる。
「外道だよ。この国は呪われているんだ! 俺が正してやる!!」
シャルルはぐわっと牙を剥くように叫ぶと、再び俺に突っ込んでくる。俺はそれを難なく躱しつつ、このまま何一つ元に戻らないまま別れるしかないのかと、悲しくなっていた。
王位を譲れいうのならば、俺はシャルルに譲っただろう。そのままいなくなれというのならば、それも承諾した。廃嫡通知を突きつけられ、ほっとしたのは事実だからだ。
だから、ぎりぎりの段階まで、俺は逃げることしか考えていなかった。
しかし、事態はそれ以上にややこしくなり、シャルルは俺を恨むばかりで、もう修復不可能な場所にまで来てしまった。
総ては自分の身に異能があるから。
この国は、異能に支配されていたから。
たしかに、この国は呪われているのかもしれない。
しかし、それを言い訳に逃げていいわけじゃない。
王族という立場にいる以上、自分のことだけを考えていて済むわけじゃないのだ。
「この国を、守るという立場にあるんだから」
俺はそう言うと、シャルルの剣を真正面から受け止めた。シャルルは驚いた顔をしたが、チャンスとばかりに剣に力を込める。
「過去に、先祖が魔女と血の盟約を結んだという話を聞いたとき、俺だってびっくりしたしぞっとした」
「ああ。禁忌を犯したんだ」
「でも、その時、それ以外に民を救う方法がないとなれば、俺は、躊躇わずに魔女と取り引きするだろう」
「あ?」
シャルルは何を言っていやがると、不可解だという顔をする。
「その時、多くの民が死ぬかもしれないという状況だったら、俺は魔女に魂を売ることも厭わないと言っているんだ。シャルル、お前は、少しでも民のことを考えているのか?」
王位や王族という立場にある以上、それに見合うだけの重責がのし掛かる。そのことを、シャルルはちゃんと考えているのか。
もしも考えていたら、こうやって俺を殺そうとする以外に取る手段があったはずだ。
そう、呪われた王族を総て切り捨て、新たに異能を持たない王族による支配を組み立てる。
簡単な構造改革で、何もかもが丸く収まったはずなのだ。
それを、シャルルは見落としている。
今、こうやって対決して、シャルルには決定的に欠けているものがあるのだと気づいた。
だから、失策が続き、結局は自分に王位が戻ってくることになったのだ。
「お前は、王の器じゃない。俺が次の王だ!」
俺がそう宣言した時、かっと俺の身体が光り始める。それに驚いたのは、俺もシャルルも同じだ。
「なっ」
どんっと身体に衝撃が走り、光りは収まった。俺はその衝撃に膝を突く。が、攻撃に備えて剣を手放すことはなかった。しかし、シャルルからの攻撃はない。
「大丈夫?」
そこで隠れていたマリナが飛び出してきたことで、戦いそのものは終わったのだと気づいた。見ると、シャルルはうつ伏せに倒れている。
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