廃嫡王子のスローライフ下剋上

渋川宙

文字の大きさ
上 下
60 / 66

第60話 弟への思い

しおりを挟む
 シャルルが自分を追い掛けてくる。予想していなかった事態に、俺は戸惑ってしまう。
「捨て身ってやつだな。シャルルにはもう先がない。となれば、ムカつく兄を道連れに死んでやると思っていても、おかしくないぜ」
 シモンは拙い事態だなと腕を組む。
「だよねえ。何かと乗せられてここまで来たシャルルにすれば、まさか捨て駒でしたなんて最後は納得出来ないだろうよ。となれば、担ぎ上げたい人物を殺すのは当然だね」
 アンドレはどんまいと、全く励ます気のない笑顔でそう言ってくれる。
「あのなあ。って、ああもう」
 俺の敵はラオドールであり、その後ろにいるパウロだっていうのに。シャルルを殺したって意味がないのに。そう思って思い切り頭を掻き毟る。
「戦うしかないんじゃない?」
 そこに騒動を聞きつけてやって来たシュリが、面白そうじゃんと蠱惑的に笑ってくれる。完全なる悪への誘惑だ。
「いや、あの、まったく面白くないです」
 というわけで、妙な誘いをするのは止めてくれと、俺は断固お断りと両手でバツを作る。
「まあ、ここで兄弟同士が殺し合っても得する奴はいないし、せっかく去った戦争の脅威が再び盛り返す可能性がある。穏便に済ませるのが一番だな」
 シモンがようやく落ち着きを取り戻してそう言ったので、俺もうんうんと頷いた。しかし、シャルルは穏便に済ませようと言ったところで、聞く耳を持つはずがない。
 廃嫡を決定する通知を突きつけてきた時の、あの勝ち誇った顔はムカつくことこの上ないが、殺してせいせいするっていうのは違う気がした。
 弟のしたことは許せない。許せないけど、そんな隙を与えてしまった自分がもっと許せない。
「どうすればいいんだ。捕まえてどっかに閉じ込めておくか」
 俺がそう提案すると
「ああ、いいね。丁度良く裏庭が墓地になっている城館があることだし」
 アンドレがぽんと手を叩く。
 いや、墓地にした覚えはないぞ。お前が勝手に追加で三十人も埋めるからそうなっただけだからな。
 俺は呆れつつも、取り合えず閉じ込めておく場所はあるなと頷いた。
「じゃあ、やっぱり私の出番ね」
 と、ここでシュリがやって来た本当の理由を告げる。彼女の異能を使えば、捕まえておくことは簡単だと言うのだ。ついでに、余計な事も出来なくなるという。
「ただし、弟君が廃人と変わらなくなっちゃうことは許可して貰わないと困るの」
 シュリはぺろっと自分の唇を舐めながら言う。その蠱惑的な仕草と廃人という怖いワードに、俺はぞくっと寒気が走った。
 何をするのか、聞かない方が身のためだと解る。しかし、決定を下すのは自分だ。いくらなんでも廃人になるというのを、そう簡単に承諾できるはずがない。
「ええっと、何をなさるつもりでしょうか?」
 俺は思わず丁寧な訊き方をしてしまう。すると、シュリがくすっと笑った。
「大丈夫よ。弟君には果てない夢を見て貰うだけ。とっても気持ちがいい、ね」
 そして、やっぱり怖いセリフしか聞き出せないのだった。


 俺にとってシャルルは可愛い弟だ。それは今も変わらない。
 憎悪に満ちた目を向けられても、ざまあみろと嘲笑われても、やっぱり、弟は弟なのだ。
「シャルル」
 そんなシャルルを前に、俺が出来ることはシュリの提案を呑むことだけだったことが情けない。あれから三日後、馬で自分のいる場所まで一直線にやってきた弟に、俺はやはり、何もぶつけられないままだった。
「相変わらず、腹が立つ顔だ」
 そのシャルルは、自分を前にしても情けない顔で立つ俺が許せないと睨んでくる。馬から降りるとすぐに剣を抜き、殺してやると鬼気迫る顔をする。
 こんな顔を、どうして俺は取る事が出来ないのだろう。
 あれだけのことをされたのに、心底恨むことが出来ないのだろう。
 とても不思議だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~

ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。 コイツは何かがおかしい。 本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。 目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

【宮廷魔法士のやり直し!】~王宮を追放された天才魔法士は山奥の村の変な野菜娘に拾われたので新たな人生を『なんでも屋』で謳歌したい!~

夕姫
ファンタジー
【私。この『なんでも屋』で高級ラディッシュになります(?)】 「今日であなたはクビです。今までフローレンス王宮の宮廷魔法士としてお勤めご苦労様でした。」 アイリーン=アドネスは宮廷魔法士を束ねている筆頭魔法士のシャーロット=マリーゴールド女史にそう言われる。 理由は国の禁書庫の古代文献を持ち出したという。そんな嘘をエレイナとアストンという2人の貴族出身の宮廷魔法士に告げ口される。この2人は平民出身で王立学院を首席で卒業、そしてフローレンス王国の第一王女クリスティーナの親友という存在のアイリーンのことをよく思っていなかった。 もちろん周りの同僚の魔法士たちも平民出身の魔法士などいても邪魔にしかならない、誰もアイリーンを助けてくれない。 自分は何もしてない、しかも突然辞めろと言われ、挙句の果てにはエレイナに平手で殴られる始末。 王国を追放され、すべてを失ったアイリーンは途方に暮れあてもなく歩いていると森の中へ。そこで悔しさから下を向き泣いていると 「どうしたのお姉さん?そんな収穫3日後のラディッシュみたいな顔しちゃって?」 オレンジ色の髪のおさげの少女エイミーと出会う。彼女は自分の仕事にアイリーンを雇ってあげるといい、山奥の農村ピースフルに連れていく。そのエイミーの仕事とは「なんでも屋」だと言うのだが…… アイリーンは新規一転、自分の魔法能力を使い、エイミーや仲間と共にこの山奥の農村ピースフルの「なんでも屋」で働くことになる。 そして今日も大きなあの声が聞こえる。 「いらっしゃいませ!なんでも屋へようこそ!」 と

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

【完結】ご都合主義で生きてます。-商売の力で世界を変える。カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく-

ジェルミ
ファンタジー
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 その条件として女神に『面白楽しく生活でき、苦労をせずお金を稼いで生きていくスキルがほしい』と無理難題を言うのだった。 困った女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 この味気ない世界を、創生魔法とカスタマイズ可能なストレージを使い、美味しくなる調味料や料理を作り世界を変えて行く。 はい、ご注文は? 調味料、それとも武器ですか? カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく。 村を開拓し仲間を集め国を巻き込む産業を起こす。 いずれは世界へ通じる道を繋げるために。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

転生の水神様ーー使える魔法は水属性のみだが最強ですーー

芍薬甘草湯
ファンタジー
水道局職員が異世界に転生、水神様の加護を受けて活躍する異世界転生テンプレ的なストーリーです。    42歳のパッとしない水道局職員が死亡したのち水神様から加護を約束される。   下級貴族の三男ネロ=ヴァッサーに転生し12歳の祝福の儀で水神様に再会する。  約束通り祝福をもらったが使えるのは水属性魔法のみ。  それでもネロは水魔法を工夫しながら活躍していく。  一話当たりは短いです。  通勤通学の合間などにどうぞ。  あまり深く考えずに、気楽に読んでいただければ幸いです。 完結しました。

処理中です...