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第60話 弟への思い
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シャルルが自分を追い掛けてくる。予想していなかった事態に、俺は戸惑ってしまう。
「捨て身ってやつだな。シャルルにはもう先がない。となれば、ムカつく兄を道連れに死んでやると思っていても、おかしくないぜ」
シモンは拙い事態だなと腕を組む。
「だよねえ。何かと乗せられてここまで来たシャルルにすれば、まさか捨て駒でしたなんて最後は納得出来ないだろうよ。となれば、担ぎ上げたい人物を殺すのは当然だね」
アンドレはどんまいと、全く励ます気のない笑顔でそう言ってくれる。
「あのなあ。って、ああもう」
俺の敵はラオドールであり、その後ろにいるパウロだっていうのに。シャルルを殺したって意味がないのに。そう思って思い切り頭を掻き毟る。
「戦うしかないんじゃない?」
そこに騒動を聞きつけてやって来たシュリが、面白そうじゃんと蠱惑的に笑ってくれる。完全なる悪への誘惑だ。
「いや、あの、まったく面白くないです」
というわけで、妙な誘いをするのは止めてくれと、俺は断固お断りと両手でバツを作る。
「まあ、ここで兄弟同士が殺し合っても得する奴はいないし、せっかく去った戦争の脅威が再び盛り返す可能性がある。穏便に済ませるのが一番だな」
シモンがようやく落ち着きを取り戻してそう言ったので、俺もうんうんと頷いた。しかし、シャルルは穏便に済ませようと言ったところで、聞く耳を持つはずがない。
廃嫡を決定する通知を突きつけてきた時の、あの勝ち誇った顔はムカつくことこの上ないが、殺してせいせいするっていうのは違う気がした。
弟のしたことは許せない。許せないけど、そんな隙を与えてしまった自分がもっと許せない。
「どうすればいいんだ。捕まえてどっかに閉じ込めておくか」
俺がそう提案すると
「ああ、いいね。丁度良く裏庭が墓地になっている城館があることだし」
アンドレがぽんと手を叩く。
いや、墓地にした覚えはないぞ。お前が勝手に追加で三十人も埋めるからそうなっただけだからな。
俺は呆れつつも、取り合えず閉じ込めておく場所はあるなと頷いた。
「じゃあ、やっぱり私の出番ね」
と、ここでシュリがやって来た本当の理由を告げる。彼女の異能を使えば、捕まえておくことは簡単だと言うのだ。ついでに、余計な事も出来なくなるという。
「ただし、弟君が廃人と変わらなくなっちゃうことは許可して貰わないと困るの」
シュリはぺろっと自分の唇を舐めながら言う。その蠱惑的な仕草と廃人という怖いワードに、俺はぞくっと寒気が走った。
何をするのか、聞かない方が身のためだと解る。しかし、決定を下すのは自分だ。いくらなんでも廃人になるというのを、そう簡単に承諾できるはずがない。
「ええっと、何をなさるつもりでしょうか?」
俺は思わず丁寧な訊き方をしてしまう。すると、シュリがくすっと笑った。
「大丈夫よ。弟君には果てない夢を見て貰うだけ。とっても気持ちがいい、ね」
そして、やっぱり怖いセリフしか聞き出せないのだった。
俺にとってシャルルは可愛い弟だ。それは今も変わらない。
憎悪に満ちた目を向けられても、ざまあみろと嘲笑われても、やっぱり、弟は弟なのだ。
「シャルル」
そんなシャルルを前に、俺が出来ることはシュリの提案を呑むことだけだったことが情けない。あれから三日後、馬で自分のいる場所まで一直線にやってきた弟に、俺はやはり、何もぶつけられないままだった。
「相変わらず、腹が立つ顔だ」
そのシャルルは、自分を前にしても情けない顔で立つ俺が許せないと睨んでくる。馬から降りるとすぐに剣を抜き、殺してやると鬼気迫る顔をする。
こんな顔を、どうして俺は取る事が出来ないのだろう。
あれだけのことをされたのに、心底恨むことが出来ないのだろう。
とても不思議だった。
「捨て身ってやつだな。シャルルにはもう先がない。となれば、ムカつく兄を道連れに死んでやると思っていても、おかしくないぜ」
シモンは拙い事態だなと腕を組む。
「だよねえ。何かと乗せられてここまで来たシャルルにすれば、まさか捨て駒でしたなんて最後は納得出来ないだろうよ。となれば、担ぎ上げたい人物を殺すのは当然だね」
アンドレはどんまいと、全く励ます気のない笑顔でそう言ってくれる。
「あのなあ。って、ああもう」
俺の敵はラオドールであり、その後ろにいるパウロだっていうのに。シャルルを殺したって意味がないのに。そう思って思い切り頭を掻き毟る。
「戦うしかないんじゃない?」
そこに騒動を聞きつけてやって来たシュリが、面白そうじゃんと蠱惑的に笑ってくれる。完全なる悪への誘惑だ。
「いや、あの、まったく面白くないです」
というわけで、妙な誘いをするのは止めてくれと、俺は断固お断りと両手でバツを作る。
「まあ、ここで兄弟同士が殺し合っても得する奴はいないし、せっかく去った戦争の脅威が再び盛り返す可能性がある。穏便に済ませるのが一番だな」
シモンがようやく落ち着きを取り戻してそう言ったので、俺もうんうんと頷いた。しかし、シャルルは穏便に済ませようと言ったところで、聞く耳を持つはずがない。
廃嫡を決定する通知を突きつけてきた時の、あの勝ち誇った顔はムカつくことこの上ないが、殺してせいせいするっていうのは違う気がした。
弟のしたことは許せない。許せないけど、そんな隙を与えてしまった自分がもっと許せない。
「どうすればいいんだ。捕まえてどっかに閉じ込めておくか」
俺がそう提案すると
「ああ、いいね。丁度良く裏庭が墓地になっている城館があることだし」
アンドレがぽんと手を叩く。
いや、墓地にした覚えはないぞ。お前が勝手に追加で三十人も埋めるからそうなっただけだからな。
俺は呆れつつも、取り合えず閉じ込めておく場所はあるなと頷いた。
「じゃあ、やっぱり私の出番ね」
と、ここでシュリがやって来た本当の理由を告げる。彼女の異能を使えば、捕まえておくことは簡単だと言うのだ。ついでに、余計な事も出来なくなるという。
「ただし、弟君が廃人と変わらなくなっちゃうことは許可して貰わないと困るの」
シュリはぺろっと自分の唇を舐めながら言う。その蠱惑的な仕草と廃人という怖いワードに、俺はぞくっと寒気が走った。
何をするのか、聞かない方が身のためだと解る。しかし、決定を下すのは自分だ。いくらなんでも廃人になるというのを、そう簡単に承諾できるはずがない。
「ええっと、何をなさるつもりでしょうか?」
俺は思わず丁寧な訊き方をしてしまう。すると、シュリがくすっと笑った。
「大丈夫よ。弟君には果てない夢を見て貰うだけ。とっても気持ちがいい、ね」
そして、やっぱり怖いセリフしか聞き出せないのだった。
俺にとってシャルルは可愛い弟だ。それは今も変わらない。
憎悪に満ちた目を向けられても、ざまあみろと嘲笑われても、やっぱり、弟は弟なのだ。
「シャルル」
そんなシャルルを前に、俺が出来ることはシュリの提案を呑むことだけだったことが情けない。あれから三日後、馬で自分のいる場所まで一直線にやってきた弟に、俺はやはり、何もぶつけられないままだった。
「相変わらず、腹が立つ顔だ」
そのシャルルは、自分を前にしても情けない顔で立つ俺が許せないと睨んでくる。馬から降りるとすぐに剣を抜き、殺してやると鬼気迫る顔をする。
こんな顔を、どうして俺は取る事が出来ないのだろう。
あれだけのことをされたのに、心底恨むことが出来ないのだろう。
とても不思議だった。
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