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第51話 久々に酒場へ

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 それからも敵襲はなく、俺たちはハッブル王国で最も大きな川の傍へとやって来た。
「すげえ」
「俺も始めてきた」
「俺も」
 雄大な川を眺めて、俺だけでなくピーターもシモンも、初めて見たと感動している。
「私はこの川で船旅をしたことがあるわ」
 そんな三人に、シュリは懐かしいわと笑い
「私は最初の巡礼の時に来たかな」
 マリナも昔の話だわと遠い目をしている。
「あのぅ、二人の年齢って」
 俺が思わず確認すると
「あらあら。女性に年齢を訊くなんて失礼よ」
「そうよ」
 と、二人揃って反撃してくれる。
「ええっと、はい。すみません」
 俺は何だか凄い圧を感じて、すぐに引き下がった。
「今日は近くの宿に入ろうよ」
 で、そこまで我関せずにいたキキが、ベッドで寝たいと主張。川の傍には船宿を経営しているところが多くあり、そこに泊まりたいというわけだ。
「いいなあ。俺も久々に……ああ、でも、問題は噂だなあ」
 俺もベッドで寝たかったが、王子様の噂話を聞くことになるんだよなあと、渋い顔をしてしまう。
「まあまあ。ちゃんと情報収集もしないと駄目だよ」
 こちらもそれまで黙っていたアンドレが、丁度いいじゃんと主張する。
「うっ、そりゃあ、まあ」
 見て見ぬふりは出来ないよなと、漁師たちがのんびり網を投げる様子を見ながら、この生活を守れるかどうかにも関わるんだよなと、俺は納得するしかないのだった。



 泊まることが出来るようになった船宿は、それなりに賑やかな宿だった。
「ここ、大丈夫かな」
 俺はわいわいと賑わう一階部分の酒場に入りつつ、ちょっとドキドキしてしまう。
「大丈夫だよ。吟遊詩人」
「うっ」
 またしてもアンドレの帽子を借りている俺は、からかってくるシモンにむっとしてしまう。
「それに、ここは荷物を運ぶ目的の奴らが多いからな。大丈夫だって」
 シモンはそう言うと、すぐに親父にビールを三つ頼む。
 ちなみにシュリはどこかに出かけてしまい、マリナは修道女なので酒場は遠慮するとやって来なかった。ピーターはそんなマリナに捕まり、今回も夜は酒場に入ることが出来ないでいる。キキは早々にベッドでいびきを掻いていた。
「おう。随分とバラエティー豊かなメンツだな」
 親父は俺たちに酒を配りながら、どういう関係だよと不思議そうだ。
「旅の途中で連れ合いになったんだよ。吟遊詩人さんはあちこち歩くのが仕事だし、こっちの男は傭兵をやっている。俺は大工だ」
 シモンが慣れた調子で説明すると
「なるほどねえ。って、あんた。傭兵ってことは、この間まであそこの要塞に詰めていたのか?」
 酒場の親父はアンドレを見てそう訊いてきた。
「いや、俺は呼ばれなかったが、結構な人数が呼ばれたみたいだな」
 アンドレは動揺することなく、あっさりとそう切り返す。
「そうそう。あそこで戦争があるかもって多くの奴が行ったもんだが、結局、何もなくて解散って感じだったらしいよ。あんた、行かなくて正解だな」
「へえ」
 それは初耳の情報で、アンドレはどういうことだろうと顎を擦っている。俺もビールをちびちびと飲みながら首を捻った。
 つい一か月前まで、戦争がすぐに起きるだなんだと話していたのに、これはどういうことだろうか。
「どうしてか、誰かから聞いたかい?」
 シモンはすぐに親父にそう質問をする。
「いや。詳しくは知らねえよ。そもそも、なんで戦争なんだってそこから不思議だったし」
「へえ」
 どうやらこの辺りには、王子様云々という噂は伝わっていなかったようだ。しかし、兵士が通ったり、また物資が要塞に運ばれたことから、何かあるのだろうとは解っていたということらしい。
「なんにせよ、平和が一番だよねえ。ごたごたはごめんだよ」
 親父はそう付け加えて、他のテーブルへと向かった。それに、三人はどういうことだろうと顔を突き合わせる。
「これはもう、一度王宮の情報をちゃんと掴むべきだよ」
 アンドレが俺に向けてそう言う。それに俺も
「まあ、ピリピリとしていないのならば、どこかで情報は得たいかな。あと」
 平和が一番。親父が何気なく口にしたことを、俺も旅を通じて痛感していた。だから、何とか俺たち兄弟のことも平和に解決したいと思っていた。
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