51 / 66
第51話 久々に酒場へ
しおりを挟む
それからも敵襲はなく、俺たちはハッブル王国で最も大きな川の傍へとやって来た。
「すげえ」
「俺も始めてきた」
「俺も」
雄大な川を眺めて、俺だけでなくピーターもシモンも、初めて見たと感動している。
「私はこの川で船旅をしたことがあるわ」
そんな三人に、シュリは懐かしいわと笑い
「私は最初の巡礼の時に来たかな」
マリナも昔の話だわと遠い目をしている。
「あのぅ、二人の年齢って」
俺が思わず確認すると
「あらあら。女性に年齢を訊くなんて失礼よ」
「そうよ」
と、二人揃って反撃してくれる。
「ええっと、はい。すみません」
俺は何だか凄い圧を感じて、すぐに引き下がった。
「今日は近くの宿に入ろうよ」
で、そこまで我関せずにいたキキが、ベッドで寝たいと主張。川の傍には船宿を経営しているところが多くあり、そこに泊まりたいというわけだ。
「いいなあ。俺も久々に……ああ、でも、問題は噂だなあ」
俺もベッドで寝たかったが、王子様の噂話を聞くことになるんだよなあと、渋い顔をしてしまう。
「まあまあ。ちゃんと情報収集もしないと駄目だよ」
こちらもそれまで黙っていたアンドレが、丁度いいじゃんと主張する。
「うっ、そりゃあ、まあ」
見て見ぬふりは出来ないよなと、漁師たちがのんびり網を投げる様子を見ながら、この生活を守れるかどうかにも関わるんだよなと、俺は納得するしかないのだった。
泊まることが出来るようになった船宿は、それなりに賑やかな宿だった。
「ここ、大丈夫かな」
俺はわいわいと賑わう一階部分の酒場に入りつつ、ちょっとドキドキしてしまう。
「大丈夫だよ。吟遊詩人」
「うっ」
またしてもアンドレの帽子を借りている俺は、からかってくるシモンにむっとしてしまう。
「それに、ここは荷物を運ぶ目的の奴らが多いからな。大丈夫だって」
シモンはそう言うと、すぐに親父にビールを三つ頼む。
ちなみにシュリはどこかに出かけてしまい、マリナは修道女なので酒場は遠慮するとやって来なかった。ピーターはそんなマリナに捕まり、今回も夜は酒場に入ることが出来ないでいる。キキは早々にベッドでいびきを掻いていた。
「おう。随分とバラエティー豊かなメンツだな」
親父は俺たちに酒を配りながら、どういう関係だよと不思議そうだ。
「旅の途中で連れ合いになったんだよ。吟遊詩人さんはあちこち歩くのが仕事だし、こっちの男は傭兵をやっている。俺は大工だ」
シモンが慣れた調子で説明すると
「なるほどねえ。って、あんた。傭兵ってことは、この間まであそこの要塞に詰めていたのか?」
酒場の親父はアンドレを見てそう訊いてきた。
「いや、俺は呼ばれなかったが、結構な人数が呼ばれたみたいだな」
アンドレは動揺することなく、あっさりとそう切り返す。
「そうそう。あそこで戦争があるかもって多くの奴が行ったもんだが、結局、何もなくて解散って感じだったらしいよ。あんた、行かなくて正解だな」
「へえ」
それは初耳の情報で、アンドレはどういうことだろうと顎を擦っている。俺もビールをちびちびと飲みながら首を捻った。
つい一か月前まで、戦争がすぐに起きるだなんだと話していたのに、これはどういうことだろうか。
「どうしてか、誰かから聞いたかい?」
シモンはすぐに親父にそう質問をする。
「いや。詳しくは知らねえよ。そもそも、なんで戦争なんだってそこから不思議だったし」
「へえ」
どうやらこの辺りには、王子様云々という噂は伝わっていなかったようだ。しかし、兵士が通ったり、また物資が要塞に運ばれたことから、何かあるのだろうとは解っていたということらしい。
「なんにせよ、平和が一番だよねえ。ごたごたはごめんだよ」
親父はそう付け加えて、他のテーブルへと向かった。それに、三人はどういうことだろうと顔を突き合わせる。
「これはもう、一度王宮の情報をちゃんと掴むべきだよ」
アンドレが俺に向けてそう言う。それに俺も
「まあ、ピリピリとしていないのならば、どこかで情報は得たいかな。あと」
平和が一番。親父が何気なく口にしたことを、俺も旅を通じて痛感していた。だから、何とか俺たち兄弟のことも平和に解決したいと思っていた。
「すげえ」
「俺も始めてきた」
「俺も」
雄大な川を眺めて、俺だけでなくピーターもシモンも、初めて見たと感動している。
「私はこの川で船旅をしたことがあるわ」
そんな三人に、シュリは懐かしいわと笑い
「私は最初の巡礼の時に来たかな」
マリナも昔の話だわと遠い目をしている。
「あのぅ、二人の年齢って」
俺が思わず確認すると
「あらあら。女性に年齢を訊くなんて失礼よ」
「そうよ」
と、二人揃って反撃してくれる。
「ええっと、はい。すみません」
俺は何だか凄い圧を感じて、すぐに引き下がった。
「今日は近くの宿に入ろうよ」
で、そこまで我関せずにいたキキが、ベッドで寝たいと主張。川の傍には船宿を経営しているところが多くあり、そこに泊まりたいというわけだ。
「いいなあ。俺も久々に……ああ、でも、問題は噂だなあ」
俺もベッドで寝たかったが、王子様の噂話を聞くことになるんだよなあと、渋い顔をしてしまう。
「まあまあ。ちゃんと情報収集もしないと駄目だよ」
こちらもそれまで黙っていたアンドレが、丁度いいじゃんと主張する。
「うっ、そりゃあ、まあ」
見て見ぬふりは出来ないよなと、漁師たちがのんびり網を投げる様子を見ながら、この生活を守れるかどうかにも関わるんだよなと、俺は納得するしかないのだった。
泊まることが出来るようになった船宿は、それなりに賑やかな宿だった。
「ここ、大丈夫かな」
俺はわいわいと賑わう一階部分の酒場に入りつつ、ちょっとドキドキしてしまう。
「大丈夫だよ。吟遊詩人」
「うっ」
またしてもアンドレの帽子を借りている俺は、からかってくるシモンにむっとしてしまう。
「それに、ここは荷物を運ぶ目的の奴らが多いからな。大丈夫だって」
シモンはそう言うと、すぐに親父にビールを三つ頼む。
ちなみにシュリはどこかに出かけてしまい、マリナは修道女なので酒場は遠慮するとやって来なかった。ピーターはそんなマリナに捕まり、今回も夜は酒場に入ることが出来ないでいる。キキは早々にベッドでいびきを掻いていた。
「おう。随分とバラエティー豊かなメンツだな」
親父は俺たちに酒を配りながら、どういう関係だよと不思議そうだ。
「旅の途中で連れ合いになったんだよ。吟遊詩人さんはあちこち歩くのが仕事だし、こっちの男は傭兵をやっている。俺は大工だ」
シモンが慣れた調子で説明すると
「なるほどねえ。って、あんた。傭兵ってことは、この間まであそこの要塞に詰めていたのか?」
酒場の親父はアンドレを見てそう訊いてきた。
「いや、俺は呼ばれなかったが、結構な人数が呼ばれたみたいだな」
アンドレは動揺することなく、あっさりとそう切り返す。
「そうそう。あそこで戦争があるかもって多くの奴が行ったもんだが、結局、何もなくて解散って感じだったらしいよ。あんた、行かなくて正解だな」
「へえ」
それは初耳の情報で、アンドレはどういうことだろうと顎を擦っている。俺もビールをちびちびと飲みながら首を捻った。
つい一か月前まで、戦争がすぐに起きるだなんだと話していたのに、これはどういうことだろうか。
「どうしてか、誰かから聞いたかい?」
シモンはすぐに親父にそう質問をする。
「いや。詳しくは知らねえよ。そもそも、なんで戦争なんだってそこから不思議だったし」
「へえ」
どうやらこの辺りには、王子様云々という噂は伝わっていなかったようだ。しかし、兵士が通ったり、また物資が要塞に運ばれたことから、何かあるのだろうとは解っていたということらしい。
「なんにせよ、平和が一番だよねえ。ごたごたはごめんだよ」
親父はそう付け加えて、他のテーブルへと向かった。それに、三人はどういうことだろうと顔を突き合わせる。
「これはもう、一度王宮の情報をちゃんと掴むべきだよ」
アンドレが俺に向けてそう言う。それに俺も
「まあ、ピリピリとしていないのならば、どこかで情報は得たいかな。あと」
平和が一番。親父が何気なく口にしたことを、俺も旅を通じて痛感していた。だから、何とか俺たち兄弟のことも平和に解決したいと思っていた。
0
お気に入りに追加
141
あなたにおすすめの小説
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
リリゼットの学園生活 〜 聖魔法?我が家では誰でも使えますよ?
あくの
ファンタジー
15になって領地の修道院から王立ディアーヌ学園、通称『学園』に通うことになったリリゼット。
加護細工の家系のドルバック伯爵家の娘として他家の令嬢達と交流開始するも世間知らずのリリゼットは令嬢との会話についていけない。
また姉と婚約者の破天荒な行動からリリゼットも同じなのかと学園の男子生徒が近寄ってくる。
長女気質のダンテス公爵家の長女リーゼはそんなリリゼットの危うさを危惧しており…。
リリゼットは楽しい学園生活を全うできるのか?!
魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
追放シーフの成り上がり
白銀六花
ファンタジー
王都のギルドでSS級まで上り詰めた冒険者パーティー【オリオン】の一員として日々活躍するディーノ。
前衛のシーフとしてモンスターを翻弄し、回避しながらダメージを蓄積させていき、最後はパーティー全員でトドメを刺す。
これがディーノの所属するオリオンの戦い方だ。
ところが、SS級モンスター相手に命がけで戦うディーノに対し、ほぼ無傷で戦闘を終えるパーティーメンバー。
ディーノのスキル【ギフト】によってパーティーメンバーのステータスを上昇させ、パーティー内でも誰よりも戦闘に貢献していたはずなのに……
「お前、俺達の実力についてこれなくなってるんじゃねぇの?」とパーティーを追放される。
ディーノを追放し、新たな仲間とパーティーを再結成した元仲間達。
新生パーティー【ブレイブ】でクエストに出るも、以前とは違い命がけの戦闘を繰り広げ、クエストには失敗を繰り返す。
理由もわからず怒りに震え、新入りを役立たずと怒鳴りちらす元仲間達。
そしてソロの冒険者として活動し始めるとディーノは、自分のスキルを見直す事となり、S級冒険者として活躍していく事となる。
ディーノもまさか、パーティーに所属していた事で弱くなっていたなどと気付く事もなかったのだ。
それと同じく、自分がパーティーに所属していた事で仲間を弱いままにしてしまった事にも気付いてしまう。
自由気ままなソロ冒険者生活を楽しむディーノ。
そこに元仲間が会いに来て「戻って来い」?
戻る気などさらさら無いディーノはあっさりと断り、一人自由な生活を……と、思えば何故かブレイブの新人が頼って来た。
S級パーティを追放された無能扱いの魔法戦士は気ままにギルド職員としてスローライフを送る
神谷ミコト
ファンタジー
【祝!4/6HOTランキング2位獲得】
元貴族の魔法剣士カイン=ポーンは、「誰よりも強くなる。」その決意から最上階と言われる100Fを目指していた。
ついにパーティ「イグニスの槍」は全人未達の90階に迫ろうとしていたが、
理不尽なパーティ追放を機に、思いがけずギルドの職員としての生活を送ることに。
今までのS級パーティとして牽引していた経験を活かし、ギルド業務。ダンジョン攻略。新人育成。そして、学園の臨時講師までそつなくこなす。
様々な経験を糧にカインはどう成長するのか。彼にとっての最強とはなんなのか。
カインが無自覚にモテながら冒険者ギルド職員としてスローライフを送るである。
ハーレム要素多め。
※隔日更新予定です。10話前後での完結予定で構成していましたが、多くの方に見られているため10話以降も製作中です。
よければ、良いね。評価、コメントお願いします。励みになりますorz
他メディアでも掲載中。他サイトにて開始一週間でジャンル別ランキング15位。HOTランキング4位達成。応援ありがとうございます。
たくさんの誤字脱字報告ありがとうございます。すべて適応させていただきます。
物語を楽しむ邪魔をしてしまい申し訳ないですorz
今後とも応援よろしくお願い致します。
完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-
ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。
自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。
安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。
いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して!
この世界は無い物ばかり。
現代知識を使い生産チートを目指します。
※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。
復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜
サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」
孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。
淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。
だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。
1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。
スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。
それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。
それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。
増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。
一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。
冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。
これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる