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第41話 王宮料理は薄味だよ
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自分の顔を知っている人はいないとはいえ、やはり自分の話題で持ちきりの場所にいるのは辛かった。
「さっさと湖に戻ろう」
だから、俺がそう言い出した時、誰も反対はしなかった。ビザード二日目だが、町中の活気を俺は楽しめなくなっている。
「そうね。あまり長居をするのは得策ではないもの。でも、まだ買い物が終わっていないから、もう少し待って」
マリナがごめんねと謝りながら、シュリを連れて近くの商店へと消えていく。
「はあ。女子は色々と買うものが多いんだな」
俺はそれを見届けてから、むぎゅっと深く帽子を被る。吟遊詩人っぽい帽子でちょっと嫌だが、顔がしっかり隠れるので丁度いい。
「まあ、マリナとシュリの作る薬は人気だからな。それを卸しておくってのも目的の一つだろう。今後の旅を考えると、金貨も持っておいて損はないからな」
シモンはもう少しの我慢だと俺の肩を叩くと、用事が終わるまでの間は酒場でのんびりしていようと誘った。
「いいね。あそこのおっさんの料理、美味しいし」
「ははっ、レオは食べることばっかだね」
すぐに食べ物の話をする俺にアンドレは呆れてくれるが、やっぱりこの生活での一番の楽しみは食事だ。そのどれもが王宮では食べたことがないものばかりとなると、ついつい食べ過ぎてしまう。
「あそこのハム、絶品だよ」
「そう言えば、王宮の食事と庶民の食事ってそんなに違うもんなんだ」
アンドレは何にでも驚いているし、美味しいって言うよねと俺にますます呆れている。
「かなり違うね。王宮の料理は基本が薄味なんだよ。しかも食事って時間を掛けて食べるもので、少量が載った皿が何度も出てくるわけ。一回にどかって出てくることはないし、揚げ物なんてほぼないよ」
見た目は綺麗だけどねと、俺は肩を竦めて小声で説明する。さすがに王宮の話題を大声で喋るのは憚られた。
「薄味なんだ」
「そう。毒物を警戒してだと思う。薄味だと余計なものが添加されていたら、すぐにバレるから」
「ああ。そうだよね。食事の場って暗殺に最適だもん」
「いや、最適とか言うな」
確かにそうなんだろうけど、今まで平和だったのにさと俺は唇を尖らせる。
そう言えば、今は王宮はバタバタだろうから、そういう危険も増えているのだろうか。俺はそんな懸念が過ぎったものの、自分を追い出し、さらには戦争の責任を押しつけようとしている奴らなんて心配してやるだけ無駄かと、気持ちを切り替えていた。
「レオナールの捜索だけでなく、パウロも捜索するとなると、ドロイヤ国境の兵をいくらか呼び戻す必要があります」
シャルルはそう報告してきた騎士団長に、思わず舌打ちをしていた。あいつらは戦争を起こさせることさえ、邪魔するつもりか。そんな怒りが湧き上がってくる。
夜通し行われた捜索をもってしても、王宮神官長の姿を見つける事は出来なかった。となると、捜索の手を広げる必要がある。しかし、兵の数には限りがあるのでどするかという相談だ。それにシャルルは頭を掻き毟りたい気分になる。
「ドロイヤの動きはどうなんだ?」
しかし、こちらが動揺すればするほど、大臣たちの心はレオナールに傾いてしまう。シャルルは自制心を総動員して、冷静な振りをして訊ねた。
「今のところ、大きな動きはありません。やはり大規模な戦闘を起こすとなると、隣のミッドランド連邦国の動きが気になるようです」
「ふむ。ならば、少しの間、パウロの捜索に割けるということか」
「ええ」
騎士団長のビルドは頷きつつ、これで戦争も諦めてくれればいいのにと内心思っていた。
どちらも兵に損害が出たからと言って、ここで安易に戦争をするのは間違っている。もしも廃嫡騒動がなければ、戦争なんて単語は出てこなかったはずだ。
総てはこのシャルルのせいなのに。騎士団長の目から見れば、そうとしか映らない。
とはいえ、レオナールが絶対的に慕われていたかというと、そうではないのが実情だ。彼は誰にでも分け隔てなく接する事が出来るという美点を持っているが、それだけに、上位のものを上手く煽てることが苦手だった。
そういう点が、シャルルがいいって奴を生むんだよな。
シャルルの場合は必ず身分を重視している。今、騎士団長の自分の言葉にのみ耳を傾けているのがいい例だ。
「よし。一部を呼び戻してパウロを追わせろ。早急に連れ戻すんだ」
今も、逃げた王宮神官長を蔑ろにしないしね。騎士団長はそんなことを考えながら、敬礼してシャルルの前を辞したのだった。
「さっさと湖に戻ろう」
だから、俺がそう言い出した時、誰も反対はしなかった。ビザード二日目だが、町中の活気を俺は楽しめなくなっている。
「そうね。あまり長居をするのは得策ではないもの。でも、まだ買い物が終わっていないから、もう少し待って」
マリナがごめんねと謝りながら、シュリを連れて近くの商店へと消えていく。
「はあ。女子は色々と買うものが多いんだな」
俺はそれを見届けてから、むぎゅっと深く帽子を被る。吟遊詩人っぽい帽子でちょっと嫌だが、顔がしっかり隠れるので丁度いい。
「まあ、マリナとシュリの作る薬は人気だからな。それを卸しておくってのも目的の一つだろう。今後の旅を考えると、金貨も持っておいて損はないからな」
シモンはもう少しの我慢だと俺の肩を叩くと、用事が終わるまでの間は酒場でのんびりしていようと誘った。
「いいね。あそこのおっさんの料理、美味しいし」
「ははっ、レオは食べることばっかだね」
すぐに食べ物の話をする俺にアンドレは呆れてくれるが、やっぱりこの生活での一番の楽しみは食事だ。そのどれもが王宮では食べたことがないものばかりとなると、ついつい食べ過ぎてしまう。
「あそこのハム、絶品だよ」
「そう言えば、王宮の食事と庶民の食事ってそんなに違うもんなんだ」
アンドレは何にでも驚いているし、美味しいって言うよねと俺にますます呆れている。
「かなり違うね。王宮の料理は基本が薄味なんだよ。しかも食事って時間を掛けて食べるもので、少量が載った皿が何度も出てくるわけ。一回にどかって出てくることはないし、揚げ物なんてほぼないよ」
見た目は綺麗だけどねと、俺は肩を竦めて小声で説明する。さすがに王宮の話題を大声で喋るのは憚られた。
「薄味なんだ」
「そう。毒物を警戒してだと思う。薄味だと余計なものが添加されていたら、すぐにバレるから」
「ああ。そうだよね。食事の場って暗殺に最適だもん」
「いや、最適とか言うな」
確かにそうなんだろうけど、今まで平和だったのにさと俺は唇を尖らせる。
そう言えば、今は王宮はバタバタだろうから、そういう危険も増えているのだろうか。俺はそんな懸念が過ぎったものの、自分を追い出し、さらには戦争の責任を押しつけようとしている奴らなんて心配してやるだけ無駄かと、気持ちを切り替えていた。
「レオナールの捜索だけでなく、パウロも捜索するとなると、ドロイヤ国境の兵をいくらか呼び戻す必要があります」
シャルルはそう報告してきた騎士団長に、思わず舌打ちをしていた。あいつらは戦争を起こさせることさえ、邪魔するつもりか。そんな怒りが湧き上がってくる。
夜通し行われた捜索をもってしても、王宮神官長の姿を見つける事は出来なかった。となると、捜索の手を広げる必要がある。しかし、兵の数には限りがあるのでどするかという相談だ。それにシャルルは頭を掻き毟りたい気分になる。
「ドロイヤの動きはどうなんだ?」
しかし、こちらが動揺すればするほど、大臣たちの心はレオナールに傾いてしまう。シャルルは自制心を総動員して、冷静な振りをして訊ねた。
「今のところ、大きな動きはありません。やはり大規模な戦闘を起こすとなると、隣のミッドランド連邦国の動きが気になるようです」
「ふむ。ならば、少しの間、パウロの捜索に割けるということか」
「ええ」
騎士団長のビルドは頷きつつ、これで戦争も諦めてくれればいいのにと内心思っていた。
どちらも兵に損害が出たからと言って、ここで安易に戦争をするのは間違っている。もしも廃嫡騒動がなければ、戦争なんて単語は出てこなかったはずだ。
総てはこのシャルルのせいなのに。騎士団長の目から見れば、そうとしか映らない。
とはいえ、レオナールが絶対的に慕われていたかというと、そうではないのが実情だ。彼は誰にでも分け隔てなく接する事が出来るという美点を持っているが、それだけに、上位のものを上手く煽てることが苦手だった。
そういう点が、シャルルがいいって奴を生むんだよな。
シャルルの場合は必ず身分を重視している。今、騎士団長の自分の言葉にのみ耳を傾けているのがいい例だ。
「よし。一部を呼び戻してパウロを追わせろ。早急に連れ戻すんだ」
今も、逃げた王宮神官長を蔑ろにしないしね。騎士団長はそんなことを考えながら、敬礼してシャルルの前を辞したのだった。
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