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第40話 廃嫡騒動の裏側
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逃げた王宮神官長の姿は、なんとオーロランド公国にあった。すぐに公爵との会談が実現し、現在、パウロはジョゼフと話し合いの最中だった。
「まさか王宮神官長が国を脱出するとはね。それも部下全員を引き連れてとは」
こそこそと動き始めていたジョゼフだが、こんな大物が乗り込んできたとなれば多少緊張する。しかし、目の前のパウロはにこりと笑ってみせた。
「それはもちろん、オーロランド公爵様がすでに我が国の王の秘密をご存じですからね」
そしてさらっと懸念事項を口にしてくれる。
「私を消すつもりか」
そんなことはないと知りつつ、確認しなければ落ち着かない。国王と王族の一部が能力者である。これは他国に知られるわけにはいかない秘密だろう。その秘密をミッドランドに漏らしたとなれば、国王と親族関係にあるなんて無意味なことになるかもしれない。
「まさか。私はあなたにご助力頂きたく、ここまで参上したのですよ」
「ほう」
助力ね。やはりこのパウロは国王と親密に連絡を取り合っているわけかと頷いた。
「今回の謀反ですが、私はあえて動きませんでした。レオナール殿下には悪いですが、あの方があのまま国王になるには、少しばかり汚さが足りませんからね」
さらにパウロは意外なことを口にする。しかし、確かに王宮神官長の地位にありながら、謀反に気づけなかったというのは奇妙な話だ。
「ええ。知っていましたよ。あのラオドールという男がその身に不相応な野望を抱いていることも知っていました。知っていて、宰相になることを許可したのです」
「ふうむ」
なるほど、ある程度のことはこの神官長の手の上だったということか。ジョゼフはますますややこしいことになったなと顎を撫でる。
「我々神官の役目は、ハッブル王国を正しく導くことです。それは過去に魔女と取り引きした時から始まっています。大きな力を御す役割を我々は担っているのです」
パウロはそのためには謀反を容認することもありますと、目を鋭くして断言する。
「それが今回か」
「はい。どういう状況下になろうと、レオナール殿下が死ぬことはないと解っていました。それに、彼の傍に残った騎士のアンドレ、彼も異能者ですからね。アンドレ自身は上手く誤魔化せていると思っていたようですが、我々の目を欺くことは出来ません。結果、上手く立ち回ってくれていますよ」
「ははあ」
これは凄いことを聞かされているなと、ジョゼフは驚きの声を上げてしまう。そして、とんでもないことに気づいてしまった。
「ハッブルの中には、異能や能力者を有する者がたくさん活躍していたわけか」
王宮神官、彼らはみな異能力を使うことが出来るのだ。ジョゼフの確認に、パウロは笑顔で頷いた。
「当然でしょう。それだけ、国王が受け継ぐ力は大きいのです。他国に知られた場合の対策としての役割も、我ら神官が担っております」
「なるほど。それで今回、荒療治が必要という結論に至ったのか」
大きな力を持つからこそ、それだけの責任を負わなければならない。その徹底がなければ、過去のように異能力を用いた大戦を招いてしまう。
「ええ。レオナール殿下の高潔な精神は素晴らしいですが、あのままではどんな暴走を引き起こすか解りません。それに、殿下はまだ気づかれていませんが、彼の身に備わった能力は今までのどの国王よりも桁違いです。それだけに、苦難が必要だったのです」
「英雄であるべき、というわけか」
「ああ。話が早くて助かります。そう、平和な時代にはいてはいけない人なのですよ。彼の能力は逆境にこそ必要なものであり、平和な時代にはその身を滅ぼすことしかない力です。つまり、一度転落して這い上がるしかないわけです」
パウロはそのための手順が今回の廃嫡だと言い切った。
「怖い男だな。もしもシャルルに異能があったら、そのままレオナールを殺すつもりだったか」
しかし、ジョゼフはその言葉の裏も汲み取って苦笑する。
「それはもちろん。その点に関しては、シャルル様にも異能があればすんなり終わったと申し上げるしかありません。レオナール殿下は幸運も持っているということですね」
過ぎた力は身を滅ぼす。その前に対策を打つのもまた自分の仕事。パウロは仕事をこなすだけだ。
「なるほどな。協力は惜しまん。好きなようにやるがよい」
覚悟の強さを読み取り、ジョゼフはそう許可を出すしかないのだった。
「まさか王宮神官長が国を脱出するとはね。それも部下全員を引き連れてとは」
こそこそと動き始めていたジョゼフだが、こんな大物が乗り込んできたとなれば多少緊張する。しかし、目の前のパウロはにこりと笑ってみせた。
「それはもちろん、オーロランド公爵様がすでに我が国の王の秘密をご存じですからね」
そしてさらっと懸念事項を口にしてくれる。
「私を消すつもりか」
そんなことはないと知りつつ、確認しなければ落ち着かない。国王と王族の一部が能力者である。これは他国に知られるわけにはいかない秘密だろう。その秘密をミッドランドに漏らしたとなれば、国王と親族関係にあるなんて無意味なことになるかもしれない。
「まさか。私はあなたにご助力頂きたく、ここまで参上したのですよ」
「ほう」
助力ね。やはりこのパウロは国王と親密に連絡を取り合っているわけかと頷いた。
「今回の謀反ですが、私はあえて動きませんでした。レオナール殿下には悪いですが、あの方があのまま国王になるには、少しばかり汚さが足りませんからね」
さらにパウロは意外なことを口にする。しかし、確かに王宮神官長の地位にありながら、謀反に気づけなかったというのは奇妙な話だ。
「ええ。知っていましたよ。あのラオドールという男がその身に不相応な野望を抱いていることも知っていました。知っていて、宰相になることを許可したのです」
「ふうむ」
なるほど、ある程度のことはこの神官長の手の上だったということか。ジョゼフはますますややこしいことになったなと顎を撫でる。
「我々神官の役目は、ハッブル王国を正しく導くことです。それは過去に魔女と取り引きした時から始まっています。大きな力を御す役割を我々は担っているのです」
パウロはそのためには謀反を容認することもありますと、目を鋭くして断言する。
「それが今回か」
「はい。どういう状況下になろうと、レオナール殿下が死ぬことはないと解っていました。それに、彼の傍に残った騎士のアンドレ、彼も異能者ですからね。アンドレ自身は上手く誤魔化せていると思っていたようですが、我々の目を欺くことは出来ません。結果、上手く立ち回ってくれていますよ」
「ははあ」
これは凄いことを聞かされているなと、ジョゼフは驚きの声を上げてしまう。そして、とんでもないことに気づいてしまった。
「ハッブルの中には、異能や能力者を有する者がたくさん活躍していたわけか」
王宮神官、彼らはみな異能力を使うことが出来るのだ。ジョゼフの確認に、パウロは笑顔で頷いた。
「当然でしょう。それだけ、国王が受け継ぐ力は大きいのです。他国に知られた場合の対策としての役割も、我ら神官が担っております」
「なるほど。それで今回、荒療治が必要という結論に至ったのか」
大きな力を持つからこそ、それだけの責任を負わなければならない。その徹底がなければ、過去のように異能力を用いた大戦を招いてしまう。
「ええ。レオナール殿下の高潔な精神は素晴らしいですが、あのままではどんな暴走を引き起こすか解りません。それに、殿下はまだ気づかれていませんが、彼の身に備わった能力は今までのどの国王よりも桁違いです。それだけに、苦難が必要だったのです」
「英雄であるべき、というわけか」
「ああ。話が早くて助かります。そう、平和な時代にはいてはいけない人なのですよ。彼の能力は逆境にこそ必要なものであり、平和な時代にはその身を滅ぼすことしかない力です。つまり、一度転落して這い上がるしかないわけです」
パウロはそのための手順が今回の廃嫡だと言い切った。
「怖い男だな。もしもシャルルに異能があったら、そのままレオナールを殺すつもりだったか」
しかし、ジョゼフはその言葉の裏も汲み取って苦笑する。
「それはもちろん。その点に関しては、シャルル様にも異能があればすんなり終わったと申し上げるしかありません。レオナール殿下は幸運も持っているということですね」
過ぎた力は身を滅ぼす。その前に対策を打つのもまた自分の仕事。パウロは仕事をこなすだけだ。
「なるほどな。協力は惜しまん。好きなようにやるがよい」
覚悟の強さを読み取り、ジョゼフはそう許可を出すしかないのだった。
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