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第39話 王宮神官長の失踪
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結論から言うと、王宮神官長の姿はどこにもなかった。それどころか、神職の総てがいなくなっていた。
「一体どういうことなんだ?」
騒ぎを聞きつけたシャルルも教会にやって来たが、そこにはいるべき人が誰もいない。
「私にもさっぱり解りません。しかし、奴はレオナールの方を持ち、シャルル様の立太子を邪魔しておりました。これはもう、謀反を起こそうとしているに違いありません」
戸惑うシャルルに、ラオドールはここぞとばかりにそう主張する。だが、それはシャルルを一層不安にするものだった。
「立太子の儀には神官の立ち会いが必要なのだぞ。誰もいなくなってしまっただなんて、どうすればいいんだ?」
シャルルの怒鳴り声が教会にこだまする。それに、捜索活動をしていた騎士団たちは首を竦めた。
「お、落ち着いてください。これは奴らの職務怠慢なのですよ。全員をクビにし、新たに神官を入れれば良いだけです」
二人きりの時ならばいざ知らず、多くの人がいる場所で取り乱した姿を見られるわけにはいかない。ラオドールはまあまあと宥めるのに必死だ。
「落ち着いていられるか。お前はパウロの影響が少ないとでも思っているのか?」
しかし、シャルルは我慢の限界だった。簡単に手に入るという甘言に乗ってしまったがために、今、多くの苦労を背負い込んでいる。とてもイライラしていた。
一方、ラオドールもパウロの影響力を持ち出されると、すぐには反論できなかった。王宮神官長という地位は、この国では軽くない。むしろ重たいものだ。普段は政治の場に口出すことはないが、国王の信頼は絶対的であり、いざとなれば大臣たちの決定を覆すことが出来てしまう。
「パウロを探せ! 何としてでも!!」
仕方なく、ラオドールはそう騎士団長に命じるのだった。
「町の中は王子様の話題で持ちきりだね」
夜。あちこちで噂を集めていたアンドレは、宿に戻るなりそう報告してきた。久々のベッドを堪能していた俺は、嫌だなあと顔を顰める。でも、寝転んでいる姿勢から変えるつもりはなかった。
「レオナールだけでなく、シャルルも話題になっているようだな」
そんな俺に苦笑しつつ、シモンはどういう噂が多いんだと訊ねる。
「シャルルって、レオを追放した奴だよな。そいつって好き勝手にやってるんじゃないのか?」
しかし、ピーターがそう口を挟んできたので、アンドレはどうだろうねと肩を竦めて俺を見てきた。
「知らないよ。廃嫡を決定したってことは、すぐに立太子するものだと思っていたけど、そうなってはいないみたいだし」
俺は枕に顔を埋めたまま言う。現在、この国は次の王が決まっていない状態になっているのだ。つまりは空白。このまま俺もシャルルも次期国王になれないとなると、他の王族から適任を探すことになるだろう。
「どうやらその辺は、王宮内の色んな勢力の思惑が絡んでいるみたいだね。シャルルは一応、レオの仕事を引き継いでいるみたいだけれども、それは王宮内に動ける王族がシャルルしかいないからってだけみたいだ。廃嫡の決定に対してサインをした大臣たちも、袖の下ありきってところで、すぐに立太子の儀が行われないとなると、動揺しているみたいだよ」
アンドレが俺の様子を窺いながら、そう報告してくる。しかし、俺はまだベッドでごろごろしたまま、関心のない振りを続けた。だが、心の中は大いに乱れている。
あれほどのことがあったのに、すぐにシャルルが次期国王として認められないのはどうしてだろう。この疑問は大きい。
しかし、王宮にいるシャルルには打つ手がたくさんある。おそらく、味方に付いているラオドールも色々とやっているに違いない。その一つが、状況を利用しての戦争だ。
慣習を変えることは難しいが、切迫した事態になればそんなことは言っていられないだろう。となれば、このままシャルルとラオドールは戦争の準備を急ぐことになる。
「そういう状況だから、どうしても戦争はしたいんだろうな」
シモンが俺と同じ考えを披露する。俺はやっぱりそう思うよなと、ベッドに寝転んだまま頷く。
「変なの。ここで王子様はごろごろしているだけだぜ。それなのに、色んな奴が色んな理由を付けて利用するんだな」
ピーターの不満そうな声に、俺も本当だよと同意してしまう。
「要するに、書類だけの廃嫡には納得出来ない人が多いってことだね。宰相の根回し不足と、レオを軽んじた罰でしょ」
しかし、アンドレがそうまとめるのを聞いて、俺はますます不機嫌になってベッドに潜り込むのだった。
「一体どういうことなんだ?」
騒ぎを聞きつけたシャルルも教会にやって来たが、そこにはいるべき人が誰もいない。
「私にもさっぱり解りません。しかし、奴はレオナールの方を持ち、シャルル様の立太子を邪魔しておりました。これはもう、謀反を起こそうとしているに違いありません」
戸惑うシャルルに、ラオドールはここぞとばかりにそう主張する。だが、それはシャルルを一層不安にするものだった。
「立太子の儀には神官の立ち会いが必要なのだぞ。誰もいなくなってしまっただなんて、どうすればいいんだ?」
シャルルの怒鳴り声が教会にこだまする。それに、捜索活動をしていた騎士団たちは首を竦めた。
「お、落ち着いてください。これは奴らの職務怠慢なのですよ。全員をクビにし、新たに神官を入れれば良いだけです」
二人きりの時ならばいざ知らず、多くの人がいる場所で取り乱した姿を見られるわけにはいかない。ラオドールはまあまあと宥めるのに必死だ。
「落ち着いていられるか。お前はパウロの影響が少ないとでも思っているのか?」
しかし、シャルルは我慢の限界だった。簡単に手に入るという甘言に乗ってしまったがために、今、多くの苦労を背負い込んでいる。とてもイライラしていた。
一方、ラオドールもパウロの影響力を持ち出されると、すぐには反論できなかった。王宮神官長という地位は、この国では軽くない。むしろ重たいものだ。普段は政治の場に口出すことはないが、国王の信頼は絶対的であり、いざとなれば大臣たちの決定を覆すことが出来てしまう。
「パウロを探せ! 何としてでも!!」
仕方なく、ラオドールはそう騎士団長に命じるのだった。
「町の中は王子様の話題で持ちきりだね」
夜。あちこちで噂を集めていたアンドレは、宿に戻るなりそう報告してきた。久々のベッドを堪能していた俺は、嫌だなあと顔を顰める。でも、寝転んでいる姿勢から変えるつもりはなかった。
「レオナールだけでなく、シャルルも話題になっているようだな」
そんな俺に苦笑しつつ、シモンはどういう噂が多いんだと訊ねる。
「シャルルって、レオを追放した奴だよな。そいつって好き勝手にやってるんじゃないのか?」
しかし、ピーターがそう口を挟んできたので、アンドレはどうだろうねと肩を竦めて俺を見てきた。
「知らないよ。廃嫡を決定したってことは、すぐに立太子するものだと思っていたけど、そうなってはいないみたいだし」
俺は枕に顔を埋めたまま言う。現在、この国は次の王が決まっていない状態になっているのだ。つまりは空白。このまま俺もシャルルも次期国王になれないとなると、他の王族から適任を探すことになるだろう。
「どうやらその辺は、王宮内の色んな勢力の思惑が絡んでいるみたいだね。シャルルは一応、レオの仕事を引き継いでいるみたいだけれども、それは王宮内に動ける王族がシャルルしかいないからってだけみたいだ。廃嫡の決定に対してサインをした大臣たちも、袖の下ありきってところで、すぐに立太子の儀が行われないとなると、動揺しているみたいだよ」
アンドレが俺の様子を窺いながら、そう報告してくる。しかし、俺はまだベッドでごろごろしたまま、関心のない振りを続けた。だが、心の中は大いに乱れている。
あれほどのことがあったのに、すぐにシャルルが次期国王として認められないのはどうしてだろう。この疑問は大きい。
しかし、王宮にいるシャルルには打つ手がたくさんある。おそらく、味方に付いているラオドールも色々とやっているに違いない。その一つが、状況を利用しての戦争だ。
慣習を変えることは難しいが、切迫した事態になればそんなことは言っていられないだろう。となれば、このままシャルルとラオドールは戦争の準備を急ぐことになる。
「そういう状況だから、どうしても戦争はしたいんだろうな」
シモンが俺と同じ考えを披露する。俺はやっぱりそう思うよなと、ベッドに寝転んだまま頷く。
「変なの。ここで王子様はごろごろしているだけだぜ。それなのに、色んな奴が色んな理由を付けて利用するんだな」
ピーターの不満そうな声に、俺も本当だよと同意してしまう。
「要するに、書類だけの廃嫡には納得出来ない人が多いってことだね。宰相の根回し不足と、レオを軽んじた罰でしょ」
しかし、アンドレがそうまとめるのを聞いて、俺はますます不機嫌になってベッドに潜り込むのだった。
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