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第36話 中核都市・ビザード
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警戒していた湖での襲撃はなく、俺たちはそのまま街道側を目指して歩き始めた。とはいえ、宿場町が連なる場所まで出る必要はなく、その手前にある中核都市・ビザードへと寄ることになった。
「あそこならば必要なものが手に入るわよ。料理も美味しいし、久々にビールも飲めるわ。それに気になる王宮の動向もちょっとはわかるんじゃない?」
マリナが楽しみだとばかりにそう言うが
「別に王宮の動向は・・・・・・ドロイヤの動きが気になるくらいで」
俺はあんまり知りたくないなと唇を尖らせる。
どうやらドロイヤとの小競り合いが頻発しているらしいことは、人里に降りて来た段階で耳に入り始めていた。兵士が途中の村や町で物資を補給したり、休んだりするためだろう。しかし、今の自分は追放された身だ。下手に近づけば処刑されるかもしれないというのに、情報を知っても仕方がなかった。
「まあまあ。知らないより知っておいた方がいいさ。おっ、ビザードの入り口が見えてきたぞ」
げんなりしている俺に、シモンが前を見ろよと指差して言う。そちらに目を向けると、町の入り口の簡素なゲートが見えてきた。
「見張りとかいるのか?」
大きな町になればそれなりに警備が厳しく、通行手形がいる場合が多い。そして、怪しい奴がいたらすぐに逮捕されることもある。俺はめちゃくちゃ心配になる。
「あそこは大丈夫だよ。もともとが旅人を相手にしているような町だったからな。大きくなっても門戸は開け放たれているんだ。ただ、夜は色々と危険もあるから門を閉じて警備の奴らもいる。その間は門に近づかないようにすればオッケー」
俺の疑問に答えてくれたのはシュリだ。やはり彼女もあちこち放浪していたとあって、そういう情報を持っている。
「なるほどね。確かに今は街道が整備されているけど、前の戦争の時はなかったし」
「そうそう。さあ、行こう」
こうして俺たちは特にチェックを受けることもなく、ビザードに入ることが出来た。
「おおっ」
久々に人が沢山いる場所に、俺は思わずテンションが上がってしまう。と、すぐにアンドレが俺の頭に帽子を被せてきた。
「あだっ」
「顔がばれたら困るんでしょ、レオ」
「ぐっ」
俺は大人しく被せられた幅広のツバがある帽子を被り直す。っていうか、これはどこから出てきたんだ。
「ん? 俺のリュック」
「ってことはお前のか」
「まあね」
いいでしょとアンドレは自慢してくるが、見る前に被ってしまったのでノーコメントだ。ただ、なんとなく吟遊詩人っぽい帽子だなと思った。
町の中は俺たちのような旅人も多く、また、それを相手にする商売人も多くて活気がある。しかし、たまに交わされる会話の中に、ドロイヤとの戦争が起こるのではないかというものが混じっていた。
「何でも戦争はレオナールっていう王子様が原因らしいぜ」
そんな声が聞こえて、俺はビクッとなってしまう。そして、俺のせいじゃないと拳を握り締めていた。
「大丈夫よ」
すると、キキがぽんぽんと背中を叩いてくれる。
「そのレオナールって奴のこと、あっちのオーロランド公国では探しているって言ってたぜ。なんでも戦争は宰相のせいだって」
しかし、そんな声が聞こえてきて、俺ははっと顔を上げていた。思わず通り過ぎた人に問いただしたくなったが
「駄目」
これまたキキに止められた。
「で、でも」
「情報はアンドレが集めてくれているから」
「うっ」
あれだけ聞きたくないと言った後とあって、俺は顔を顰めてしまったが
「そうか」
無視出来ないもんなと溜め息を吐く。
「予想よりややこしくなってそうじゃねえか?」
ピーターも町で交わされる噂が気になって、マリナにどうなんだと訊ねる。
「そうね。すでに外交が絡む問題になっちゃってるんでしょう。戦争っていうのも外交の一つだから」
「何それ。戦争って単なる迷惑なもんじゃねえの?」
「そうはいかないのが、政治なのよ。ねえ」
マリナが俺を見て意味深に笑ってくれる。俺はぷいっと横を向くと、シモンの横に並んでいた。
「あそこならば必要なものが手に入るわよ。料理も美味しいし、久々にビールも飲めるわ。それに気になる王宮の動向もちょっとはわかるんじゃない?」
マリナが楽しみだとばかりにそう言うが
「別に王宮の動向は・・・・・・ドロイヤの動きが気になるくらいで」
俺はあんまり知りたくないなと唇を尖らせる。
どうやらドロイヤとの小競り合いが頻発しているらしいことは、人里に降りて来た段階で耳に入り始めていた。兵士が途中の村や町で物資を補給したり、休んだりするためだろう。しかし、今の自分は追放された身だ。下手に近づけば処刑されるかもしれないというのに、情報を知っても仕方がなかった。
「まあまあ。知らないより知っておいた方がいいさ。おっ、ビザードの入り口が見えてきたぞ」
げんなりしている俺に、シモンが前を見ろよと指差して言う。そちらに目を向けると、町の入り口の簡素なゲートが見えてきた。
「見張りとかいるのか?」
大きな町になればそれなりに警備が厳しく、通行手形がいる場合が多い。そして、怪しい奴がいたらすぐに逮捕されることもある。俺はめちゃくちゃ心配になる。
「あそこは大丈夫だよ。もともとが旅人を相手にしているような町だったからな。大きくなっても門戸は開け放たれているんだ。ただ、夜は色々と危険もあるから門を閉じて警備の奴らもいる。その間は門に近づかないようにすればオッケー」
俺の疑問に答えてくれたのはシュリだ。やはり彼女もあちこち放浪していたとあって、そういう情報を持っている。
「なるほどね。確かに今は街道が整備されているけど、前の戦争の時はなかったし」
「そうそう。さあ、行こう」
こうして俺たちは特にチェックを受けることもなく、ビザードに入ることが出来た。
「おおっ」
久々に人が沢山いる場所に、俺は思わずテンションが上がってしまう。と、すぐにアンドレが俺の頭に帽子を被せてきた。
「あだっ」
「顔がばれたら困るんでしょ、レオ」
「ぐっ」
俺は大人しく被せられた幅広のツバがある帽子を被り直す。っていうか、これはどこから出てきたんだ。
「ん? 俺のリュック」
「ってことはお前のか」
「まあね」
いいでしょとアンドレは自慢してくるが、見る前に被ってしまったのでノーコメントだ。ただ、なんとなく吟遊詩人っぽい帽子だなと思った。
町の中は俺たちのような旅人も多く、また、それを相手にする商売人も多くて活気がある。しかし、たまに交わされる会話の中に、ドロイヤとの戦争が起こるのではないかというものが混じっていた。
「何でも戦争はレオナールっていう王子様が原因らしいぜ」
そんな声が聞こえて、俺はビクッとなってしまう。そして、俺のせいじゃないと拳を握り締めていた。
「大丈夫よ」
すると、キキがぽんぽんと背中を叩いてくれる。
「そのレオナールって奴のこと、あっちのオーロランド公国では探しているって言ってたぜ。なんでも戦争は宰相のせいだって」
しかし、そんな声が聞こえてきて、俺ははっと顔を上げていた。思わず通り過ぎた人に問いただしたくなったが
「駄目」
これまたキキに止められた。
「で、でも」
「情報はアンドレが集めてくれているから」
「うっ」
あれだけ聞きたくないと言った後とあって、俺は顔を顰めてしまったが
「そうか」
無視出来ないもんなと溜め息を吐く。
「予想よりややこしくなってそうじゃねえか?」
ピーターも町で交わされる噂が気になって、マリナにどうなんだと訊ねる。
「そうね。すでに外交が絡む問題になっちゃってるんでしょう。戦争っていうのも外交の一つだから」
「何それ。戦争って単なる迷惑なもんじゃねえの?」
「そうはいかないのが、政治なのよ。ねえ」
マリナが俺を見て意味深に笑ってくれる。俺はぷいっと横を向くと、シモンの横に並んでいた。
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