廃嫡王子のスローライフ下剋上

渋川宙

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第32話 山の中は呑気だよ

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 着々とドロイヤ王国との戦いの準備を進めるラオドールの企みは、至って単純だった。
 総ての責任をレオナールと王宮神官長のパウロに擦り付ける。今ある不満を戦争によってうやむやにする。これだけだ。
「どうせ日和見をしている奴らが多いのだ。レオナールが戦争の引き金を引き、それによって殺されたとなれば、もう反論の余地はない。ドロイヤの兵士を唆し、こちらの兵士を殺したのだとすでに流布してある」
 後は御しやすいシャルルを王として、権力の総てを頂くまで。
 あの男は感情が表に出やすい。すぐにお飾りの王様に仕立てるのは簡単だ。
「くくっ。少々トラブルはあったものの、概ね順調だ」
 ラオドールはにやりとあくどい笑みを浮かべるのだった。



 と、そんな悪巧みがなされているなんて知らない俺は、今日もえっちらおっちら山の中を歩いていた。
「やっぱ下りの方が疲れるんだよなあ」
 俺は足元を注意しつつ、背負っているリュックにバランスを取られないようにしつつ、慎重に進んで行く。
「それは慣れている俺たちだって一緒だよ。だから、絶対に転ぶなよ」
 ピーターも、普段の使い慣れた道とは違い、大回りで進んでいるとあって、今回は余裕がないらしい。そう注意してくるが
「お前、それはもう転べって言ってるようなものだからな」
 とツッコんでおくのは忘れない。
「湖まで無事に辿り着ければ、しばらくはゆっくり出来るよ。リスクはあるものの、一度街道沿いの宿場町に出ていいかもしれないな。休憩も必要だ」
 シモンはそんな俺たちを見て、山を抜ければ余裕が出来るぞと励ましてくる。
「街道って、ミッドランド連邦国と繋がっているやつだな」
 俺は頭の中でハッブル王国の地図を思い浮かべ、首都から真っ直ぐに南に向う街道を思い浮かべた。
「ああ。あの街道は商人の往来が多いから、余所者が紛れていてもバレにくいよ」
「なるほど。まあ、今の俺はボロボロだからな。バレないか」
 俺は自分の服装を見つめ、ピーターのお下がりを着ているから大丈夫かと頷く。
「そうそう。その気品ある顔立ちにメイクでも施せばばっちりよ」
 しかし、シュリがそんなことを言うので、危うく転ぶところだった。
「き、気品ある?」
「あら。自覚ないの? さすがにその顔は間近で見られると拙いと思うわ。特に商人は鼻が利くもの。お金を持ってそうって思われるわよ」
 シュリはいたずらっ子のように笑いながら指摘してくる。
「そうか?」
 俺は平凡だと思うけどと顔を撫でる。
「大丈夫よ。遊ばれているだけ。どうせ泊まるとしても最安値の宿だし、そんなところにいる奴を相手にするほど、商人もそこまで暇じゃないわ」
 マリナは本気にしなくて大丈夫よと言うが
「だが、用心するのは当然だよね。どこに知っている人がいるか解らないもん。それが、その辺の農村に寄るのとは違うところだよ」
 と、意外にもアンドレが用心しろと言って来た。
「ああ、そうね。それはそうか」
「はいはい。街道沿いに行くのは余裕がある場合に切り替えるよ。まったく」
 色々と心配ならば寄らないぞと、シモンが苦笑する。しかし、それに不満を唱えるのはピーターだ。
「屋根のあるところで寝たいぞ~」
「はっ、普段は屋根なんて要らねえって言ってるだろうが」
 しかし、それはあっさりとシモンに躱される。
 普段、どんな会話をしているんだよ。
 俺は呆れたものの
「まあ、柔軟にやっていこうよ。あちこち隠れながら海沿いに行くとなると、かなり遠回りをしなきゃいけないだろうし」
 と、追われているはずなのにそう取りなすことになる。
「そうよ。どうせ街道まで一週間は確実にキャンプなんだし」
 それに協力してくれるのはキキだ。しかし、キキは木の上をぴょんぴょんと移動して、先に敵がいないかを確認しているため姿は見えない。
「そういうことだ。ほら、ピーターは余裕があるんだったら今日の晩飯を確保しながら歩け」
 シモンにそう言われ、ピーターは渋々と歩きながら木の実を拾うのだった。
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