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第30話 心の傷
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さて、ハッブル王国とドロイヤ王国の間で火花が散っているなんて知らない俺は
「美味っ。やっぱ、森の中の料理ってサイコー」
山登り三日目の今日も、自らが狩ったキジとシュリたちが採ってきたキノコの煮込み料理を堪能していた。素朴な味わいだが、それが癖になってしまう。キノコの出汁が出たスープも美味い。
「レオはいつでも美味そうに食うよなあ」
ピーターが呆れたように言うが、そのピーターだって口いっぱいに頬張っている。
「美味いんだから、仕方ないだろ」
文句があるなら食うなと、俺はピーターの分を狙う。
「止めろよ、食い意地汚ねえぞ」
「どっちがだよ」
「はいはい。止めなさい。串焼きも出来たから」
マリナが呆れて止めに入るのも定番になっていた。
「騒がしくていいな」
シモンはそれを見ながら、俺が深刻な顔をしていないならばいいと笑ってくれる。
「毎日ハードな山登りしてるのに、深刻な顔なんてしてる暇ないだろ。それに、俺にやれることは見つからないように逃げることだけだし」
俺はベーコンとジャガイモが刺さった串を食べつつ、生きるのにいっぱいいっぱいだよと肩を竦める。
「まあ、そうだな」
シモンは俺に向って頷いたが、気づかれないようにアンドレに視線を送っていた。アンドレは深刻な顔で頷いていたのだが、もちろんこれも俺は知らない。
「明日からようやく下りよね。山を下りきったらどっちに進むの?」
しかし、二人の視線のやり取りに気づいたキキが、そう質問を投げる。何かあったのだろうと察したわけだ。
「それだが、城塞には近づかないように動く方がいいらしい」
シモンはアンドレにそうだよなと確認する。
「え? やっぱり兵士が多いから?」
俺はもごもごとジャガイモを食べながら訊く。
「それもあるが・・・・・・何やら動きがあるみたいだ」
シモンはどう答えるとアンドレを見た。それにアンドレは頷くと
「ちゃんと確認した情報だから信じてね」
と前置きする。
「それは、信じるけど」
定期的にアンドレが一団を離れて遠くを見ているのは気づいていた。俺は何かあるのかと心配になる。
「ハッブルの兵士とドロイヤの兵士の間で、昨日から小競り合いがあるんだ」
「え?」
「たぶん、どっちも王子様を追っているからだと思うけど」
さすがに詳しくは言えないと、アンドレはそれだけを口にする。実際にはどちらの部隊にもあった損害が、互いの攻撃のせいではないかといがみ合っている。
しかし、現実は王子様たちがやっつけてしまっているのだが、その真相には誰も辿り着けていないのだから仕方がない。
「小競り合いって、大丈夫なのか?」
案の定、俺は心配してしまってアンドレに確認する。
「流石に大規模な戦闘にはならないとは思うよ。どっちにしたって、ここで戦争をすればややこしいのは間違いないんだし、なによりハッブルは王様が病床にいて、トップがあやふやなんだよ。そんな状況で戦争なんておっ始めたら、負けるのは見えてるじゃん」
アンドレはさすがに戦争まであの宰相が仕切れるはずがないと断言する。やろうとすれば、今度こそあの男は失策を行ったとして追放されるだろう。勝手に消えてくれるのならば手間は省けるが、それはそれで面白くないとアンドレは思う。
「ううん。なんで俺の取り合いなんてやってるんだ。さっさとシャルルを王太子にして、俺なんて行方不明ですって開き直ればいいのに」
でもって当事者の俺は、そんな無責任なことを思ってしまう。
「それは無理だろ。結局のところ、お前の追放は謀反の結果だ。正当性に欠けた状態だったわけだろ? 何かがあればすぐに結束は綻ぶ。それが、今の状況だろうな」
そんな俺に向けて、シモンは逃げるだけでいいのかと見てくる。しかし、俺には戻るという選択肢がなかった。
「そんなの、同意しておいて勝手すぎるよ」
ぎゅっとズボンを握り締め、裏切られた時のショックがどれほどのものだったか考えていないと俯いてしまう。
生きるのにいっぱいいっぱいで前ばかり見ているけど、ふとした瞬間に浮かぶのは、あの廃嫡決定が書かれた紙だ。それに同意した人たちの名前だ。
何でもないように振る舞っているけど、心には大きな傷を負ったままだ。死ぬほどの目に遭わされたのは、まだ一か月と少し前なのだ。二度と王宮には近づきたくない。
「悪い。山を下りたら少し東寄りに進む。湖まで抜けてから北に向うぞ」
シモンは俯いた俺の頭をぽんぽんと撫でて、今後の進路を告げたのだった。
「美味っ。やっぱ、森の中の料理ってサイコー」
山登り三日目の今日も、自らが狩ったキジとシュリたちが採ってきたキノコの煮込み料理を堪能していた。素朴な味わいだが、それが癖になってしまう。キノコの出汁が出たスープも美味い。
「レオはいつでも美味そうに食うよなあ」
ピーターが呆れたように言うが、そのピーターだって口いっぱいに頬張っている。
「美味いんだから、仕方ないだろ」
文句があるなら食うなと、俺はピーターの分を狙う。
「止めろよ、食い意地汚ねえぞ」
「どっちがだよ」
「はいはい。止めなさい。串焼きも出来たから」
マリナが呆れて止めに入るのも定番になっていた。
「騒がしくていいな」
シモンはそれを見ながら、俺が深刻な顔をしていないならばいいと笑ってくれる。
「毎日ハードな山登りしてるのに、深刻な顔なんてしてる暇ないだろ。それに、俺にやれることは見つからないように逃げることだけだし」
俺はベーコンとジャガイモが刺さった串を食べつつ、生きるのにいっぱいいっぱいだよと肩を竦める。
「まあ、そうだな」
シモンは俺に向って頷いたが、気づかれないようにアンドレに視線を送っていた。アンドレは深刻な顔で頷いていたのだが、もちろんこれも俺は知らない。
「明日からようやく下りよね。山を下りきったらどっちに進むの?」
しかし、二人の視線のやり取りに気づいたキキが、そう質問を投げる。何かあったのだろうと察したわけだ。
「それだが、城塞には近づかないように動く方がいいらしい」
シモンはアンドレにそうだよなと確認する。
「え? やっぱり兵士が多いから?」
俺はもごもごとジャガイモを食べながら訊く。
「それもあるが・・・・・・何やら動きがあるみたいだ」
シモンはどう答えるとアンドレを見た。それにアンドレは頷くと
「ちゃんと確認した情報だから信じてね」
と前置きする。
「それは、信じるけど」
定期的にアンドレが一団を離れて遠くを見ているのは気づいていた。俺は何かあるのかと心配になる。
「ハッブルの兵士とドロイヤの兵士の間で、昨日から小競り合いがあるんだ」
「え?」
「たぶん、どっちも王子様を追っているからだと思うけど」
さすがに詳しくは言えないと、アンドレはそれだけを口にする。実際にはどちらの部隊にもあった損害が、互いの攻撃のせいではないかといがみ合っている。
しかし、現実は王子様たちがやっつけてしまっているのだが、その真相には誰も辿り着けていないのだから仕方がない。
「小競り合いって、大丈夫なのか?」
案の定、俺は心配してしまってアンドレに確認する。
「流石に大規模な戦闘にはならないとは思うよ。どっちにしたって、ここで戦争をすればややこしいのは間違いないんだし、なによりハッブルは王様が病床にいて、トップがあやふやなんだよ。そんな状況で戦争なんておっ始めたら、負けるのは見えてるじゃん」
アンドレはさすがに戦争まであの宰相が仕切れるはずがないと断言する。やろうとすれば、今度こそあの男は失策を行ったとして追放されるだろう。勝手に消えてくれるのならば手間は省けるが、それはそれで面白くないとアンドレは思う。
「ううん。なんで俺の取り合いなんてやってるんだ。さっさとシャルルを王太子にして、俺なんて行方不明ですって開き直ればいいのに」
でもって当事者の俺は、そんな無責任なことを思ってしまう。
「それは無理だろ。結局のところ、お前の追放は謀反の結果だ。正当性に欠けた状態だったわけだろ? 何かがあればすぐに結束は綻ぶ。それが、今の状況だろうな」
そんな俺に向けて、シモンは逃げるだけでいいのかと見てくる。しかし、俺には戻るという選択肢がなかった。
「そんなの、同意しておいて勝手すぎるよ」
ぎゅっとズボンを握り締め、裏切られた時のショックがどれほどのものだったか考えていないと俯いてしまう。
生きるのにいっぱいいっぱいで前ばかり見ているけど、ふとした瞬間に浮かぶのは、あの廃嫡決定が書かれた紙だ。それに同意した人たちの名前だ。
何でもないように振る舞っているけど、心には大きな傷を負ったままだ。死ぬほどの目に遭わされたのは、まだ一か月と少し前なのだ。二度と王宮には近づきたくない。
「悪い。山を下りたら少し東寄りに進む。湖まで抜けてから北に向うぞ」
シモンは俯いた俺の頭をぽんぽんと撫でて、今後の進路を告げたのだった。
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