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第19話 動き出す隣国
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逃げている俺は呑気な旅を続けているが、呑気とはほど遠いのが王宮だ。
「まだレオナールは見つからないのか?」
宰相のラオドールは、どんっと執務机を叩く。その前にいるのは前回と同じく騎士団長だ。
「は、はい。あの村を中心に探しておりますが、まだ手掛かりは」
「馬鹿な。王宮でぬくぬくと育った小僧と下っ端の騎士しかおらんのだろ。どうしてそうなる?」
ラオドールはまさか匿っているんじゃないだろうなと騎士団長を睨んだ。それに、騎士団長は滅相もないと首をぶんぶん横に振る。
「か、匿っている可能性があるとすれば、あの辺境の地に勝手に住み着いていた連中かと」
「何? そんな奴らがいるというのか」
「はあ。すでにどの家ももぬけの殻でしたが、つい最近まで人が住んでいた跡が残っています」
「ちっ」
あそこには誰もいないと思って選んだというのに、とんだ手違いが起こったものだ。しかし、それでも辺境の地にしか住めないような雑魚ども。それが集まったところで何が出来るというのか。
「探せ! 何としてでも殺すんだ。いいな!」
「は、はい」
宰相のあまりの怒気に、騎士団長は敬礼するとすたこらさっさと逃げていた。一方の宰相はそれでもイライラが収まらず、どんどんっと机を叩く。
「まったく。あのシャルルもなかなか言うことを聞かぬし、困ったものだ」
全権が転がり込んでくる手前だというのに。
ラオドールはぎりぎりと歯ぎしりをするのだった。
「何? ハッブル王国で政変?」
「はい。宰相と弟王子が手を組み、兄の王太子を追放したとか」
「ほう。で、その王太子は?」
「現在、逃亡中のようですね。さっさと逃げられてしまい、宰相殿は手を焼いているとのことです」
「ほう。それは」
いい話ではないか。そうにやりと笑うのは、隣国・ドロイヤ王国の国王、リチャード=ドロイヤだ。
「ええ。レオナール王太子を保護することが出来れば、どうとでも動けましょう」
そんな国王と一緒に悪い顔で笑うのは、この国の騎士団長のドナルドだ。間諜が持ってきた話に、久々に戦争が出来るのではとワクワクしている。
「そうだな。まずはレオナール殿下を我が国に」
「はい。すぐに追います」
「頼んだぞ」
にやにやと、楽しそうな二人だった。
「まあ、レオが追放されたですって」
「ああ、どうやら正しい情報らしい。代わりにシャルルを王太子に就けたとのことだが」
「それにしては、正式な発表がないのはおかしくありません?」
そう話し合うのは、レオナールの母の故郷、オーロランド公国のジョゼフ=オーロランド公爵と、その妻のジュリアだ。この二人はつまり、レオの祖父母になる。
「そう。それが怪しい。政変であろうな」
「まあ」
「ともかく、レオのことが心配だ。すぐに保護すべく捜索隊を出すぞ」
「解りました。ああ、でも、シャルルも心配ですわよ」
「ふん。王権を不当に奪おうとした時点で、シャルルには罪がある。悪いが、私はレオの味方になるぞ」
オーロランド公爵は、ふんっと鼻を鳴らした。この御仁、途轍もなく公明正大なのだ。だからこそ、すぐにどちらの味方になるかを決められる。
「解りました。ともかく、詳しい情報をローラに送ってもらいましょう」
「それはお前がやっておけ。おい、国境警備隊を呼べ!」
こうしてハッブル王国に味方するオーロランド公国でも動きがあったのだった。
「ふぇっくしゅん」
「やだ。風邪?」
「いや、どうだろう」
さて、あちこちで噂される俺はと言えば、今日のキャンプ地でテントを張りながら、鼻がむずむずするなあとのんびりしていた。
「風邪を引いたんなら、早めに言ってよね。初期症状だったら薬で治せるんだから。魔法を使うのは大変なのよ」
「はい」
マリナから注意を受け、俺は手近にあったタオルを首に巻いておくことにする。
まさか自分の取り合いが始まっているなんて、夢にも思わない俺なのだった。
「まだレオナールは見つからないのか?」
宰相のラオドールは、どんっと執務机を叩く。その前にいるのは前回と同じく騎士団長だ。
「は、はい。あの村を中心に探しておりますが、まだ手掛かりは」
「馬鹿な。王宮でぬくぬくと育った小僧と下っ端の騎士しかおらんのだろ。どうしてそうなる?」
ラオドールはまさか匿っているんじゃないだろうなと騎士団長を睨んだ。それに、騎士団長は滅相もないと首をぶんぶん横に振る。
「か、匿っている可能性があるとすれば、あの辺境の地に勝手に住み着いていた連中かと」
「何? そんな奴らがいるというのか」
「はあ。すでにどの家ももぬけの殻でしたが、つい最近まで人が住んでいた跡が残っています」
「ちっ」
あそこには誰もいないと思って選んだというのに、とんだ手違いが起こったものだ。しかし、それでも辺境の地にしか住めないような雑魚ども。それが集まったところで何が出来るというのか。
「探せ! 何としてでも殺すんだ。いいな!」
「は、はい」
宰相のあまりの怒気に、騎士団長は敬礼するとすたこらさっさと逃げていた。一方の宰相はそれでもイライラが収まらず、どんどんっと机を叩く。
「まったく。あのシャルルもなかなか言うことを聞かぬし、困ったものだ」
全権が転がり込んでくる手前だというのに。
ラオドールはぎりぎりと歯ぎしりをするのだった。
「何? ハッブル王国で政変?」
「はい。宰相と弟王子が手を組み、兄の王太子を追放したとか」
「ほう。で、その王太子は?」
「現在、逃亡中のようですね。さっさと逃げられてしまい、宰相殿は手を焼いているとのことです」
「ほう。それは」
いい話ではないか。そうにやりと笑うのは、隣国・ドロイヤ王国の国王、リチャード=ドロイヤだ。
「ええ。レオナール王太子を保護することが出来れば、どうとでも動けましょう」
そんな国王と一緒に悪い顔で笑うのは、この国の騎士団長のドナルドだ。間諜が持ってきた話に、久々に戦争が出来るのではとワクワクしている。
「そうだな。まずはレオナール殿下を我が国に」
「はい。すぐに追います」
「頼んだぞ」
にやにやと、楽しそうな二人だった。
「まあ、レオが追放されたですって」
「ああ、どうやら正しい情報らしい。代わりにシャルルを王太子に就けたとのことだが」
「それにしては、正式な発表がないのはおかしくありません?」
そう話し合うのは、レオナールの母の故郷、オーロランド公国のジョゼフ=オーロランド公爵と、その妻のジュリアだ。この二人はつまり、レオの祖父母になる。
「そう。それが怪しい。政変であろうな」
「まあ」
「ともかく、レオのことが心配だ。すぐに保護すべく捜索隊を出すぞ」
「解りました。ああ、でも、シャルルも心配ですわよ」
「ふん。王権を不当に奪おうとした時点で、シャルルには罪がある。悪いが、私はレオの味方になるぞ」
オーロランド公爵は、ふんっと鼻を鳴らした。この御仁、途轍もなく公明正大なのだ。だからこそ、すぐにどちらの味方になるかを決められる。
「解りました。ともかく、詳しい情報をローラに送ってもらいましょう」
「それはお前がやっておけ。おい、国境警備隊を呼べ!」
こうしてハッブル王国に味方するオーロランド公国でも動きがあったのだった。
「ふぇっくしゅん」
「やだ。風邪?」
「いや、どうだろう」
さて、あちこちで噂される俺はと言えば、今日のキャンプ地でテントを張りながら、鼻がむずむずするなあとのんびりしていた。
「風邪を引いたんなら、早めに言ってよね。初期症状だったら薬で治せるんだから。魔法を使うのは大変なのよ」
「はい」
マリナから注意を受け、俺は手近にあったタオルを首に巻いておくことにする。
まさか自分の取り合いが始まっているなんて、夢にも思わない俺なのだった。
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