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第18話 移動の楽しみといえば
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進路を北に取ると決めた翌日、早速移動が開始された。
街道を利用したり平坦な道を利用すれば海なんてすぐの場所だが、ずっと山道を通るので時間が掛かる。一刻も早く動く必要があった。
「まずはドロイヤに近い山に入るのが重要だな」
シモンは何度か生活したことがあると、みんなの先頭を歩く。
「そうだな。でも、ドロイヤはその昔戦争したことがあるから、今でも山の傍に城塞が置かれたままだ。兵士もかなりの数が詰めているはずだし、それが問題になるな」
しかし、俺は北へ行くことを提案したものの、ドロイヤ側の山に入った後が大変だなと思案する。
「兵士が詰めているといっても、戦争中じゃないから気を抜きまくりでしょ。俺、王宮の騎士団にいたわけだけど、ゆるゆるだったよ」
そんな懸念を、元騎士のアンドレは笑い飛ばしてくれる。が、それはそれで問題だ。
「大丈夫かよ、有事の時」
「さあ。それこそ宰相様の考えることじゃないの」
「・・・・・・」
宰相の話題を出され、ついむっとしてしまう俺だ。もしも宰相と弟が手を組まなければ・・・・・・そんなことが頭を過ぎってしまう。
「王子様も宰相は嫌いなんだ」
「嫌いっていうか・・・・・・まあ、いいよ。ともかく緩いんだったら突破できる方法もあるさ」
俺は考えない考えないと、首を横に振るとさっさと歩く。山の中は多くの木々や植物があり、鳥や虫も飛んでいて、すぐに気分が切り替わるからいい。
「ドロイヤ側だと、採れる植物が少し変わるわね」
「ああ、そうね。薬草として、いくつか保存しておきたいわね」
男たちが黙っていると、シュリとマリアがそんな会話を始めた。
「植物が違うのか?」
で、俺は興味を惹かれてつい質問してしまう。
「ええ。今いるミッドランド側って寒いのよ。で、ドロイヤの方が気候は温暖なの。だから、育つ植物も温度の違いで変わってくるってわけ」
「へえ。確かにドロイヤは気候も穏やかだっていうよな。おかげでお祭り好きだしケンカっ早いってのが専らの評判だよ」
「あっ、それは解るかも。で、ミッドランド連邦国は高い山が多くて寒いからか、ちょっとむすっとした人が多いわよね」
俺の言葉に頷いて、シュリがそう付け足した。さすがはあちこち流浪していると言うだけあって、他の国の事情にも詳しいようだ。一般市民とは違って、そういう認識を持っているんだなと感心させられる。
「ドロイヤかあ。パエリア食いてえ」
そんな話を横で聞いていたピーターが小さく呟く。
「パエリア?」
しかし、それは俺が知らない料理で首を傾げた。
「ああ。ドロイヤの海側の料理だよ。貝の出汁たっぷりの海鮮たっぷりの炊き込みご飯っていうのかなあ」
「へえ」
庶民料理の代表というところか。俺は村で食べた唐揚げを思い出し、王宮とは違う美味しさがあるんだろうなと夢想して涎が出てくる。
「もう。ピーターと同じ顔をしないでよ」
と、妄想していたらキキからそんなツッコミを受ける。
「ほへ」
「腹減った~」
驚く俺の横で、ピーターが呟いた。どうやら二人揃って美味いご飯が食べたいって顔をしていたらしい。
「飯はまだまだ先だぞ。チーズでも囓ってろ」
そんな二人に、シモンがポケットから取り出したチーズを渡してくる。
おかげで出発の時にあった緊張感はいつの間にかなくなっていた。
「このまま穏やかな気持ちで亡命先が見つかればいいなあ」
俺はチーズを囓りつつ、そんな呑気なことを思うのだった。
街道を利用したり平坦な道を利用すれば海なんてすぐの場所だが、ずっと山道を通るので時間が掛かる。一刻も早く動く必要があった。
「まずはドロイヤに近い山に入るのが重要だな」
シモンは何度か生活したことがあると、みんなの先頭を歩く。
「そうだな。でも、ドロイヤはその昔戦争したことがあるから、今でも山の傍に城塞が置かれたままだ。兵士もかなりの数が詰めているはずだし、それが問題になるな」
しかし、俺は北へ行くことを提案したものの、ドロイヤ側の山に入った後が大変だなと思案する。
「兵士が詰めているといっても、戦争中じゃないから気を抜きまくりでしょ。俺、王宮の騎士団にいたわけだけど、ゆるゆるだったよ」
そんな懸念を、元騎士のアンドレは笑い飛ばしてくれる。が、それはそれで問題だ。
「大丈夫かよ、有事の時」
「さあ。それこそ宰相様の考えることじゃないの」
「・・・・・・」
宰相の話題を出され、ついむっとしてしまう俺だ。もしも宰相と弟が手を組まなければ・・・・・・そんなことが頭を過ぎってしまう。
「王子様も宰相は嫌いなんだ」
「嫌いっていうか・・・・・・まあ、いいよ。ともかく緩いんだったら突破できる方法もあるさ」
俺は考えない考えないと、首を横に振るとさっさと歩く。山の中は多くの木々や植物があり、鳥や虫も飛んでいて、すぐに気分が切り替わるからいい。
「ドロイヤ側だと、採れる植物が少し変わるわね」
「ああ、そうね。薬草として、いくつか保存しておきたいわね」
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「植物が違うのか?」
で、俺は興味を惹かれてつい質問してしまう。
「ええ。今いるミッドランド側って寒いのよ。で、ドロイヤの方が気候は温暖なの。だから、育つ植物も温度の違いで変わってくるってわけ」
「へえ。確かにドロイヤは気候も穏やかだっていうよな。おかげでお祭り好きだしケンカっ早いってのが専らの評判だよ」
「あっ、それは解るかも。で、ミッドランド連邦国は高い山が多くて寒いからか、ちょっとむすっとした人が多いわよね」
俺の言葉に頷いて、シュリがそう付け足した。さすがはあちこち流浪していると言うだけあって、他の国の事情にも詳しいようだ。一般市民とは違って、そういう認識を持っているんだなと感心させられる。
「ドロイヤかあ。パエリア食いてえ」
そんな話を横で聞いていたピーターが小さく呟く。
「パエリア?」
しかし、それは俺が知らない料理で首を傾げた。
「ああ。ドロイヤの海側の料理だよ。貝の出汁たっぷりの海鮮たっぷりの炊き込みご飯っていうのかなあ」
「へえ」
庶民料理の代表というところか。俺は村で食べた唐揚げを思い出し、王宮とは違う美味しさがあるんだろうなと夢想して涎が出てくる。
「もう。ピーターと同じ顔をしないでよ」
と、妄想していたらキキからそんなツッコミを受ける。
「ほへ」
「腹減った~」
驚く俺の横で、ピーターが呟いた。どうやら二人揃って美味いご飯が食べたいって顔をしていたらしい。
「飯はまだまだ先だぞ。チーズでも囓ってろ」
そんな二人に、シモンがポケットから取り出したチーズを渡してくる。
おかげで出発の時にあった緊張感はいつの間にかなくなっていた。
「このまま穏やかな気持ちで亡命先が見つかればいいなあ」
俺はチーズを囓りつつ、そんな呑気なことを思うのだった。
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