15 / 66
第15話 母と婚約者
しおりを挟む
俺がキャンプ生活に馴染みまくっている頃。
母のローラ=ハッブルは父で現国王のピエール=ハッブルの看病をしつつ溜め息を吐いていた。
ピエールが落馬事故を起こし、こうして寝たきりになってしまっただけでも大変だったというのに、今度は息子たちの間で政変が起こってしまった。そんな状況では、心労が溜まって当然だった。
「この国はどうなってしまうのでしょう」
「国后様」
と、そこに遠慮がちにやって来たのは、レオの許嫁としてよく城に出入りしているクリスティーヌ=ルノワールだ。レオとは結婚目前、何事もなければ来年には結婚式を開いていたはずのクリスティーヌは、黒を基調としたドレスを纏っていた。
「まあ、あなた。よく来てくれましたね」
ローラは沈痛な面持ちをするクリスティーヌを招き入れるだけでなく、そっと抱き締める。クリスティーヌがなぜ黒色を着ているのか、正確に把握したためだ。
「国王様のことも気になりますけど、私っ」
優しく抱き締められて、クリスティーヌは思わず泣きそうになる。
一か月と少し前、急に目の前から未来の婿が消えたのだ。それも廃嫡、追放という不名誉な形でである。でも、それを嘆き悲しんでいるのは自分だけでないと涙を堪えた。
「泣いていいのですよ。それに、レオのこと、忘れてもいいのよ。死んだものと思って頂戴な」
ローラはそんなクリスティーヌの頭をよしよしと撫でてあげる。
「嫌です。私は、レオと結婚すると、ずっと心に決めて参りました。例え今、王太子ではないとしても、彼のことを忘れるなんて出来ません。でも、それを口にすることが出来なくて、せめてもの反抗でこうやって、未亡人としての服を着るしかないんです」
「でも・・・・・・ああ、そうね。急ぐ必要はないわ」
ローラはまだ気持ちを切り替えられるわけがないと、すぐに引き下がるとソファに招いた。二人揃って腰掛けるが、部屋には病人がいる。自然と表情は沈痛なものになってしまう。
「レオはどうして追放されたのですか。何も悪い事なんてしていないのに」
「ええ。していないでしょうね。あの子は特別な加護を受けた子。何もしていないわ」
「では」
「でも、私たちが口出し出来ることではないわ。いえ、しては駄目。どんな危険があるか解りませんからね」
「まあ」
思っている以上に大変なことになっているんだと、クリスティーヌは大きく目を見開く。
「この国は今、大変な状況になってしまったのですよ。レオが生きていれば、少しは希望があるかもしれません。でも、シャルルはしつこく追いかけ回すつもりのようです。追放という体裁でしたが、殺したいのは明らか。この間も討伐隊が派遣されたといいます」
「そんな」
クリスティーヌはシャルルのことも知っている。そして、二人が仲良しだったことも知っているのだ。それなのに、実は殺したいほど憎んでいたなんて、ショックでしかない。
「先ほどは忘れてなんて言ってしまったけど、撤回するわ。あの子が無事であることを祈ってあげて」
驚きを隠せないクリスティーヌに、ローラは優しく背中を擦ってあげる。
そうだ、クリスティーヌは唯一自分の、レオの味方になってくれる。そう思うと、つい、レオを忘れてという建前を撤回してしまった。
「それはもちろんです。まだ生きている。それだけで、私はどれだけ嬉しいか」
クリスティーヌはもとより忘れるつもりなんてなく、大きく頷いた。
「ありがとう。でも、王宮にはあまり近づかないようにね。シャルルが何を企んでいるか解りません」
「は、はい」
それでも、この約束がどれだけ危険かを知るローラは、王宮からこっそりと出なさい。そしてしばらく近づかないようにと強く言い含めるのだった。
母のローラ=ハッブルは父で現国王のピエール=ハッブルの看病をしつつ溜め息を吐いていた。
ピエールが落馬事故を起こし、こうして寝たきりになってしまっただけでも大変だったというのに、今度は息子たちの間で政変が起こってしまった。そんな状況では、心労が溜まって当然だった。
「この国はどうなってしまうのでしょう」
「国后様」
と、そこに遠慮がちにやって来たのは、レオの許嫁としてよく城に出入りしているクリスティーヌ=ルノワールだ。レオとは結婚目前、何事もなければ来年には結婚式を開いていたはずのクリスティーヌは、黒を基調としたドレスを纏っていた。
「まあ、あなた。よく来てくれましたね」
ローラは沈痛な面持ちをするクリスティーヌを招き入れるだけでなく、そっと抱き締める。クリスティーヌがなぜ黒色を着ているのか、正確に把握したためだ。
「国王様のことも気になりますけど、私っ」
優しく抱き締められて、クリスティーヌは思わず泣きそうになる。
一か月と少し前、急に目の前から未来の婿が消えたのだ。それも廃嫡、追放という不名誉な形でである。でも、それを嘆き悲しんでいるのは自分だけでないと涙を堪えた。
「泣いていいのですよ。それに、レオのこと、忘れてもいいのよ。死んだものと思って頂戴な」
ローラはそんなクリスティーヌの頭をよしよしと撫でてあげる。
「嫌です。私は、レオと結婚すると、ずっと心に決めて参りました。例え今、王太子ではないとしても、彼のことを忘れるなんて出来ません。でも、それを口にすることが出来なくて、せめてもの反抗でこうやって、未亡人としての服を着るしかないんです」
「でも・・・・・・ああ、そうね。急ぐ必要はないわ」
ローラはまだ気持ちを切り替えられるわけがないと、すぐに引き下がるとソファに招いた。二人揃って腰掛けるが、部屋には病人がいる。自然と表情は沈痛なものになってしまう。
「レオはどうして追放されたのですか。何も悪い事なんてしていないのに」
「ええ。していないでしょうね。あの子は特別な加護を受けた子。何もしていないわ」
「では」
「でも、私たちが口出し出来ることではないわ。いえ、しては駄目。どんな危険があるか解りませんからね」
「まあ」
思っている以上に大変なことになっているんだと、クリスティーヌは大きく目を見開く。
「この国は今、大変な状況になってしまったのですよ。レオが生きていれば、少しは希望があるかもしれません。でも、シャルルはしつこく追いかけ回すつもりのようです。追放という体裁でしたが、殺したいのは明らか。この間も討伐隊が派遣されたといいます」
「そんな」
クリスティーヌはシャルルのことも知っている。そして、二人が仲良しだったことも知っているのだ。それなのに、実は殺したいほど憎んでいたなんて、ショックでしかない。
「先ほどは忘れてなんて言ってしまったけど、撤回するわ。あの子が無事であることを祈ってあげて」
驚きを隠せないクリスティーヌに、ローラは優しく背中を擦ってあげる。
そうだ、クリスティーヌは唯一自分の、レオの味方になってくれる。そう思うと、つい、レオを忘れてという建前を撤回してしまった。
「それはもちろんです。まだ生きている。それだけで、私はどれだけ嬉しいか」
クリスティーヌはもとより忘れるつもりなんてなく、大きく頷いた。
「ありがとう。でも、王宮にはあまり近づかないようにね。シャルルが何を企んでいるか解りません」
「は、はい」
それでも、この約束がどれだけ危険かを知るローラは、王宮からこっそりと出なさい。そしてしばらく近づかないようにと強く言い含めるのだった。
10
お気に入りに追加
143
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
闇の錬金術師と三毛猫 ~全種類のポーションが製造可能になったので猫と共にお店でスローライフします~
桜井正宗
ファンタジー
Cランクの平凡な錬金術師・カイリは、宮廷錬金術師に憧れていた。
技術を磨くために大手ギルドに所属。
半年経つとギルドマスターから追放を言い渡された。
理由は、ポーションがまずくて回復力がないからだった。
孤独になったカイリは絶望の中で三毛猫・ヴァルハラと出会う。人語を話す不思議な猫だった。力を与えられ闇の錬金術師に生まれ変わった。
全種類のポーションが製造可能になってしまったのだ。
その力を活かしてお店を開くと、最高のポーションだと国中に広まった。ポーションは飛ぶように売れ、いつの間にかお金持ちに……!
その噂を聞きつけた元ギルドも、もう一度やり直さないかとやって来るが――もう遅かった。
カイリは様々なポーションを製造して成り上がっていくのだった。
三毛猫と共に人生の勝ち組へ...!
転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~
ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。
コイツは何かがおかしい。
本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。
目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。
【完結】ご都合主義で生きてます。-商売の力で世界を変える。カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく-
ジェルミ
ファンタジー
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
その条件として女神に『面白楽しく生活でき、苦労をせずお金を稼いで生きていくスキルがほしい』と無理難題を言うのだった。
困った女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。
この味気ない世界を、創生魔法とカスタマイズ可能なストレージを使い、美味しくなる調味料や料理を作り世界を変えて行く。
はい、ご注文は?
調味料、それとも武器ですか?
カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく。
村を開拓し仲間を集め国を巻き込む産業を起こす。
いずれは世界へ通じる道を繋げるために。
※本作はカクヨム様にも掲載しております。
【宮廷魔法士のやり直し!】~王宮を追放された天才魔法士は山奥の村の変な野菜娘に拾われたので新たな人生を『なんでも屋』で謳歌したい!~
夕姫
ファンタジー
【私。この『なんでも屋』で高級ラディッシュになります(?)】
「今日であなたはクビです。今までフローレンス王宮の宮廷魔法士としてお勤めご苦労様でした。」
アイリーン=アドネスは宮廷魔法士を束ねている筆頭魔法士のシャーロット=マリーゴールド女史にそう言われる。
理由は国の禁書庫の古代文献を持ち出したという。そんな嘘をエレイナとアストンという2人の貴族出身の宮廷魔法士に告げ口される。この2人は平民出身で王立学院を首席で卒業、そしてフローレンス王国の第一王女クリスティーナの親友という存在のアイリーンのことをよく思っていなかった。
もちろん周りの同僚の魔法士たちも平民出身の魔法士などいても邪魔にしかならない、誰もアイリーンを助けてくれない。
自分は何もしてない、しかも突然辞めろと言われ、挙句の果てにはエレイナに平手で殴られる始末。
王国を追放され、すべてを失ったアイリーンは途方に暮れあてもなく歩いていると森の中へ。そこで悔しさから下を向き泣いていると
「どうしたのお姉さん?そんな収穫3日後のラディッシュみたいな顔しちゃって?」
オレンジ色の髪のおさげの少女エイミーと出会う。彼女は自分の仕事にアイリーンを雇ってあげるといい、山奥の農村ピースフルに連れていく。そのエイミーの仕事とは「なんでも屋」だと言うのだが……
アイリーンは新規一転、自分の魔法能力を使い、エイミーや仲間と共にこの山奥の農村ピースフルの「なんでも屋」で働くことになる。
そして今日も大きなあの声が聞こえる。
「いらっしゃいませ!なんでも屋へようこそ!」
と
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生
野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。
普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。
そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。
そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。
そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。
うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。
いずれは王となるのも夢ではないかも!?
◇世界観的に命の価値は軽いです◇
カクヨムでも同タイトルで掲載しています。
30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。
ひさまま
ファンタジー
前世で搾取されまくりだった私。
魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。
とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。
これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。
取り敢えず、明日は退職届けを出そう。
目指せ、快適異世界生活。
ぽちぽち更新します。
作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。
脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる