14 / 66
第14話 ハッブル王国の周辺は
しおりを挟む
さて、夜中にとんでもない話題が交されていたなんて知る由もない俺は、キャンプ生活を満喫すべく、朝からきびきびと働いていた。
寝袋を木に掛けて干し、テントの中に溜まったゴミを掃き出す。次に汚れた服を持って近くの川へ。そしてじゃぶじゃぶと洗い始める。
追放されて村にやって来た身の俺は、もとより服を持っていなかった。だから今洗っているのはピーターのお下がりだ。他のやつはアンドレが調達したもの。数も少ないから、丁寧に使わなければならない。
「おはよう」
「ああ、おはよう」
そうしているとマリナも洗濯物を持ってやって来た。基本、山でも修道女姿の彼女の洗濯物は、やっぱり修道女服だ。何着か替えを持っているらしい。
「なあ。その格好って動きにくくないのか?」
洗濯の手を止めることなく、俺はふと疑問に思って訊ねた。すると、マリナはにやっと笑うと、スカートをたくし上げてみせる。
「うわっ。って、スリット?」
「ええ」
大胆な行動にもマリナの生足にも驚いた俺だが、スカートはいくつもスリットが入っていて、足の動きを邪魔しない構造になっていた。さらに、下には目立たないように短めのズボンとがっちりした革靴を履いている。
「普通にしているとただのスカートに見えるでしょ。これがポイントなのよ」
「ははあ」
なるほど、動きやすさはすでに追求済みだったか。やはり放浪生活の年期が違う。
って、放浪していても修道女ってのはどうなのだろう。巡礼という体裁を取るためだろうか。
「あっ、ここで魚を釣ろうと思ったのに」
と、そこにピーターが釣り竿を持って現われた。しかし、洗濯なんてしていたら魚は逃げた後じゃんと悔しそうだ。
「ああ、朝飯か」
「いや。それはシュリたちが昨日の鍋の残りを活用して作ってくれてるよ。多めに釣って干物にでもしようかなって思っただけ」
「なるほど。じゃあ、洗濯が終わったら手伝うよ」
「当然」
ピーターもしっかりキャンプ生活に慣れているなと、俺は苦笑しつつも頷いていた。
保存食を用意するのも、山の中を彷徨う生活には必要なことだ。ここにはあと三日は居住する予定なので、その間に干物を作るのは納得だった。
「次はどこに移動するのかな」
「ううん。追っ手が来る様子もないから、適当に移動って感じかしら。もともとここはミッドランド連邦国との境で標高の高い山へと続いているから、そう簡単に人も入ってこないし」
「へえ。そうか。ここってミッドランド連邦国の近くなのか」
ぽいっと辺境の地に捨てられた俺としては、そんな場所まで移動しているんだなと妙な気分になる。
南側で国を接しているミッドランド連邦国にしてもドロイヤ王国にしても、どちらも険しい山が壁のように立ち塞がっている。ちなみにハッブル王国の北側は海だ。つまり俺が捨てられた村も南側にあったということになる。
このハッブル王国は他に東側をオーランド公国、北東側をリビト帝国と接しているという、多くの国と地続きの場所にある。
だからこそ政治は常に慎重に外交を行うことと一緒になっていて、繊細な作業なのだ。今のところどこの国とも交戦状態にはないが、ドロイヤ王国とは昔から仲が悪く、リビト帝国も日々こちらに侵攻できないかと狙っている。逆にオーロランド公国は娘が現国王に嫁いだため、安全安心の相手国だ。俺にとっては半分オーロランド公国の血が流れているわけで、親しみもある。
「母上はどう思われているのかな」
「おや、急に里心が付いちゃった?」
俺の呟きをマリナがからかってくる。それに俺はむすっとすると
「今の方が断然楽しいから、それはない」
と、きっぱり断言していた。
寝袋を木に掛けて干し、テントの中に溜まったゴミを掃き出す。次に汚れた服を持って近くの川へ。そしてじゃぶじゃぶと洗い始める。
追放されて村にやって来た身の俺は、もとより服を持っていなかった。だから今洗っているのはピーターのお下がりだ。他のやつはアンドレが調達したもの。数も少ないから、丁寧に使わなければならない。
「おはよう」
「ああ、おはよう」
そうしているとマリナも洗濯物を持ってやって来た。基本、山でも修道女姿の彼女の洗濯物は、やっぱり修道女服だ。何着か替えを持っているらしい。
「なあ。その格好って動きにくくないのか?」
洗濯の手を止めることなく、俺はふと疑問に思って訊ねた。すると、マリナはにやっと笑うと、スカートをたくし上げてみせる。
「うわっ。って、スリット?」
「ええ」
大胆な行動にもマリナの生足にも驚いた俺だが、スカートはいくつもスリットが入っていて、足の動きを邪魔しない構造になっていた。さらに、下には目立たないように短めのズボンとがっちりした革靴を履いている。
「普通にしているとただのスカートに見えるでしょ。これがポイントなのよ」
「ははあ」
なるほど、動きやすさはすでに追求済みだったか。やはり放浪生活の年期が違う。
って、放浪していても修道女ってのはどうなのだろう。巡礼という体裁を取るためだろうか。
「あっ、ここで魚を釣ろうと思ったのに」
と、そこにピーターが釣り竿を持って現われた。しかし、洗濯なんてしていたら魚は逃げた後じゃんと悔しそうだ。
「ああ、朝飯か」
「いや。それはシュリたちが昨日の鍋の残りを活用して作ってくれてるよ。多めに釣って干物にでもしようかなって思っただけ」
「なるほど。じゃあ、洗濯が終わったら手伝うよ」
「当然」
ピーターもしっかりキャンプ生活に慣れているなと、俺は苦笑しつつも頷いていた。
保存食を用意するのも、山の中を彷徨う生活には必要なことだ。ここにはあと三日は居住する予定なので、その間に干物を作るのは納得だった。
「次はどこに移動するのかな」
「ううん。追っ手が来る様子もないから、適当に移動って感じかしら。もともとここはミッドランド連邦国との境で標高の高い山へと続いているから、そう簡単に人も入ってこないし」
「へえ。そうか。ここってミッドランド連邦国の近くなのか」
ぽいっと辺境の地に捨てられた俺としては、そんな場所まで移動しているんだなと妙な気分になる。
南側で国を接しているミッドランド連邦国にしてもドロイヤ王国にしても、どちらも険しい山が壁のように立ち塞がっている。ちなみにハッブル王国の北側は海だ。つまり俺が捨てられた村も南側にあったということになる。
このハッブル王国は他に東側をオーランド公国、北東側をリビト帝国と接しているという、多くの国と地続きの場所にある。
だからこそ政治は常に慎重に外交を行うことと一緒になっていて、繊細な作業なのだ。今のところどこの国とも交戦状態にはないが、ドロイヤ王国とは昔から仲が悪く、リビト帝国も日々こちらに侵攻できないかと狙っている。逆にオーロランド公国は娘が現国王に嫁いだため、安全安心の相手国だ。俺にとっては半分オーロランド公国の血が流れているわけで、親しみもある。
「母上はどう思われているのかな」
「おや、急に里心が付いちゃった?」
俺の呟きをマリナがからかってくる。それに俺はむすっとすると
「今の方が断然楽しいから、それはない」
と、きっぱり断言していた。
10
お気に入りに追加
143
あなたにおすすめの小説
転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~
ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。
コイツは何かがおかしい。
本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。
目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
【宮廷魔法士のやり直し!】~王宮を追放された天才魔法士は山奥の村の変な野菜娘に拾われたので新たな人生を『なんでも屋』で謳歌したい!~
夕姫
ファンタジー
【私。この『なんでも屋』で高級ラディッシュになります(?)】
「今日であなたはクビです。今までフローレンス王宮の宮廷魔法士としてお勤めご苦労様でした。」
アイリーン=アドネスは宮廷魔法士を束ねている筆頭魔法士のシャーロット=マリーゴールド女史にそう言われる。
理由は国の禁書庫の古代文献を持ち出したという。そんな嘘をエレイナとアストンという2人の貴族出身の宮廷魔法士に告げ口される。この2人は平民出身で王立学院を首席で卒業、そしてフローレンス王国の第一王女クリスティーナの親友という存在のアイリーンのことをよく思っていなかった。
もちろん周りの同僚の魔法士たちも平民出身の魔法士などいても邪魔にしかならない、誰もアイリーンを助けてくれない。
自分は何もしてない、しかも突然辞めろと言われ、挙句の果てにはエレイナに平手で殴られる始末。
王国を追放され、すべてを失ったアイリーンは途方に暮れあてもなく歩いていると森の中へ。そこで悔しさから下を向き泣いていると
「どうしたのお姉さん?そんな収穫3日後のラディッシュみたいな顔しちゃって?」
オレンジ色の髪のおさげの少女エイミーと出会う。彼女は自分の仕事にアイリーンを雇ってあげるといい、山奥の農村ピースフルに連れていく。そのエイミーの仕事とは「なんでも屋」だと言うのだが……
アイリーンは新規一転、自分の魔法能力を使い、エイミーや仲間と共にこの山奥の農村ピースフルの「なんでも屋」で働くことになる。
そして今日も大きなあの声が聞こえる。
「いらっしゃいませ!なんでも屋へようこそ!」
と
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生
野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。
普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。
そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。
そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。
そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。
うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。
いずれは王となるのも夢ではないかも!?
◇世界観的に命の価値は軽いです◇
カクヨムでも同タイトルで掲載しています。
30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。
ひさまま
ファンタジー
前世で搾取されまくりだった私。
魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。
とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。
これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。
取り敢えず、明日は退職届けを出そう。
目指せ、快適異世界生活。
ぽちぽち更新します。
作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。
脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。
【完結】ご都合主義で生きてます。-商売の力で世界を変える。カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく-
ジェルミ
ファンタジー
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
その条件として女神に『面白楽しく生活でき、苦労をせずお金を稼いで生きていくスキルがほしい』と無理難題を言うのだった。
困った女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。
この味気ない世界を、創生魔法とカスタマイズ可能なストレージを使い、美味しくなる調味料や料理を作り世界を変えて行く。
はい、ご注文は?
調味料、それとも武器ですか?
カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく。
村を開拓し仲間を集め国を巻き込む産業を起こす。
いずれは世界へ通じる道を繋げるために。
※本作はカクヨム様にも掲載しております。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!
父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
その他、多数投稿しています!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる