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第2話 辺境の村は変な村
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いや、ここに来て一週間で館の修理に乗り出しているだけマシか。
このアンドレがいなければ、まず立ち上がることも出来なかっただろう。そのまま野垂れ死んでいたはずだ。
そもそも、ここには城館が建っているが、村はもうないはずだった。
この城館が五十年前に建てられて放置されていたように、ここはもはや必要のない土地、見捨てられた土地だったのだ。つまり、誰も住んでいない辺境の地にポイ捨てされたわけである。
勝手にここで一人寂しく死ね。
それがシャルルの望んだことだったわけだ。
しかし、アンドレが呼んできたように、ここには住民がいた。大工のシモンを初めとして、訳アリな奴らが王国や近隣諸国の目を逃れて隠れ住む場所になっていたのだ。
「不思議だよなあ」
お茶を啜りながら、一週間で立ち直って屋根の修理をしている自分にも呆れてしまう俺だ。
そして、一緒に茶を啜っているこの騎士も謎だ。
「なあ、なんでここに残ったんだ?」
動けない俺を介抱し、村人たちに協力させたアンドレが不思議で仕方がない。
「う~ん。王子様があそこで死んでいたら帰ってたけど、生きてるし、こっちの方が面白そうだなって思ったから」
それに対してアンドレの答えはいつもこんな調子だ。
面白そうじゃねえよ。追放だぞ。邪魔者扱いだぞ。面白くねえよ。
「あっ、アンドレ。一緒にお菓子も持って行ってって言ったじゃない!」
アホかと思っていると、甲高い声が飛んできた。どうやらお茶を入れたのはアンドレではなく、あの声の主だったらしい。
「マリナ、ここだ」
俺が呼ぶと、修道女服を纏うマリナがクッキーの載ったお盆を持ってやって来た。それも一緒にと気を利かせていたらしい。マリナは年齢が俺より少し上というところか。女性に年齢を訊ねられないので正確には知らない。青い目が綺麗な不思議系修道女である。
「お疲れ様です」
「うん。疲れるね。でも、大工仕事は面白いよ」
俺は金槌を振って、軽いもんだと笑ってみせる。
実際、王太子として厳しく色んなことを躾けられた俺にすれば、大工仕事など朝飯前だ。
自分で何でもやらなきゃいけないというショックや、人手が足りないことに不便さを感じるが、生きていけるだけの十分な技術は持っている。
王太子って、そういうもんである。
今は平和なこのハッブル王国だが、五十年前に辺境の村に城館が建てられたように、数年前までは周辺諸国と戦争が絶えない国だった。だから、王族といえども甘やかされて育ってはいない。いつでも戦場で生き抜けるように、あらゆることを仕込まれている。
今、それが戦場じゃなくて生き残る術になっているというだけで。
「王子様らしくないわねえ。まあ、そうじゃなきゃ、あの状態で生き残っていないか」
あれこれ面倒を見てくれたマリナは、普通は死んでるわよと笑い飛ばしてくれる。
なんていう修道女だ。
いや、ここに住んでいるからには、まともに神に仕えているわけじゃないんだろうけどさ。
「お前ら、からかう度に王子様って呼ぶよな。そんなに人の傷口に塩を塗って楽しいか」
俺はクッキーを囓りながら、恨みがましくそう言ってしまう。
するとマリナもアンドレもきょとんとした顔をして
「イヤね。嫌味で言ってるわけじゃないでしょ。王子様なのは事実だし」
「そうそう。廃嫡されたというだけで、王族だった事実が消えたわけじゃない」
と訳の解らない詭弁を披露してくれる。
このアンドレがいなければ、まず立ち上がることも出来なかっただろう。そのまま野垂れ死んでいたはずだ。
そもそも、ここには城館が建っているが、村はもうないはずだった。
この城館が五十年前に建てられて放置されていたように、ここはもはや必要のない土地、見捨てられた土地だったのだ。つまり、誰も住んでいない辺境の地にポイ捨てされたわけである。
勝手にここで一人寂しく死ね。
それがシャルルの望んだことだったわけだ。
しかし、アンドレが呼んできたように、ここには住民がいた。大工のシモンを初めとして、訳アリな奴らが王国や近隣諸国の目を逃れて隠れ住む場所になっていたのだ。
「不思議だよなあ」
お茶を啜りながら、一週間で立ち直って屋根の修理をしている自分にも呆れてしまう俺だ。
そして、一緒に茶を啜っているこの騎士も謎だ。
「なあ、なんでここに残ったんだ?」
動けない俺を介抱し、村人たちに協力させたアンドレが不思議で仕方がない。
「う~ん。王子様があそこで死んでいたら帰ってたけど、生きてるし、こっちの方が面白そうだなって思ったから」
それに対してアンドレの答えはいつもこんな調子だ。
面白そうじゃねえよ。追放だぞ。邪魔者扱いだぞ。面白くねえよ。
「あっ、アンドレ。一緒にお菓子も持って行ってって言ったじゃない!」
アホかと思っていると、甲高い声が飛んできた。どうやらお茶を入れたのはアンドレではなく、あの声の主だったらしい。
「マリナ、ここだ」
俺が呼ぶと、修道女服を纏うマリナがクッキーの載ったお盆を持ってやって来た。それも一緒にと気を利かせていたらしい。マリナは年齢が俺より少し上というところか。女性に年齢を訊ねられないので正確には知らない。青い目が綺麗な不思議系修道女である。
「お疲れ様です」
「うん。疲れるね。でも、大工仕事は面白いよ」
俺は金槌を振って、軽いもんだと笑ってみせる。
実際、王太子として厳しく色んなことを躾けられた俺にすれば、大工仕事など朝飯前だ。
自分で何でもやらなきゃいけないというショックや、人手が足りないことに不便さを感じるが、生きていけるだけの十分な技術は持っている。
王太子って、そういうもんである。
今は平和なこのハッブル王国だが、五十年前に辺境の村に城館が建てられたように、数年前までは周辺諸国と戦争が絶えない国だった。だから、王族といえども甘やかされて育ってはいない。いつでも戦場で生き抜けるように、あらゆることを仕込まれている。
今、それが戦場じゃなくて生き残る術になっているというだけで。
「王子様らしくないわねえ。まあ、そうじゃなきゃ、あの状態で生き残っていないか」
あれこれ面倒を見てくれたマリナは、普通は死んでるわよと笑い飛ばしてくれる。
なんていう修道女だ。
いや、ここに住んでいるからには、まともに神に仕えているわけじゃないんだろうけどさ。
「お前ら、からかう度に王子様って呼ぶよな。そんなに人の傷口に塩を塗って楽しいか」
俺はクッキーを囓りながら、恨みがましくそう言ってしまう。
するとマリナもアンドレもきょとんとした顔をして
「イヤね。嫌味で言ってるわけじゃないでしょ。王子様なのは事実だし」
「そうそう。廃嫡されたというだけで、王族だった事実が消えたわけじゃない」
と訳の解らない詭弁を披露してくれる。
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