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第24話 危機一髪
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諦めて、相沢は上着を脱いだ。
無数の傷に顔を顰めた前川だが、今はそれが問題ではない。警戒している理由がどこかにあるはずだ。
前川の意図に気づき、相沢が黙ったまま背中を指差した。
これは――
口に出そうだった言葉を飲み込み、相沢の背中にくっ付いたスマホ程の大きさの機械に触れた。
「くっ」
珍しく、相沢が痛みを訴えた。どうやらこれ、直接皮膚に取り付けられているらしい。
「どうする?」
音に出さず、口の動きだけで相沢に問う。すると、どこから取り出したのか大きなマイナスドライバーを前川に差し出してきた。
「あのさ」
いくら何でも乱暴すぎるだろ。前川は呆れるが相沢は平然としたものだ。
「一発でお願いしますよ」
そしていつもの涼しい声で、とんでもないことを言ってくれる。
「一発って」
どう考えても、この機械は身体に直接取り付けられている。一発でとは言うが、相当な痛みを伴うだろう。しかし、これを外さないと具体的な事が話せないし行動を取ることが出来ない。これで相沢の総てのことを記録しているはずだ。
「いくぞ」
ドライバーを機械と身体の境の一番上に食い込ませる。そのタイミングに合わせて、相沢が大きく息を吸う。
「どうぞ」
相沢の声を合図に、前川はドライバーを一気に下げた。ぶしゅっと血が飛び散る。これは皮膚ごと剥がれているぞ。しかし、中途半端にする方が痛いはずだ。前川は最後までドライバーを下げた。
「ぐっ」
相沢はなんとか悲鳴を噛み殺して耐えた。
「あっ」
ごとんと鈍い音がした。血や皮膚と一緒に機械が床に落ちたのだ。
「危ない!」
拾おうとした前川の手を掴み、相沢が一気にベランダへ走った。そして、そのまま下へ飛び降りる。二階であることなんて意に介さない様子で躊躇いなく手すりを越えた。
「ちょっ――」
引っ張られて、前川も一緒に飛び降りることになった。
「うおっ」
下の植え込みに、どさっと二人で落ちる。よかったと前川がほっとすると
「――」
次の瞬間、爆発音が頭上で響いた。どおおんと凄まじい音が夜の街に響く。
「やはり仕込んであったか」
平然と燃え上がる自室を見つめる相沢に対して、前川は口をぱくぱくさせる。一体何がどうなっているんだと、次から次へと起こる出来事に頭が付いて行かない。
「行きますよ。上着、貸してください」
立ち上がった相沢は、ようやく緊張を解いたようだった。とはいえ、血はぼたぼたと垂れ続けている。それを見て、前川もようやく平静を取り戻した。
「ほれ」
歩きながら、手早くスーツの上着を相沢に引っ掛けた。素肌にジャケットという普通なら着こなせない格好も、相沢だとさらりと着こなせているから恐ろしい。
「ひょっとして、車を遠くに置いてこさせたのも」
ここへ来る前のことを思い出し、前川ははっとなる。
「用心しただけです。あの機械の性能の総ては解りませんが、盗聴器と発信機は予想ができましたから」
相沢はさらりと言った。背中からはまだ血が滴り落ち続ける。
「盗聴か」
それは前川にも予想できた。きっと直前の会話まであの子に聞かれていたことだろう。そう思うと気分が重くなる。
「くくっ、そうですね。まあ、最後の辺りは前川さんが変態だと思われてる可能性がありますね」
「はあ?」
素っ頓狂な声を上げた前川だったが、からかわれているのは明白だ。その証拠に相沢の口元が緩んでいる。
「さっきの一発でとか、わざとだな」
相沢の言わんとしていることが解り、前川は顔を真っ赤にした。妙な解釈をされていたらどうするんだ。ただでさえ嫌われているというのに、今度は目が合った瞬間に殺されそうだ。
「おやおや、勘繰りすぎですよ。それにあれをじっくり剥されたら、それこそ拷問ですよ」
いつものように笑う相沢に、前川は怒る気も削がれて心底ほっとした。
「それで、どうするんだ?」
「取り敢えず、あの女への宣戦布告は終わりました。彼女の思うとおりにならないと、あの爆発で証明しましたからね。後は反撃するのみです」
相沢の目が、一瞬冷たく光る。それは殺しを決意した時の目だ。
「あの女だけか?」
「ええ。今回のことは彼女の独断です。わざわざ前川さんを見つけて呼び出したのは、ね。独断専行で別の人間に消される前に、お礼参りに行きますよ」
「げっ」
おいおいと、前川は顔を引き攣らせた。言葉が怖すぎる。
「おやおや、勘違いしないで下さい。前川さんと会えたのはあいつのお蔭ですからね。そのお礼ですよ」
「いや、それは絶対に後付けだろ」
相沢の頭を軽く小突きながら、前川はようやく安心した。
無数の傷に顔を顰めた前川だが、今はそれが問題ではない。警戒している理由がどこかにあるはずだ。
前川の意図に気づき、相沢が黙ったまま背中を指差した。
これは――
口に出そうだった言葉を飲み込み、相沢の背中にくっ付いたスマホ程の大きさの機械に触れた。
「くっ」
珍しく、相沢が痛みを訴えた。どうやらこれ、直接皮膚に取り付けられているらしい。
「どうする?」
音に出さず、口の動きだけで相沢に問う。すると、どこから取り出したのか大きなマイナスドライバーを前川に差し出してきた。
「あのさ」
いくら何でも乱暴すぎるだろ。前川は呆れるが相沢は平然としたものだ。
「一発でお願いしますよ」
そしていつもの涼しい声で、とんでもないことを言ってくれる。
「一発って」
どう考えても、この機械は身体に直接取り付けられている。一発でとは言うが、相当な痛みを伴うだろう。しかし、これを外さないと具体的な事が話せないし行動を取ることが出来ない。これで相沢の総てのことを記録しているはずだ。
「いくぞ」
ドライバーを機械と身体の境の一番上に食い込ませる。そのタイミングに合わせて、相沢が大きく息を吸う。
「どうぞ」
相沢の声を合図に、前川はドライバーを一気に下げた。ぶしゅっと血が飛び散る。これは皮膚ごと剥がれているぞ。しかし、中途半端にする方が痛いはずだ。前川は最後までドライバーを下げた。
「ぐっ」
相沢はなんとか悲鳴を噛み殺して耐えた。
「あっ」
ごとんと鈍い音がした。血や皮膚と一緒に機械が床に落ちたのだ。
「危ない!」
拾おうとした前川の手を掴み、相沢が一気にベランダへ走った。そして、そのまま下へ飛び降りる。二階であることなんて意に介さない様子で躊躇いなく手すりを越えた。
「ちょっ――」
引っ張られて、前川も一緒に飛び降りることになった。
「うおっ」
下の植え込みに、どさっと二人で落ちる。よかったと前川がほっとすると
「――」
次の瞬間、爆発音が頭上で響いた。どおおんと凄まじい音が夜の街に響く。
「やはり仕込んであったか」
平然と燃え上がる自室を見つめる相沢に対して、前川は口をぱくぱくさせる。一体何がどうなっているんだと、次から次へと起こる出来事に頭が付いて行かない。
「行きますよ。上着、貸してください」
立ち上がった相沢は、ようやく緊張を解いたようだった。とはいえ、血はぼたぼたと垂れ続けている。それを見て、前川もようやく平静を取り戻した。
「ほれ」
歩きながら、手早くスーツの上着を相沢に引っ掛けた。素肌にジャケットという普通なら着こなせない格好も、相沢だとさらりと着こなせているから恐ろしい。
「ひょっとして、車を遠くに置いてこさせたのも」
ここへ来る前のことを思い出し、前川ははっとなる。
「用心しただけです。あの機械の性能の総ては解りませんが、盗聴器と発信機は予想ができましたから」
相沢はさらりと言った。背中からはまだ血が滴り落ち続ける。
「盗聴か」
それは前川にも予想できた。きっと直前の会話まであの子に聞かれていたことだろう。そう思うと気分が重くなる。
「くくっ、そうですね。まあ、最後の辺りは前川さんが変態だと思われてる可能性がありますね」
「はあ?」
素っ頓狂な声を上げた前川だったが、からかわれているのは明白だ。その証拠に相沢の口元が緩んでいる。
「さっきの一発でとか、わざとだな」
相沢の言わんとしていることが解り、前川は顔を真っ赤にした。妙な解釈をされていたらどうするんだ。ただでさえ嫌われているというのに、今度は目が合った瞬間に殺されそうだ。
「おやおや、勘繰りすぎですよ。それにあれをじっくり剥されたら、それこそ拷問ですよ」
いつものように笑う相沢に、前川は怒る気も削がれて心底ほっとした。
「それで、どうするんだ?」
「取り敢えず、あの女への宣戦布告は終わりました。彼女の思うとおりにならないと、あの爆発で証明しましたからね。後は反撃するのみです」
相沢の目が、一瞬冷たく光る。それは殺しを決意した時の目だ。
「あの女だけか?」
「ええ。今回のことは彼女の独断です。わざわざ前川さんを見つけて呼び出したのは、ね。独断専行で別の人間に消される前に、お礼参りに行きますよ」
「げっ」
おいおいと、前川は顔を引き攣らせた。言葉が怖すぎる。
「おやおや、勘違いしないで下さい。前川さんと会えたのはあいつのお蔭ですからね。そのお礼ですよ」
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