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第17話 謎の扉
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「大きいですね」
「ああ、無駄にね」
小さい頃から何度も見ている桐山の反応は淡白だ。しかし、初めて見る面々はその大きさに圧倒される。これほど立派な蔵が立てられるとは、桐山家はどれほどの資産家だったのだろう。今や廃れつつある村が、昔は栄えていたとは思えず謎だ。製菓業をやっていたというが、それほど大当たりしたのだろうか。
「お疲れ様です」
がやがやとした声を聞きつけ、荒井がひょっこり蔵から出てくる。その手にはスポーツドリンクがあった。すでに何度も母屋と蔵を往復しているから、相当汗を掻いたのだろう。首にはタオルが掛かっていた。
「お疲れ。物は大分運べたか」
「まだ半分くらいですよ。先生、この中もめちゃくちゃ物が詰まってましたよ。本当に調べたんですか。まあ、明らかに入れたまま忘れているって感じでしたから、お祖父さんお祖母さんも忘れてしまっていたのかもしれないですけど」
「そうか。それは悪かった。確認したのは叔母さんだと思うから、入り口からちょっと覗いただけだったのかもしれない」
確かに自分の目で確認したわけではなかったと、桐山は素直に謝る。もしも自分で調査していたら、地下の階段に気づかないはずがないのだ。ここの情報は伝え聞いた両親の言葉をそのまま信じただけだった。
「まったくもう。で、これです」
荒井は桐山の態度に苦笑しつつ、こっちですと手招きをする。それは蔵の奥側、行李や段ボール箱に埋もれるようにあった扉の下にあった。蔵の中はちゃんと電気が通っているので、地下へと続く階段を確認するのは簡単だ。
「この扉自体が隠されたようになっていたのか。それは誰も今まで気づいていなかった可能性が高いな」
これは両親も叔母も気付かないな、と桐山は左右に除けられた段ボール箱の多さに呆れてしまう。まったく、どれくらの期間、この蔵の中は放置されていたのか。祖父母すら蔵の中は手を着けていなかったようだから、随分と昔のものが詰め込まれていることになる。と考えると、ここにあるのは戦前のものということか。
「扉というには十分な、しっかりしたものですね」
横にやって来た深瀬が、これって元から蔵に付いていたものですよねと訊ねてくる。そう言われて改めて見ると、確かにとってつけたような感じはしなかった。蔵を建てる段階でしっかり設計されたものだと解る。
「つまり、この地下階段も昔からあるものなのか。誰も話題にしていなかったのは、これだけ物が上に置かれていて忘れられていたからか。いくら大きな戦争があったからといって、適当な話だ」
桐山はぼやくように呟きつつ、扉の中を覗き込む。と、それは薄暗い灯りでも解るほど、しっかりと作られた石造りの階段だった。湿気を気にしてのことだろう。地下の岩盤を上手く利用して作っているらしい。
「踏んだらそのまま落ちるということはなさそうだが、何の用意もなく入るのは危ないな。この先がどうなっているのか、俺も全く知らないから危険がないとはいえない。それに電気が必要だ。階段はかなり奥まで続いているらしいから、蔵のこの電灯だけじゃ無理だ。そうなると、軍手と長靴で装備、ロープも要るだろうな」
桐山はスマホを取り出してライトを階段に当てて、そう結論付けた。本当に探検のようになってきている。
「凄いじゃないですか。これ、防空壕って可能性が消えますね。本当に秘密の通路って感じです」
小島がわくわくした声で柏木に同意を求める。
「そうね。この蔵が建った時に作ったんだったら、相当昔ってことですよね。ここに家が建ったのって、いつくらいですか」
柏木も頷くと、桐山に詳しいことは知っているのかと訊ねる。すると、桐山はどうだろうなと首を傾げる。なにせ、祖父母の話をいつも聞き流していた男だ。こんな不便な場所にある家の歴史なんて知っても仕方がない。それよりも、都会と違って沢山星が見える夜空の観測の方が面白いと、そう考えていた子どもだった。
「母屋、あの馬鹿でかい家が建ったのは明治くらいって言っていたはずだ。それまでもこの村に住んでいたんだけど、明治になってから建て替えたって話だったね。家そのものの位置は明治以前から動いていないらしいけど、この蔵はどうなのかな。立て替えているのかなあ。明治に大きくしたとなると、蔵もその頃に作ったのかもしれない」
そのくらいの推測は出来るが、正確なことは解らなかった。だから、この階段がどこに通じているのかなんて、全く解らない。
「まさに秘密の地下空間ですね。これは凄い」
「ともかく、一度母屋に戻って準備が必要ですね。入る人の安全確保が必要ですし、地上に残る人と連絡が付くようにしておかないと危険かもしれません。スマホの電波が届くか不安ですから、何か方法を考えないと駄目ですね。それと、時間的にお昼を食べてからにしましょう」
今すぐにでも行きたそうな小島を宥め、深瀬はもう十一時ですよと全員に告げたのだった。
「ああ、無駄にね」
小さい頃から何度も見ている桐山の反応は淡白だ。しかし、初めて見る面々はその大きさに圧倒される。これほど立派な蔵が立てられるとは、桐山家はどれほどの資産家だったのだろう。今や廃れつつある村が、昔は栄えていたとは思えず謎だ。製菓業をやっていたというが、それほど大当たりしたのだろうか。
「お疲れ様です」
がやがやとした声を聞きつけ、荒井がひょっこり蔵から出てくる。その手にはスポーツドリンクがあった。すでに何度も母屋と蔵を往復しているから、相当汗を掻いたのだろう。首にはタオルが掛かっていた。
「お疲れ。物は大分運べたか」
「まだ半分くらいですよ。先生、この中もめちゃくちゃ物が詰まってましたよ。本当に調べたんですか。まあ、明らかに入れたまま忘れているって感じでしたから、お祖父さんお祖母さんも忘れてしまっていたのかもしれないですけど」
「そうか。それは悪かった。確認したのは叔母さんだと思うから、入り口からちょっと覗いただけだったのかもしれない」
確かに自分の目で確認したわけではなかったと、桐山は素直に謝る。もしも自分で調査していたら、地下の階段に気づかないはずがないのだ。ここの情報は伝え聞いた両親の言葉をそのまま信じただけだった。
「まったくもう。で、これです」
荒井は桐山の態度に苦笑しつつ、こっちですと手招きをする。それは蔵の奥側、行李や段ボール箱に埋もれるようにあった扉の下にあった。蔵の中はちゃんと電気が通っているので、地下へと続く階段を確認するのは簡単だ。
「この扉自体が隠されたようになっていたのか。それは誰も今まで気づいていなかった可能性が高いな」
これは両親も叔母も気付かないな、と桐山は左右に除けられた段ボール箱の多さに呆れてしまう。まったく、どれくらの期間、この蔵の中は放置されていたのか。祖父母すら蔵の中は手を着けていなかったようだから、随分と昔のものが詰め込まれていることになる。と考えると、ここにあるのは戦前のものということか。
「扉というには十分な、しっかりしたものですね」
横にやって来た深瀬が、これって元から蔵に付いていたものですよねと訊ねてくる。そう言われて改めて見ると、確かにとってつけたような感じはしなかった。蔵を建てる段階でしっかり設計されたものだと解る。
「つまり、この地下階段も昔からあるものなのか。誰も話題にしていなかったのは、これだけ物が上に置かれていて忘れられていたからか。いくら大きな戦争があったからといって、適当な話だ」
桐山はぼやくように呟きつつ、扉の中を覗き込む。と、それは薄暗い灯りでも解るほど、しっかりと作られた石造りの階段だった。湿気を気にしてのことだろう。地下の岩盤を上手く利用して作っているらしい。
「踏んだらそのまま落ちるということはなさそうだが、何の用意もなく入るのは危ないな。この先がどうなっているのか、俺も全く知らないから危険がないとはいえない。それに電気が必要だ。階段はかなり奥まで続いているらしいから、蔵のこの電灯だけじゃ無理だ。そうなると、軍手と長靴で装備、ロープも要るだろうな」
桐山はスマホを取り出してライトを階段に当てて、そう結論付けた。本当に探検のようになってきている。
「凄いじゃないですか。これ、防空壕って可能性が消えますね。本当に秘密の通路って感じです」
小島がわくわくした声で柏木に同意を求める。
「そうね。この蔵が建った時に作ったんだったら、相当昔ってことですよね。ここに家が建ったのって、いつくらいですか」
柏木も頷くと、桐山に詳しいことは知っているのかと訊ねる。すると、桐山はどうだろうなと首を傾げる。なにせ、祖父母の話をいつも聞き流していた男だ。こんな不便な場所にある家の歴史なんて知っても仕方がない。それよりも、都会と違って沢山星が見える夜空の観測の方が面白いと、そう考えていた子どもだった。
「母屋、あの馬鹿でかい家が建ったのは明治くらいって言っていたはずだ。それまでもこの村に住んでいたんだけど、明治になってから建て替えたって話だったね。家そのものの位置は明治以前から動いていないらしいけど、この蔵はどうなのかな。立て替えているのかなあ。明治に大きくしたとなると、蔵もその頃に作ったのかもしれない」
そのくらいの推測は出来るが、正確なことは解らなかった。だから、この階段がどこに通じているのかなんて、全く解らない。
「まさに秘密の地下空間ですね。これは凄い」
「ともかく、一度母屋に戻って準備が必要ですね。入る人の安全確保が必要ですし、地上に残る人と連絡が付くようにしておかないと危険かもしれません。スマホの電波が届くか不安ですから、何か方法を考えないと駄目ですね。それと、時間的にお昼を食べてからにしましょう」
今すぐにでも行きたそうな小島を宥め、深瀬はもう十一時ですよと全員に告げたのだった。
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