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第34話 三人一組に

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「そうですね。出来る限り一人にならないのがいいでしょう。とはいえ、休める時にしっかり休むことも重要です。丁度よく、部屋割りとしても、庄司さんと氷室さんが一人部屋ですけど、二人ずつ組んでいます。ここに一人の方を割り入れるか、もう一度、部屋割りを練り直すかがいいでしょうね。ともかく、夜の間は一人にならないこと。寝る時は交代で行う。これが重要でしょう」
「ううん。そうですね。そう考えると、出来れば三人一組になった方がいいような気がしますね。そうすれば、一人が寝ていても二人は起きていて見張りが出来て安心ですし」
 庄司からそんなことを言い出すので、雅人は意外だなと思った。しかし、二人一組だとどちらか一方が犯人の場合に怖いということだろう。その点では三人一組の方が現実的な提案だ。
「問題があるとすれば、女子二人のところでしょうか。男性と一緒の部屋でも大丈夫かどうか」
「ああ。じゃあ、氷室さんが女性の部屋にいてくれればいいんです」
 楓がそんなことを言い出すので、雅人はぎょっとしてしまった。が、梶田が苦笑いをしたくらいで、意外にも異論は出なかった。
 青龍も一瞬驚いた顔をしたものの、すぐに平静になっている。
「お嬢様方がそうお望みでしたら、喜んでナイト役を務めましょう」
 さらには微笑んでそんなことを付け加える余裕までみせている。すると同室の桑野までが黄色い声を上げて喜ぶのだから、雅人としては堪ったものではない。
 他の男性陣も同じ気持ちだろう。複雑だと顔に書いてある。昨日から八つ当たりされていた神田に至っては、そんな反応に苦笑いを浮かべていた。
「じゃあ、残りで割り振りですね。とすると、下手に分散しない方がいいかな。俺と岩瀬と及川、それから刑事さん。この一組と、神田と野々村、それに梶田でどうでしょう。会社の関係者以外がどちらの組にも入って、丁度いいと思うんですが」
 そして次に庄司が提案した割り振りに、雅人は固まり梶田は苦笑を浮かべた。
 どう考えても、庄司は自分の快適さを優先したとしか思えない。さらには航介と同室なのは今までどおりだからいいとして、なぜ、よりを戻そうとしている恋人二人といなければならないのか。
「それよりも、及川君にはお手伝いの女性たちの警備を任せてはどうですか。男四人で固まっているのはむさ苦しいでしょうし、同時に彼女たちも不安でしょう。お嬢さん方、彼、ああ見えても空手有段者ですからね。いざっていう時に役に立ちますよ」
 しかも青龍が余計な提案をしたために、まさに恋人同士のいる空間に一人放り込まれることになった。なぜ、その役目が雅人ではなく航介なのか。
 問うまでもない。青龍とすれば日頃からの意趣返しになるし、何より刑事がこの場からいなくなるのは嫌だと主張した庄司が、彼女たちの警備を了承するはずはない。
「まあ。お気遣いいただきありがとうございます」
 ついでに文句を言えない理由として、お手伝いの女性たちがほっとしていることがある。
 たぶん、それは航介のぱっと見はいい人そうな印象が安心感を与えているのだろう。いかにも刑事という顔をしている雅人と一緒にいるよりは、気が休まるに違いない。
「そうですね。組み合わせはそれでいいと思います。それに、別館はあんなことがあったわけだし、夜の間は使わない方がいいのではないですか。部屋の割り振りも替えてしまいましょう」
 しかし、ここでそのまま下がるのも腹が立つので、雅人はそう提案した。どうせ今の部屋の割り振りでは人数的に窮屈な部屋が出てしまう。それを誰もが承知しているから、こちらの提案もすんなり受け入れられた。
「では、氷室さんの使っている部屋に女性二人が移動。金井さんの使っている部屋に私と岩瀬がお邪魔して、野々村と神田の部屋に梶田が入る。そして空いた桑野と刑事さんが使っていた部屋にお手伝いの三人と及川が移動。これでいいですか」
「ええ」
「もちろん」
 これにも異論は出ず、どこもかしこも窮屈になってしまうが、全員が本館の二階で固まって過ごすこととなった。こうなってしまえば、余計な動きをした人間は目立つことになる。次の犯行を企んでいたとしても、犯人が動くことは出来ないだろう。
 部屋割りが決まると、そのまま全員で二階に上がって荷物の移動となった。その際に再び異物がないか確認しよう。そういうことになった。
「それにしても、雨が止みそうにないですね」」
 立ち上がったところで、窓の外を確認した野々村がぼやくように言う。
 殺人事件があったのに暇だというだけあって、ここに長々と閉じ込められるのは嫌だと感じているのだろう。雅人としても、これ以上このメンバーでここに閉じ込められるのは嫌だった。
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