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第11話 丸く解決

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「何だって。犯人は女装していて・・・・・・ええっと」
 由吉は予想外の犯人の情報に混乱しているようだ。しかも偏見がないからという理由。これにも困惑しているらしい。
「つまり、その人は新しい物を作る力はあるものの、女装していて外に出られない、ってことですか?」
 困惑するのは左衛門も同じで、どう表現すればいいのだろうと困惑していた。しかし、その中で違ったのが奥方のきぬだ。
「会いに行きましょう」
 ぽんっと膝を打つと、そんなことを言い出す。
「お、お前」
「もしこの判じ物の先生が言うように、新しく可愛い物を作れるのだとしたら、新商品が手に入るってことじゃありませんか」
「あっ」
 きぬの言葉に、左衛門はなるほどと手を叩く。しかし、由吉は顔を顰めた。
「止めとけよ。そんな女装野郎の作った物がまともなわけ」
「って言われるから、子どもに話を聞いてもらってたんじゃありませんか。しかも妙は気に入って、三日もいたんでしょ。これはもう気になります」
 由吉の言葉に、何言ってんだいときぬが噛みつく。こういう場合、柔軟性があるのは女性の方か。
「まあまあ。まだその人物の居場所は解っていないんですよ。でも、お母様がその人の作ったものを本気で売りたいと思っていると妙さんに伝えれば、教えて貰えるかもしれません」
 同性同士ですしと、飛鳥はきぬに丸投げすることにした。由吉はまだ何か言いたそうだったが
「もし変な野郎だったら、奉行所に突き出してやる!」
 と叫んだので、話は一先ずその人物の居場所を突き止めることで決着したのだった。


 それから数日後。問題の人物が解ったと、ご丁寧に飛鳥のところに丁稚でっちが走ってきた。
「お礼を申し上げたいと主人が仰っています」
 丁稚がそう言うので、飛鳥は優介と連れ立って日本橋に出掛けることとなった。店に着くと、その問題の人物の他に小間物屋の茂吉と藤、それに深川で髪結いをしている夫妻もやって来ていた。
 子どもも一緒にやって来ているそうだが、同じ体験をした者同士、すでに意気投合して、問題の人物が作った物を眺めて遊んでいるという。
「今回は、ありがとうございます」
 で、その問題の人物、房枝と名乗る、どこから見ても完璧な女性が真っ先に飛鳥に頭を下げた。
「いえいえ。こちらは子どもたちの言葉から推測したにすぎませんよ」
 ここまで完璧だったら子どもは信用するし、何よりこそこそ生きる必要もないだろうにと思うほどだ。
 とはいえ、手は大きいし、ちょっと首を上げると喉仏が見えるから、やはり男らしさはある。違和感が完全にないわけではなく、堂々と振る舞うには難しかったのだろうと察せられる。
「こんな美人さんだとは思いませんでしたねえ」
 横にいる優介は、歌舞伎役者よりも女っぽいと、呆けたように房枝を見つめている。
「これだけ綺麗なら問題ねえやな」
 そして最後まで反対していた由吉も、正体を知らなければと、そんなことを言っている。現金なものだ。
「房枝さんが作るものは本当に素晴らしいんですよ。でも、小さい頃から女の子のものに興味があった房枝さんは、ご両親からそれは駄目なことだ、男らしくしろとしつこく言われて、表に出ることを躊躇ってらっしゃったの。でも、大きくなって江戸に出て来て、どうにか自分の好きなように生きられないかと、そう模索されていたんですって」
 藤が凄いわねえと房枝を褒めている。しかし、房枝は誘拐してしまった負い目があるからか、すみませんと頭を下げている。
「自分のやっていることが本当に変なことなのか、ちゃんと女の子も可愛いって言ってくれるのか不安で。我慢できなくなった時、こっそり確認する方法は、一人でいる女の子に訊ねることだって、ごめんなさい」
 そして小さな声でそう付け加えた。
 なるほど、小さい頃にそれを徹底的に駄目だと教えられた。その影響が端々に現われているなと飛鳥は思う。
「まあ、三日はちょっとあれだったけど、房枝さん、お料理も上手だし、子どもの扱いも手慣れているし、不便はなかったんだっていうのは解ります。今となれば、いい勉強になったと思いますよ」
 きぬがそう言ってすぐに房枝を慰めている。深川の夫妻も頷いていることから、もう誰もあの事件を責めるつもりはないようだ。
「今後はうちに住んでもらって、新しい反物の考案や、こちらにいる小間物屋の茂吉さんところに下ろす小物を作ってもらうことになりました。髪結いの成太さんも簪を使ってくれると言っているし、万事解決です」
 左衛門が纏めるようにそう言って、ありがとうございますと飛鳥に頭を下げた。
 飛鳥は丸く解決して良かったと、それが一番いいことだと、うんうん頷いている。
 優介としても仲介した時はどうなることかとハラハラしただけに、皆が笑顔で納得していることにほっとしていた。
「こちら、解決料です」
 しかし、一番飛鳥を喜ばせたのは、そう言って渡された金額がいつもの三倍はあるものだったことである。
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