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第10話 意外な共通点
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店に行くとすぐに居間に通された。そして待ち構えていた店主夫妻と問題の叔父と対面することになる。
店は反物を扱う店で、近頃羽振りがいいと専らの噂の店だった。そりゃあ、あれこれ気にするだろうと、飛鳥でも納得する。ちなみに口を出してきた叔父は米問屋をやっているそうだ。
「今日はわざわざお時間を作っていただき、ありがとうございます」
飛鳥はいつもより控えめな笑顔を浮かべて頭を下げる。
「いえいえ、わざわざご足労いただき、ありがとうございます」
こう返すのは店主の左衛門だ。
「よろしくお願いします」
その横にいた妻のきぬも頭を下げた。
「ほう。裏長屋に住んでいるってのは勿体ない顔だな」
でもって、余計なことを言うのが叔父の由吉だ。何かと食って掛かる性格なのだろうと、その一言で解ってしまう。横にいる左衛門がちょっと困った顔をしているが、いつものことなのだろう。注意するのは諦めている様子だ。
「それで、妙が無事なのは解りました。いや、何も怖くなかった、楽しかったっていう様子から、変なことはなかったことは解ってたんですが」
そして、左衛門はすぐに本題に入るのが無難とばかりに、そう訊ねてきた。それに飛鳥は大きく頷く。
「その通りです。妙さんは遊びに行っただけなんですよ」
そしてそう断言した。
「遊びに行っただけって、七つの子が三日も家を空けるかい? 大体、その三日間、腹も減らさずにいたってことだろ? 連れ去った奴が世話してくれてたってことかい?」
すぐに由吉が口を出してくるが、それは誰もが抱く当然の疑問だ。
「そうです。犯人は勝手に連れ去ってしまったという悪事を働いていますが、妙さんたちに危害を加えるつもりは毛頭なかったんですよ。それよりも、彼女たちに色々と試してもらいたかったんです」
飛鳥はにっこりと笑って言うが
「はあ?」
と由吉が素っ頓狂な声を上げたように、要領を得ないものだ。
「一体どういうことだい?」
堪らずに優介が口を挟む。すると、飛鳥はすぐに解ると手を振るだけだ。そしてきぬの方を見ると
「それよりも一つ確認させてもらいたいのですが、妙さんは帰ってきてからというもの、お洒落に凄く興味があるようになったのではないですか?」
そう質問をした。
すでに化け猫に調査させてあるが、両親から確実な情報をもらいたかったのだ。
「は、はい。そうです。店にある売り物を見ては、この反物はいい、こっちは嫌い、みたいに。今まではそれほど熱心に見る子じゃなかったんですけど」
反物屋の娘としては困るが、まだ七歳だ。興味が他のことにあっても仕方がないだろう。それが誘拐された日を境に大きく変わったわけだ。
「そうでしょうね。ちなみに他の被害者は小間物屋と髪結い屋の娘でした。その二人も同じように着物や小物、そして髪型に興味を持つようになったと言っています」
「なっ」
「あれ、深川の子って髪結い屋の子だったのかい?」
驚く両親叔父と違い、ずれたところを気にしてくれる優介だ。これは江戸中にいる物の怪たちに調べてもらったので、優介は知らなくて当然だろう。三つとも目で見て確認する必要はないと判断して、深川だけそうやって調べたのだ。
「そうなんだよ。気になるなら奉行所の旦那に話を聞けばいい」
「ははあ。じゃあ、飛鳥さんはこの三日の間に確認に行ってたのか」
優介は奉行所の仲がいい同心を思い浮かべてそう言う。勝手に納得してくれるのだから、騙すのが簡単で助かる。
「ということで、場所に共通点のない被害者たちでしたが、実は身なりに関わる商売をしているところの娘が狙われたんです。もちろん、ここだったのは偶然ですが、犯人がめぼしい子どもを探している時に、ここの子もいいなと思ったのは間違いありませんね。そして丁度良く、お使いに出て一人だったものだから、犯人は連れ去ったんですよ」
「ううん」
「どういうことでしょう?」
解ったような解っていないような。両親は首を傾げている。
「はっきり言いやがれ」
江戸っ子らしく短気な由吉が、先を促す。そこで飛鳥はにやりと笑うと
「犯人は男ですが、中身は男じゃない人なんですよ。そして、綺麗な着物を作ることが出来、小物を自分の好きなように改造することが出来、斬新な髪型を生み出せる人なんです」
と、最も謎だった部分を明らかにした。
そう、犯人は自分が作り出したものが女の子に受けるかどうか、それを知りたかったのだ。そこで、そういう家の子を狙ったというわけだ。尤も、身なりに関わる商売に拘っていたかどうかは不明だが、たまたまにしては出来すぎている。ある程度、身近にそういうものがあって、知識がありそうな子を選んだはずだ。
「妙な野郎だな。しかもなんで小さい女の子に聞こうってするんだ? 可愛いものだったら、それこそ年頃の娘に聞いた方がいいじゃねえか」
由吉は納得出来ないと鼻息を荒くしている。しかし、この点に関して飛鳥は謎に思っていなかった。
「偏見がないですからね」
というわけで、決定的な点を指摘する。すると、優介はぽんっと膝を打った。
「そうか。女装している男を見ても、それが変だとは思わないってことですね」
そして、つい最近まで変だと思っていた優介が大声で言い直してくれる。
店は反物を扱う店で、近頃羽振りがいいと専らの噂の店だった。そりゃあ、あれこれ気にするだろうと、飛鳥でも納得する。ちなみに口を出してきた叔父は米問屋をやっているそうだ。
「今日はわざわざお時間を作っていただき、ありがとうございます」
飛鳥はいつもより控えめな笑顔を浮かべて頭を下げる。
「いえいえ、わざわざご足労いただき、ありがとうございます」
こう返すのは店主の左衛門だ。
「よろしくお願いします」
その横にいた妻のきぬも頭を下げた。
「ほう。裏長屋に住んでいるってのは勿体ない顔だな」
でもって、余計なことを言うのが叔父の由吉だ。何かと食って掛かる性格なのだろうと、その一言で解ってしまう。横にいる左衛門がちょっと困った顔をしているが、いつものことなのだろう。注意するのは諦めている様子だ。
「それで、妙が無事なのは解りました。いや、何も怖くなかった、楽しかったっていう様子から、変なことはなかったことは解ってたんですが」
そして、左衛門はすぐに本題に入るのが無難とばかりに、そう訊ねてきた。それに飛鳥は大きく頷く。
「その通りです。妙さんは遊びに行っただけなんですよ」
そしてそう断言した。
「遊びに行っただけって、七つの子が三日も家を空けるかい? 大体、その三日間、腹も減らさずにいたってことだろ? 連れ去った奴が世話してくれてたってことかい?」
すぐに由吉が口を出してくるが、それは誰もが抱く当然の疑問だ。
「そうです。犯人は勝手に連れ去ってしまったという悪事を働いていますが、妙さんたちに危害を加えるつもりは毛頭なかったんですよ。それよりも、彼女たちに色々と試してもらいたかったんです」
飛鳥はにっこりと笑って言うが
「はあ?」
と由吉が素っ頓狂な声を上げたように、要領を得ないものだ。
「一体どういうことだい?」
堪らずに優介が口を挟む。すると、飛鳥はすぐに解ると手を振るだけだ。そしてきぬの方を見ると
「それよりも一つ確認させてもらいたいのですが、妙さんは帰ってきてからというもの、お洒落に凄く興味があるようになったのではないですか?」
そう質問をした。
すでに化け猫に調査させてあるが、両親から確実な情報をもらいたかったのだ。
「は、はい。そうです。店にある売り物を見ては、この反物はいい、こっちは嫌い、みたいに。今まではそれほど熱心に見る子じゃなかったんですけど」
反物屋の娘としては困るが、まだ七歳だ。興味が他のことにあっても仕方がないだろう。それが誘拐された日を境に大きく変わったわけだ。
「そうでしょうね。ちなみに他の被害者は小間物屋と髪結い屋の娘でした。その二人も同じように着物や小物、そして髪型に興味を持つようになったと言っています」
「なっ」
「あれ、深川の子って髪結い屋の子だったのかい?」
驚く両親叔父と違い、ずれたところを気にしてくれる優介だ。これは江戸中にいる物の怪たちに調べてもらったので、優介は知らなくて当然だろう。三つとも目で見て確認する必要はないと判断して、深川だけそうやって調べたのだ。
「そうなんだよ。気になるなら奉行所の旦那に話を聞けばいい」
「ははあ。じゃあ、飛鳥さんはこの三日の間に確認に行ってたのか」
優介は奉行所の仲がいい同心を思い浮かべてそう言う。勝手に納得してくれるのだから、騙すのが簡単で助かる。
「ということで、場所に共通点のない被害者たちでしたが、実は身なりに関わる商売をしているところの娘が狙われたんです。もちろん、ここだったのは偶然ですが、犯人がめぼしい子どもを探している時に、ここの子もいいなと思ったのは間違いありませんね。そして丁度良く、お使いに出て一人だったものだから、犯人は連れ去ったんですよ」
「ううん」
「どういうことでしょう?」
解ったような解っていないような。両親は首を傾げている。
「はっきり言いやがれ」
江戸っ子らしく短気な由吉が、先を促す。そこで飛鳥はにやりと笑うと
「犯人は男ですが、中身は男じゃない人なんですよ。そして、綺麗な着物を作ることが出来、小物を自分の好きなように改造することが出来、斬新な髪型を生み出せる人なんです」
と、最も謎だった部分を明らかにした。
そう、犯人は自分が作り出したものが女の子に受けるかどうか、それを知りたかったのだ。そこで、そういう家の子を狙ったというわけだ。尤も、身なりに関わる商売に拘っていたかどうかは不明だが、たまたまにしては出来すぎている。ある程度、身近にそういうものがあって、知識がありそうな子を選んだはずだ。
「妙な野郎だな。しかもなんで小さい女の子に聞こうってするんだ? 可愛いものだったら、それこそ年頃の娘に聞いた方がいいじゃねえか」
由吉は納得出来ないと鼻息を荒くしている。しかし、この点に関して飛鳥は謎に思っていなかった。
「偏見がないですからね」
というわけで、決定的な点を指摘する。すると、優介はぽんっと膝を打った。
「そうか。女装している男を見ても、それが変だとは思わないってことですね」
そして、つい最近まで変だと思っていた優介が大声で言い直してくれる。
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