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第14話 行方不明
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「ああ、小宮山さん。実は先ほどから佐久間の姿がなくて。ああ、聡明の方です。ですので倫明さんに確認しようとしたら、全く反応がないんですよ」
「えっ」
「二人で話し込んでいるのかと思ったら、そうでもなかったということでしょうか。ともかく、倫明さんが寝込んでいるようなので、起きないものかとノックしていたんです」
日向が困惑しつつも何とか説明してくれる。しかし肝心の部分が抜け落ちている。
「いなくなったってどういうことですか。話し込んでいるって、それは倫明が呼びに来たんですか」
「い、いえ。ですが、少し席を外すと出て行く先と言えば、倫明さんのところしかないですから」
「ふむ。ともかく、寝込んで起きないのかも解らないってことですね。部屋には鍵が掛かっているんですか」
「え、ええ」
「スペアキーは」
朝飛が聞くと、一階の事務室にあるので取ってきます、と日向が下に向かうべく廊下を全速力で駆けて行った。
「二人で出掛けた、というのはあり得ないですものね」
「ええ。この雨と風ですからね。となると、ここで二人で話している以外にないはず、なんですよ。それなのに」
倫明が出てくる気配がない。これは非常に奇妙なことだ。大関とは初日に挨拶を交わして以来だが、困惑はひしひしと伝わってくる。ドアに耳を付けて中の様子を窺ってみるも、物音はしなかった。
「どう?」
心配になった美樹も同じように耳を付けてみるが、やはり音は拾えない。
「駄目だな。本当に寝ているのか、それとももぬけの殻なのか」
「ううん」
そうしている間に日向が一階からスペアキーを持って戻ってくる。それと同時にさすがに単なる騒がしいだけではないと気づいた三階の面々が、ドアをちょっと開けてこちらの様子を窺っている。
「誰か、倫明か聡明さんを見てませんか」
丁度いいと朝飛が声を掛けると、全員からノーの答えを得た。つまり、他の誰かの部屋に入り込んでいる可能性はない。二階にいないのは日向たちが確認済みだ。
「本当に外に行ったのか」
焦りを覚えるが、まずは部屋の中の確認だ。日向が鍵を解除したので、揃って中を覗く。
「やっぱり留守か」
そこは予想通りにもぬけの殻で、ベッドなど、朝軽く整えただけの状態だった。ということは、昼食の後から倫明は部屋に戻って来ていないということか。
「あれ、食事の後、あいつってどうしたっけ」
「昼からのことを考えたいからって、レストランに残ったはずですよ」
美樹の言葉を受けて日向を見るが、日向はレストランにはいなかったと首を横に振る。
「他の空室に入っている可能性は」
「これだけ騒ぎになっていたら、出てきそうなものですけど」
「ともかく、探しましょう。外に出た可能性は最も低いんです」
「それもそうですね」
朝飛と日向の結論を受けて、それぞれ手分けして空室の部屋の状況の確認となった。二階は日向に指揮を頼み、三階は朝飛が担当することになる。
「これが三階分の空室のキーになります」
「了解です」
朝飛はカードの束を受け取ると、手早くそれを半分に分けて真衣に託す。
「二手に分かれましょう。俺と川瀬はこっち側、倫明の部屋がある側を担当しますので、他方をお願いします」
「了解」
「じゃあ、俺は小宮山君にくっ付きます」
人数配分の関係もあって、健輔は朝飛たちと一緒に行動することになった。ともかく限られた空間で二人もの人間が行方不明というのは好ましい状況を想像できない。手早く確認する必要がある。
「ったく、台風も接近しているというのに」
「そうよ。さっき確認した情報によると、この島の傍を通るのは明日の朝から夕方に掛けてみたい。まだゆっくりと進んでいる台風だから、接近してから抜けるまでに時間が掛かりそうよ」
「ああ。まだ気流に乗っていないのか」
「ええ」
事態がどんどん悪い方に進んでいるな。それを感じつつも、三階の部屋の捜索を始めたのだった。
「結論から申し上げますと、どこにもお二人の姿はありませんでした」
一時間後。宿泊棟にいる全員がレストランに揃ったところで、日向がそう告げた。想像していたとはいえ、これで二人が外に出たことが確実になってしまった。
「外に出たとなると、帰れなくなって研究棟なり加速器のある建物なりに避難してるってことでしょうか」
「どうだろう。それならば何か連絡がありそうなものだけど。スマホが使えないわけじゃないし」
織佳の楽観的な意見に対し、それはないだろうと直太朗が否定する。すると余計に、レストランの中は重いものになった。しんと静まり返ると、風のごうごうという音がよく聴こえる。
「この風と雨の中、外に確認に行くことは出来ませんね」
どこかにいるはずだ。それも、二人揃って無事にいるはずだ。そう思いたいが、それを今すぐ確認することが出来ない。それがもどかしい。
朝飛は窓の外を見ながら、この状態で外に出たら二次被害を生みかねないと眉を顰める。
「小宮山さんのおっしゃる通り、この中を捜索というわけにはいきません。お二人は準備のために何度かこの島を訪れています。何かあったのならば、どこかに避難している。スマホは何らかの理由で使えない。そう考えるのが妥当です」
日向は朝飛の意見に賛成だと頷いた。ここは二人を信頼して待つという判断が正しい。それを強調する。
「しかし、そうなると台風が過ぎるまでは何もできな、いってことですね」
信也がこれからどうするんだと日向に訊く。
「お二人がいなくても、皆様の研究に差し障りはないものと考えています。研究の中心には小宮山さんをと、倫明さんから伺っておりますし」
そこで日向は朝飛を見る。すると、全員の目が朝飛に向いた。
これは困ったなと、朝飛は頭を掻く。でも、ここで何もしないという決定は、より不安を増大させるものになりそうだ。関係のない企業側の大関や今川雅代の二人まで朝飛の発言に注目している。
「そうですね。台風が過ぎるまでの時間を潰すという意味でも、それぞれの今の研究の現状について説明をし、意見を述べていくというのは続けましょう。それでどうですか」
朝飛が言うと、研究者たちは頷いた。捜索がままならない今、固まって議論をしていた方がまし。そう判断したようだ。
「よかった。我々も全力でサポートいたしますので、よろしくお願いします」
「こちらこそ。皆さんも会社に戻れなくなってしまったわけですよね」
「ええ。あちらの二人は聡明とともに本日までの予定でした。台風の関係で来ることを早めたまでは良かったんですが、帰りの予定が狂うとは、想定が甘かったと言わざるを得ません。ここまで大型に発達するとは思っていなかったというのもありますが」
日向は天候とは解り難いものだと溜め息を吐く。高波の影響を考えて早めにしたものの、今日はまだ荒れないだろうと踏んでいたようだ。しかし、台風とは遠くにあっても周辺の雲を巻き込むので、気象状況はすぐに変化してしまう。
「そうですね。しかもここが南の海上にあるということで、普段の感覚を用いると予測が狂ってしまう」
「そのとおりです。今日からこれだけ荒れるというのは、よほど気象情報を注視していないと無理でしょう」
さすがに他の仕事に追われている中でそれは無理だと、日向は重々しく溜め息を吐く。何事に完璧にこなす日向も、次々に起こる事態に疲れが隠せなくなっている。
「もし興味がありましたら、斎藤さんや他の皆さんも俺たちの議論を見学してください。時間はたっぷりあるみたいですから、質問にもお答えしますし。藤本さんとお手伝いの方も、一度休憩なさってください」
これは日向にも休憩する時間が必要だ。そう感じ取り、朝飛からそう申し出ていた。
「そ、そうですね」
「初期宇宙って、よく解らないけど」
大関ともう一人の会社員、今川雅代も日向を気遣って同意した。
「えっ」
「二人で話し込んでいるのかと思ったら、そうでもなかったということでしょうか。ともかく、倫明さんが寝込んでいるようなので、起きないものかとノックしていたんです」
日向が困惑しつつも何とか説明してくれる。しかし肝心の部分が抜け落ちている。
「いなくなったってどういうことですか。話し込んでいるって、それは倫明が呼びに来たんですか」
「い、いえ。ですが、少し席を外すと出て行く先と言えば、倫明さんのところしかないですから」
「ふむ。ともかく、寝込んで起きないのかも解らないってことですね。部屋には鍵が掛かっているんですか」
「え、ええ」
「スペアキーは」
朝飛が聞くと、一階の事務室にあるので取ってきます、と日向が下に向かうべく廊下を全速力で駆けて行った。
「二人で出掛けた、というのはあり得ないですものね」
「ええ。この雨と風ですからね。となると、ここで二人で話している以外にないはず、なんですよ。それなのに」
倫明が出てくる気配がない。これは非常に奇妙なことだ。大関とは初日に挨拶を交わして以来だが、困惑はひしひしと伝わってくる。ドアに耳を付けて中の様子を窺ってみるも、物音はしなかった。
「どう?」
心配になった美樹も同じように耳を付けてみるが、やはり音は拾えない。
「駄目だな。本当に寝ているのか、それとももぬけの殻なのか」
「ううん」
そうしている間に日向が一階からスペアキーを持って戻ってくる。それと同時にさすがに単なる騒がしいだけではないと気づいた三階の面々が、ドアをちょっと開けてこちらの様子を窺っている。
「誰か、倫明か聡明さんを見てませんか」
丁度いいと朝飛が声を掛けると、全員からノーの答えを得た。つまり、他の誰かの部屋に入り込んでいる可能性はない。二階にいないのは日向たちが確認済みだ。
「本当に外に行ったのか」
焦りを覚えるが、まずは部屋の中の確認だ。日向が鍵を解除したので、揃って中を覗く。
「やっぱり留守か」
そこは予想通りにもぬけの殻で、ベッドなど、朝軽く整えただけの状態だった。ということは、昼食の後から倫明は部屋に戻って来ていないということか。
「あれ、食事の後、あいつってどうしたっけ」
「昼からのことを考えたいからって、レストランに残ったはずですよ」
美樹の言葉を受けて日向を見るが、日向はレストランにはいなかったと首を横に振る。
「他の空室に入っている可能性は」
「これだけ騒ぎになっていたら、出てきそうなものですけど」
「ともかく、探しましょう。外に出た可能性は最も低いんです」
「それもそうですね」
朝飛と日向の結論を受けて、それぞれ手分けして空室の部屋の状況の確認となった。二階は日向に指揮を頼み、三階は朝飛が担当することになる。
「これが三階分の空室のキーになります」
「了解です」
朝飛はカードの束を受け取ると、手早くそれを半分に分けて真衣に託す。
「二手に分かれましょう。俺と川瀬はこっち側、倫明の部屋がある側を担当しますので、他方をお願いします」
「了解」
「じゃあ、俺は小宮山君にくっ付きます」
人数配分の関係もあって、健輔は朝飛たちと一緒に行動することになった。ともかく限られた空間で二人もの人間が行方不明というのは好ましい状況を想像できない。手早く確認する必要がある。
「ったく、台風も接近しているというのに」
「そうよ。さっき確認した情報によると、この島の傍を通るのは明日の朝から夕方に掛けてみたい。まだゆっくりと進んでいる台風だから、接近してから抜けるまでに時間が掛かりそうよ」
「ああ。まだ気流に乗っていないのか」
「ええ」
事態がどんどん悪い方に進んでいるな。それを感じつつも、三階の部屋の捜索を始めたのだった。
「結論から申し上げますと、どこにもお二人の姿はありませんでした」
一時間後。宿泊棟にいる全員がレストランに揃ったところで、日向がそう告げた。想像していたとはいえ、これで二人が外に出たことが確実になってしまった。
「外に出たとなると、帰れなくなって研究棟なり加速器のある建物なりに避難してるってことでしょうか」
「どうだろう。それならば何か連絡がありそうなものだけど。スマホが使えないわけじゃないし」
織佳の楽観的な意見に対し、それはないだろうと直太朗が否定する。すると余計に、レストランの中は重いものになった。しんと静まり返ると、風のごうごうという音がよく聴こえる。
「この風と雨の中、外に確認に行くことは出来ませんね」
どこかにいるはずだ。それも、二人揃って無事にいるはずだ。そう思いたいが、それを今すぐ確認することが出来ない。それがもどかしい。
朝飛は窓の外を見ながら、この状態で外に出たら二次被害を生みかねないと眉を顰める。
「小宮山さんのおっしゃる通り、この中を捜索というわけにはいきません。お二人は準備のために何度かこの島を訪れています。何かあったのならば、どこかに避難している。スマホは何らかの理由で使えない。そう考えるのが妥当です」
日向は朝飛の意見に賛成だと頷いた。ここは二人を信頼して待つという判断が正しい。それを強調する。
「しかし、そうなると台風が過ぎるまでは何もできな、いってことですね」
信也がこれからどうするんだと日向に訊く。
「お二人がいなくても、皆様の研究に差し障りはないものと考えています。研究の中心には小宮山さんをと、倫明さんから伺っておりますし」
そこで日向は朝飛を見る。すると、全員の目が朝飛に向いた。
これは困ったなと、朝飛は頭を掻く。でも、ここで何もしないという決定は、より不安を増大させるものになりそうだ。関係のない企業側の大関や今川雅代の二人まで朝飛の発言に注目している。
「そうですね。台風が過ぎるまでの時間を潰すという意味でも、それぞれの今の研究の現状について説明をし、意見を述べていくというのは続けましょう。それでどうですか」
朝飛が言うと、研究者たちは頷いた。捜索がままならない今、固まって議論をしていた方がまし。そう判断したようだ。
「よかった。我々も全力でサポートいたしますので、よろしくお願いします」
「こちらこそ。皆さんも会社に戻れなくなってしまったわけですよね」
「ええ。あちらの二人は聡明とともに本日までの予定でした。台風の関係で来ることを早めたまでは良かったんですが、帰りの予定が狂うとは、想定が甘かったと言わざるを得ません。ここまで大型に発達するとは思っていなかったというのもありますが」
日向は天候とは解り難いものだと溜め息を吐く。高波の影響を考えて早めにしたものの、今日はまだ荒れないだろうと踏んでいたようだ。しかし、台風とは遠くにあっても周辺の雲を巻き込むので、気象状況はすぐに変化してしまう。
「そうですね。しかもここが南の海上にあるということで、普段の感覚を用いると予測が狂ってしまう」
「そのとおりです。今日からこれだけ荒れるというのは、よほど気象情報を注視していないと無理でしょう」
さすがに他の仕事に追われている中でそれは無理だと、日向は重々しく溜め息を吐く。何事に完璧にこなす日向も、次々に起こる事態に疲れが隠せなくなっている。
「もし興味がありましたら、斎藤さんや他の皆さんも俺たちの議論を見学してください。時間はたっぷりあるみたいですから、質問にもお答えしますし。藤本さんとお手伝いの方も、一度休憩なさってください」
これは日向にも休憩する時間が必要だ。そう感じ取り、朝飛からそう申し出ていた。
「そ、そうですね」
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大関ともう一人の会社員、今川雅代も日向を気遣って同意した。
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