34 / 55
第34話 安西の友好関係は広い
しおりを挟む
「となると、パーティーは必須の条件ということになるな。自分が紛れ込むためには、初めての客が多い方がいい。となると、千春が呼ばれたのもたまたまではないかも」
「さあ。どう頑張っても面識のない奴がいた方がいい、と考えてチョイスされたんじゃないか。それに話題性があるからな。誰もが千春に食いつくだろ。これだけの嫌がらせを受けるくらいなんだから」
「そうそう。その嫌がらせと今回の犯人は結びつかないんだろうか」
英士が訊くと、それは随分と突飛な発想じゃないかと将平は呆れる。偶然に時期が重なっただけで、その二つを結びつける理由はなさそうだ。
「そうかな。あまりに手紙ばかりだからさ。関係あるかなって発想するけど。まあ、嫌がらせがメールで成り立たないのは実証済みだが」
「いや。それを言うなら、安西が手紙だったのは招待状だからだろ。メールじゃ不安だったんだ」
結婚式の招待状だって、大体が郵便だろうがと将平は卑近な例を出す。
「なるほど。パーティーの招待状も結婚式の招待状も貰ったことがないからな。その点に関しては認識不足だ」
「まったく」
英士の言葉に、大丈夫かと心配になる。しかし、繋げて考えるという発想はなかった。もし関連があるとなると、指紋か何かが残っていると、そいつが犯人という可能性も出てくるわけだ。たしかにこれだけ執拗な嫌がらせとなると、疑いたくもなる。
「まあ、指紋を残すようなそんな間抜けがこんな嫌がらせをするとは思えないな。明らかに手間暇が掛かっている。ちゃんと手袋をして作業をしているだろうな」
「そう、それだよ。これは時間と手間の掛かることだ。ある程度の執念がなければここまで送り付けてくることはない。それが思わず事件と絡める要因でもあるね」
我が意を得たりと、英士がにやりと笑う。当初から不安になったのも、嫌がらせが数か月間も連続していたことにある。数値化したことで不安が一気に増大したわけだが、それまでも何となくだが危ないと察知していたのだ。
「まあな。安西っていう有名人でなければ、千春もパーティーへの出席を決めることもなかった状況ではある」
その点は認めるよと、将平も馬鹿にはしていられない。そもそも、嫌がらせがこれほど深刻だとは思っていなかったのだ。だからこそ、今まで繋げるという発想なんて持っていなかった。
「しかしな。そうなると、誰かが安西を唆したことになるぞ。まあ、調べさせよう。安西の交友関係くらいならば現場に行かなくても調べがつく。ついでに招待されている奴も調べておこう」
将平はそう言うと、すぐに本部へと電話を掛けた。すでに解っていることがあるならば、聞き出そうという腹積もりでもある。
「ああ、そうそう。安西の交友関係だ。えっ、意外と幅広いねえ。他分野の奴とも交流があるって。で、手間取っていると。パーティーの招待客との接点は」
電話でそんなやり取りをしているのが聞こえ、英士と翔馬は固唾を飲む。やはり事件が起こっていてもあまりに情報がなく、また現場が遠いためどこか実感が湧かなかった。それが警察の具体的なやり取りを聞いてしまうと、否が応でも何かが起こっていると気づかされる。
「ああ。なるほど。まだだな。たしかに容疑者として絞られるのに、事件を起こす間抜けがいるのかって思うところだ。まだ周辺を固めているところだったか。了解。しかし、そっちを早急に頼む。疑わしいのはこいつらだという事実は変わらないだろ」
将平はそう言って電話を切ると、テーブルの上に置かれていた一覧表を手に取った。
「どうやら安西は、色んな奴と喋るのが好きだったみたいだな」
「へえ、意外ですね。画家の人って気難しいイメージがありますけど」
「そうか。岡本太郎とか横尾忠則とか、破天荒なイメージはあるけど気難しい感じはしないぞ」
「意外だな。安西を知らなかったのにそういう名前は出てくるんだ」
すらすらと将平が現代画家の名前を挙げたので、翔馬はどうしたんだと目を見開く。たしか安西の話題を振った時、誰だそれという反応だったのに。
「安西のついでに調べたんだよ。うるせえな」
そんなことは忘れろよと、将平はむすっとしてしまった。たしかについ数時間前まで画家に興味なんてなかった。一夜漬けがばれたようで気恥ずかしい。
「まあまあ。画家も十人十色ってことだな。で、安西は誰でも受け入れるタイプだったってことか」
「ああ。若手作家の作品を買ったり、今回みたいに自らの家に招いたりってのはよくあることだったらしい。千春が招待されたようなパーティーも、珍しいものではなかったってことさ」
「ふうん」
ということは、何も今回が特別というわけではないのかと英士は出鼻をくじかれた気分だ。そうなると、ますます嫌がらせと結びつけるのは難しい。やはり時期が重なったのはたまたまなのか。
「だからまあ、今回招かれた奴の中に何度か呼ばれている奴がいてもおかしくないわけだ」
「そうだな。しかし、そうなると使用人たちとも面識があるってことになる。だったらこのチャンスに殺そうとはならないだろう」
「そう。しかし他の場所で会った可能性もあるからな。一概に安西と面識があるからといって、使用人とも面識があるとはならないだろう。あの被害者、かなり活動的だったみたいでな。外に出ることも多かったらしい」
将平は先ほど電話に応じてくれた警官がぼやいていた内容を伝えた。交友関係が浅く広いため、どこまで調べればいいのか見当もつかないという。しかも旅行好きで、ここ数年は年のせいか控えていたものの、あちこちに出掛けていたらしい。
「だから、パーティーの招待客からにしろってアドバイスしたんですね。でも、警察ならばその人たちを疑って当然じゃないんですか」
翔馬はそんなこととっくにやっているのではと思ったが、なかなか難しい状況のようだ。しかし、どうしてと疑問になる。
「さあ。どう頑張っても面識のない奴がいた方がいい、と考えてチョイスされたんじゃないか。それに話題性があるからな。誰もが千春に食いつくだろ。これだけの嫌がらせを受けるくらいなんだから」
「そうそう。その嫌がらせと今回の犯人は結びつかないんだろうか」
英士が訊くと、それは随分と突飛な発想じゃないかと将平は呆れる。偶然に時期が重なっただけで、その二つを結びつける理由はなさそうだ。
「そうかな。あまりに手紙ばかりだからさ。関係あるかなって発想するけど。まあ、嫌がらせがメールで成り立たないのは実証済みだが」
「いや。それを言うなら、安西が手紙だったのは招待状だからだろ。メールじゃ不安だったんだ」
結婚式の招待状だって、大体が郵便だろうがと将平は卑近な例を出す。
「なるほど。パーティーの招待状も結婚式の招待状も貰ったことがないからな。その点に関しては認識不足だ」
「まったく」
英士の言葉に、大丈夫かと心配になる。しかし、繋げて考えるという発想はなかった。もし関連があるとなると、指紋か何かが残っていると、そいつが犯人という可能性も出てくるわけだ。たしかにこれだけ執拗な嫌がらせとなると、疑いたくもなる。
「まあ、指紋を残すようなそんな間抜けがこんな嫌がらせをするとは思えないな。明らかに手間暇が掛かっている。ちゃんと手袋をして作業をしているだろうな」
「そう、それだよ。これは時間と手間の掛かることだ。ある程度の執念がなければここまで送り付けてくることはない。それが思わず事件と絡める要因でもあるね」
我が意を得たりと、英士がにやりと笑う。当初から不安になったのも、嫌がらせが数か月間も連続していたことにある。数値化したことで不安が一気に増大したわけだが、それまでも何となくだが危ないと察知していたのだ。
「まあな。安西っていう有名人でなければ、千春もパーティーへの出席を決めることもなかった状況ではある」
その点は認めるよと、将平も馬鹿にはしていられない。そもそも、嫌がらせがこれほど深刻だとは思っていなかったのだ。だからこそ、今まで繋げるという発想なんて持っていなかった。
「しかしな。そうなると、誰かが安西を唆したことになるぞ。まあ、調べさせよう。安西の交友関係くらいならば現場に行かなくても調べがつく。ついでに招待されている奴も調べておこう」
将平はそう言うと、すぐに本部へと電話を掛けた。すでに解っていることがあるならば、聞き出そうという腹積もりでもある。
「ああ、そうそう。安西の交友関係だ。えっ、意外と幅広いねえ。他分野の奴とも交流があるって。で、手間取っていると。パーティーの招待客との接点は」
電話でそんなやり取りをしているのが聞こえ、英士と翔馬は固唾を飲む。やはり事件が起こっていてもあまりに情報がなく、また現場が遠いためどこか実感が湧かなかった。それが警察の具体的なやり取りを聞いてしまうと、否が応でも何かが起こっていると気づかされる。
「ああ。なるほど。まだだな。たしかに容疑者として絞られるのに、事件を起こす間抜けがいるのかって思うところだ。まだ周辺を固めているところだったか。了解。しかし、そっちを早急に頼む。疑わしいのはこいつらだという事実は変わらないだろ」
将平はそう言って電話を切ると、テーブルの上に置かれていた一覧表を手に取った。
「どうやら安西は、色んな奴と喋るのが好きだったみたいだな」
「へえ、意外ですね。画家の人って気難しいイメージがありますけど」
「そうか。岡本太郎とか横尾忠則とか、破天荒なイメージはあるけど気難しい感じはしないぞ」
「意外だな。安西を知らなかったのにそういう名前は出てくるんだ」
すらすらと将平が現代画家の名前を挙げたので、翔馬はどうしたんだと目を見開く。たしか安西の話題を振った時、誰だそれという反応だったのに。
「安西のついでに調べたんだよ。うるせえな」
そんなことは忘れろよと、将平はむすっとしてしまった。たしかについ数時間前まで画家に興味なんてなかった。一夜漬けがばれたようで気恥ずかしい。
「まあまあ。画家も十人十色ってことだな。で、安西は誰でも受け入れるタイプだったってことか」
「ああ。若手作家の作品を買ったり、今回みたいに自らの家に招いたりってのはよくあることだったらしい。千春が招待されたようなパーティーも、珍しいものではなかったってことさ」
「ふうん」
ということは、何も今回が特別というわけではないのかと英士は出鼻をくじかれた気分だ。そうなると、ますます嫌がらせと結びつけるのは難しい。やはり時期が重なったのはたまたまなのか。
「だからまあ、今回招かれた奴の中に何度か呼ばれている奴がいてもおかしくないわけだ」
「そうだな。しかし、そうなると使用人たちとも面識があるってことになる。だったらこのチャンスに殺そうとはならないだろう」
「そう。しかし他の場所で会った可能性もあるからな。一概に安西と面識があるからといって、使用人とも面識があるとはならないだろう。あの被害者、かなり活動的だったみたいでな。外に出ることも多かったらしい」
将平は先ほど電話に応じてくれた警官がぼやいていた内容を伝えた。交友関係が浅く広いため、どこまで調べればいいのか見当もつかないという。しかも旅行好きで、ここ数年は年のせいか控えていたものの、あちこちに出掛けていたらしい。
「だから、パーティーの招待客からにしろってアドバイスしたんですね。でも、警察ならばその人たちを疑って当然じゃないんですか」
翔馬はそんなこととっくにやっているのではと思ったが、なかなか難しい状況のようだ。しかし、どうしてと疑問になる。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
変な屋敷 ~悪役令嬢を育てた部屋~
aihara
ミステリー
侯爵家の変わり者次女・ヴィッツ・ロードンは博物館で建築物史の学術研究院をしている。
ある日彼女のもとに、婚約者とともに王都でタウンハウスを探している妹・ヤマカ・ロードンが「この屋敷とてもいいんだけど、変な部屋があるの…」と相談を持ち掛けてきた。
とある作品リスペクトの謎解きストーリー。
本編9話(プロローグ含む)、閑話1話の全10話です。
影の多重奏:神藤葉羽と消えた記憶の螺旋
葉羽
ミステリー
天才高校生・神藤葉羽は、幼馴染の望月彩由美と共に平穏な日常を送っていた。しかし、ある日を境に、葉羽の周囲で不可解な出来事が起こり始める。それは、まるで悪夢のような、現実と虚構の境界が曖昧になる恐怖の連鎖だった。記憶の断片、多重人格、そして暗示。葉羽は、消えた記憶の螺旋を辿り、幼馴染と共に惨劇の真相へと迫る。だが、その先には、想像を絶する真実が待ち受けていた。
ダブルネーム
しまおか
ミステリー
有名人となった藤子の弟が謎の死を遂げ、真相を探る内に事態が急変する!
四十五歳でうつ病により会社を退職した藤子は、五十歳で純文学の新人賞を獲得し白井真琴の筆名で芥山賞まで受賞し、人生が一気に変わる。容姿や珍しい経歴もあり、世間から注目を浴びテレビ出演した際、渡部亮と名乗る男の死についてコメント。それが後に別名義を使っていた弟の雄太と知らされ、騒動に巻き込まれる。さらに本人名義の土地建物を含めた多額の遺産は全て藤子にとの遺書も発見され、いくつもの謎を残して死んだ彼の過去を探り始めた。相続を巡り兄夫婦との確執が産まれる中、かつて雄太の同僚だったと名乗る同性愛者の女性が現れ、警察は事故と処理したが殺されたのではと言い出す。さらに刑事を紹介され裏で捜査すると告げられる。そうして真相を解明しようと動き出した藤子を待っていたのは、予想をはるかに超える事態だった。登場人物のそれぞれにおける人生や、藤子自身の過去を振り返りながら謎を解き明かす、どんでん返しありのミステリー&サスペンス&ヒューマンドラマ。
リモート刑事 笹本翔
雨垂 一滴
ミステリー
『リモート刑事 笹本翔』は、過去のトラウマと戦う一人の刑事が、リモート捜査で事件を解決していく、刑事ドラマです。
主人公の笹本翔は、かつて警察組織の中でトップクラスの捜査官でしたが、ある事件で仲間を失い、自身も重傷を負ったことで、外出恐怖症(アゴラフォビア)に陥り、現場に出ることができなくなってしまいます。
それでも、彼の卓越した分析力と冷静な判断力は衰えず、リモートで捜査指示を出しながら、次々と難事件を解決していきます。
物語の鍵を握るのは、翔の若き相棒・竹内優斗。熱血漢で行動力に満ちた優斗と、過去の傷を抱えながらも冷静に捜査を指揮する翔。二人の対照的なキャラクターが織りなすバディストーリーです。
翔は果たして過去のトラウマを克服し、再び現場に立つことができるのか?
翔と優斗が数々の難事件に挑戦します!
旧校舎のフーディーニ
澤田慎梧
ミステリー
【「死体の写った写真」から始まる、人の死なないミステリー】
時は1993年。神奈川県立「比企谷(ひきがやつ)高校」一年生の藤本は、担任教師からクラス内で起こった盗難事件の解決を命じられてしまう。
困り果てた彼が頼ったのは、知る人ぞ知る「名探偵」である、奇術部の真白部長だった。
けれども、奇術部部室を訪ねてみると、そこには美少女の死体が転がっていて――。
奇術師にして名探偵、真白部長が学校の些細な謎や心霊現象を鮮やかに解決。
「タネも仕掛けもございます」
★毎週月水金の12時くらいに更新予定
※本作品は連作短編です。出来るだけ話数通りにお読みいただけると幸いです。
※本作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件とは一切関係ありません。
※本作品の主な舞台は1993年(平成五年)ですが、当時の知識が無くてもお楽しみいただけます。
※本作品はカクヨム様にて連載していたものを加筆修正したものとなります。
パラダイス・ロスト
真波馨
ミステリー
架空都市K県でスーツケースに詰められた男の遺体が発見される。殺された男は、県警公安課のエスだった――K県警公安第三課に所属する公安警察官・新宮時也を主人公とした警察小説の第一作目。
※旧作『パラダイス・ロスト』を加筆修正した作品です。大幅な内容の変更はなく、一部設定が変更されています。旧作版は〈小説家になろう〉〈カクヨム〉にのみ掲載しています。
友よ、お前は何故死んだのか?
河内三比呂
ミステリー
「僕は、近いうちに死ぬかもしれない」
幼い頃からの悪友であり親友である久川洋壱(くがわよういち)から突如告げられた不穏な言葉に、私立探偵を営む進藤識(しんどうしき)は困惑し嫌な予感を覚えつつもつい流してしまう。
だが……しばらく経った頃、仕事終わりの識のもとへ連絡が入る。
それは洋壱の死の報せであった。
朝倉康平(あさくらこうへい)刑事から事情を訊かれた識はそこで洋壱の死が不可解である事、そして自分宛の手紙が発見された事を伝えられる。
悲しみの最中、朝倉から提案をされる。
──それは、捜査協力の要請。
ただの民間人である自分に何ができるのか?悩みながらも承諾した識は、朝倉とともに洋壱の死の真相を探る事になる。
──果たして、洋壱の死の真相とは一体……?
ARIA(アリア)
残念パパいのっち
ミステリー
山内亮(やまうちとおる)は内見に出かけたアパートでAR越しに不思議な少女、西園寺雫(さいおんじしずく)と出会う。彼女は自分がAIでこのアパートに閉じ込められていると言うが……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる