椎名千春の災難~人工知能は悪意を生む!?~

渋川宙

文字の大きさ
上 下
4 / 55

第4話 安西の自宅へ

しおりを挟む
 問題の安西青龍の自宅は都心から少し離れた閑静な場所というより、山の中という表現が正しいような場所に建っていた。グー〇ルマップで位置を確認した時から嫌な予感がしていた千春は、げんなりとその家を見る。
 ここまでのタクシー代は、後で安西が支払ってくれると言うが、それにしても結構な金額が掛かった。つまり、それだけ山の中だ。当然、交通手段は車しかない。バスも麓までしか走っていなかった。
 しかし、これだけ大きな家を構えようと思えば、山の中になるのも致し方ないのかもしれない。しかも画家という職業だ。都会の喧騒から離れたかったのかもしれない。
 それはいいとして、それはとても奇妙な家だった。二つの平屋建ての建物がくっついたような形をしている。どちらかがアトリエなのだろうと思うも、建物の規模は同じくらい。そっくりな建物が、渡り廊下で繋がっている造りとなっていた。どちらも純和風な造りで見分けがつかない。それに一体どんな意味があるのだろうか。
「スマホは、ぎりぎり入るな。よし」
 建物の奇妙さよりも、問題はこっちだ。玄関のチャイムを押す前に、千春は普段ならば絶対にやらないスマホをチェックしていた。電波は良好。連絡が取れなくなるということはないようだ。
 嫌がらせの可能性はないと思うものの、千春はまだこれが妙なことにならないかと心配してしまう。
「ここ最近のあれは、何なんだろうな。心当たりはあるとはいえ、おかしいんだよな。やっていることが稚拙というか幼稚というか」
「あの、椎名さんですか」
 ぶつぶつと文句を言っていたら、恐る恐るそう声を掛けられた。
 スマホから顔を上げて見ると、いつの間にか玄関ドアが開き、若い女性がこちらを見ていた。丸眼鏡が特徴的で背も低い。身長は一五〇ちょっとか。髪は長く腰のあたりまであった。全体的に可愛らしい印象を与えている。
「あっ、はい。そうです」
 しまったと、千春は顔を引き締めると頷いた。ついつい考え事をして、思考が脱線していた。
「私、安西先生のところで修行しています、岡林桃花おかばやしももかといいます。どうぞ、中に」
「はい。すみません」
 そして、千春は女性を前にすると、いつも以上に戸惑うという性質がある。無暗にぺこぺこと頭を下げると、急いで中に入った。
 日頃、近くに女性がいない弊害だ。高校から理系クラスで女子が少なく、さらに工学へと進んだためこちらでも女子が少なく、異性に対してあまり免疫がない。
 見た目はいいが、モテた試しがないのが千春だった。取り繕う性格と相まって、異性を相手にした時はイケメンも形無しとなってしまう。
「そこの応接室でしばらくお待ちください」
「は、はい」
 玄関横にある部屋に通され、ようやく千春はほっと一息吐いた。まったく心臓に悪い。こういう時、翔馬がいれば適当に対応してくれるのだが今日は一人だ。これから、どれだけ緊張を強いられるか。
 ここまで義務感でやって来たが、人付き合いが大の苦手なのだ。本当ならば知り合いの時のように嫌の一言で済ませたかった。そんな後悔が千春の心の中で渦を巻く。
 通された玄関横にある部屋は、家の見た目に反して洋室だった。ソファセットが置かれ、ここで来客の対応が出来るようになっていた。それでも家の雰囲気を損なわないように、家具の総てが重厚感のあるアンティーク調だった。
「くそっ。これが百人くらいのパーティーだったら、絶対に断っていたのに」
 桃花がいなくなると千春は思わず愚痴を零した。同時にまだ会っていない安西を恨めしく思う。どうして自分だったのだろうか。英士でもよかったではないか。他に気になる研究者くらいいるだろうと、心の中で文句を連ねる。
 と、そこにドアが開く気配がした。また桃花かと思ったが、お盆を持って現れたのは老齢の男性だった。しかし安西ではない。スーツ姿のピシッとした人物で、顎髭もなかった。
「ようこそお越しくださいました。私はこちらで皆さまのお世話をいたします、田辺と申します」
 そう名乗った田辺源たなべげんが、千春の目の前にコーヒーを置いた。
「は、はあ。お世話になります。あの、田辺さんは執事みたいな方ですか」
「ええ。そうですね。安西先生の身の回りのことも任されています」
「はあ」
 千春は有り難くコーヒーを飲みつつ、画家って儲かるんだなと思う。執事のいる生活なんて、工学研究者には永遠に無縁の世界だ。特許を取ったとしても、利益は大学に入るだけ。研究資金は多くなるが、給料が良くなるわけではない。
「お待たせして申し訳ございません。他のお客様も揃われてから、客室に案内させていただきます。しばし、こちらでお寛ぎください」
「あ、はい」
 色々と準備やら手順があるんだなと、千春はすでに帰りたくなっていた。こういう堅苦しくて面倒なことも苦手なのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】Amnesia(アムネシア)~カフェ「時遊館」に現れた美しい青年は記憶を失っていた~

紫紺
ミステリー
郊外の人気カフェ、『時游館』のマスター航留は、ある日美しい青年と出会う。彼は自分が誰かも全て忘れてしまう記憶喪失を患っていた。 行きがかり上、面倒を見ることになったのが……。 ※「Amnesia」は医学用語で、一般的には「記憶喪失」のことを指します。

仮題「難解な推理小説」

葉羽
ミステリー
主人公の神藤葉羽は、鋭い推理力を持つ高校2年生。日常の出来事に対して飽き飽きし、常に何か新しい刺激を求めています。特に推理小説が好きで、複雑な謎解きを楽しみながら、現実世界でも人々の行動を予測し、楽しむことを得意としています。 クラスメートの望月彩由美は、葉羽とは対照的に明るく、恋愛漫画が好きな女の子。葉羽の推理力に感心しつつも、彼の少し変わった一面を心配しています。 ある日、葉羽はいつものように推理を楽しんでいる最中、クラスメートの行動を正確に予測し、彩由美を驚かせます。しかし、葉羽は内心では、この退屈な日常に飽き飽きしており、何か刺激的な出来事が起こることを期待しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

カフェ・シュガーパインの事件簿

山いい奈
ミステリー
大阪長居の住宅街に佇むカフェ・シュガーパイン。 個性豊かな兄姉弟が営むこのカフェには穏やかな時間が流れる。 だが兄姉弟それぞれの持ち前の好奇心やちょっとした特殊能力が、巻き込まれる事件を解決に導くのだった。

ARIA(アリア)

残念パパいのっち
ミステリー
山内亮(やまうちとおる)は内見に出かけたアパートでAR越しに不思議な少女、西園寺雫(さいおんじしずく)と出会う。彼女は自分がAIでこのアパートに閉じ込められていると言うが……

天使の顔して悪魔は嗤う

ねこ沢ふたよ
ミステリー
表紙の子は赤野周作君。 一つ一つで、お話は別ですので、一つずつお楽しいただけます。 【都市伝説】 「田舎町の神社の片隅に打ち捨てられた人形が夜中に動く」 そんな都市伝説を調べに行こうと幼馴染の木根元子に誘われて調べに行きます。 【雪の日の魔物】 周作と優作の兄弟で、誘拐されてしまいますが、・・・どちらかと言えば、周作君が犯人ですね。 【歌う悪魔】 聖歌隊に参加した周作君が、ちょっとした事件に巻き込まれます。 【天国からの復讐】 死んだ友達の復讐 <折り紙から、中学生。友達今井目線> 【折り紙】 いじめられっ子が、周作君に相談してしまいます。復讐してしまいます。 【修学旅行1~3・4~10】 周作が、修学旅行に参加します。バスの車内から目撃したのは・・・。 3までで、小休止、4からまた新しい事件が。 ※高一<松尾目線> 【授業参観1~9】 授業参観で見かけた保護者が殺害されます 【弁当】 松尾君のプライベートを赤野君が促されて推理するだけ。 【タイムカプセル1~7】 暗号を色々+事件。和歌、モールス、オペラ、絵画、様々な要素を取り入れた暗号 【クリスマスの暗号1~7】 赤野君がプレゼント交換用の暗号を作ります。クリスマスにちなんだ暗号です。 【神隠し】 同級生が行方不明に。 SNSや伝統的な手品のトリック ※高三<夏目目線> 【猫は暗号を運ぶ1~7】 猫の首輪の暗号から、事件解決 【猫を殺さば呪われると思え1~7】 暗号にCICADAとフリーメーソンを添えて♪ ※都市伝説→天使の顔して悪魔は嗤う、タイトル変更

【毎日更新】教室崩壊カメレオン【他サイトにてカテゴリー2位獲得作品】

めんつゆ
ミステリー
ーー「それ」がわかった時、物語はひっくり返る……。 真実に近づく為の伏線が張り巡らされています。 あなたは何章で気づけますか?ーー 舞台はとある田舎町の中学校。 平和だったはずのクラスは 裏サイトの「なりすまし」によって支配されていた。 容疑者はたった7人のクラスメイト。 いじめを生み出す黒幕は誰なのか? その目的は……? 「2人で犯人を見つけましょう」 そんな提案を持ちかけて来たのは よりによって1番怪しい転校生。 黒幕を追う中で明らかになる、クラスメイトの過去と罪。 それぞれのトラウマは交差し、思いもよらぬ「真相」に繋がっていく……。 中学生たちの繊細で歪な人間関係を描く青春ミステリー。

処理中です...