20 / 28
第20話 遊ばれているなあ
しおりを挟む
「さて、納得したところで役割を割り振ろう。一番面倒な相手の姫君は俺が担当するよ。依頼を引き受けたのは俺だからね」
保憲は自分が心変わり先の姫を担当すると断言。
「そうなると、自動的に俺が中将ですね。こいつに振れる仕事といえば、先ほど訪ねた姫君だけですし」
そして晴明が面倒だなと遠い目をする。
「ええっと、俺に出来ることってあるんですか」
それよりもしっかり巻き込まれている自分はどうすればいいのか。泰久はおろおろと保憲と晴明の顔を見比べる。
「大丈夫だよ。段取りはこっちでやるから、君は最後の仕上げだけをやってくれればいい」
保憲はにっこり笑ってそう言ってくれるが、最後の仕上げというのが何なのか。怖くて仕方がない泰久だ。
「安心しろ。どうせ捕まえてきた大量の蛙を屋敷の中に放つとか、コウモリを放つとか、蛇を放つとかだ」
晴明が具体的にやることを言ってくれるが、それはそれで嫌だ。
「蛙かコウモリか蛇って。選択肢が嫌すぎる」
「蜘蛛かもしれないよ」
「ひいっ」
保憲が忘れている可能性があるなと付け足してくるので、泰久は勘弁してくださいと情けない声を上げてしまう。
「面白いな」
「新鮮だよね、反応が」
そんな泰久を晴明は冷たい目で見つめ、保憲はもう我慢できないと腹を抱えて笑い出す。完全に二人に遊ばれている。
「そういうのが出ると、呪いを行ったからだとビックリするってことですか」
泰久は情けなくなりつつも、効果に関して訊ねていた。徐々にこの二人に耐性が出来つつある。
「そうそう。簡単に陰陽師に頼んで呪いを行うなんて駄目ですよという戒めだな。ついでに泰久君、君が怖がる姫君を救い出して万事解決というわけだ。ゲテモノの回収は部下がやってくれるから、君はその中で平然と微笑んでいればいい」
「ほっ」
なんか難しいことを言っていませんか。泰久はがーんと固まってしまう。泰久だって蛙や蛇は苦手だ。そんな中で平然と笑っていられるはずがない。
「やるんだよ。それが一流の陰陽師だ」
保憲は笑いながらばんばんと背中を叩いてくれる。まだお酒は来ていなくて酔っ払っていないのに、すでに酔っ払いのようだ。
「まあ、確かに、何が起こっても情けない顔をしないというのは必要だな」
そして晴明も、その益材に似た表情は止めろと睨んでくる。そんなに情けない顔をしているだろうか。
「はあ、まあ、それはそうですねえ」
泰久も常に威厳がないことは自覚しているので、少しはきりっとしなきゃなと姿勢を正す。しかし、保憲が面白いとまた笑い出して台無しだ。
「暦博士様がイジメてきます」
思わず泰久がぼそっと呟くと
「保憲様。そんなにからかっちゃ駄目でしょ」
後ろから突然、綾子の声がした。保憲は笑いを収めると
「ごめんごめん。って、綾子だって楽しんでいたくせに」
と御簾を捲って綾子にしっかり文句を言った。
「だって、とても可愛らしい方のようなんですもの。後ろでお話を聞いているだけで楽しかったわ」
それに綾子もごめんねと御簾の向こうで笑っている。ああもう、まさか奥方にまで笑われてしまうなんて。泰久はぶくっと頬を膨らませていた。
「さあさあ、あちらにお食事の用意が出来ましたわ。そちらで続きをなさってください」
綾子はそう言うと、そそっと先に行ってしまう。先ほどもそうだが、来た時は音がなく、去って行く時だけ衣擦れの音をさせている。只者ではないのだろうなと泰久は呆れてしまった。
「綾子殿は大和のある一族の娘だからな」
その疑問に、晴明はそれだけ言った。つまり、同じく裏稼業をしている一族の一人ということか。
「はあ。つまりは政略結婚みたいな」
泰久はどうなんですかと保憲を見るが
「綾子には非常に満足しているよ、色んな面でね。部下も増えたし文句はない」
とにっこり笑われてしまった。
別の事件が片付いて口止め料としてたんまり食料が手に入ったということで、用意された食事は豪華なものだった。お酒も安倍邸で飲んだものとは違って、透き通ったお酒だった。益材が飲んでいたのは濁酒で、白く濁ったお酒だったのである。
「凄いですね」
「食事だけ見れば大臣に引けを取らないだろうね」
褒める泰久に、何事もやりようだよねと保憲は酒を飲んで微笑む。しかし、その視線は晴明を見ていた。
まだ何かと踏ん切りが付かない晴明に、結果はいいものだろうと見せる意味があるのだろう。泰久は焼き魚を食べつつ、大変だなと少し同情してしまう。両親の間に挟まれて一番困ったのは晴明のはずなのに、大人たちによって決められた道を進むしかないわけだ。
しかし、後の時代で泰久が何も出来ないのに陰陽博士になり、何も出来なくてもいいとまで言われるのは、この時の晴明の踏ん切りと努力があったおかげだ。ここはしっかり応援しなければならないだろう。
「ええっと、中将様とお相手の姫君様についてもう解っているんですか」
というわけで、泰久から率先して仕事の話を振った。
保憲は自分が心変わり先の姫を担当すると断言。
「そうなると、自動的に俺が中将ですね。こいつに振れる仕事といえば、先ほど訪ねた姫君だけですし」
そして晴明が面倒だなと遠い目をする。
「ええっと、俺に出来ることってあるんですか」
それよりもしっかり巻き込まれている自分はどうすればいいのか。泰久はおろおろと保憲と晴明の顔を見比べる。
「大丈夫だよ。段取りはこっちでやるから、君は最後の仕上げだけをやってくれればいい」
保憲はにっこり笑ってそう言ってくれるが、最後の仕上げというのが何なのか。怖くて仕方がない泰久だ。
「安心しろ。どうせ捕まえてきた大量の蛙を屋敷の中に放つとか、コウモリを放つとか、蛇を放つとかだ」
晴明が具体的にやることを言ってくれるが、それはそれで嫌だ。
「蛙かコウモリか蛇って。選択肢が嫌すぎる」
「蜘蛛かもしれないよ」
「ひいっ」
保憲が忘れている可能性があるなと付け足してくるので、泰久は勘弁してくださいと情けない声を上げてしまう。
「面白いな」
「新鮮だよね、反応が」
そんな泰久を晴明は冷たい目で見つめ、保憲はもう我慢できないと腹を抱えて笑い出す。完全に二人に遊ばれている。
「そういうのが出ると、呪いを行ったからだとビックリするってことですか」
泰久は情けなくなりつつも、効果に関して訊ねていた。徐々にこの二人に耐性が出来つつある。
「そうそう。簡単に陰陽師に頼んで呪いを行うなんて駄目ですよという戒めだな。ついでに泰久君、君が怖がる姫君を救い出して万事解決というわけだ。ゲテモノの回収は部下がやってくれるから、君はその中で平然と微笑んでいればいい」
「ほっ」
なんか難しいことを言っていませんか。泰久はがーんと固まってしまう。泰久だって蛙や蛇は苦手だ。そんな中で平然と笑っていられるはずがない。
「やるんだよ。それが一流の陰陽師だ」
保憲は笑いながらばんばんと背中を叩いてくれる。まだお酒は来ていなくて酔っ払っていないのに、すでに酔っ払いのようだ。
「まあ、確かに、何が起こっても情けない顔をしないというのは必要だな」
そして晴明も、その益材に似た表情は止めろと睨んでくる。そんなに情けない顔をしているだろうか。
「はあ、まあ、それはそうですねえ」
泰久も常に威厳がないことは自覚しているので、少しはきりっとしなきゃなと姿勢を正す。しかし、保憲が面白いとまた笑い出して台無しだ。
「暦博士様がイジメてきます」
思わず泰久がぼそっと呟くと
「保憲様。そんなにからかっちゃ駄目でしょ」
後ろから突然、綾子の声がした。保憲は笑いを収めると
「ごめんごめん。って、綾子だって楽しんでいたくせに」
と御簾を捲って綾子にしっかり文句を言った。
「だって、とても可愛らしい方のようなんですもの。後ろでお話を聞いているだけで楽しかったわ」
それに綾子もごめんねと御簾の向こうで笑っている。ああもう、まさか奥方にまで笑われてしまうなんて。泰久はぶくっと頬を膨らませていた。
「さあさあ、あちらにお食事の用意が出来ましたわ。そちらで続きをなさってください」
綾子はそう言うと、そそっと先に行ってしまう。先ほどもそうだが、来た時は音がなく、去って行く時だけ衣擦れの音をさせている。只者ではないのだろうなと泰久は呆れてしまった。
「綾子殿は大和のある一族の娘だからな」
その疑問に、晴明はそれだけ言った。つまり、同じく裏稼業をしている一族の一人ということか。
「はあ。つまりは政略結婚みたいな」
泰久はどうなんですかと保憲を見るが
「綾子には非常に満足しているよ、色んな面でね。部下も増えたし文句はない」
とにっこり笑われてしまった。
別の事件が片付いて口止め料としてたんまり食料が手に入ったということで、用意された食事は豪華なものだった。お酒も安倍邸で飲んだものとは違って、透き通ったお酒だった。益材が飲んでいたのは濁酒で、白く濁ったお酒だったのである。
「凄いですね」
「食事だけ見れば大臣に引けを取らないだろうね」
褒める泰久に、何事もやりようだよねと保憲は酒を飲んで微笑む。しかし、その視線は晴明を見ていた。
まだ何かと踏ん切りが付かない晴明に、結果はいいものだろうと見せる意味があるのだろう。泰久は焼き魚を食べつつ、大変だなと少し同情してしまう。両親の間に挟まれて一番困ったのは晴明のはずなのに、大人たちによって決められた道を進むしかないわけだ。
しかし、後の時代で泰久が何も出来ないのに陰陽博士になり、何も出来なくてもいいとまで言われるのは、この時の晴明の踏ん切りと努力があったおかげだ。ここはしっかり応援しなければならないだろう。
「ええっと、中将様とお相手の姫君様についてもう解っているんですか」
というわけで、泰久から率先して仕事の話を振った。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
裏公務の神様事件簿 ─神様のバディはじめました─
只深
ファンタジー
20xx年、日本は謎の天変地異に悩まされていた。
相次ぐ河川の氾濫、季節を無視した気温の変化、突然大地が隆起し、建物は倒壊。
全ての基礎が壊れ、人々の生活は自給自足の時代──まるで、時代が巻き戻ってしまったかのような貧困生活を余儀なくされていた。
クビにならないと言われていた公務員をクビになり、謎の力に目覚めた主人公はある日突然神様に出会う。
「そなたといたら、何か面白いことがあるのか?」
自分への問いかけと思わず適当に答えたが、それよって依代に選ばれ、見たことも聞いたこともない陰陽師…現代の陰陽寮、秘匿された存在の【裏公務員】として仕事をする事になった。
「恋してちゅーすると言ったのは嘘か」
「勘弁してくれ」
そんな二人のバディが織りなす和風ファンタジー、陰陽師の世直し事件簿が始まる。
優しさと悲しさと、切なさと暖かさ…そして心の中に大切な何かが生まれる物語。
※BLに見える表現がありますがBLではありません。
※現在一話から改稿中。毎日近況ノートにご報告しておりますので是非また一話からご覧ください♪
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ときはの代 陰陽師守護紀
naccchi
ファンタジー
記憶をなくした少女が出会ったのは、両親を妖に殺され復讐を誓った陰陽師の少年だった。
なぜ記憶がないのか、自分はいったい何者なのか。
自分を知るために、陰陽師たちと行動を共にするうち、人と妖のココロに触れていく。
・・・人と妖のはざまで、少女の物語は途方もない長い時間、紡がれてきたことを知る。
◆◆◆
第零章は人物紹介、イラスト、設定等、本編開始前のプロローグです。
ちょこちょこ編集予定の倉庫のようなものだと思っていただければ。
ざっくり概要ですが、若干のネタバレあり、自前イラストを載せていますので、苦手な方はご注意ください。
本編自体は第一章から開始です。
満月の夜に烏 ~うちひさす京にて、神の妻問いを受くる事
六花
キャラ文芸
第八回キャラ文芸大賞 奨励賞いただきました!
京貴族の茜子(あかねこ)は、幼い頃に罹患した熱病の後遺症で左目が化け物と化し、離れの陋屋に幽閉されていた。一方姉の梓子(あづさこ)は、同じ病にかかり痣が残りながらも森羅万象を操る通力を身につけ、ついには京の鎮護を担う社の若君から求婚される。
己の境遇を嘆くしかない茜子の夢に、ある夜、社の祭神が訪れ、茜子こそが吾が妻、番いとなる者だと告げた。茜子は現実から目を背けるように隻眼の神・千颯(ちはや)との逢瀬を重ねるが、熱心な求愛に、いつしか本気で夢に溺れていく。しかし茜子にも縁談が持ち込まれて……。
「わたしを攫ってよ、この現実(うつつ)から」
完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-
ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。
自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。
安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。
いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して!
この世界は無い物ばかり。
現代知識を使い生産チートを目指します。
※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。
とあるおっさんのVRMMO活動記
椎名ほわほわ
ファンタジー
VRMMORPGが普及した世界。
念のため申し上げますが戦闘も生産もあります。
戦闘は生々しい表現も含みます。
のんびりする時もあるし、えぐい戦闘もあります。
また一話一話が3000文字ぐらいの日記帳ぐらいの分量であり
一人の冒険者の一日の活動記録を覗く、ぐらいの感覚が
お好みではない場合は読まれないほうがよろしいと思われます。
また、このお話の舞台となっているVRMMOはクリアする事や
無双する事が目的ではなく、冒険し生きていくもう1つの人生が
テーマとなっているVRMMOですので、極端に戦闘続きという
事もございません。
また、転生物やデスゲームなどに変化することもございませんので、そのようなお話がお好みの方は読まれないほうが良いと思われます。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

【本編完結済み/後日譚連載中】巻き込まれた事なかれ主義のパシリくんは争いを避けて生きていく ~生産系加護で今度こそ楽しく生きるのさ~
みやま たつむ
ファンタジー
【本編完結しました(812話)/後日譚を書くために連載中にしています。ご承知おきください】
事故死したところを別の世界に連れてかれた陽キャグループと、巻き込まれて事故死した事なかれ主義の静人。
神様から強力な加護をもらって魔物をちぎっては投げ~、ちぎっては投げ~―――なんて事をせずに、勢いで作ってしまったホムンクルスにお店を開かせて面倒な事を押し付けて自由に生きる事にした。
作った魔道具はどんな使われ方をしているのか知らないまま「のんびり気ままに好きなように生きるんだ」と魔物なんてほっといて好き勝手生きていきたい静人の物語。
「まあ、そんな平穏な生活は転移した時点で無理じゃけどな」と最高神は思うのだが―――。
※「小説家になろう」と「カクヨム」で同時掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる