江戸のポンコツ陰陽師、時空を越えて安倍晴明に会いに行くも・・・・・・予想外だらけで困ります

渋川宙

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第20話 遊ばれているなあ

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「さて、納得したところで役割を割り振ろう。一番面倒な相手の姫君は俺が担当するよ。依頼を引き受けたのは俺だからね」
 保憲は自分が心変わり先の姫を担当すると断言。
「そうなると、自動的に俺が中将ですね。こいつに振れる仕事といえば、先ほど訪ねた姫君だけですし」
 そして晴明が面倒だなと遠い目をする。
「ええっと、俺に出来ることってあるんですか」
 それよりもしっかり巻き込まれている自分はどうすればいいのか。泰久はおろおろと保憲と晴明の顔を見比べる。
「大丈夫だよ。段取りはこっちでやるから、君は最後の仕上げだけをやってくれればいい」
 保憲はにっこり笑ってそう言ってくれるが、最後の仕上げというのが何なのか。怖くて仕方がない泰久だ。
「安心しろ。どうせ捕まえてきた大量の蛙を屋敷の中に放つとか、コウモリを放つとか、蛇を放つとかだ」
 晴明が具体的にやることを言ってくれるが、それはそれで嫌だ。
「蛙かコウモリか蛇って。選択肢が嫌すぎる」
「蜘蛛かもしれないよ」
「ひいっ」
 保憲が忘れている可能性があるなと付け足してくるので、泰久は勘弁してくださいと情けない声を上げてしまう。
「面白いな」
「新鮮だよね、反応が」
 そんな泰久を晴明は冷たい目で見つめ、保憲はもう我慢できないと腹を抱えて笑い出す。完全に二人に遊ばれている。
「そういうのが出ると、呪いを行ったからだとビックリするってことですか」
 泰久は情けなくなりつつも、効果に関して訊ねていた。徐々にこの二人に耐性が出来つつある。
「そうそう。簡単に陰陽師に頼んで呪いを行うなんて駄目ですよという戒めだな。ついでに泰久君、君が怖がる姫君を救い出して万事解決というわけだ。ゲテモノの回収は部下がやってくれるから、君はその中で平然と微笑んでいればいい」
「ほっ」
 なんか難しいことを言っていませんか。泰久はがーんと固まってしまう。泰久だって蛙や蛇は苦手だ。そんな中で平然と笑っていられるはずがない。
「やるんだよ。それが一流の陰陽師だ」
 保憲は笑いながらばんばんと背中を叩いてくれる。まだお酒は来ていなくて酔っ払っていないのに、すでに酔っ払いのようだ。
「まあ、確かに、何が起こっても情けない顔をしないというのは必要だな」
 そして晴明も、その益材に似た表情は止めろと睨んでくる。そんなに情けない顔をしているだろうか。
「はあ、まあ、それはそうですねえ」
 泰久も常に威厳がないことは自覚しているので、少しはきりっとしなきゃなと姿勢を正す。しかし、保憲が面白いとまた笑い出して台無しだ。
「暦博士様がイジメてきます」
 思わず泰久がぼそっと呟くと
「保憲様。そんなにからかっちゃ駄目でしょ」
 後ろから突然、綾子の声がした。保憲は笑いを収めると
「ごめんごめん。って、綾子だって楽しんでいたくせに」
 と御簾を捲って綾子にしっかり文句を言った。
「だって、とても可愛らしい方のようなんですもの。後ろでお話を聞いているだけで楽しかったわ」
 それに綾子もごめんねと御簾の向こうで笑っている。ああもう、まさか奥方にまで笑われてしまうなんて。泰久はぶくっと頬を膨らませていた。
「さあさあ、あちらにお食事の用意が出来ましたわ。そちらで続きをなさってください」
 綾子はそう言うと、そそっと先に行ってしまう。先ほどもそうだが、来た時は音がなく、去って行く時だけ衣擦れの音をさせている。只者ではないのだろうなと泰久は呆れてしまった。
「綾子殿は大和のある一族の娘だからな」
 その疑問に、晴明はそれだけ言った。つまり、同じく裏稼業をしている一族の一人ということか。
「はあ。つまりは政略結婚みたいな」
 泰久はどうなんですかと保憲を見るが
「綾子には非常に満足しているよ、色んな面でね。部下も増えたし文句はない」
 とにっこり笑われてしまった。



 別の事件が片付いて口止め料としてたんまり食料が手に入ったということで、用意された食事は豪華なものだった。お酒も安倍邸で飲んだものとは違って、透き通ったお酒だった。益材が飲んでいたのは濁酒どぶろくで、白く濁ったお酒だったのである。
「凄いですね」
「食事だけ見れば大臣に引けを取らないだろうね」
 褒める泰久に、何事もやりようだよねと保憲は酒を飲んで微笑む。しかし、その視線は晴明を見ていた。
 まだ何かと踏ん切りが付かない晴明に、結果はいいものだろうと見せる意味があるのだろう。泰久は焼き魚を食べつつ、大変だなと少し同情してしまう。両親の間に挟まれて一番困ったのは晴明のはずなのに、大人たちによって決められた道を進むしかないわけだ。
 しかし、後の時代で泰久が何も出来ないのに陰陽博士になり、何も出来なくてもいいとまで言われるのは、この時の晴明の踏ん切りと努力があったおかげだ。ここはしっかり応援しなければならないだろう。
「ええっと、中将様とお相手の姫君様についてもう解っているんですか」
 というわけで、泰久から率先して仕事の話を振った。
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