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最終話 新たな王として

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 しかし、最後を治めるのは九尾狐だと健星は考えていたわけか。
「はあ、なんだか複雑」
 ここまで流されて、流されまくってやって来たけど、まさか初仕事とされていた戦までこの調子とは。
「そういう運命なんだろ、お前は。いいじゃねえか、王ってのはそのくらいの方がいい」
「健星的にってことよね」
「もちろん」
 飛んできた妖怪を拳銃を使ってぶん殴りながら、にやっと笑う健星はやっぱり悪者っぽい。でも、それが一番健星らしい。
「魂を分割してまで冥界に生まれ変わるのも、結局はそういう性分ってことなんだろうなあ」
 なんか、深刻に考えて損した。そう思うと心は思いっきり軽くなり
「ユキ、頑張れ~。土蜘蛛さん、右から来てる!」
 と、あっさり応援に回れる心境になった。
「だから、お前が凄いって」
 その切り替えの速さに呆れる健星だが、こいつが王になったら、ここは間違いなく良くなるなと、自然と笑みが零れた。そしてこれこそ、小野篁として生きた時代から求めていたものだと気づく。
「行くぞ!」
「おおっ」
 健星も馬をひょいっと飛び降りてケンカ祭りに参加し始める。それに続くのは左近だ。
「いいなあ。みんな、楽しそうで」
「ま、将門さんも行く?」
 寂しそうな将門に、殴り込んでもいいよと鈴音は訊くが
「いえ。大将を守るお役目を頂きましたから」
 ふんと踏ん反り返ると、飛んできた小鬼をぽいぽいと遠くにぶん投げる。その顔は生き生きとしていて、将門なりに楽しんでいるらしい。が、やっぱり中心で暴れたかった気持ちもあるようだ。
「将門さん、もう少ししたら変化するから、中心まで案内して」
「承りました」
 それならば堂々と行けると、将門はにやり。
 こうして大体一時間経った時――
「ケェェェン!」
 高らかに一鳴きして鈴音は変化した。それに妖怪たちは
「おおおっ!」
 と勝ち鬨を上げ
「負けるなあ!」
 鬼の総大将である酒呑童子が躍り出てくる。
 その酒呑童子は大柄な身体に水干姿と、人間より少し大きいものの、想像していた鬼とは違った。そこらへんを飛び回っている鬼のように角も生えていない。
「させぬ!」
 そこに将門が飛びかかり刀を一閃。さらに鈴音がばくっと酒呑童子の首に齧りついた。
「ぐぅ。半妖と聞いていたから半端者と思っておったのに」
 酒呑童子は首を囓られながらも恨み言を呟いたが
「新しき王の御前ぞ! 皆、武器を仕舞え!!」
 と高らかに告げた。それにより、鬼たちは戦闘を止める。妖怪たちはそれを見て、やんややんやと囃し立て、こうしてケンカ祭りそのものも終わった。
 鈴音はそっと酒呑童子を地面に下ろすと、首に出来た傷をぺろっと舐めた。すると、牙が当たって傷が出来ていた首筋が綺麗に治る。
「ふっ、力はどこまでも本物か。さすがは、九尾と安倍の血統よ」
 酒呑童子はそう呻くように呟くと、九尾狐姿の鈴音の前に膝を折った。
「我ら鬼にも、新しき王とともに生きることは可能でしょうか?」
 そしてそう神妙に訊ねた。鈴音はふっと微笑むと、ぽんっと元の姿に戻る。
「私はここにいるみんなが、妖怪だろうと鬼だろうと、元々が人間で今は神様だろうと、私みたいな半妖だろうと関係ない、住みやすい冥界を作りたいの」
 そして、あの宴会で言った言葉をよりしっかりした形で伝えた。すると酒呑童子は
「素晴らしきお心構えでございます。しっかり、見極めさせていただきますぞ」
 と重々しく告げたのだった。



 それから一か月後。
 鈴音が夏休みに入ったタイミングで、即位式が盛大に執り行われることになった。
「はあ、この衣装、おかしくない?」
「お似合いでございます」
 結局はドレスに定まった即位式の服を身に纏い、鈴音はユキの前でくるくると回ってみせる。すると、ユキは顔を真っ赤にしてパチパチと拍手を送っている。
「ううっ、花嫁にやるみたいだ」
 そこの横で、今日は特別にと紅葉に結界を張ってもらってやって来た父の泰章が、ハンカチで涙を拭いている。
「う、ウエディングドレスとはちょっと違うでしょ!」
 そんな泰章に、こんな真っ赤なドレスの結婚式はありませんときっぱり。しかも裾には綺麗な花の刺繍、頭には王冠と、もうこれ、どこのヨーロッパの王女様という感じで仕立てられているのに。
「ほう、女房装束よりは似合ってるな」
 そこに束帯姿の健星がやって来て、一応褒めてくれた。って、そんなに着物は似合っていなかったのか。複雑だ。
「素直にお褒めなさいよ」
 そこにくすくすと笑いながら紅葉もやって来た。その紅葉もいつもどおりに女房装束だ。
「な、なんで二人は着物のまま」
「いいじゃないの」
「そうだ。異国からやって来た王という感じで解りやすい」
 鈴音は二人も洋服を着てよと訴えたが、あっさり却下されてしまった。
「まあまあ。我らは洋服ですわ」
「そうですわ」
 そこに右近を筆頭とした女官たちが現われ、彼女たちは淡いピンクや水色のドレスを纏っていた。ううむ、まあ、これも演出ってことか。
「さあ、行くぞ。半妖の姫君」
 がっくりしている鈴音に向けて、健星は初めの頃と変わらぬ軽口で言ってくれる。
「行きますよ」
 それに鈴音もつっけんどんに返したが、そこでくすっと笑ってしまう。まったく、王様になっても変わらないって、健星らしくて面白い。
「鈴音様。今日は牛車ではなく馬車でございますよ」
 ユキはこんな男は無視してとばかりに割って入ってきて、そう教えてくれる。
「馬車か。まさかとは思うけど、屋根がないタイプ?」
「当然だ。お披露目だぞ」
 健星は何をバカなことを訊いているんだと鼻で笑ってくれる。本当に、こんなお目出度い日でもいつもどおりだな。
「ですよね~」
 鈴音はこっそりべえっと舌を出し、ああ、こうやって大勢の人に見られることにも慣れなきゃいけないのかと苦笑してしまう。
 本当に、王様って色々と大変だ。
 そう思っていると、外からファンファーレが聞こえてくる。って、どんだけ和洋折衷で行くんだ。
「行くぞ」
「行きましょう」
 健星とユキに促され、鈴音は王としての第一歩を踏み出す。ユキは馬に乗り、馬車を先導する役だ。健星が御者を務め、馬車を挟んで右近たち女官が後ろから付いてくる。
「よき治世を」
 泰章がなんとも公務員らしい声援を送ってくれる。それにしっかりと頷いて、鈴音は馬車へと乗り込んだ。
 鈴音が二頭立ての馬車に乗り込んで大通りに出ると、沢山の妖怪たちが拍手で迎えてくれる。その中にはあの酒呑童子の姿もあった。
「よき治世を、か」
 そんな人たちに手を振り返しながら、鈴音は泰章から贈られた言葉を噛み締める。そうだ、ここが良くなるためには自分が努力しなければならない。
「相応しい王様に、なってやるんだから」
 鈴音が決意するように呟くと、健星が振り返って親指を立てた。それがこれからなすことだ。
 こうして半妖の姫として、妖怪たちの王としての生活が、華やかに幕を開けたのだった。
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みんなの感想(2件)

2021.08.19 ユーザー名の登録がありません

退会済ユーザのコメントです

渋川宙
2021.08.19 渋川宙

ありがとうございます♪

解除
花雨
2021.08.14 花雨

作品登録しときますね(^^)

渋川宙
2021.08.14 渋川宙

ありがとうございます(*´ω`*)

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