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第58話 全国行脚を前に
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「ということで、大国主命様に協力して頂きたいのです。主上、連絡をお願いできますか」
半日後、健星は月読命にそう奏上していた。横でそれを聞く鈴音は、本当に全国行脚する気だと遠い目。今日は女房装束を着ていないのに、ずんと身体が重く感じる。
「いいよ。可愛い鈴音の頼みだ。どんと任せなさい。それにしても鈴音が来てからみんな楽しそうでいいねえ。羨ましいよ。やはり、次の王は鈴音だなあって思う」
で、月読命、鈴音の顔を見ながらにこにこそんなことを言う。一体何なんだ、この人は。
「半妖という部分だけを聞き及んでいる者は反発していますが、それ以外は概ね、鈴音を王と認めております」
健星も上々の出来ですと満足そうだ。おかげで前回と違って言葉遣いが丁寧である。まったく、こいつもこいつで困った奴だ。
「それはよかった。健星のサポートも上手くいっているってことだね。じゃあ、そろそろ恋が芽生えたりした」
「あ?」
しかし、そんな丁寧な言葉遣いも、月読命の余計な一言で吹っ飛ぶ。おい、仮にも王様相手にそれは駄目でしょ。鈴音は呆れていたが
「なんだあ、まだなのか。苦難を共に乗り越えて行くことで恋心も燃え上がるものだぞ。吊り橋効果って言うんだろ」
月読命はそれくらいでは気にしない人だった。いや、千年近くもこんな感じの健星を相手にしているんだから、まあ、当然の慣れというやつか。しかし、なんで吊り橋効果なんて言葉を知っているんだろう。
「馬鹿なことばかり覚えていないで、ちゃんと現世を勉強してくれれば、今回のような面倒なことは起こらなかったのに」
健星、そんな月読命にしっかり苦言を呈す。何なんだ、この王と宰相は。
「いやいや。無理無理。根本が違うもん。俺にスマホは理解出来ないよ」
「いや、知ってんじゃん」
「そりゃあ、気にはなるもん。でもねえ、それと現世の変化を掴むのは別問題でしょ。難しいよ、現世。単純じゃないよ。科学って凄いよ」
月読命、健星の凶悪な睨みにも怯まずマイペースを貫く。さすがは王様だ。鈴音はこの部分だけ見習いたいものだと、本気で思う。
「まあ、いいです。ともかく、全国の雑多な、それも現世に居座るつもりの妖怪たちを把握するまたとないチャンスです。ここで明確なルールを示しておくことで、今後の治世も楽になりますし、時期王の顔を一発で覚えてもらえる機会になります。明日から始めますから、ちゃんと大国主命様に話を通しておいてください。あの方の協力を得られたら、沖縄と北海道以外は楽に移動できます」
健星、そんなことよりもとしっかり釘を刺す。
「えっと、それって神社を利用して移動するってこと?」
しかし、鈴音は根本的なところを確認していなかったとそう質問。
「そうだ。神社というのは異界とアクセスしやすい。よって、この冥界とも接続している場所だ。しかし、普段は神域だからそう簡単には出られない。そこにいる祭神の協力が必要だ。というわけで、すでに協力を表明している陰陽頭を祀る神社がある京都から行くぞ」
「えっ、今から?」
「今からに決まってるだろ。あと三週間で全国の都道府県を回るんだ。サクサク進めないといけない。しかも妖怪調査込みだぞ。ああ、途中に鬼退治も挟まるしな」
「くっ、本当に学校に行けないパターンだ。急性胃腸炎にされちゃう」
鈴音、月読命がくすくすと笑う中、思い切り頭を抱えてしまうのだった。
半日後、健星は月読命にそう奏上していた。横でそれを聞く鈴音は、本当に全国行脚する気だと遠い目。今日は女房装束を着ていないのに、ずんと身体が重く感じる。
「いいよ。可愛い鈴音の頼みだ。どんと任せなさい。それにしても鈴音が来てからみんな楽しそうでいいねえ。羨ましいよ。やはり、次の王は鈴音だなあって思う」
で、月読命、鈴音の顔を見ながらにこにこそんなことを言う。一体何なんだ、この人は。
「半妖という部分だけを聞き及んでいる者は反発していますが、それ以外は概ね、鈴音を王と認めております」
健星も上々の出来ですと満足そうだ。おかげで前回と違って言葉遣いが丁寧である。まったく、こいつもこいつで困った奴だ。
「それはよかった。健星のサポートも上手くいっているってことだね。じゃあ、そろそろ恋が芽生えたりした」
「あ?」
しかし、そんな丁寧な言葉遣いも、月読命の余計な一言で吹っ飛ぶ。おい、仮にも王様相手にそれは駄目でしょ。鈴音は呆れていたが
「なんだあ、まだなのか。苦難を共に乗り越えて行くことで恋心も燃え上がるものだぞ。吊り橋効果って言うんだろ」
月読命はそれくらいでは気にしない人だった。いや、千年近くもこんな感じの健星を相手にしているんだから、まあ、当然の慣れというやつか。しかし、なんで吊り橋効果なんて言葉を知っているんだろう。
「馬鹿なことばかり覚えていないで、ちゃんと現世を勉強してくれれば、今回のような面倒なことは起こらなかったのに」
健星、そんな月読命にしっかり苦言を呈す。何なんだ、この王と宰相は。
「いやいや。無理無理。根本が違うもん。俺にスマホは理解出来ないよ」
「いや、知ってんじゃん」
「そりゃあ、気にはなるもん。でもねえ、それと現世の変化を掴むのは別問題でしょ。難しいよ、現世。単純じゃないよ。科学って凄いよ」
月読命、健星の凶悪な睨みにも怯まずマイペースを貫く。さすがは王様だ。鈴音はこの部分だけ見習いたいものだと、本気で思う。
「まあ、いいです。ともかく、全国の雑多な、それも現世に居座るつもりの妖怪たちを把握するまたとないチャンスです。ここで明確なルールを示しておくことで、今後の治世も楽になりますし、時期王の顔を一発で覚えてもらえる機会になります。明日から始めますから、ちゃんと大国主命様に話を通しておいてください。あの方の協力を得られたら、沖縄と北海道以外は楽に移動できます」
健星、そんなことよりもとしっかり釘を刺す。
「えっと、それって神社を利用して移動するってこと?」
しかし、鈴音は根本的なところを確認していなかったとそう質問。
「そうだ。神社というのは異界とアクセスしやすい。よって、この冥界とも接続している場所だ。しかし、普段は神域だからそう簡単には出られない。そこにいる祭神の協力が必要だ。というわけで、すでに協力を表明している陰陽頭を祀る神社がある京都から行くぞ」
「えっ、今から?」
「今からに決まってるだろ。あと三週間で全国の都道府県を回るんだ。サクサク進めないといけない。しかも妖怪調査込みだぞ。ああ、途中に鬼退治も挟まるしな」
「くっ、本当に学校に行けないパターンだ。急性胃腸炎にされちゃう」
鈴音、月読命がくすくすと笑う中、思い切り頭を抱えてしまうのだった。
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