55 / 72
第55話 妥協点はある
しおりを挟む
陰摩羅鬼が根城にしているのは、学校から五百メートルほど離れた、鈴音もお祭りで来たことがあるお寺だった。
「ここにいるんだ」
「まあ、仏教に関係する妖怪だからな」
正体が解れば居場所はすぐに掴めると、健星は溜め息だ。とはいえ、健星にしても陰摩羅鬼が関わっていたというのは意外過ぎた。あそこで口裂け女と出会えなければ、なかなか解決しなかったのではないか。
「ううん。その陰摩羅鬼はどうして私が王になることに反対なの?」
これから会いに行くのはいいが、なぜ反対されているのか解らなければ対処のしようがない。
「ああ、そうだったな。陰摩羅鬼はさっきも説明したように人の死体から生まれるものだ。つまり現世にいないと次の世代が生まれないと思っているんだろう。それで、政権交代で半分は人間の入っている者が王になることに反対、というところだろうな」
「へえ」
「まあ、ぶっちゃけ妖怪は人間によって作り出されたものだし、人間がいなきゃ成り立たない。人間界にいたいっていうのは当然の話だ。が、江戸時代とは違うんだということを理解していない奴が多くて困る」
最終的にいてもらっては困るというのが健星のスタンスだった。それに鈴音も、気づかないように生活してくれるならまだしも、出て来られるとねえと頬に手を当てる。
「そう、その点が問題なんだ。俺だって無害な奴まで冥界に引っ立てるつもりはない。ただ、ルールを守れということだ。脅かしてもいいが、きゅうりは盗むなというのと一緒だ」
「そうよね。今まで河童が川に住んでいたなんて気づかなかったし」
鈴音もその考えには賛成と大きく頷いた。では、ここにいるらしい陰摩羅鬼はどうなのだろうか。
「墓場にいる分には問題ないだろう。もしくは、死体の気が必要ならば葬儀場だな。とはいえ、出て来ちゃ困る」
「ああ、なるほど」
「出る場合も寺限定とかだよな」
健星も鈴音が現われたことで考える余裕が生まれているのか、妥協策をぽんぽんと出している。それにユキは感心し
「そういうのを、ちゃんと王になられる鈴音様とお伝えすればいいってことですね」
と呟く。
「まあ、そうだな。俺が言うとすぐに反発する奴がいるから毎度バトルになるだけで、現実問題、俺だって妖怪みたいなもんだから、圧政をしたいわけじゃない」
ユキの言葉に、ふんと鼻を鳴らしつつも、本音を漏らす健星だ。なるほど、人材不足で余裕がないから締め付けが強くなっていただけだと。
ここでも、あっさり健星が王になるのを諦めて鈴音を推す理由があったのだ。自分の意見を通しつつもクッション材になる人が欲しかった。
「なるほど。お母さんが策士だっていうのはよく解ったわ」
平和解決には鈴音しかいない。そう思って、隠していた娘の存在を月読命に漏らし、狐や狸たちに大騒ぎさせたに違いない。
「ふん。今更だな」
それに健星は解りきったことを言うなと不機嫌だ。
「ま、まあ。そういう妥協案をお伝えしに行きますか」
鈴音はその態度が駄目なんだってと思いつつ、陰摩羅鬼のいる寺へと足を踏み入れたのだった。
「ここにいるんだ」
「まあ、仏教に関係する妖怪だからな」
正体が解れば居場所はすぐに掴めると、健星は溜め息だ。とはいえ、健星にしても陰摩羅鬼が関わっていたというのは意外過ぎた。あそこで口裂け女と出会えなければ、なかなか解決しなかったのではないか。
「ううん。その陰摩羅鬼はどうして私が王になることに反対なの?」
これから会いに行くのはいいが、なぜ反対されているのか解らなければ対処のしようがない。
「ああ、そうだったな。陰摩羅鬼はさっきも説明したように人の死体から生まれるものだ。つまり現世にいないと次の世代が生まれないと思っているんだろう。それで、政権交代で半分は人間の入っている者が王になることに反対、というところだろうな」
「へえ」
「まあ、ぶっちゃけ妖怪は人間によって作り出されたものだし、人間がいなきゃ成り立たない。人間界にいたいっていうのは当然の話だ。が、江戸時代とは違うんだということを理解していない奴が多くて困る」
最終的にいてもらっては困るというのが健星のスタンスだった。それに鈴音も、気づかないように生活してくれるならまだしも、出て来られるとねえと頬に手を当てる。
「そう、その点が問題なんだ。俺だって無害な奴まで冥界に引っ立てるつもりはない。ただ、ルールを守れということだ。脅かしてもいいが、きゅうりは盗むなというのと一緒だ」
「そうよね。今まで河童が川に住んでいたなんて気づかなかったし」
鈴音もその考えには賛成と大きく頷いた。では、ここにいるらしい陰摩羅鬼はどうなのだろうか。
「墓場にいる分には問題ないだろう。もしくは、死体の気が必要ならば葬儀場だな。とはいえ、出て来ちゃ困る」
「ああ、なるほど」
「出る場合も寺限定とかだよな」
健星も鈴音が現われたことで考える余裕が生まれているのか、妥協策をぽんぽんと出している。それにユキは感心し
「そういうのを、ちゃんと王になられる鈴音様とお伝えすればいいってことですね」
と呟く。
「まあ、そうだな。俺が言うとすぐに反発する奴がいるから毎度バトルになるだけで、現実問題、俺だって妖怪みたいなもんだから、圧政をしたいわけじゃない」
ユキの言葉に、ふんと鼻を鳴らしつつも、本音を漏らす健星だ。なるほど、人材不足で余裕がないから締め付けが強くなっていただけだと。
ここでも、あっさり健星が王になるのを諦めて鈴音を推す理由があったのだ。自分の意見を通しつつもクッション材になる人が欲しかった。
「なるほど。お母さんが策士だっていうのはよく解ったわ」
平和解決には鈴音しかいない。そう思って、隠していた娘の存在を月読命に漏らし、狐や狸たちに大騒ぎさせたに違いない。
「ふん。今更だな」
それに健星は解りきったことを言うなと不機嫌だ。
「ま、まあ。そういう妥協案をお伝えしに行きますか」
鈴音はその態度が駄目なんだってと思いつつ、陰摩羅鬼のいる寺へと足を踏み入れたのだった。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり

【完結】愛も信頼も壊れて消えた
miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」
王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。
無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。
だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。
婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。
私は彼の事が好きだった。
優しい人だと思っていた。
だけど───。
彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。
※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。

淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる