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第51話 河童の三太
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「ズタズタねえ。それならばかまいたちかもな」
「か、かまいたち。って、漫才師の」
「そんなボケはいらん。かまいたちというのは旋風とともに現われ、人の足や腕を切りつける妖怪だ。風が巻き起こるから職員室はぐちゃぐちゃになるだろうし、切り裂くことも出来るからな」
「へえ」
そういう妖怪なんだと鈴音は感心してしまう。っていうか、あの漫才師の名前も妖怪が由来だったのか。
「ともかく河童だ。おい、ユキ」
「はいはい。きゅうりですね」
後ろに控えていたユキが、冥界から持参したきゅうりを差し出す。籐で編んだ籠の中に沢山のきゅうりが入っていた。
「鈴音。取り敢えず一本、川に向かって投げてみろ」
「ええっ。なんで私が」
「王が来たと報せるためだよ」
「ちぇっ」
面倒だなと思いつつも、籠からきゅうりを一本取り出す。そして、えいっとぶん投げた。すると、きゅうりは綺麗な弧を描いて飛んで行き、ぽちゃんと川に入った。
「上手いじゃないか」
「これでも運動神経は悪くないの」
小馬鹿にしたように言う健星に向けて、ふんっと鈴音は言い返す。そうしていると、じゃぽんと川から大きな音がした。
「ん?」
「いるみたいだな。おい、もう一本、あの波紋が出ている辺りに投げろ」
「はいはい」
籠からもう一本きゅうりを取り出し、鈴音はほいっときゅうりを投げた。すると――
「ひゃっほう」
と言いながら、緑色をした何かが川から飛び出してきた。それは小学校低学年くらいの子どもサイズの河童だった。
「本当にいた」
「あっ、やべっ」
驚く鈴音の声に罠だと気づいた河童が、すぐに水に潜ろうとした。しかし、健星が何かを投げるのが早かった。べちょっと河童に投げつけられたそれは、コンビニなどに置かれているカラーボールだ。
「ぎゃあああ。俺の甲羅が蛍光ピンクにぃ!」
河童、当たった背中が毒々しいピンク色になってしまって絶叫。
「黙れ、きゅうり泥棒! 大人しく岸に上がってこないと、次は黄色に染めるぞ!!」
健星、本当に黄色のカラーボールを構えて言う。この人、本当に妖怪に容赦がない。
「健星、何もそんな言い方」
「馬鹿か。隙を見せたら逃げられる。おらっ、さっさとしやがれ!」
健星は鈴音まで睨み付け、河童が岸に上がってくるまでボールを構え続けたのだった。
「はあ。王になるのはあなた様でしたか。狐と人間が混ざり合った気持ち悪い奴がなるんだと聞いて、ふざけな、ボケ、って思ってたのに」
さて、岸に上がってきた河童を連れて冥界に戻り、取り調べをしてみると、三太と名乗った河童は神妙にそんなことを言う。
「き、気持ち悪い奴」
一方、それを聞いた鈴音はショックだ。どういうことだと三太を揺さぶりたい衝動をぐっと堪えつつも、気持ち悪いってとダメージがある。
「純血の妖怪からすりゃあ、半妖は気持ち悪いと思っても仕方ないけどな」
それに対し、健星は酷いことを言ってくれる。ちょっと、肯定しないでよ。
「そうなんですよねえ、旦那。でも、このお姫様は普通に綺麗だし、気持ち悪くないです」
「そりゃあそうだ。あの大妖怪、紅葉の娘だぞ。しかも薄まっているとはいえ、安倍晴明に繋がる血筋だ」
「ははあ。半妖でもいいお家柄というわけですか」
三太、新しくもらったきゅうりを食べながらなるほどと納得している。
「か、かまいたち。って、漫才師の」
「そんなボケはいらん。かまいたちというのは旋風とともに現われ、人の足や腕を切りつける妖怪だ。風が巻き起こるから職員室はぐちゃぐちゃになるだろうし、切り裂くことも出来るからな」
「へえ」
そういう妖怪なんだと鈴音は感心してしまう。っていうか、あの漫才師の名前も妖怪が由来だったのか。
「ともかく河童だ。おい、ユキ」
「はいはい。きゅうりですね」
後ろに控えていたユキが、冥界から持参したきゅうりを差し出す。籐で編んだ籠の中に沢山のきゅうりが入っていた。
「鈴音。取り敢えず一本、川に向かって投げてみろ」
「ええっ。なんで私が」
「王が来たと報せるためだよ」
「ちぇっ」
面倒だなと思いつつも、籠からきゅうりを一本取り出す。そして、えいっとぶん投げた。すると、きゅうりは綺麗な弧を描いて飛んで行き、ぽちゃんと川に入った。
「上手いじゃないか」
「これでも運動神経は悪くないの」
小馬鹿にしたように言う健星に向けて、ふんっと鈴音は言い返す。そうしていると、じゃぽんと川から大きな音がした。
「ん?」
「いるみたいだな。おい、もう一本、あの波紋が出ている辺りに投げろ」
「はいはい」
籠からもう一本きゅうりを取り出し、鈴音はほいっときゅうりを投げた。すると――
「ひゃっほう」
と言いながら、緑色をした何かが川から飛び出してきた。それは小学校低学年くらいの子どもサイズの河童だった。
「本当にいた」
「あっ、やべっ」
驚く鈴音の声に罠だと気づいた河童が、すぐに水に潜ろうとした。しかし、健星が何かを投げるのが早かった。べちょっと河童に投げつけられたそれは、コンビニなどに置かれているカラーボールだ。
「ぎゃあああ。俺の甲羅が蛍光ピンクにぃ!」
河童、当たった背中が毒々しいピンク色になってしまって絶叫。
「黙れ、きゅうり泥棒! 大人しく岸に上がってこないと、次は黄色に染めるぞ!!」
健星、本当に黄色のカラーボールを構えて言う。この人、本当に妖怪に容赦がない。
「健星、何もそんな言い方」
「馬鹿か。隙を見せたら逃げられる。おらっ、さっさとしやがれ!」
健星は鈴音まで睨み付け、河童が岸に上がってくるまでボールを構え続けたのだった。
「はあ。王になるのはあなた様でしたか。狐と人間が混ざり合った気持ち悪い奴がなるんだと聞いて、ふざけな、ボケ、って思ってたのに」
さて、岸に上がってきた河童を連れて冥界に戻り、取り調べをしてみると、三太と名乗った河童は神妙にそんなことを言う。
「き、気持ち悪い奴」
一方、それを聞いた鈴音はショックだ。どういうことだと三太を揺さぶりたい衝動をぐっと堪えつつも、気持ち悪いってとダメージがある。
「純血の妖怪からすりゃあ、半妖は気持ち悪いと思っても仕方ないけどな」
それに対し、健星は酷いことを言ってくれる。ちょっと、肯定しないでよ。
「そうなんですよねえ、旦那。でも、このお姫様は普通に綺麗だし、気持ち悪くないです」
「そりゃあそうだ。あの大妖怪、紅葉の娘だぞ。しかも薄まっているとはいえ、安倍晴明に繋がる血筋だ」
「ははあ。半妖でもいいお家柄というわけですか」
三太、新しくもらったきゅうりを食べながらなるほどと納得している。
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