上 下
51 / 72

第51話 河童の三太

しおりを挟む
「ズタズタねえ。それならばかまいたちかもな」
「か、かまいたち。って、漫才師の」
「そんなボケはいらん。かまいたちというのは旋風とともに現われ、人の足や腕を切りつける妖怪だ。風が巻き起こるから職員室はぐちゃぐちゃになるだろうし、切り裂くことも出来るからな」
「へえ」
 そういう妖怪なんだと鈴音は感心してしまう。っていうか、あの漫才師の名前も妖怪が由来だったのか。
「ともかく河童だ。おい、ユキ」
「はいはい。きゅうりですね」
 後ろに控えていたユキが、冥界から持参したきゅうりを差し出す。とうで編んだ籠の中に沢山のきゅうりが入っていた。
「鈴音。取り敢えず一本、川に向かって投げてみろ」
「ええっ。なんで私が」
「王が来たと報せるためだよ」
「ちぇっ」
 面倒だなと思いつつも、籠からきゅうりを一本取り出す。そして、えいっとぶん投げた。すると、きゅうりは綺麗な弧を描いて飛んで行き、ぽちゃんと川に入った。
「上手いじゃないか」
「これでも運動神経は悪くないの」
 小馬鹿にしたように言う健星に向けて、ふんっと鈴音は言い返す。そうしていると、じゃぽんと川から大きな音がした。
「ん?」
「いるみたいだな。おい、もう一本、あの波紋が出ている辺りに投げろ」
「はいはい」
 籠からもう一本きゅうりを取り出し、鈴音はほいっときゅうりを投げた。すると――
「ひゃっほう」
 と言いながら、緑色をした何かが川から飛び出してきた。それは小学校低学年くらいの子どもサイズの河童だった。
「本当にいた」
「あっ、やべっ」
 驚く鈴音の声に罠だと気づいた河童が、すぐに水に潜ろうとした。しかし、健星が何かを投げるのが早かった。べちょっと河童に投げつけられたそれは、コンビニなどに置かれているカラーボールだ。
「ぎゃあああ。俺の甲羅が蛍光ピンクにぃ!」
 河童、当たった背中が毒々しいピンク色になってしまって絶叫。
「黙れ、きゅうり泥棒! 大人しく岸に上がってこないと、次は黄色に染めるぞ!!」
 健星、本当に黄色のカラーボールを構えて言う。この人、本当に妖怪に容赦がない。
「健星、何もそんな言い方」
「馬鹿か。隙を見せたら逃げられる。おらっ、さっさとしやがれ!」
 健星は鈴音まで睨み付け、河童が岸に上がってくるまでボールを構え続けたのだった。




「はあ。王になるのはあなた様でしたか。狐と人間が混ざり合った気持ち悪い奴がなるんだと聞いて、ふざけな、ボケ、って思ってたのに」
 さて、岸に上がってきた河童を連れて冥界に戻り、取り調べをしてみると、三太さんたと名乗った河童は神妙にそんなことを言う。
「き、気持ち悪い奴」
 一方、それを聞いた鈴音はショックだ。どういうことだと三太を揺さぶりたい衝動をぐっと堪えつつも、気持ち悪いってとダメージがある。
「純血の妖怪からすりゃあ、半妖は気持ち悪いと思っても仕方ないけどな」
 それに対し、健星は酷いことを言ってくれる。ちょっと、肯定しないでよ。
「そうなんですよねえ、旦那。でも、このお姫様は普通に綺麗だし、気持ち悪くないです」
「そりゃあそうだ。あの大妖怪、紅葉の娘だぞ。しかも薄まっているとはいえ、安倍晴明に繋がる血筋だ」
「ははあ。半妖でもいいお家柄というわけですか」
 三太、新しくもらったきゅうりを食べながらなるほどと納得している。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

私は何人とヤれば解放されるんですか?

ヘロディア
恋愛
初恋の人を探して貴族に仕えることを選んだ主人公。しかし、彼女に与えられた仕事とは、貴族たちの夜中の相手だった…

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

処理中です...