上 下
49 / 72

第49話 マカロンでも癒やせない

しおりを挟む
「お前のところもか」
「ということは、健星のところも?」
 夜。冥界の屋敷にて、今日あった職員室荒らしについて報告すると、やれやれと健星は溜め息を吐いた。その様子から、他にも問題が発生しているんだと鈴音はビックリしてしまう。
「ああ。こちらははっきりと妖怪だと解っている。河童だ」
「河童。って、あの川にいる」
「そう」
「きゅうりが好きで、頭のお皿が乾くと死んじゃう」
「それだ」
 鈴音の確認に、どう足掻いても河童なんだよと健星は溜め息だ。職員室荒しの犯人が妖怪らしいというより、はっきりくっきり目撃されているから、こちらの方が始末が悪いと考えてるのは明らかだった。
「河童もいるんだ」
「化け狐がいるのに何を今更」
「まあ、そうだけど」
 鈴音からすると、今まで妖怪とは無縁な生活をしていたわけで、川に当たり前のように河童がいることにビックリだ。
「多くの河童は河川が護岸工事をされたタイミングで冥界に移り住んでいる。しかし、未練がましく現世の川に留まっている奴もいるんだよ。今回目撃されたのも、そういう連中だろう。そいつらはもとより冥界のシステムを嫌がっているから、今回の選挙でさらに締め付けが強くなると思って、必死なんだろうな」
 健星は出されたマカロンを摘まみながらやれやれという。ちなみにこのマカロンは、現世のお菓子に興味津々の月読命からの差し入れ第二弾である。この間のロールケーキとタピオカミルクティーもちゃっかり自分の分も買ってきてもらい、あの清涼殿で幸せそうに食べていたのだとか。
「そんなに冥界って嫌なの。でも、大体の妖怪はここに棲んでいるのよね」
 鈴音もマカロンを食べつつ、よく解らないなあと首を捻った。この冥界はそもそも人以外のモノの住処ではないのか。
「まあ、脅かす系の妖怪からすれば、妖怪や怨霊や神しかいないこの世界は退屈で仕方ないだろうな。化け狐も脅かす系だが、知性が発達しているからな。ここでも上手くやっていっているが、そう適応できる奴ばかりじゃない」
「ああ、そうか。妖怪相手じゃビックリしてくれないもんね。脅かす系って、振り向いたら顔がないっていうアレとか」
「それは狐や狸が正体の場合が多いが、まあ、そうやって脅かしたい奴らだな。今でも頑張っているやつだと、袖引き小僧やべとべとさんかな。とはいえ、奴らがもともと姿が見えないから実害はない」
「姿が見えない?」
 また解らない事を言うなあと鈴音は唇を尖らせる。妖怪と知られているんだから、実体があるんじゃないのか。
「袖引き小僧は袖を引っ張るだけ、べとべとさんはずっと付いてくる足音の怪異だ。見えなくても十分に驚く」
「ああ、まあ、そうか」
 確かに袖を引っ張られたのに誰もいなければ驚くか。足音も同じだ。
「こういう実害のないのは放っておいても大丈夫だし、現代人は勘違いで終わらせてくれる。問題はこの間も言ったように人の命を欲しがる妖怪の方だ。とはいえ、今回のように職員室を荒らしたりSNSに登場してしまうのは困る。事件を起こされるのも問題だが、姿を現して騒ぎになると、今の世の中ネットの力で大騒ぎだからな。妖怪が人間に捕まえられる前に対処しなければならなくなる」
 なぜこうすんなりと物事が進まないんだ。さすがの健星も嫌になる状況だった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

王太子の子を孕まされてました

杏仁豆腐
恋愛
遊び人の王太子に無理やり犯され『私の子を孕んでくれ』と言われ……。しかし王太子には既に婚約者が……侍女だった私がその後執拗な虐めを受けるので、仕返しをしたいと思っています。 ※不定期更新予定です。一話完結型です。苛め、暴力表現、性描写の表現がありますのでR指定しました。宜しくお願い致します。ノリノリの場合は大量更新したいなと思っております。

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜

なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」  静寂をかき消す、衛兵の報告。  瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。  コリウス王国の国王––レオン・コリウス。  彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。 「構わん」……と。  周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。  これは……彼が望んだ結末であるからだ。  しかし彼は知らない。  この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。  王妃セレリナ。  彼女に消えて欲しかったのは……  いったい誰か?    ◇◇◇  序盤はシリアスです。  楽しんでいただけるとうれしいです。    

【R18】散らされて

月島れいわ
恋愛
風邪を引いて寝ていた夜。 いきなり黒い袋を頭に被せられ四肢を拘束された。 抵抗する間もなく躰を開かされた鞠花。 絶望の果てに待っていたのは更なる絶望だった……

あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」  突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。  夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。  私は強くなることを決意する。 「この子は私が育てます!」  お腹にいる子供は王の子。  王の子だけが不思議な力を持つ。  私は育った子供を連れて王宮へ戻る。  ――そして、私を追い出したことを後悔してください。 ※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ ※他サイト様でも掲載しております。 ※hotランキング1位&エールありがとうございます!

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

処理中です...