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第46話 神様の晴明

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「ええっと、どういうこと? 晴明さんは普段は神社にいるってこと?」
 また解らないことが出てきた鈴音は、そのまんまを質問してみた。すると晴明はにこっと笑って、そうなんだよねと教えてくれる。
「俺は神格化された安倍晴明だからさ。普段は神社の祭神として真面目に勤務しているわけ」
「え?」
 またまた解らなくなったぞ。鈴音はきょとんとするしかない。その反応に
「ちゃんと教えてないのか、篁。駄目じゃないか、面倒臭がっては」
 と晴明は健星に注意する。
「面倒にもなりますよ。この娘、つい数日前まで自分が半妖だったことも知らなかったんです。いわば右も左も分からない赤子同然。しかし、選挙は三週間後に迫っている。何とか表層的な部分だけでも理解させなきゃいけない状態なんですよ」
 健星はこっちだって大変なんだと深々と溜め息。
「そうなんだ。篁が王になるなんて言い出したからどうなっているのかと思えば、手数を減らすための方便だったか」
 晴明はそんな健星の反応に苦笑。しかし、完全に置いて行かれている鈴音は何が何だかである。
「ええっと、つまりは」
「ああ、そうだったね。つまり、俺は安倍晴明であるけれども、歴史上の人物である安倍晴明そのものじゃないってこと。神様になった方ってことだね」
「は、はあ」
 そう言われても、ますます混乱するだけだが。しかし、さっきの菅原道真も似たようなことを言っていた。
「つまり、冥界にいる歴史上の人は、その人まんまではないってことか」
 鈴音のまとめに、そうだと晴明も健星も頷いた。ああもう、なんてややこしい。
「じゃあ、本物の晴明さんはこんなイケメンじゃなかったとか」
「いや、本物もイケメンだったよ。ただ、現代の感覚とはちょっと違うから」
 ふふっと、晴明は笑う。そして、この顔は神様だから変化してこうなったんだよと付け加える。
「ほら。神様って人々の思いで出来ているものだからさ。俺はイケメンで不思議な術を使う安倍晴明というイメージから作り出されているわけ」
「へえ」
 なるほど、それでアイドルのような顔立ちなのか。って、ややこしいなあ。
「落ち着いたのならば次に行くぞ。まったく、挨拶回りすらすんなり終わらん」
 腕を組んで悩んでいる鈴音に、健星はさっさと立てと急かす。
「おや、どこに行くんだい?」
「兵部省ですよ。反対勢力に羅刹や酒呑童子がいることが判明しているので、その討伐もお願いしに行くところです」
 健星は手早く説明し、ほらほらと鈴音をせき立てる。まるで晴明を避けているかのよう。どうしてだろう。
「じゃあ、俺も行こう」
 が、晴明の方が上手だった。ぽんと手を叩き、鈴音より先に立ち上がる。
「何を言って」
将門まさかどと久々に喋りたいし」
「・・・・・・」
 晴明の言葉に、健星がフリーズ。マジかよという感じだ。
「それに俺を巻き込んじゃった方が早いよ。全部高速で解決できるって。可愛い鈴音チャンのために、俺が一肌脱ぎましょう」
 しかし、晴明はそんな健星の反応に満足したのか、協力してあげるってとぽんぽんと健星の肩を叩いて笑うのだった。
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