35 / 72
第35話 選挙戦略について
しおりを挟む
「選挙まであと三週間。ここからが勝負だ」
「はあ。もう三週間しかないんだ」
さて、無事に謁見も終えて内裏見学も終わったところで、鈴音たちは紅葉の屋敷に戻ってきていた。そして服を着替えて作戦会議となったわけだが、期間の短さに鈴音は溜め息を吐いてしまう。
「仕方ないだろう。公示は一週間前で、一応は一か月の選挙活動期間が設けられている。が、お前のところにユキが行ったのが四日前だからな。若干短くなっている」
「うっ、そう考えるとみんな素早く動いているのね」
鈴音はユキが淹れてくれた紅茶を飲みつつ、文句は言えないかあと納得するしかない。
「そのとおり。なんせこの政権交代は多くの妖怪にとって待ちに待ったものだからな。とはいえ、自分が王になろうと言わないあたりに、妖怪らしさが滲んでいる。が、俺にはなって欲しくないという反対表明だけは早かった」
ワイシャツにスラックス姿になった健星は、頭をガシガシと掻き毟った。おかげで鈴音が引っ張り出され、健星は鈴音をサポートする羽目になっているというわけだ。
「まあ、健星の場合は言い方よね、まず」
「ふん。日本人は何かとはっきり言わなさすぎだ」
「いや、あなたも日本人でしょうが」
「おかげで昔から日本社会に馴染めん」
「・・・・・・改める気はないんだ」
鈴音の指摘も虚しく、健星は態度を変える気はないらしい。っていうか、昔からって、あんたまだ二十代でしょうが。学生時代に苦労しまくったってことか。鈴音はふと健星の高校生姿を思い浮かべてみる。
イケメンだがいけずな男子高校生。何これ、萌える。しかもクラスに馴染めない一匹狼。でも、成績優秀か。どこの少女漫画のヒーローだ。
「はあ、健星らしい」
「勝手に何かを妄想して勝手に納得してるんじゃねえよ。それより選挙だ。別に現世のように選挙カーを乗り回す必要はないが、あれこれとやることがある」
「あっ、うん」
そうだ。選挙とさらっと言っているが、生徒会会長を決めるのとは訳が違う。あれこれやることがあるのは当然だろう。
「まず、各所への挨拶回りだ」
「うっ、いきなり難問」
「別にどうってことないさ。立候補した安倍ですと名乗りまくるだけだ」
「それが嫌だって」
がくっと項垂れ、政治家って大変なんだなあとそんなことを思う。そうか、選挙カーでやっていることも、立候補した某ですって言いふらしているんだもんね。
「半妖と解りやすい方がいいな。しかし、制服で回るのは良くないなあ」
そして健星、今は普段着の鈴音を見て、どんな格好をさせようかと悩んでいる。いやいや、制服でいいんじゃないの、そこは。
「俺がスーツで回るんだから対比が必要だろう。そこは紅葉様に任せるか。ユキ、伝言を頼めるか」
「もちろんです」
ユキはしっかりと頷いた。つい数日前に戦った相手とは思えない素直さだ。
「ユキまで」
「だって、勝つために必要なことですよ。ああ、選挙は形だけで健星に負けることはありませんが、多くの妖怪に認めてもらって王になることが大事ですので」
呆れる鈴音に対して、ユキは握りこぶしを作って力説する。
「この狐の方がよく解ってんじゃねえか。いいか、いくら九尾狐の血統の娘とはいえ、今まで人間界しか知らなかった余所者だ。ちゃんとここをよくしたいってことを、理解して貰う必要があるんだぞ」
それに乗っかるように健星に説教され、鈴音はぶすっと膨れてしまった。いきなり王になれって言われた理不尽さを怒る暇もなく、なることが決定事項になっているこっちの心情は無視か。腹を括ったとはいえ、ちょっとは気を遣え。
「はあ。もう三週間しかないんだ」
さて、無事に謁見も終えて内裏見学も終わったところで、鈴音たちは紅葉の屋敷に戻ってきていた。そして服を着替えて作戦会議となったわけだが、期間の短さに鈴音は溜め息を吐いてしまう。
「仕方ないだろう。公示は一週間前で、一応は一か月の選挙活動期間が設けられている。が、お前のところにユキが行ったのが四日前だからな。若干短くなっている」
「うっ、そう考えるとみんな素早く動いているのね」
鈴音はユキが淹れてくれた紅茶を飲みつつ、文句は言えないかあと納得するしかない。
「そのとおり。なんせこの政権交代は多くの妖怪にとって待ちに待ったものだからな。とはいえ、自分が王になろうと言わないあたりに、妖怪らしさが滲んでいる。が、俺にはなって欲しくないという反対表明だけは早かった」
ワイシャツにスラックス姿になった健星は、頭をガシガシと掻き毟った。おかげで鈴音が引っ張り出され、健星は鈴音をサポートする羽目になっているというわけだ。
「まあ、健星の場合は言い方よね、まず」
「ふん。日本人は何かとはっきり言わなさすぎだ」
「いや、あなたも日本人でしょうが」
「おかげで昔から日本社会に馴染めん」
「・・・・・・改める気はないんだ」
鈴音の指摘も虚しく、健星は態度を変える気はないらしい。っていうか、昔からって、あんたまだ二十代でしょうが。学生時代に苦労しまくったってことか。鈴音はふと健星の高校生姿を思い浮かべてみる。
イケメンだがいけずな男子高校生。何これ、萌える。しかもクラスに馴染めない一匹狼。でも、成績優秀か。どこの少女漫画のヒーローだ。
「はあ、健星らしい」
「勝手に何かを妄想して勝手に納得してるんじゃねえよ。それより選挙だ。別に現世のように選挙カーを乗り回す必要はないが、あれこれとやることがある」
「あっ、うん」
そうだ。選挙とさらっと言っているが、生徒会会長を決めるのとは訳が違う。あれこれやることがあるのは当然だろう。
「まず、各所への挨拶回りだ」
「うっ、いきなり難問」
「別にどうってことないさ。立候補した安倍ですと名乗りまくるだけだ」
「それが嫌だって」
がくっと項垂れ、政治家って大変なんだなあとそんなことを思う。そうか、選挙カーでやっていることも、立候補した某ですって言いふらしているんだもんね。
「半妖と解りやすい方がいいな。しかし、制服で回るのは良くないなあ」
そして健星、今は普段着の鈴音を見て、どんな格好をさせようかと悩んでいる。いやいや、制服でいいんじゃないの、そこは。
「俺がスーツで回るんだから対比が必要だろう。そこは紅葉様に任せるか。ユキ、伝言を頼めるか」
「もちろんです」
ユキはしっかりと頷いた。つい数日前に戦った相手とは思えない素直さだ。
「ユキまで」
「だって、勝つために必要なことですよ。ああ、選挙は形だけで健星に負けることはありませんが、多くの妖怪に認めてもらって王になることが大事ですので」
呆れる鈴音に対して、ユキは握りこぶしを作って力説する。
「この狐の方がよく解ってんじゃねえか。いいか、いくら九尾狐の血統の娘とはいえ、今まで人間界しか知らなかった余所者だ。ちゃんとここをよくしたいってことを、理解して貰う必要があるんだぞ」
それに乗っかるように健星に説教され、鈴音はぶすっと膨れてしまった。いきなり王になれって言われた理不尽さを怒る暇もなく、なることが決定事項になっているこっちの心情は無視か。腹を括ったとはいえ、ちょっとは気を遣え。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

セレナの居場所 ~下賜された側妃~
緑谷めい
恋愛
後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

ここは貴方の国ではありませんよ
水姫
ファンタジー
傲慢な王子は自分の置かれている状況も理解出来ませんでした。
厄介ごとが多いですね。
裏を司る一族は見極めてから調整に働くようです。…まぁ、手遅れでしたけど。
※過去に投稿したモノを手直し後再度投稿しています。
モース10
藤谷 郁
恋愛
慧一はモテるが、特定の女と長く続かない。
ある日、同じ会社に勤める地味な事務員三原峰子が、彼をネタに同人誌を作る『腐女子』だと知る。
慧一は興味津々で接近するが……
※表紙画像/【イラストAC】NORIMA様
※他サイトに投稿済み
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる