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第35話 選挙戦略について
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「選挙まであと三週間。ここからが勝負だ」
「はあ。もう三週間しかないんだ」
さて、無事に謁見も終えて内裏見学も終わったところで、鈴音たちは紅葉の屋敷に戻ってきていた。そして服を着替えて作戦会議となったわけだが、期間の短さに鈴音は溜め息を吐いてしまう。
「仕方ないだろう。公示は一週間前で、一応は一か月の選挙活動期間が設けられている。が、お前のところにユキが行ったのが四日前だからな。若干短くなっている」
「うっ、そう考えるとみんな素早く動いているのね」
鈴音はユキが淹れてくれた紅茶を飲みつつ、文句は言えないかあと納得するしかない。
「そのとおり。なんせこの政権交代は多くの妖怪にとって待ちに待ったものだからな。とはいえ、自分が王になろうと言わないあたりに、妖怪らしさが滲んでいる。が、俺にはなって欲しくないという反対表明だけは早かった」
ワイシャツにスラックス姿になった健星は、頭をガシガシと掻き毟った。おかげで鈴音が引っ張り出され、健星は鈴音をサポートする羽目になっているというわけだ。
「まあ、健星の場合は言い方よね、まず」
「ふん。日本人は何かとはっきり言わなさすぎだ」
「いや、あなたも日本人でしょうが」
「おかげで昔から日本社会に馴染めん」
「・・・・・・改める気はないんだ」
鈴音の指摘も虚しく、健星は態度を変える気はないらしい。っていうか、昔からって、あんたまだ二十代でしょうが。学生時代に苦労しまくったってことか。鈴音はふと健星の高校生姿を思い浮かべてみる。
イケメンだがいけずな男子高校生。何これ、萌える。しかもクラスに馴染めない一匹狼。でも、成績優秀か。どこの少女漫画のヒーローだ。
「はあ、健星らしい」
「勝手に何かを妄想して勝手に納得してるんじゃねえよ。それより選挙だ。別に現世のように選挙カーを乗り回す必要はないが、あれこれとやることがある」
「あっ、うん」
そうだ。選挙とさらっと言っているが、生徒会会長を決めるのとは訳が違う。あれこれやることがあるのは当然だろう。
「まず、各所への挨拶回りだ」
「うっ、いきなり難問」
「別にどうってことないさ。立候補した安倍ですと名乗りまくるだけだ」
「それが嫌だって」
がくっと項垂れ、政治家って大変なんだなあとそんなことを思う。そうか、選挙カーでやっていることも、立候補した某ですって言いふらしているんだもんね。
「半妖と解りやすい方がいいな。しかし、制服で回るのは良くないなあ」
そして健星、今は普段着の鈴音を見て、どんな格好をさせようかと悩んでいる。いやいや、制服でいいんじゃないの、そこは。
「俺がスーツで回るんだから対比が必要だろう。そこは紅葉様に任せるか。ユキ、伝言を頼めるか」
「もちろんです」
ユキはしっかりと頷いた。つい数日前に戦った相手とは思えない素直さだ。
「ユキまで」
「だって、勝つために必要なことですよ。ああ、選挙は形だけで健星に負けることはありませんが、多くの妖怪に認めてもらって王になることが大事ですので」
呆れる鈴音に対して、ユキは握りこぶしを作って力説する。
「この狐の方がよく解ってんじゃねえか。いいか、いくら九尾狐の血統の娘とはいえ、今まで人間界しか知らなかった余所者だ。ちゃんとここをよくしたいってことを、理解して貰う必要があるんだぞ」
それに乗っかるように健星に説教され、鈴音はぶすっと膨れてしまった。いきなり王になれって言われた理不尽さを怒る暇もなく、なることが決定事項になっているこっちの心情は無視か。腹を括ったとはいえ、ちょっとは気を遣え。
「はあ。もう三週間しかないんだ」
さて、無事に謁見も終えて内裏見学も終わったところで、鈴音たちは紅葉の屋敷に戻ってきていた。そして服を着替えて作戦会議となったわけだが、期間の短さに鈴音は溜め息を吐いてしまう。
「仕方ないだろう。公示は一週間前で、一応は一か月の選挙活動期間が設けられている。が、お前のところにユキが行ったのが四日前だからな。若干短くなっている」
「うっ、そう考えるとみんな素早く動いているのね」
鈴音はユキが淹れてくれた紅茶を飲みつつ、文句は言えないかあと納得するしかない。
「そのとおり。なんせこの政権交代は多くの妖怪にとって待ちに待ったものだからな。とはいえ、自分が王になろうと言わないあたりに、妖怪らしさが滲んでいる。が、俺にはなって欲しくないという反対表明だけは早かった」
ワイシャツにスラックス姿になった健星は、頭をガシガシと掻き毟った。おかげで鈴音が引っ張り出され、健星は鈴音をサポートする羽目になっているというわけだ。
「まあ、健星の場合は言い方よね、まず」
「ふん。日本人は何かとはっきり言わなさすぎだ」
「いや、あなたも日本人でしょうが」
「おかげで昔から日本社会に馴染めん」
「・・・・・・改める気はないんだ」
鈴音の指摘も虚しく、健星は態度を変える気はないらしい。っていうか、昔からって、あんたまだ二十代でしょうが。学生時代に苦労しまくったってことか。鈴音はふと健星の高校生姿を思い浮かべてみる。
イケメンだがいけずな男子高校生。何これ、萌える。しかもクラスに馴染めない一匹狼。でも、成績優秀か。どこの少女漫画のヒーローだ。
「はあ、健星らしい」
「勝手に何かを妄想して勝手に納得してるんじゃねえよ。それより選挙だ。別に現世のように選挙カーを乗り回す必要はないが、あれこれとやることがある」
「あっ、うん」
そうだ。選挙とさらっと言っているが、生徒会会長を決めるのとは訳が違う。あれこれやることがあるのは当然だろう。
「まず、各所への挨拶回りだ」
「うっ、いきなり難問」
「別にどうってことないさ。立候補した安倍ですと名乗りまくるだけだ」
「それが嫌だって」
がくっと項垂れ、政治家って大変なんだなあとそんなことを思う。そうか、選挙カーでやっていることも、立候補した某ですって言いふらしているんだもんね。
「半妖と解りやすい方がいいな。しかし、制服で回るのは良くないなあ」
そして健星、今は普段着の鈴音を見て、どんな格好をさせようかと悩んでいる。いやいや、制服でいいんじゃないの、そこは。
「俺がスーツで回るんだから対比が必要だろう。そこは紅葉様に任せるか。ユキ、伝言を頼めるか」
「もちろんです」
ユキはしっかりと頷いた。つい数日前に戦った相手とは思えない素直さだ。
「ユキまで」
「だって、勝つために必要なことですよ。ああ、選挙は形だけで健星に負けることはありませんが、多くの妖怪に認めてもらって王になることが大事ですので」
呆れる鈴音に対して、ユキは握りこぶしを作って力説する。
「この狐の方がよく解ってんじゃねえか。いいか、いくら九尾狐の血統の娘とはいえ、今まで人間界しか知らなかった余所者だ。ちゃんとここをよくしたいってことを、理解して貰う必要があるんだぞ」
それに乗っかるように健星に説教され、鈴音はぶすっと膨れてしまった。いきなり王になれって言われた理不尽さを怒る暇もなく、なることが決定事項になっているこっちの心情は無視か。腹を括ったとはいえ、ちょっとは気を遣え。
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