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第30話 めっちゃ明るい性格
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「よく来たな、紅葉の大姫よ」
「きゃあああ!」
清涼殿にばちんと小気味のいい音が響いた。それに紅葉はあらあらと苦笑し、健星はやれやれと溜め息を吐き、殿舎の最も外、簀子縁にいたユキは目を大きく見開いていた。
「なっ、なっ」
しかし、音を立てた鈴音はそれどころではない。床に伏せて頬を押える豪奢な衣装を纏う男に、顔を真っ赤にして腹を立てている最中だ。
「くぅ。紅葉とは全く違う反応だなあ。でも、いいよ。何かが目覚めそうだ」
「なっ、はっ」
その男はがばっと顔を上げると、ぐっと親指を立ててくる。左頬が真っ赤になっているがイケメンなその男は、ここでは主上と崇められる月読命だ。目鼻立ちがはっきりしていて、健星とはまた違うタイプのイケメンだが、その性格も正反対に超明るいらしい。殴られたというのにめちゃくちゃ嬉しそうだ。
「主上、お戯れはそのくらいになさいませ」
特にダメージはないらしいと判断した紅葉は、くすくすと笑って月読命の方を注意。
「鈴音。いきなり抱きつかれたからと言って身分が上の者を張った押すとは、どういう了見だ。先ほど粗相はしないと言ったのではなかったか」
それに対して健星がしっかり鈴音に嫌味を言う。
「どれだけ身分が上でも、いきなり抱きついてくる人は変質者です」
が、鈴音は自分の反応は正しいとしっかり主張。未だショックから抜け出せず、肩でぜえぜえと息をしてしまう。
そう、清涼殿の昼御座所に案内された鈴音だったが、いきなりどたどたと走って抱きつかれたのだ。それに対し、相手が誰かを認識する前に、鈴音は持っていた檜扇をフルスイングしていたという次第だ。
「だとしても、檜扇は拙いだろ。主上、頬の骨は大丈夫ですか」
「も、問題ない。って、健星。お前はいきなり骨の心配かよ」
頬を擦りながら、月読命はもっと他にも心配してよと苦笑してしまう。が、いそいそと自分の座すべき椅子に戻った。
「いやいや、すまなかったねえ。早く会いたかったという気持ちが先走ってしまったんだ。しかし、このくらいはっきり自分の言いたいことが主張できる子はいいよ。健星は言い過ぎだけどね。ははっ。王の素質は持っているな」
そして椅子に座ってからからと笑う月読命だ。イケメンで王様で見た感じ三十代のこの人は本当に神様なのか。ちょっと疑いたくなってくる。鈴音は健星の横に座りつつも、この人って大丈夫と指差してしまった。
「主上を指差すな。あれでも王だ。ここを二千年に亘って統治されておられる、立派な方だ」
「健星、棒読みよ」
「ははっ、健星は相変わらずだなあ。しかし、いいコンビのようじゃないか。ほっとしたぞ。すでに騒動が起こっていると聞いた時は、どうなるかとハラハラしたのに、これならば大丈夫だな、紅葉」
目の前で失礼なことを言い続ける二人にも笑って対応する月読命はまさに王だなと、鈴音はようやく納得。
そんな月読命の横に座る紅葉はそのとおりですねと大きく頷いた。
「選挙というと固くていかにも政治という感じがするだろうが、それは大きな流れの交代という節目に必要なことだ。俺はお前たち二人が新しい時代を築いてくれると、今、強く確信したぞ。問題山積で大変だが、頑張ってくれ」
しかも明るいせいでめっちゃ軽い。鈴音は途轍もなく不安になってくるのだった。
「きゃあああ!」
清涼殿にばちんと小気味のいい音が響いた。それに紅葉はあらあらと苦笑し、健星はやれやれと溜め息を吐き、殿舎の最も外、簀子縁にいたユキは目を大きく見開いていた。
「なっ、なっ」
しかし、音を立てた鈴音はそれどころではない。床に伏せて頬を押える豪奢な衣装を纏う男に、顔を真っ赤にして腹を立てている最中だ。
「くぅ。紅葉とは全く違う反応だなあ。でも、いいよ。何かが目覚めそうだ」
「なっ、はっ」
その男はがばっと顔を上げると、ぐっと親指を立ててくる。左頬が真っ赤になっているがイケメンなその男は、ここでは主上と崇められる月読命だ。目鼻立ちがはっきりしていて、健星とはまた違うタイプのイケメンだが、その性格も正反対に超明るいらしい。殴られたというのにめちゃくちゃ嬉しそうだ。
「主上、お戯れはそのくらいになさいませ」
特にダメージはないらしいと判断した紅葉は、くすくすと笑って月読命の方を注意。
「鈴音。いきなり抱きつかれたからと言って身分が上の者を張った押すとは、どういう了見だ。先ほど粗相はしないと言ったのではなかったか」
それに対して健星がしっかり鈴音に嫌味を言う。
「どれだけ身分が上でも、いきなり抱きついてくる人は変質者です」
が、鈴音は自分の反応は正しいとしっかり主張。未だショックから抜け出せず、肩でぜえぜえと息をしてしまう。
そう、清涼殿の昼御座所に案内された鈴音だったが、いきなりどたどたと走って抱きつかれたのだ。それに対し、相手が誰かを認識する前に、鈴音は持っていた檜扇をフルスイングしていたという次第だ。
「だとしても、檜扇は拙いだろ。主上、頬の骨は大丈夫ですか」
「も、問題ない。って、健星。お前はいきなり骨の心配かよ」
頬を擦りながら、月読命はもっと他にも心配してよと苦笑してしまう。が、いそいそと自分の座すべき椅子に戻った。
「いやいや、すまなかったねえ。早く会いたかったという気持ちが先走ってしまったんだ。しかし、このくらいはっきり自分の言いたいことが主張できる子はいいよ。健星は言い過ぎだけどね。ははっ。王の素質は持っているな」
そして椅子に座ってからからと笑う月読命だ。イケメンで王様で見た感じ三十代のこの人は本当に神様なのか。ちょっと疑いたくなってくる。鈴音は健星の横に座りつつも、この人って大丈夫と指差してしまった。
「主上を指差すな。あれでも王だ。ここを二千年に亘って統治されておられる、立派な方だ」
「健星、棒読みよ」
「ははっ、健星は相変わらずだなあ。しかし、いいコンビのようじゃないか。ほっとしたぞ。すでに騒動が起こっていると聞いた時は、どうなるかとハラハラしたのに、これならば大丈夫だな、紅葉」
目の前で失礼なことを言い続ける二人にも笑って対応する月読命はまさに王だなと、鈴音はようやく納得。
そんな月読命の横に座る紅葉はそのとおりですねと大きく頷いた。
「選挙というと固くていかにも政治という感じがするだろうが、それは大きな流れの交代という節目に必要なことだ。俺はお前たち二人が新しい時代を築いてくれると、今、強く確信したぞ。問題山積で大変だが、頑張ってくれ」
しかも明るいせいでめっちゃ軽い。鈴音は途轍もなく不安になってくるのだった。
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