半妖姫は冥界の玉座に招かれる

渋川宙

文字の大きさ
上 下
28 / 72

第28話 九尾狐を正しく解釈すると

しおりを挟む
「ええっと」
 昔からの計画だとすれば、どうして紅葉は悔いた顔をするのか。鈴音は解らずに困惑する。
「なるほど。半妖の姫がいることは秘密だったわけか。しかし、切迫した事態に自分に娘がいると告白するしかなかったというところか。九尾狐は基本的に権力者の傍に仕え、正しいアドバイスを与えるものだからな。国難を前に自分の私情は挟めなかったか」
 しかし、健星は解ったようで、そう解説してくれた。なるほど、王様のすぐ傍にいてピンチだと解っているのに、半妖の存在を隠しきれなかったと。
「ううん。ってか、九尾狐って権力者の傍にいるものなの?」
「そうだ。よく傾国の美女イコール九尾狐になるが、それは権力者が失敗を隠すために九尾狐に罪を擦り付けただけだ。基本的に狐は尾の数が多いほど高位だとされている。とすれば、九つの尻尾を持つ狐が悪であるはずがない。本来は国を導く存在なんだよ」
「へえ」
 なるほどねえと鈴音は納得。さすが頭がいいだけあって説明上手だ。
「だからこそ、お前は玉座に相応しいという話にもなるんだ。半分は人間で半分は九尾狐ならばサポート役に納まる必要はないからな」
「ぐっ。そんな理由だったなんて」
 鈴音は思わず拳を握り締めてしまう。
「鈴音様。朝餉あさげの準備が整いました」
 そこにユキがやって来てご飯だと告げる。隣の部屋に用意してあるとのことだ。
「あっ、そうだ。ユキが御前狐だっていうのは」
「御前はおんまえと書くんだぞ。とすれば、王か神に仕える狐だと解るだろ」
「な、なるほど」
 段々何もかもが仕組まれていたという事実を受け入れ始める鈴音だ。ああもう、全部整ってるってことじゃん。鈴音はますます拳を握り締めてしまう。
「あ、あのぅ」
「そうだ。そろそろ俺も屋敷に戻って着替えないとな。主上も総て承知の上だとすると、これから今後の相談となるだろうしね。じゃ」
「あっ、うん」
 立ち上がって片手を振りながら帰っていく健星に、鈴音も思わず手を振り返す。あいつって何かと忙しないなあ。と、そこでユキを見ると、なぜか口を尖らせている。どうしたのだろう。
「ユキ」
「い、いえ。どうぞ。こちらです」
「ああ、うん」
 初めての女房装束に立ち上がるのも一苦労だ。しかも長袴だから、裾を引きずって歩かなければならないというのも難しい。
「ユキ、手を貸して」
「は、はい」
 必死の鈴音はユキに助けを求める。するとユキは真っ赤な顔をしてその手を取ったのだが、もちろん鈴音は見ていない。
「あらあら。面白いことになりそうね」
 そんな様子を見て、紅葉はくすくすと笑ってしまった。しかし、今は恋路よりも大事なことがある。
「御台所様」
 左近が入ってきた気配に紅葉は笑みを引っ込めて向き合う。
「どうでしたか?」
「はっ。先に私だけ確認にいきましたところ、羅刹は酒呑童子しゅてんどうじと手を組み、猛烈に反対しているようでした。他にも人間を捕食したい連中は、これを機に冥界そのものを壊したいと考えているようです」
「そう。やはり、戦いは避けられないわね」
「はっ。ともかく、小野殿の家臣団とともに、討伐隊を編成いたします」
「お願い」
 指示を終えると、紅葉はそっと溜め息を吐く。
「こっちはまだスタートにも立っていないのに」
 鈴音にとっては僅か三日。しかし、妖怪たちにとって政権交代は長年窺ってきたチャンスなのだ。待ってくれない。
「大変だわ」
 紅葉はそう言いつつも、笑ってしまうのを抑えられなかった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

(完結)貴方から解放してくださいー私はもう疲れました(全4話)

青空一夏
恋愛
私はローワン伯爵家の一人娘クララ。私には大好きな男性がいるの。それはイーサン・ドミニク。侯爵家の子息である彼と私は相思相愛だと信じていた。 だって、私のお誕生日には私の瞳色のジャボ(今のネクタイのようなもの)をして参加してくれて、別れ際にキスまでしてくれたから。 けれど、翌日「僕の手紙を君の親友ダーシィに渡してくれないか?」と、唐突に言われた。意味がわからない。愛されていると信じていたからだ。 「なぜですか?」 「うん、実のところ私が本当に愛しているのはダーシィなんだ」 イーサン様は私の心をかき乱す。なぜ、私はこれほどにふりまわすの? これは大好きな男性に心をかき乱された女性が悩んで・・・・・・結果、幸せになったお話しです。(元さやではない) 因果応報的ざまぁ。主人公がなにかを仕掛けるわけではありません。中世ヨーロッパ風世界で、現代的表現や機器がでてくるかもしれない異世界のお話しです。ご都合主義です。タグ修正、追加の可能性あり。

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

処理中です...