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第24話 母の愛
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「あのね、鈴音。半人間半妖怪の姿は何も恐ろしいものじゃないのよ。それにユキを見たから解るでしょうけど、能力の高い妖怪にしか無理なの」
紅葉は溜め息を吐く鈴音に諭すように言う。
「能力が高い。じゃあ、私は」
昔、その顔になっていたということはと、鈴音はぎゅっと布団を握り締める。
「ええ、もの凄く大きな力を持っているの。小さい子どもは人間であっても高い霊力を持つことがあるから、私はあなたが子どもの頃、高くても仕方がないわと思っていたわ。でも、違った」
「違った?」
「そう。あなたは半妖と言うには大きすぎる力を身につけて生まれていたのよ。そして、私が傍にいると妖力をどんどん吸収してしまうことが解ったの」
「そんな」
ビックリしすぎて、鈴音は紅葉の顔をじっと見る。つまり、別れた理由は鈴音の力が大きくなりすぎることを懸念してということか。紅葉は困惑したように眉を下げている。
「安倍の血が、かなり薄まっているとはいえ陰陽師を輩出した安倍の血が、そういう作用をもたらしたんだと思うわ。安倍晴明に狐にまつわる話が出来たのも、彼自身がそういう妖怪から力を貰いやすかったんじゃないかと私は思っているわ」
「はあ」
「それに過去、安倍氏は九尾狐を倒したこともある。縁が深いのよ」
「へえ」
その辺りのことは解んないけどと、鈴音の返事が曖昧になってしまう。だって、安倍晴明にしても九尾狐にしても、今までそれは物語の中の存在でしかなかった。
「だから、私はあなたに封印を施し、泰章さんにあなたを託して冥界に戻って来たの。傍にいては、あなたの成長に影響が出てしまうと判断してのことよ」
紅葉はそう続け、そっと鈴音の頭を撫でてくる。その手のぬくもりは、小さい頃の記憶と同じだ。では、あの思い出した自分の顔も正しい記憶ということか。
「私は小さい頃、半分狐の顔のまま生活してたの?」
だから、鈴音はそう問い掛ける。紅葉は困ったような顔をしたが、やがて頷いた。
「ええ。私が何度か戻してあげたんだけど、家の中で油断しているとそうなっちゃっていたわね。そして物心が付いたあなたは自分の顔を見て泣き出したのよ」
「・・・・・・」
ああ、それで悲鳴を上げたのか。今まで自分の顔だと思っていなかったのに、半分獣の顔が自分だと解ってしまったから。
「鏡は置かないようにしていたんだけど、たまたま水を張ったバケツを覗き込んで」
紅葉は泣きじゃくる我が子を見て、限界が来たのだと悟ったという。このままではこの子は人間にも妖怪にもなりきれず、半妖という自分の境遇を嘆くようになってしまうだろう。
「何不自由なく人間として生きて欲しいと、私はそう思ったの。だからあなたに封印を施した。でも、大きすぎる力だから、いつか封印が耐えきれなくなるのは解っていたわ。それでも、あなたが半妖という境遇を受け止めれるほど成長した頃だと思っていた。真っ直ぐに育ってくれて、お母さん、本当に安心していたの。今回の冥界の玉座騒動が起こらなければ、あなたは二十歳までは知らないままだったでしょうね。ごめんなさい」
「う、ううん」
紅葉は自分のことを考えて最大限に努力してくれた。小さな我が子を泰章に託して自分は関わらないようにする。そんな、母としては最も辛い決断をしてくれた。それだけで、愛情の大きさを感じられる。
紅葉は溜め息を吐く鈴音に諭すように言う。
「能力が高い。じゃあ、私は」
昔、その顔になっていたということはと、鈴音はぎゅっと布団を握り締める。
「ええ、もの凄く大きな力を持っているの。小さい子どもは人間であっても高い霊力を持つことがあるから、私はあなたが子どもの頃、高くても仕方がないわと思っていたわ。でも、違った」
「違った?」
「そう。あなたは半妖と言うには大きすぎる力を身につけて生まれていたのよ。そして、私が傍にいると妖力をどんどん吸収してしまうことが解ったの」
「そんな」
ビックリしすぎて、鈴音は紅葉の顔をじっと見る。つまり、別れた理由は鈴音の力が大きくなりすぎることを懸念してということか。紅葉は困惑したように眉を下げている。
「安倍の血が、かなり薄まっているとはいえ陰陽師を輩出した安倍の血が、そういう作用をもたらしたんだと思うわ。安倍晴明に狐にまつわる話が出来たのも、彼自身がそういう妖怪から力を貰いやすかったんじゃないかと私は思っているわ」
「はあ」
「それに過去、安倍氏は九尾狐を倒したこともある。縁が深いのよ」
「へえ」
その辺りのことは解んないけどと、鈴音の返事が曖昧になってしまう。だって、安倍晴明にしても九尾狐にしても、今までそれは物語の中の存在でしかなかった。
「だから、私はあなたに封印を施し、泰章さんにあなたを託して冥界に戻って来たの。傍にいては、あなたの成長に影響が出てしまうと判断してのことよ」
紅葉はそう続け、そっと鈴音の頭を撫でてくる。その手のぬくもりは、小さい頃の記憶と同じだ。では、あの思い出した自分の顔も正しい記憶ということか。
「私は小さい頃、半分狐の顔のまま生活してたの?」
だから、鈴音はそう問い掛ける。紅葉は困ったような顔をしたが、やがて頷いた。
「ええ。私が何度か戻してあげたんだけど、家の中で油断しているとそうなっちゃっていたわね。そして物心が付いたあなたは自分の顔を見て泣き出したのよ」
「・・・・・・」
ああ、それで悲鳴を上げたのか。今まで自分の顔だと思っていなかったのに、半分獣の顔が自分だと解ってしまったから。
「鏡は置かないようにしていたんだけど、たまたま水を張ったバケツを覗き込んで」
紅葉は泣きじゃくる我が子を見て、限界が来たのだと悟ったという。このままではこの子は人間にも妖怪にもなりきれず、半妖という自分の境遇を嘆くようになってしまうだろう。
「何不自由なく人間として生きて欲しいと、私はそう思ったの。だからあなたに封印を施した。でも、大きすぎる力だから、いつか封印が耐えきれなくなるのは解っていたわ。それでも、あなたが半妖という境遇を受け止めれるほど成長した頃だと思っていた。真っ直ぐに育ってくれて、お母さん、本当に安心していたの。今回の冥界の玉座騒動が起こらなければ、あなたは二十歳までは知らないままだったでしょうね。ごめんなさい」
「う、ううん」
紅葉は自分のことを考えて最大限に努力してくれた。小さな我が子を泰章に託して自分は関わらないようにする。そんな、母としては最も辛い決断をしてくれた。それだけで、愛情の大きさを感じられる。
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