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第15話 えげつない
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「犯人を捕まえる手段は解ったわ。でも、どうしてあなたと姪ってことになるの?」
鈴音はようやくもらった缶ジュース、普段は飲まないコーラのプルトップを開けながら訊く。一口飲むと、ようやく一息吐けた気分だ。すっきりする。
「いいところに気づいたな。まず、前提としてストーカーという解りやすい動機を作りたいからだ」
「動機。しかもストーカー?」
どういうことと、鈴音もユキも首を傾げてしまう。そう言えば最初からそう言っているが、何が都合がいいのだろう。真剣に考える鈴音に、健星はふっと笑うと
「犯人は俺を狙っていたことにしたい」
と手の内を明かし始めた。
「小野さんを?」
「ああ。偽装工作をするにも、今回の事件は殺人と派手だ。そう簡単なことではない。世間的に報道されてしまっているし親族の心情っていうのもある。明確なストーリーが必要なんだよ」
「ストーリー」
健星の口から親族の心情という言葉が出て来たことにびっくりだが、明確なストーリーという言葉が気になる。ストーカー、目的は健星、鈴音は姪。これらのワードが紡ぎ出すストーリーがすり替えられる事件の内容になる。
「あっ」
ぴんと閃いた。鈴音はそういうことかと手を打つ。たしかにそれならば、辻褄が合う。
「解ったか」
「はい。犯人は小野さんに片想いをしていた女性ということにするんですね。殺された女性は小野さんと付き合っていると勘違いされて殺された。たぶん、その被害者の人は私と見た目がどことなく似ていた。だから、姪として出入りしている私を殺そうとして間違った」
「正解だ。さすがは半分とは九尾の血を引くだけある」
初めて褒められて、鈴音の顔が赤くなる。ユキは面白くなさそうな顔をしたが
「さすがは小野篁の子孫。悪知恵が働く」
とだけ言った。
「妖怪が現代で問題を起こしたとき、こうやって何らかの代わりのストーリーが必要になる。軽犯罪ならば別にそこまで必要じゃないが、今回は殺人だ。捜査本部ごと誤魔化さなきゃならない。となれば、被害者が俺ってことにするのが手っ取り早い。この見た目のいい活用方法だ」
健星はそう言ってふんっと笑う。イケメンな顔の活用方法がそれってどうよと思うが、確かに誰もが納得出来る。
イケメン、高身長、高学歴、キャリア組で将来有望。女子ならば一度は考えたことがある結婚するならこんな人という条件を全部満たしているのだ。どこのスパダリだよ。
「というわけで、ここで迎え撃つ理由も解ったな」
「はい。事件を起こして追い詰められ、ついに本人に直談判に来たってことですね」
「あるいは無理心中に持ち込もうとした。まあ、このくらいに整ってれば大丈夫だろう」
「はあ」
確かにこれで世間は納得する。警察も納得するし、被害者の家族も犯人が逮捕されれば、少しは心が軽くなるだろう。しかし、鬼にそんなとんでもないストーリーを当てはめ、さらに別の事件を犯した人に今朝の殺人事件の罪を擦り付ける。そのやり口のえげつなさには呆れるしかない。
「妖怪を相手にするのは苦労の連続だ。王になればその倍以上の負担を背負い込むことになる。それを理解するんだな」
鈴音が呆れているのが伝わってしまったようで、健星からそう釘を刺されてしまうのだった。
鈴音はようやくもらった缶ジュース、普段は飲まないコーラのプルトップを開けながら訊く。一口飲むと、ようやく一息吐けた気分だ。すっきりする。
「いいところに気づいたな。まず、前提としてストーカーという解りやすい動機を作りたいからだ」
「動機。しかもストーカー?」
どういうことと、鈴音もユキも首を傾げてしまう。そう言えば最初からそう言っているが、何が都合がいいのだろう。真剣に考える鈴音に、健星はふっと笑うと
「犯人は俺を狙っていたことにしたい」
と手の内を明かし始めた。
「小野さんを?」
「ああ。偽装工作をするにも、今回の事件は殺人と派手だ。そう簡単なことではない。世間的に報道されてしまっているし親族の心情っていうのもある。明確なストーリーが必要なんだよ」
「ストーリー」
健星の口から親族の心情という言葉が出て来たことにびっくりだが、明確なストーリーという言葉が気になる。ストーカー、目的は健星、鈴音は姪。これらのワードが紡ぎ出すストーリーがすり替えられる事件の内容になる。
「あっ」
ぴんと閃いた。鈴音はそういうことかと手を打つ。たしかにそれならば、辻褄が合う。
「解ったか」
「はい。犯人は小野さんに片想いをしていた女性ということにするんですね。殺された女性は小野さんと付き合っていると勘違いされて殺された。たぶん、その被害者の人は私と見た目がどことなく似ていた。だから、姪として出入りしている私を殺そうとして間違った」
「正解だ。さすがは半分とは九尾の血を引くだけある」
初めて褒められて、鈴音の顔が赤くなる。ユキは面白くなさそうな顔をしたが
「さすがは小野篁の子孫。悪知恵が働く」
とだけ言った。
「妖怪が現代で問題を起こしたとき、こうやって何らかの代わりのストーリーが必要になる。軽犯罪ならば別にそこまで必要じゃないが、今回は殺人だ。捜査本部ごと誤魔化さなきゃならない。となれば、被害者が俺ってことにするのが手っ取り早い。この見た目のいい活用方法だ」
健星はそう言ってふんっと笑う。イケメンな顔の活用方法がそれってどうよと思うが、確かに誰もが納得出来る。
イケメン、高身長、高学歴、キャリア組で将来有望。女子ならば一度は考えたことがある結婚するならこんな人という条件を全部満たしているのだ。どこのスパダリだよ。
「というわけで、ここで迎え撃つ理由も解ったな」
「はい。事件を起こして追い詰められ、ついに本人に直談判に来たってことですね」
「あるいは無理心中に持ち込もうとした。まあ、このくらいに整ってれば大丈夫だろう」
「はあ」
確かにこれで世間は納得する。警察も納得するし、被害者の家族も犯人が逮捕されれば、少しは心が軽くなるだろう。しかし、鬼にそんなとんでもないストーリーを当てはめ、さらに別の事件を犯した人に今朝の殺人事件の罪を擦り付ける。そのやり口のえげつなさには呆れるしかない。
「妖怪を相手にするのは苦労の連続だ。王になればその倍以上の負担を背負い込むことになる。それを理解するんだな」
鈴音が呆れているのが伝わってしまったようで、健星からそう釘を刺されてしまうのだった。
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