半妖姫は冥界の玉座に招かれる

渋川宙

文字の大きさ
上 下
12 / 72

第12話 妖かしが犯人の事件

しおりを挟む
 朝から色々と散々だったが、テストの結果も散々だった。ああもう何なのと、鈴音はユキを肩に乗せてとぼとぼと学校から帰るしかない。
「おいっ」
 しかし、まだまだその不運は終わっていなかったらしい。急に声を掛けられたと思って振り向くと、覆面パトカーに凭れて立つ健星の姿があった。
「げげっ」
「小野」
 鈴音とユキは同時に叫んでしまう。すると健星はむっとしたような顔をしたが
「今朝のことで少し聞きたいことがある。乗れ」
 と、覆面パトカーの助手席のドアを開けてきた。マジでなんなの。
「あの人、イケメンじゃない」
「喋っているの、隣のクラスの安倍さんよね」
「うわっ、年上の彼氏。羨ましい~」
 しかし、帰宅途中だったということは、ここはまだまだ通学路。同じ学校の子たちが噂する声が聞こえてきて、鈴音は恥ずかしさの余りに勢いよく車に飛び乗っていた。
 っていうか、こいつと付き合ってるって勘違いされたのが一番嫌。鈴音は色んな意味で顔が真っ赤になってしまう。
「今も昔も、ああいう話が好きだよな」
 一方、運転席に座って車を発進させた健星も不快そうだ。互いに気まずくなる。しかし、健星はすぐに口を開いた。
「今朝、惨殺された女の死体が発見された。知っているか?」
「えっ、いえ。テストを受けていたので、スマホを見れなかったから」
「そうか。ともかく、殺人事件だ。それも妖怪の絡むな。問題はその妖怪の気配を追っていたらそいつ」
 ぴっと、健星が鈴音の肩に乗るユキを指差す。ユキはきょとんとした顔をした。
「そいつの術の気配がした」
「えっ」
「わ、私は人間を襲ったりしません!」
 驚く鈴音と、猛然と抗議するユキ。が、その反応は予測していたのか、健星は無表情のままだ。
「そんなことは解っている。問題はお前の術の気配がしたという方だ。お前はいつ、現世で術を使った?」
 そしてすぐにそんな質問をしてきた。ユキは目を丸くしたが
「鈴音様をお救いするために術を使いました。昨日の夕方です」
 と素直に教える。
「なるほど。となると、追っ払った妖怪が犯人だな。どんな妖しだった?」
「姿は見ていませんが鬼です。鈴音様が王になられることを阻止しようとやって来たんですよ」
「ふん。まあ、そいつも半分は人間だ。食っちまおうと考えたってことか。で、当てが外れて他を食らったってことだな」
「そんなっ」
 そこまで黙って聞いていた鈴音だが、それって今朝の被害者は鈴音の代わりに殺されたということか。そんなのってあんまりだ。
「それが妖怪だ。特に人間を捕食するタイプは凶暴かつ見境がない。一度狙って現世にやって来た以上、食わずに済ますなんて出来なかったんだろう。何匹いた?」
 憤る鈴音にも淡々としたまま、健星は質問を続ける。
「二匹だと思います」
 あの時、声は二つ聞こえた。ということは二匹だろう。鈴音はぞっとしてしまう。
「ふむ。ますます面倒だな。俺の場合は妖怪どもが手出ししてきても自力で退治できる。だから、人間界で襲ってくることはないんだが、お前はここにいると狙われる。冥界から出て行けと言いたかったんだが、早急に冥界に引っ込んでくれるか」
「なっ」
 さらに健星がそんなことを言うので、鈴音は驚いてしまう。が、ユキはそうですと頷いた。
「冥界ならばおひいさまを慕う者は多く、守ってくれます。現世のように危ない思いはしません」
「だそうだ。さっさと帰れ」
「で、でも」
 殺人事件は自分のせいで起こったのに。そう思っていると、健星から鋭い目を向けられた。
「王になるってことは生半可じゃない。よく解っただろ」
「だけど」
「倒せない奴が王になっても仕方ない。お前は選挙が終わるまで、あの屋敷で大人しくしていろ」
「嫌です!」
 鈴音は思わず反射的に叫んでいた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

飛翔英雄伝《三國志異聞奇譚》〜蒼天に誓う絆〜

銀星 慧
歴史・時代
約1800年前に描かれた、皆さんご存知『三國志』 新たな設定と創作キャラクターたちによって紡ぎ出す、全く新しい『三國志』が今始まります! 《あらすじ》 曹家の次女、麗蘭(れいらん)は、幼い頃から活発で勇敢な性格だった。 同じ年頃の少年、奉先(ほうせん)は、そんな麗蘭の従者であり護衛として育ち、麗蘭の右腕としていつも付き従っていた。 成長した二人は、近くの邑で大蛇が邑人を襲い、若い娘がその生贄として捧げられると言う話を知り、娘を助ける為に一計を謀るが… 『三國志』最大の悪役であり、裏切り者の呂布奉先。彼はなぜ「裏切り者」人生を歩む事になったのか?! その謎が、遂に明かされる…! ※こちらの作品は、「小説家になろう」で公開していた作品内容を、新たに編集して掲載しています。

狐侍こんこんちき

月芝
歴史・時代
母は出戻り幽霊。居候はしゃべる猫。 父は何の因果か輪廻の輪からはずされて、地獄の官吏についている。 そんな九坂家は由緒正しいおんぼろ道場を営んでいるが、 門弟なんぞはひとりもいやしない。 寄りつくのはもっぱら妙ちきりんな連中ばかり。 かような家を継いでしまった藤士郎は、狐面にていつも背を丸めている青瓢箪。 のんびりした性格にて、覇気に乏しく、およそ武士らしくない。 おかげでせっかくの剣の腕も宝の持ち腐れ。 もっぱら魚をさばいたり、薪を割るのに役立っているが、そんな暮らしも案外悪くない。 けれどもある日のこと。 自宅兼道場の前にて倒れている子どもを拾ったことから、奇妙な縁が動きだす。 脇差しの付喪神を助けたことから、世にも奇妙な仇討ち騒動に関わることになった藤士郎。 こんこんちきちき、こんちきちん。 家内安全、無病息災、心願成就にて妖縁奇縁が来来。 巻き起こる騒動の数々。 これを解決するために奔走する狐侍の奇々怪々なお江戸物語。

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

乙女ゲームの悪役令嬢と魔王が居候!?〜偽ヒロインは後でゆっくり制裁を下します〜

七彩 陽
ファンタジー
異世界に行ったり来たり、現代日本人と乙女ゲームの攻略対象を次々に虜にしていくおはなし。 ある日、女子高生美羽(みう)の前に乙女ゲームの悪役令嬢が現れた。そして、遅れて魔王も現れた。 ひょんなことから偽ヒロインに追われている悪役令嬢を匿うため、美羽は悪役令嬢と魔王と同居をすることに! その間、美羽は次々と周囲の人を虜にし、生粋のお嬢様である悪役令嬢は何故か主婦業に目覚めていく! そして、乙女ゲームは続編へ。悪役令嬢は日本にいても安全とはいえない状況に! それならいっそ偽ヒロインにざまぁしようとはりきるのだが……。 対魔王用のアイテムを求めて美羽は友人や幼馴染をつれて異世界へ。古代遺跡やダンジョン、迷宮など様々なところを冒険しながらレベルアップを試みる。 さらには、その天然無自覚たらしキャラで美羽は攻略対象を次々に攻略!?恋の行方はどうなることやら。 美羽は恋に勉強に大忙し。悪役令嬢は現代の日本で果たして上手くやっていけるのか!? ドタバタ現代転移ファンタジー、どうぞ宜しくお願いします。

処理中です...