半妖姫は冥界の玉座に招かれる

渋川宙

文字の大きさ
上 下
7 / 72

第7話 なんかダメージが・・・

しおりを挟む
 スーツ姿に拳銃って、あの人ってヤクザ!?
 そうツッコミを入れたくなる健星の姿だったが、今はそれどころではない。容赦なく発砲される拳銃。でも、ユキはひらりと躱し、さらに拳を繰り出そうとする。しかし、それは健星が蹴りを繰り出してきたことで届かない。
「くっ」
 避けると同時に間合いを取ったユキが着地したのは、なんと天井付近の壁。壁に四つん這いでくっついている。
「うわあ」
「妖怪らしいな」
 あんなところにどうやってと驚く鈴音と違い、健星は馬鹿にしたように言う。しかし、客観的に見れば烏帽子えぼし狩衣かりぎぬ姿の少年が壁にくっついているわけで、確かに妖怪らしい。
「妖怪かあ」
 やっぱり自分とは違う存在よね。鈴音はそう思って頷いてしまう。
「鈴音様、そいつに同意しないでください」
 が、ユキがショックを受けた顔で言うので、ごめんと鈴音は口に手を当てる。仮にも自分のために怒ってくれたのに、酷いことを言った相手に味方しちゃ駄目だ。ちらっと健星を見ると、面白くないという顔をしている。
「興が逸れた。今日のところは退散するとしよう。だが、立候補を取り下げないというのならば、俺は全力でお前らと戦うからな」
 そして拳銃を上着の下に仕舞うと、さっさと出て行ってしまった。勝手に入ってきてケンカを売ったくせに、なんていう一方的な奴。
「あの人が王様って、イメージに合わない。どちらかというと戦国武将みたいね」
 ユキがひらっと自分の横に降りてきたところで、鈴音はしみじみと言ってしまう。すると、ユキは言い得て妙ですねと同意した。
「小野篁自体が平安貴族にあるまじき人間でしたからな。その子孫となれば当然というところでしょうか」
「そうなんだ。って、小野篁ってどんな人?」
 健星の説明のところで当たり前のように言ってくれていたが、鈴音はその小野篁という人物を知らなかった。するとユキは吃驚仰天という顔をする。
「し、知りませんか。あの野狂の男を」
「野狂?」
「ええ。頭脳明晰で素晴らしい人物だったのですが、その振る舞いはあまりに傍若無人。ゆえに狂っているとまで評された男です」
「そ、そんな凄い人なの?」
「ええ、もう。そもそも、生きながらに地獄に仕えた男ですからね。総ての物事に突出しております。とはいえ、遣唐使けんとうしになりたくないと、正面切って言っちゃうバカでもありますが」
「しっかりディスるわね」
「当たり前でしょう。で、そのせいで流罪るざいになったわけですが、その時に読んだ歌が百人一首に残ってるんですよ。変人でしょ」
「ひゃ、百人一首」
 出てきたっけ。鈴音は思い出せないなあと首を捻る。駄目だ、知識が足りない。それだけは痛感した。
「ねえ、あの小野健星に口で勝つためにも、私、もうちょっと勉強するわ」
「王としての教養は必要でございましょうな。ちなみに篁の句は
  わたのはら 八十島やそしまかけて 漕ぎ出でぬと
           人には告げよ 海人あまの釣舟
 というものです」
 ユキがえっへんと得意げに教えてくれた歌は、確かに百人一首のものだった。ってこれ、流罪になった時の歌だったんだ。それが今、正月に誰もが争って取るかるたの中にあるというのも不思議な話だ。
「駄目だ。何も知らない王様なんてあり得ない。ともかく明日の古文のテストは受けさせて。というか、学校となんとか両立させて頂戴」
 鈴音は額を押えると、まずは学校レベルの勉強からだわと自分の知識がどのくらいないかを理解したのだった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

孤児が皇后陛下と呼ばれるまで

香月みまり
ファンタジー
母を亡くして天涯孤独となり、王都へ向かう苓。 目的のために王都へ向かう孤児の青年、周と陸 3人の出会いは世界を巻き込む波乱の序章だった。 「後宮の棘」のスピンオフですが、読んだことのない方でも楽しんでいただけるように書かせていただいております。

悪役令嬢を陥れようとして失敗したヒロインのその後

柚木崎 史乃
ファンタジー
女伯グリゼルダはもう不惑の歳だが、過去に起こしたスキャンダルが原因で異性から敬遠され未だに独身だった。 二十二年前、グリゼルダは恋仲になった王太子と結託して彼の婚約者である公爵令嬢を陥れようとした。 けれど、返り討ちに遭ってしまい、結局恋人である王太子とも破局してしまったのだ。 ある時、グリゼルダは王都で開かれた仮面舞踏会に参加する。そこで、トラヴィスという年下の青年と知り合ったグリゼルダは彼と恋仲になった。そして、どんどん彼に夢中になっていく。 だが、ある日。トラヴィスは、突然グリゼルダの前から姿を消してしまう。グリゼルダはショックのあまり倒れてしまい、気づいた時には病院のベッドの上にいた。 グリゼルダは、心配そうに自分の顔を覗き込む執事にトラヴィスと連絡が取れなくなってしまったことを伝える。すると、執事は首を傾げた。 そして、困惑した様子でグリゼルダに尋ねたのだ。「トラヴィスって、一体誰ですか? そんな方、この世に存在しませんよね?」と──。

冥王さま、異世界に憧れる。~現地の神からいきなり貰った勇者スキルが全く使えない冥王とその妻は破壊神!?~

なまけものなのな
ファンタジー
死者の魂が行き着く所、冥界。 その世界を収める王、冥王がいる。 迎える死者の魂、送る死者の魂と輪廻転生の仕事の中、暇を持て余した冥王が、手にしたのは『ライトノベル』だ。 読み漁り、ついに自らも行きたくなったが……。 それすら口にするのは冥界の王として言語道断。 だが、そんな時一つの問題が飛び込む。 『魂の行方不明。人間界で起きるけいどながらの天変地異』 それを調査すると出てくる言葉【異世界】 そして、更に起きる一人の少女の転移。 それを追求し、魂や人の転移を阻止する為。 冥王は、事の内容を利用し行ってみたかった【異世界】で冒険をするのであった。

処理中です...