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第5話 半妖だった事実
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「冥界って部屋のドアを開けただけで来れるものなの?」
「私が道をお繋ぎしましたから、そのせいでございます」
早く冥界にと急かされて部屋のドアを開けた鈴音だが、その先は我が家の廊下ではなく、時代劇のセットの中のような――といっても江戸時代ではなく平安時代の――ような場所だった。それに驚いてしまう。
今いる場所は言うなれば羅城門の辺りか。目の前には大きな通り、つまり朱雀大路にあたるような道が通っている。そして、奥に見える一際大きな建物とその長大な壁は内裏だろうか。
「ささっ、一歩踏み出してくださいませ」
「はあ。でも、スリッパなんだけど」
大丈夫なのと一歩踏み出し、そして振り返るともう部屋のドアはなかった。何だか狐に騙されている気分になる。実際、案内役は狐だし。
「牛車が待っております。こちらへ」
「はあ」
もう言われるままだ。鈴音はこっちですと手招きするユキに付いていく。すると、少し行った先に本当に牛車が止まっていた。
「鈴音様のご帰還だぞ」
「本当だ。とてもご立派になられて」
そして、牛車に付き従っていた水干姿の男たちが、鈴音の姿を見てさめざめと泣き、さらに手を合せてくる。もう、何が何だか。
「鈴音様。こちらからお乗りください」
「は、はい」
自分は何も知らないけど、みんなは自分のことを知っている。その不思議さに、もうどうにでもなれという気分が湧き起こり、鈴音は用意された牛車に大人しく乗り込んだ。ユキもちょこんっと乗り込む。
「本来は私が同乗するのは御法度でございますが、本日は案内係。不快でしょうが、しばらく我慢をお願いします」
「いや、ここで一人にされても困るし。って、私、本当に半妖なの?」
「はい。しかし、奥方様もお父上様も鈴音様が人間界で暮らすことを望まれておりました。ですので、今までは妖かしであるとは気づかれなかったのでございます」
「へえ」
じゃあ、今回の王位選挙がなければ、鈴音はずっと半妖だと知ることもなかったのか。そう思うと複雑だ。しかし、すでに狙われる立場にあるらしく、ここは素直に半妖だという事実を受け止めるしかない。
「なんで。私は普通に過ごしていただけなのに。明日は古文と数学と英語の試験を受けるはずだったのに」
だが、あまりに急展開で思わずそう愚痴を零してしまう。それにユキは申し訳なさそうだ。
「我々としましても、鈴音様にご負担になるようなことをしたくはなかったのでございます。しかし、妖怪で王に相応しい者はおらず、かといって、今までのように神々が立候補してくれることもなく、あまつさえただの人間が立候補。この事態に黙っていられなかったのでございます」
しゅんとするユキに、複雑なのねと鈴音はその頭をなでなで。するとユキは嬉しそうだ。
「ああ。お優しい。怒鳴られ、ひょっとしたら毛皮にされてしまうかもと恐れていたこと、恥じ入ります」
「おいっ、そんな想像してたんかい」
「すみません。なれど人間とはずる賢い生き物でございますし、妖怪なんて簡単にねじ伏せてしまいますから」
「はあ」
半妖でも人間か。いや、今まで人間だと信じて疑わなかったのだから、ディスられて怒るのは筋違い。もやっとするけど。
「ですから、純血の人間が玉座に就けば、弱小な妖怪たちは居場所を完全に追われてしまうことでしょう。なので、人間として穏やかに過ごされていた鈴音様におすがりするしかないんです」
しかし、人間の部分を恐れるわりに仲間意識は強いらしく、ユキはくりっとした目で鈴音を見上げてくる。可愛い。鈴音は半妖だという事実をしっかりと受け止めるしかなかった。
「私が道をお繋ぎしましたから、そのせいでございます」
早く冥界にと急かされて部屋のドアを開けた鈴音だが、その先は我が家の廊下ではなく、時代劇のセットの中のような――といっても江戸時代ではなく平安時代の――ような場所だった。それに驚いてしまう。
今いる場所は言うなれば羅城門の辺りか。目の前には大きな通り、つまり朱雀大路にあたるような道が通っている。そして、奥に見える一際大きな建物とその長大な壁は内裏だろうか。
「ささっ、一歩踏み出してくださいませ」
「はあ。でも、スリッパなんだけど」
大丈夫なのと一歩踏み出し、そして振り返るともう部屋のドアはなかった。何だか狐に騙されている気分になる。実際、案内役は狐だし。
「牛車が待っております。こちらへ」
「はあ」
もう言われるままだ。鈴音はこっちですと手招きするユキに付いていく。すると、少し行った先に本当に牛車が止まっていた。
「鈴音様のご帰還だぞ」
「本当だ。とてもご立派になられて」
そして、牛車に付き従っていた水干姿の男たちが、鈴音の姿を見てさめざめと泣き、さらに手を合せてくる。もう、何が何だか。
「鈴音様。こちらからお乗りください」
「は、はい」
自分は何も知らないけど、みんなは自分のことを知っている。その不思議さに、もうどうにでもなれという気分が湧き起こり、鈴音は用意された牛車に大人しく乗り込んだ。ユキもちょこんっと乗り込む。
「本来は私が同乗するのは御法度でございますが、本日は案内係。不快でしょうが、しばらく我慢をお願いします」
「いや、ここで一人にされても困るし。って、私、本当に半妖なの?」
「はい。しかし、奥方様もお父上様も鈴音様が人間界で暮らすことを望まれておりました。ですので、今までは妖かしであるとは気づかれなかったのでございます」
「へえ」
じゃあ、今回の王位選挙がなければ、鈴音はずっと半妖だと知ることもなかったのか。そう思うと複雑だ。しかし、すでに狙われる立場にあるらしく、ここは素直に半妖だという事実を受け止めるしかない。
「なんで。私は普通に過ごしていただけなのに。明日は古文と数学と英語の試験を受けるはずだったのに」
だが、あまりに急展開で思わずそう愚痴を零してしまう。それにユキは申し訳なさそうだ。
「我々としましても、鈴音様にご負担になるようなことをしたくはなかったのでございます。しかし、妖怪で王に相応しい者はおらず、かといって、今までのように神々が立候補してくれることもなく、あまつさえただの人間が立候補。この事態に黙っていられなかったのでございます」
しゅんとするユキに、複雑なのねと鈴音はその頭をなでなで。するとユキは嬉しそうだ。
「ああ。お優しい。怒鳴られ、ひょっとしたら毛皮にされてしまうかもと恐れていたこと、恥じ入ります」
「おいっ、そんな想像してたんかい」
「すみません。なれど人間とはずる賢い生き物でございますし、妖怪なんて簡単にねじ伏せてしまいますから」
「はあ」
半妖でも人間か。いや、今まで人間だと信じて疑わなかったのだから、ディスられて怒るのは筋違い。もやっとするけど。
「ですから、純血の人間が玉座に就けば、弱小な妖怪たちは居場所を完全に追われてしまうことでしょう。なので、人間として穏やかに過ごされていた鈴音様におすがりするしかないんです」
しかし、人間の部分を恐れるわりに仲間意識は強いらしく、ユキはくりっとした目で鈴音を見上げてくる。可愛い。鈴音は半妖だという事実をしっかりと受け止めるしかなかった。
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