上 下
2 / 72

第2話 冥界の大騒動

しおりを挟む
 制服のまま寝たせいか、身体を起こした時には身体がバキバキだった。
「肩が痛いなあ。テストは明日もあるのに」
 鈴音がそうぼやいて起き上がると
「肩をお揉みしましょうか」
 ユキがひょっこりと顔を覗かせた。
「ぎゃあああ。幻覚があっ!?」
「幻覚ではございません。先ほどは違うとお認めくださったではありませんか」
 ユキは器用に前足で目頭を押え、泣き真似をしてくる。そんな狐、現実の物と認めたくないんですけど。
「ったく、何なの? 私は忙しいの。明日もテストがあるの」
 鈴音は追い払おうとユキを捕まえた。すると、もふもふの心地よい手触りがする。ついでに温い。
「い、生きてる」
「当然でございましょう。あやかしとはいえこの世に存在するもの。血が通っております」
 ユキは撫でられて心地よさそうに目を細めた。その姿だけならば普通の動物なのになあと鈴音は思い、ようやく気分が落ち着いた。
「仕方ないわね。喋る狐がいることを現実として受け入れてあげる」
「ありがとうございます」
「で、何か用?」
 いきなり姫とか呼ばれても困るんですけどと、鈴音はユキをベッドに下ろして訊く。するとユキはやっと訊いてくださいましたなとほっとしたようだ。
「はい。実はこの度、現世と妖怪の調停を務める冥界めいかいの王が引退なさることになりまして」
「ごめん。何一つ理解出来ないんだけど」
 ユキの説明を一度ストップさせ、鈴音ははっきりとそう言った。するとユキは目を大きく見開く。
「め、冥府をご存じない?」
「えっと、あの世のことよね。でも、妖怪が絡んでくる意味が解んない」
「ははあ。大きな括りでしかご存じないのですな。解りました」
「本当に解ってる?」
 鈴音はすでに不安しか感じていなかった。一体どうしてこの狐が自分のところに現われたのか。理解出来るだろうか。
「ええっと、あの世というのは大きく三つに分かれております。一つは天界、天国ですね。もう一つが地獄、これを冥界と指す場合がありますが、今回は別物とご理解ください。問題となっている冥界、これは人以外のモノたちの居場所でございます」
「へえ」
 意外にもユキは説明上手だった。つまり、知っている冥界とはちょっとニュアンスが違うということか。そして今、人以外のモノ、つまり妖怪が関係する冥界の王様が引退しようとしていると。
「はい。今の王様は月読命つきよみのみこと様と仰られて、二代目の王様でございます。かれこれ二千年治めておられましたが、この度、飽きたと仰られ、引退と相成りました」
「待って。二千年も治めておいて、今更飽きたの?」
「はい。困ったものですが、飽きてしまわれたそうです。まあ、昨今、トラブルが増えたことが本来の要因だと思います。そろそろ治世を変えるタイミングだと考えたのだと、傍に仕える重臣たちは思っておりますな」
「好意的に解釈してあげたのね」
 飽きたと言ったんでしょうにと、鈴音は呆れてしまう。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

王太子の子を孕まされてました

杏仁豆腐
恋愛
遊び人の王太子に無理やり犯され『私の子を孕んでくれ』と言われ……。しかし王太子には既に婚約者が……侍女だった私がその後執拗な虐めを受けるので、仕返しをしたいと思っています。 ※不定期更新予定です。一話完結型です。苛め、暴力表現、性描写の表現がありますのでR指定しました。宜しくお願い致します。ノリノリの場合は大量更新したいなと思っております。

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜

なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」  静寂をかき消す、衛兵の報告。  瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。  コリウス王国の国王––レオン・コリウス。  彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。 「構わん」……と。  周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。  これは……彼が望んだ結末であるからだ。  しかし彼は知らない。  この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。  王妃セレリナ。  彼女に消えて欲しかったのは……  いったい誰か?    ◇◇◇  序盤はシリアスです。  楽しんでいただけるとうれしいです。    

【R18】散らされて

月島れいわ
恋愛
風邪を引いて寝ていた夜。 いきなり黒い袋を頭に被せられ四肢を拘束された。 抵抗する間もなく躰を開かされた鞠花。 絶望の果てに待っていたのは更なる絶望だった……

あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」  突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。  夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。  私は強くなることを決意する。 「この子は私が育てます!」  お腹にいる子供は王の子。  王の子だけが不思議な力を持つ。  私は育った子供を連れて王宮へ戻る。  ――そして、私を追い出したことを後悔してください。 ※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ ※他サイト様でも掲載しております。 ※hotランキング1位&エールありがとうございます!

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

処理中です...