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第18話 結界
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「図書館を調べてみます。ずっとあそこにいたんです。なんの痕跡も無いなんてこと、あるはずがありません」
「解った。僕は何か伝承が残っていないか、探してみよう」
こうなったら、ヒントは大学の中にあると信じるしかない。二人は車を降りると、それぞれ手がかりを求めて走り出していた。
図書館に戻ってみても、静嵐の姿はやはりどこにもなかった。
「それに」
愛佳はすぐに違和感に気づいた。
ずっといた静嵐がいない。その変化に誰も気付いていないのだ。
よく利用している自分より長くいるはずの、図書館の職員や手伝っている学生たちが、いなくなったことを気にとめる様子が無い。それに、今やっと気付いた。
「あそこによく座っていた人を知りませんか?」
そう訊ねてみると、そんな人いましたかと平然と返される。まるで愛佳の方が幻覚を見ていたかのような、そんな扱いなのだ。
でも、いた気配は残っているのだ。今もなお、静嵐がずっと使っていた席は空席で、他の机よりも明らかにがらんとしている。まるでそこに結界でもあるかのように、誰もそこに近づこうとしないのだ。
「まさか」
見えないけどいるのか。愛佳は恐る恐る、窓際の席に近づく。そして、手を伸ばした。
でも、そこは何もない空間で、いつもいる人が不在であることを、虚しく伝えてくるだけだった。空中を彷徨った手を握り締め、愛佳は一瞬、涙が出そうになった。
「どこに行ったのよ」
あのまま消えるなんてずるい。
愛佳はいつも静嵐が座っていた席に、初めて腰掛けてみる。そこは窓から入ってくる西日が暑いことに気付いた。静嵐は、冷房が苦手だったのだろうか。ここは何だか暖かい。日向ぼっこをしている気持ちになる。
そのまま自然と視線を窓の外に向ける。外はちょっとした庭になっていて、草花が植えられている。外を眺めていても十分に楽しめる作りなのだ。その先は塀で、さらに敷地の外は地下鉄今出川駅の入り口がある。
「ううん」
そんなことを思いながら外を眺めていて、ふと、あるものが目に止まった。それは庭にあるものとしては、少し不自然に見えたのだ。
「ただの大きな石、かな」
じっと目を凝らして見ると、庭の片隅に、雑草に埋もれるように石がある事に気付く。
それほど大きいわけでもないが、自然に転がっているようなサイズではない。高さは2リットルのペットボトルくらいで、上部は丸みを帯びている。明らかに、人の手で加工してあるようだ。横幅は雑草が邪魔で見えないが、かなりの大きさがありそうだ。誰かがあそこにわざと置いたのは間違いない。しかし、全体的に洋風な庭にそぐわないものだ。
「何かしら」
静嵐が座るこの席からしっかり見える位置にあるのだ。何の関係もないとは思えない。本を読みながら、静嵐が横目であれを見ることは可能だろう。やはり、関係あるに違いない。
「よし」
気になったら即行動あるのみ。あれ以外にヒントになりそうなものはないのだ。調べるしかない。
愛佳は立ち上がると、図書館の外へと出た。すでに六月が近くなり、外はむっと湿度を帯びた空気が支配している。先ほど丁度いいと感じた日差しが嘘のように辛い。そんな暑さに辟易としながらも、庭の方へと歩いて行った。
「あっ」
しかし、難なくそこに入れなかった。どうやら中から抜けられるらしいが、外からは回れないようになっている。ぎっしりと植えられた低木が邪魔なのだ。まるでバリアみたい。
「図書館の人に頼んで中庭に出させてもらうか。このまま突っ切るか」
だが、ふと、これが不自然である事に気付いて、じっと睨んでしまう。
だって、明らかにこの低木は手入れをされている。しかし、人の通るスペースがない。それっておかしい。この低木はどうやって手入れしたというのか。
「結界、なの?」
簡単には通れないように、誰かが操作している。そうとしか、静嵐の事が頭にある今は、そうとしか考えられなかった。
これは静嵐が隠れるために施した結界だ。
「解った。僕は何か伝承が残っていないか、探してみよう」
こうなったら、ヒントは大学の中にあると信じるしかない。二人は車を降りると、それぞれ手がかりを求めて走り出していた。
図書館に戻ってみても、静嵐の姿はやはりどこにもなかった。
「それに」
愛佳はすぐに違和感に気づいた。
ずっといた静嵐がいない。その変化に誰も気付いていないのだ。
よく利用している自分より長くいるはずの、図書館の職員や手伝っている学生たちが、いなくなったことを気にとめる様子が無い。それに、今やっと気付いた。
「あそこによく座っていた人を知りませんか?」
そう訊ねてみると、そんな人いましたかと平然と返される。まるで愛佳の方が幻覚を見ていたかのような、そんな扱いなのだ。
でも、いた気配は残っているのだ。今もなお、静嵐がずっと使っていた席は空席で、他の机よりも明らかにがらんとしている。まるでそこに結界でもあるかのように、誰もそこに近づこうとしないのだ。
「まさか」
見えないけどいるのか。愛佳は恐る恐る、窓際の席に近づく。そして、手を伸ばした。
でも、そこは何もない空間で、いつもいる人が不在であることを、虚しく伝えてくるだけだった。空中を彷徨った手を握り締め、愛佳は一瞬、涙が出そうになった。
「どこに行ったのよ」
あのまま消えるなんてずるい。
愛佳はいつも静嵐が座っていた席に、初めて腰掛けてみる。そこは窓から入ってくる西日が暑いことに気付いた。静嵐は、冷房が苦手だったのだろうか。ここは何だか暖かい。日向ぼっこをしている気持ちになる。
そのまま自然と視線を窓の外に向ける。外はちょっとした庭になっていて、草花が植えられている。外を眺めていても十分に楽しめる作りなのだ。その先は塀で、さらに敷地の外は地下鉄今出川駅の入り口がある。
「ううん」
そんなことを思いながら外を眺めていて、ふと、あるものが目に止まった。それは庭にあるものとしては、少し不自然に見えたのだ。
「ただの大きな石、かな」
じっと目を凝らして見ると、庭の片隅に、雑草に埋もれるように石がある事に気付く。
それほど大きいわけでもないが、自然に転がっているようなサイズではない。高さは2リットルのペットボトルくらいで、上部は丸みを帯びている。明らかに、人の手で加工してあるようだ。横幅は雑草が邪魔で見えないが、かなりの大きさがありそうだ。誰かがあそこにわざと置いたのは間違いない。しかし、全体的に洋風な庭にそぐわないものだ。
「何かしら」
静嵐が座るこの席からしっかり見える位置にあるのだ。何の関係もないとは思えない。本を読みながら、静嵐が横目であれを見ることは可能だろう。やはり、関係あるに違いない。
「よし」
気になったら即行動あるのみ。あれ以外にヒントになりそうなものはないのだ。調べるしかない。
愛佳は立ち上がると、図書館の外へと出た。すでに六月が近くなり、外はむっと湿度を帯びた空気が支配している。先ほど丁度いいと感じた日差しが嘘のように辛い。そんな暑さに辟易としながらも、庭の方へと歩いて行った。
「あっ」
しかし、難なくそこに入れなかった。どうやら中から抜けられるらしいが、外からは回れないようになっている。ぎっしりと植えられた低木が邪魔なのだ。まるでバリアみたい。
「図書館の人に頼んで中庭に出させてもらうか。このまま突っ切るか」
だが、ふと、これが不自然である事に気付いて、じっと睨んでしまう。
だって、明らかにこの低木は手入れをされている。しかし、人の通るスペースがない。それっておかしい。この低木はどうやって手入れしたというのか。
「結界、なの?」
簡単には通れないように、誰かが操作している。そうとしか、静嵐の事が頭にある今は、そうとしか考えられなかった。
これは静嵐が隠れるために施した結界だ。
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