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第14話 犬飼香澄・真澄

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 ひょっとしたら、社長の津久見は依頼を断るという基本事項を忘れてしまったのかもしれない。そんな不安がノエルの中にあった。
「香澄。お前ばっかりずるいぞ」
「そんなこと言う真澄だって」
 双子。その依頼を同時に受けるなんて。馬鹿なのか。俺の身体は一つだぞ。ノエルは二人の間に挟まれながら、津久見を心の中で罵っていた。
 今回の客は双子で会社を興し、ある程度の成功をしている犬飼香澄と真澄だった。年は二十八歳。二人はそれは仲がいいらしく、その様子をノエルの前でもいかんなく見せている。どちらかとキスをすれば、こっちもと迫られ、どっちが先にするかで大いに揉める。しかも、微笑ましい揉め方だ。が、このままでは夜が明けてしまう。
「もう、同時でいいですから」
 結果、ノエルが折れる以外に解決策はなさそうであった。
 揉めるのは部屋に入った時からだ。先にどちらが抱き付くかから始まり、キスまでは何とかじゃんけんで解決していた。しかし、いざ身体に触れるとなれば大いに揉める。ノエルはすでにもみくちゃにされていた。
 最初からこうなることは見えていた。しかし、いくら経験豊富なノエルでも、二人同時に相手にするのは避けたい事柄だ。快楽が二倍になるということは、疲れは四倍くらいになる。自ら積極的にどうぞとは言えなかった。
「さすが、ノエル」
「俺たちより年下のはずなのに、大人だよな」
 香澄と真澄はそれぞれノエルの手を取って迫ってくる。一卵性双生児だから顔はほぼ一緒だ。しかし、ノエルには見分けがついていた。まあ、それが揉めることを大きくしたとも言える。誤魔化しが利かないと解ると、アピール合戦へと発展した。どうやらこの二人、ちゃんと見分けられるのが珍しくて嬉しいご様子だ。
「香澄さん。手加減はしてくださいね」
 右手を握る少し目の大きな香澄に向かって、ノエルは釘を刺す。
「解ってるって」
 絶対に解っていない返事をあっさりとする香澄だ。
「真澄さん。年上との自覚を持ってください」
 左手を握る唇が香澄より少し厚い真澄に向け、ノエルは再び釘を刺した。
「ノエルがもう少し、年下らしく振る舞ってくれればね」
 真澄はしれっと開き直ってくれる。
 二人は話し方や顔の小さな特徴で見分けがつく。しかし、思考は完全に一致しているらしい。ノエルはこっそり溜め息を吐いた。
「二人同時にいて見分けがつく人って、珍しいんだよね。ノエル凄いよ」
「そう。だからこそ、二人同時に相手してほしいっていうか」
 真澄と香澄はそう言いながら協力してノエルを押し倒した。ああ、やっぱりね。納得の理由が述べられる。想像通りだ。
「ちょっと」
 しかし、すべて俺のせいなのか。ノエルは傲岸不遜な双子に完全に手を焼いていた。
 それにしても、揉めていた割には二人で協力してノエルの服を脱がそうとする。これは3Pに持ち込むためにわざとやっていた可能性がある。どうにも彼らは自由で読めない。
 しかし、3Pかあ。経験がないわけじゃあないが――そう思うと、訊かずにはいられない。
「香澄さん」
「ん?」
 ちゃっかりノエルのネクタイを引き抜いた香澄は笑顔だ。しかも答える気はない。ノエルの睨む目を真っ直ぐ見つめる。
「真澄さん」
「うっ」
 こちらは開き直れなかった。ノエルが言いたいことを理解したようだ。ワイシャツのボタンを外す手が止まる。
「ごめん。だって、二人同時にってのは、無理やりするのは躊躇われたっていうか。でも諦めれないっていうか。じゃあ、ノエルからいいよってのを引き出そうっていう作戦で」
 真澄が困り顔で笑う。期待していたが、ノエルにも遠慮はしていたのだ。
「双子って厄介なんだよ。好きになる人が同じってざらでさ。それも同じタイミング。でも、相手はどちらか解るまで時間がかかるんだ」
 白状した真澄に呆れつつ、香澄が拗ねたようにノエルのネクタイを弄びながら言う。
「そう。しかも、両方を相手にしてなんて言えないし、言いたくないし」
 真澄もちょっと顔を俯かせる。すでに何度か経験済みのご様子だ。
「でも、俺には」
「一度くらいは二人でしてみたいって欲求もあるの!」
 ノエルの言葉を遮り、二人は同時に叫んだ。
「そうですか」
 もう、ノエルは反論する気力もなかった。まあ、自分で遊ぶことに文句の言える立場ではない。それに一夜限りの相手だ。同時にやっても後腐れない相手だろう。
「それにさ。ノエルってすぐに俺たちの見分けがついたでしょ。これなら、同時にやってもどっちの行為か解ってもらえるっていうのもあってさ。俺たちとしても、双子を同時に相手してぐちゃぐちゃだった、って感想だけで終わられたくないし。その点、ノエルならば大丈夫」
 で、結局ノエルのせいなのだ。もういいよと思ってしまう。ちなみに今のは香澄の言葉だ。
「解らなかったら、別々にしてもらうつもりだったよ」
 真澄は少し申し訳なさそうに言った。同じ顔をしていても、気後れするタイプなのである。だから、遠慮もしていたのか。真澄は香澄の暴走を抑えるストッパー的役割もあるらしい。
「まったく」
 仕方なく、ノエルは二人を頑張って引き寄せる。一人ならば慰めるためにキスができるが、二人同時は無理だ。
「ノエル」
 二人が同時に名前を呼ぶ。
「するんでしょ?」
 にっこりと挑発するようにノエルは笑った。こうなったら、やってやろうじゃないか。厄介な客の相手はお手の物だ。二人同時だからって拒否することはない。
「そうこなくっちゃ」
 すぐに元気になった香澄は、ノエルの右の胸に手を這わせた。
「本気で好きになりそう」
 真澄ももうノリノリだ。先ほどのしおらしさはどこにいったのやら、こちらは左の胸に手を這わせる。
「んんっ」
 違う動きを同時に加えられることで、ノエルはすぐに喘いだ。胸の突起を思い思いにこねられ、ノエルは身悶える。
「これは?」
 香澄がノエルの胸の突起に舌を這わせながら訊く。
「んんっ」
 ノエルは素直に反応した。
「次は俺」
 香澄が顔を離すと、すぐに真澄がもう一方の突起に舌を這わせた。
「あっ」
 微妙な差に、ノエルの反応も変わってしまう。やはり、二人はセックスにおいても微妙に差があるらしい。
「感触でも解るんだ」
 真澄が嬉しそうに指摘する。
「これは楽しみ」
 こうして、とんでもなく長い夜が始まったのだった。



「んんっ。それも、同時なんて」
「ええ。いいじゃん」
「そうだよ。気持ちいでしょ」
 ノエルを裸に剥いた双子の二人は今、ノエルの勃起したモノに同時に手を這わせていた。真澄はノエルの双果と幹の部分、香澄が先端を重点的に責めていた。
「ああっ」
 感じる部分を総て同時に刺激されるノエルは堪ったものではない。身を捩りたいが、二人がしっかりと片方ずつ足を押さえているので、快感を逃がすことも敵わない。
「これは」
「ああっ」
 香澄が先端の蜜口に爪を立てた。おかげで背中が反る。出ると思ったが、絶妙なタイミングで真澄がぎゅっと根元を押さえた。
「んんぅ」
 イケずに、ノエルは喉を反らして悶える。その様子に、二人は夢中なのだ。
「エロい」
「もうちょっと」
 そう言って、イケそうでイケないあたりを攻めてくる。ノエルははあはあと大きく呼吸した。
「も、もう」
「ううん。仕方ないなあ。じゃあ、二回、立て続けにイってね」
「え?」
 聞き返す暇はなかった。先にノエルのモノに唇を宛てたのは真澄だ。じゅっと蜜口を吸い、ようやく、戒めていた根元から手の力を緩める。
「ああっ」
 するとすぐ、強烈な快感がやって来た。イくと思う暇もなく、ノエルは真澄の口に放った。我慢させられた時間が長かったから、びゅくびゅくと真澄の口の中に放ってしまう。
「ああっ」
 しかし、放つとすぐ、香澄がノエルのモノを口に含む。そして激しく吸い付き、二回目を促した。
「んんんっ」
 苦しさに、ノエルは身体を捻る。が、真澄がノエルの胸の突起を指で弾いてきたため、逃げられない。
「ああ」
「もう元気になってきた」
 次々と与えられる刺激に、ノエルのそこは元気に勃ち上がっていた。それを香澄が愛おしそうに下を這わせて舐める。それに合わせるように、真澄がノエルの胸の突起を摘まんで引っ張る。
「んんっ。もう」
 ノエルは出ると、腰を振った。すると香澄が口でノエルのモノを包み込み、射精を促す。
「ああっ」
 さすがに連続しての射精では、二回目はさほど出なかった。しかし、強烈な余韻が残る。それだけでぐったりしてしまった。が、そこで終わりになるはずがない。
「んぅ」
「凄い」
「同時に入ったね」
 真澄と香澄が、ノエルの後孔に同時に指を挿し入れてきた。二本同時に飲み込まされ、ノエルは足を大きく開く。すると二人はバラバラに指を動かし始めた。
「ああっ」
 内壁を別々の刺激が襲い、ノエルは堪らずに二人の指を締め付ける。すると二人は嬉しそうに笑った。
「さすが」
「エロい孔」
 嬉しそうな二人の声に、ノエルはこの先はどうするつもりだと、二人を見る。
「ああ。大丈夫。さすがに同時には挿れないから安心して」
「そうそう。ただ、二連続ね」
「は、はい」
 ノエルは頷きつつ、連続かあと身体が熱くなる。すでに前に与えられた口淫も二回連続だっただけに、その刺激の強さに身体が疼く。
「挿れていい」
「は、はい」
 次、先に挿れるのは香澄だった。二人の指によってよく解された後孔に、勃起したモノが押し当てられる。
「んっ」
 そしてぐっと入ってきた。ぐりっと中を抉られ、ノエルは呻く。
「その間、俺はこっちね」
「えっ」
 別々にやるだけだと思っていたノエルは、真澄が前のモノに指を這わせてきたので驚く。しかし、止める暇はない。香澄が腰を激しく使い出した。
「ああっ」
 それに合わせるように真澄が前のモノを扱く。そこは双子。息ぴったりだ。だからノエルは急速に追い上げられる。
「ああっ、もう、むりっ」
 涙声で訴える。すると、香澄がずんっと奥まで刺激してきた。
「ああっ」
「くぅ」
 ノエルは呆気なく果てる。と同時に、香澄もノエルの中に放った。熱い液体が内部の奥を濡らす。
「うっ」
 そしてすぐ、香澄はノエルの中から出て行った。しかし、それと同時にすぐ、真澄が中に入って来る。
「ああっ」
 さらに、香澄がノエルの前のモノを扱き始めた。本当に二回連続なのだ。前も後も、一回目でぐちゅぐちゅになっているせいで、どちらからも卑猥な音が絶えず出て、部屋の中にこだまする。
「はあっ、もう」
 すでに散々刺激された身体は、僅かな刺激にも耐えられない。二回目の刺激は一度目よりも強烈だ。
「いい顔してるね」
「もっとイジメたくなる」
 しかし、二人は嬉しそうだ。真澄はもっとと言うように、中でぐるりと凶器を回す。
「ああっ」
 そんな刺激に耐えられるはずがなく、ノエルはまたイくことになった。しかし、まだ真澄はイっていない。
「もうちょっと頑張って」
「ああ」
 ずくずくと刺激され、真澄が中に放つ頃には、ノエルの意識は朦朧としていたのだった。



 双子の二人は元気なままだが、ノエルはぐったりとしていた。二人は普通にしていただけだろうが、ノエルの労力は四倍である。いや、何度もイかされるのだから、それ以上かもしれない。
「本当に津久見さんの言ったとおりだったね」
 香澄がぐったりとベッドに横たわるノエルの髪を撫でながら言った。
「えっ?」
 ここでなぜ、津久見の名前が出てくるのか。ノエルはまじまじと二人を見た。
「津久見さん、ノエルならどっちかすぐに見抜けるって。だからバラバラに相手をしても取り違えませんよとは言ってったんだ」
 真澄がノエルの胸に頭を載せながら、にっこりと笑う。
「そうですか」
 要は、津久見の不用意な発言が今夜の仕方に繋がったわけだ。見分けられるならば同時も可能なのではないか。二人はそれに期待してしまった。これはもう、後でお灸を据えなければならない。
「そう言われると、無理にでも頼んじゃうよね」
「な。それに」
 香澄と真澄はそこで頷き合うと
「好きだよ」
 同時にノエルに告白していた。
「――あの」
「解ってるって。でも、気持ちは伝えさせて」
 ノエルの当惑に、香澄が違うからと慌てて否定する。しかし、顔は少し寂しそうだ。
「のめり込まないよ。でも、二人を同時に、それも平等に接してくれたのが嬉しくてさ」
 真澄も少し泣きそうだ。本当に手の焼ける双子だ。ノエルは苦笑してしまう。きっと、双子であることで、苦労しているのだろう。セックスの前にも言っていたほどだ。
「また、指名してください」
 ノエルの言葉に、二人の顔がぱっと明るくなる。
「ただ」
「ダメ。二人同時だからね」
 ノエルの言葉を、香澄と真澄は同時に遮った。
「もう」
 この二人にはどうやら敵わないな。ノエルは実感した。そして、津久見が断り切れなかった理由も、察しがついてしまったのだった。
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