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第7話 矢吹慶
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本当に人の性癖は解らないなと思うノエルである。
今回の客である矢吹慶は、部屋に入るなり大きめのワイシャツをノエルに渡し、それだけになるように命じた。
「はあ」
どう反応していいか解らず、ノエルは気の抜けた返事をしてしまった。それでも、客の望みどおりに動く。
慶は二十三歳とのことだった。しかし、要求はエロ爺だと思う。
「可愛いじゃん。やっぱ、男でもいけるシチュエーションだよな」
ぶかぶかのワイシャツを着ただけのノエルに、慶は大喜びである。当然の如く、下着も脱がされている。
「あの、これは?」
居心地の悪さに、ノエルは質問する。まだ立たされたままなので、下が心もとなくて仕方がない。
「俺の憧れってやつ。彼シャツだよ。ノエルを見た瞬間、いけるって思ったんだよね」
慶は嬉しそうだ。これは付き合うしかない。ノエルは覚悟した。
「それで、どうすればいいんですか?」
何だか落ち着かずもじもじすると、慶は今にも鼻血を出しそうな顔になった。
「堪らないね。でもまあ、横に座って。座り方は解ると思うけど」
「はあ」
ノエルはまたしても気のない返事をしてしまった。要求は解る。いわゆる横座りだろう。ほぼ女装と同じハードルだ。
胡坐をかいて座る慶の横に、ノエルはそっと座る。肌に触れる畳の感触が、冷たくてほぼ裸なのだと意識してしまう。そんな恥ずかしがるノエルを、慶は遠慮なく肩を抱き寄せた。この辺りは普通の客だ。ちょっと変わった格好を求められただけと思えば大丈夫だろう。
「いいね。一晩好きにしていいんだろ?」
「ええ」
それは契約がなされた段階で伝えてある。津久見の審査を通った以上、ノエルは要求に応えるだけだ。
「じゃあ」
もう本番か、ノエルはそう覚悟した。慶の手は先ほどから太ももを撫でている。
「キスのおねだり、してもらっていい?」
「――はい」
本当に中身はエロ爺だ。返事をしつつも引いてしまう。ただ押し倒されるだけがマシに思える。
「ほら」
太腿を撫でながら促され、ノエルは腹を括った。
「キスして」
少し可愛くしたほうがいいのか、ノエルは一応気を遣う。
「もちろん」
どうやら慶の好みにあったらしい。鼻息が荒い。しかし、キスは優しいものだった。舌が入ってきても、それほど激しくは求められない。
「――もう少し」
ちょっと面白くなってきたノエルは甘えてみた。格好だけが普通ではないだけで、やっていることはいつもと変わらない。
「さすが」
慶はご満悦だ。ある意味で扱いやすい。
再びキスをしていると、慶の手がノエルのあそこに伸びてきた。下は何も着けていないので、さっさと手の中に納まる。
「んっ」
欲望に忠実な客に、ノエルの緊張もほぐれた。そのまま首に両腕を巻き付ける。
「まだだ」
慶はそう言って、唇を離す。しかし、手はそこを握ったままだ。
「あんまりじらさないで下さい」
もどかしさに、ノエルは懇願する。刺激に弱いので、このままというのは困る。以前は朝まで根性で我慢したことがあるが、あれは別だ。事情が違う。
「そこは楽しませてよ。こういうのって、なかなか頼めないだろ?」
慶は遊び慣れているようだ。それも男相手にも。握ったまま、動かす素振りすらしない。
「意地悪ですね」
ノエルは顔を赤らめたまま怒った。これも慶の好みに合致したようで、慶まで赤くなる。
「ちょっと背を向けて」
慶は指示を出す。そこを掴まれたままでは動きにくいのだが、ノエルは何とか体勢を変えた。
「いい匂いだな。シャンプーしたてかい?」
ノエルの髪をくんくん匂う慶が訊いた。
「ええ。今日は指定時間が遅かったですから」
風呂の時間はないだろうと思っていたので、ノエルは来る前にシャワーを浴びていた。相手の使える時間を多くするのは、当然の配慮だ。
「時間に融通が利かないのは残念なところだよ。仕事はサボれないからな」
慶の呟きに、青年実業家との肩書きを思い出した。どれだけ軽く見えても、そこはしっかりとしているようだ。
「朝までは長いですから」
ノエルはそうとりなす。慶は軽く笑った。
「そう言ってくれるパートナーが欲しいよ。ノエルはビジネストークだろうけどさ」
割り切っている慶に、ノエルは苦笑した。最近では珍しいタイプだ。最近は妙な客が多かったから、ちょっと安心できる。
「んっ」
慶は背後から抱き締め直すと、ゆっくりとノエルの身体を愛撫する。明確な刺激ではない、ただ撫でるだけのような愛撫だ。
「んっ」
もどかしさに、ノエルは慶の胸に凭れた。
「いいね。エロい」
「――酷いですね」
ノエルは苦笑するに止めた。そんなノエルの唇を、慶は後ろから抱きしめたまま奪う。
いつになく甘く、ゆったりとした時間だ。
「早く」
思わず懇願したノエルに、慶は笑う。
「もうちょっと」
どうやら慶はこの甘い時間が気に入ったようだ。右手はあそこを握ったまま、左手で上半身を再び愛撫していく。
「意地悪ですね」
たった一枚だけのワイシャツが、余計にもどかしさを演出している気がする。
じらすことにしたらしい矢吹慶は、本当に優しい愛撫しかしてくれなかった。
「んっ」
慶の胸に凭れながら、ノエルはもどかしい感覚に困っていた。大きめのワイシャツが自然に汗ばんでくる。
「どう?」
あそこを握ったまま、ようやく胸の突起を触った慶が訊く。ようやく訪れた刺激に、ノエルは身をくねった。
「んっ、もっと」
刺激が欲しくて、ノエルは思わず懇願していた。
「本当にエロいな」
慶は嬉しそうに爪で弾く。
「あっ」
散々じらされて刺激にいつも以上に敏感になっているノエルには堪らない。思い切り身を捩った。すでにじんじんとしているアソコも、その刺激に反応して愛液を漏らし出す。
「ノエル」
十分耐える顔を堪能した慶は、刺激を強くしていく。胸の突起を刺激すると同時に、握ったままだったそこを扱いた。ぐちゅっと水音が部屋に響く。
「んんっ」
急に激しくなった刺激に、ノエルは身悶えた。しかし、慶はなかなかイかせてはくれない。
「もう少し我慢できる?」
慶は意地悪く、ノエルのあそこをぎゅっと握り、イクことを止めてしまう。
「む、無理」
もうノエルに余裕はない。慶の胸に思い切り体重を掛けて催促した。
「仕方ないか」
苦笑しつつも欲望の混ざった声で慶が言った。そして扱くことを再開する。そこからは呆気なかった。
「ああっ」
果てると、ノエルはぐったりとしてしまった。ずっと快感だけあり充足感がなかったのだ。思った以上に疲れてしまう。
「ノエル」
満足した様子の慶は、ぐったりとしているノエルの身体を横たえた。
汗ばんでいた身体に、ひんやりとした畳の感触が気持ちいい。ノエルがそのまま寝転んでいると、慶が足を開かせた。
「慶さん?」
「慶でいい」
苦笑しながら呼び方を訂正した慶は、そのまま指を尻の狭間へと入れる。
「んんっ」
じらされ続けた身体は、喜んで指を受け入れた。そのままぎゅっと締め付けてしまう。
「ノエル」
その敏感な反応に慶はご満悦だ。好きなように翻弄できたことも嬉しいのだ。だからか、中の感触を楽しむように指を動かす。
「まだ、慶をくれないんですか?」
中を動く指を感じながら、ノエルが訊いた。目は欲望で潤んでしまっている。
「もう少し」
ここでもじらす慶は、代わりに指をもう一本入れた。
「んんっ」
ノエルは喘ぐことしかできない。これほどじらされるというのはないのだ。しかし、ねだることはしても、怒ることはない。相手に合わせる。それはいつものことだ。
「ノエル」
その色っぽい顔を見ていると、さすがに慶も我慢できなくなった。指を引き抜き、自分を入れる。そして、それまでとは違い、一気に腰を進めて総てをノエルの中に入れた。
「ああっ」
散々じらされたせいで、ノエルは入れられた瞬間に果ててしまった。とぷっと、自分の白濁が二人の腹を汚す。
「最高だな」
「もう」
あまりにもエロい慶に、ノエルは潤んだ目で睨んだ。
「動くぞ」
「んっ」
ノエルの返事を待たず、慶は腰を動かし始めた。そうして、長くじらされた夜は終わったのだった。
「今度はじらさないでくださいよ」
ノエルはようやく脱ぐことのできたワイシャツを押しやりながら言う。
「どうだろ?」
慶は意地悪く笑った。
「じゃあ、こっちからしてもいいですか?」
ちょっとした意趣返しとして、ノエルは下から覗き込むようにして慶を見た。
「そんな可愛い顔して言われるとな」
慶はまんざらでもない様子で答える。
ノエルは座っている慶の男根に手をやると、にっこりと笑う。慶がごくりと唾を飲みこんだ。何をされるのか、期待に満ちた目が向けられる。
その期待に応えるように、ノエルは慶のモノを口に含んだ。そして、ゆっくりと舐める。
「くっ」
その刺激に、慶は唸った。感じやすいらしい。ノエルは丹念に舐め回す。
「ちょっと」
慶はじらされるのが得意ではないらしい。切羽詰まった声がする。自分はじらしておいてと、ノエルは苦笑する。
「もう。仕方ないですね」
そう言うと、一気に追い立てるように口を動かした。先端に舌を突っ込み、さらに吸い上げるように口をすぼめる。
「はあっ」
慶はノエルの頭を包み込むと、口の中で果てた。大きく肩で息をしている。
「どうでした?」
ノエルが笑顔で顔を上げると、慶は真っ赤になっていた。
「巧すぎ。全然我慢できない」
慶も一応我慢する気はあったようだ。悔しそうに言う。そしていきなりノエルを押し倒した。
「慶?」
「お返ししとかないとな」
慶はすぐにノエルのモノを口に含んだ。
「んんっ」
じらすことが上手いだけあって、口で追い上げるのも巧みだ。それもイケそうでイケないギリギリの動きを続けてくる。
「ずるい」
喘ぐ合間から、ノエルはちょっと拗ねたように言った。
「イキたい?」
「んっ、はい」
ノエルが頷いたのを確認した慶は、なぜかそのまま口を離した。
「慶?」
「こっちのほうがいいだろ?」
慶はそう言うと、ノエルの尻に自身をあてがった。それは先ほど果てたばかりだというのに、熱く滾っている。
「早く」
これ以上じらされたくないノエルは、艶っぽい声で懇願した。
「もちろん」
一気に慶はノエルを貫く。その逞しさに、ノエルは胸を逸らせる。
「ああっ」
これほどいいように抱かれることは珍しい。ノエルは慶にしがみ付いた。
「ノエル」
「んんっ」
もう返事をする余裕はなかった。ノエルはねだるように腰を動かす。慶もすぐに動き始めた。
絶頂はすぐに訪れ、二人同時に果てていた。
どっと疲れたノエルは、まだ着たままのワイシャツが汗ばんでいるのに気づいた。
「久々にいい夜だったよ」
横に寝そべる慶は満足そうに笑う。
「それなら、良かったです」
疲れようとどうであろうとノエルには関係ない。こうして無事に夜が過ぎればいいのだ。
「ノエル」
「はい」
横を向くと、慶の唇が触れてきた。そのままノエルは抱き付く。まだ時間は残っているので問題ない。
「お前は罪な奴だな。そんな可愛くキスをねだられたら、二回目を望む奴は多いだろ?」
「えっ?」
苦笑する慶に、ノエルは首を傾げた。そうだろうか。
「社長に、俺をどう報告するんだ?次がオーケーかは、ノエルが握ってるって聞いたぞ」
二回目とは、もう一度指名できるかという話のようだ。実際にノエルが禁止を言い渡すことは少ない。なぜなら客のほうが忙しくて忘れてしまうからだ。
この仕事の利点は、津久見のもとに舞い込む揉め事のついでとして受けているところだ。彼らは少し悩んで一晩の快楽を求めても、すぐに日常の忙しさに飲まれてしまう。ノエルに入れ込んでいる時間などないのだ。
「慶はいいですよ」
だから、ノエルは笑って答える。
「本当に次も入れるぞ。それに、今度はもっとじらすかもな」
少し脅すように慶は言う。どうやら受け入れられないとの判断で、このワイシャツでの一夜を求めたようだ。一回だけなら普段できない形で楽しみたい。そういう客も多い。
「いいですよ。まあ、変態は嫌なんですけど、現実にはそっちが多いですからね」
ノエルは思わず言ってしまった。
「俺も変態かよ」
「あれ?違いました?」
ノエルは笑った。そして自分からキスを求める。
「敵わないな。ノエル。いい奴だ」
慶の言葉は、ノエルに切なく響いた。またこうして会っても、慶は同じことを言うだろうか。その頃には、毎晩違う相手といることに何か思いが生まれているかもしれない。いや、きっと、呆れることだろう。
「もう一度」
だから、ノエルは今すぐに求めることにした。いい奴のまま、抱いてほしかった。
「ああ」
そんなノエルの気持ちは知らないだろう。慶は笑顔で答える。
チャックアウトぎりぎりまで、二人は抱き合っていた。汗ばんだワイシャツは、記念にと慶が持ち帰ったのだった。
今回の客である矢吹慶は、部屋に入るなり大きめのワイシャツをノエルに渡し、それだけになるように命じた。
「はあ」
どう反応していいか解らず、ノエルは気の抜けた返事をしてしまった。それでも、客の望みどおりに動く。
慶は二十三歳とのことだった。しかし、要求はエロ爺だと思う。
「可愛いじゃん。やっぱ、男でもいけるシチュエーションだよな」
ぶかぶかのワイシャツを着ただけのノエルに、慶は大喜びである。当然の如く、下着も脱がされている。
「あの、これは?」
居心地の悪さに、ノエルは質問する。まだ立たされたままなので、下が心もとなくて仕方がない。
「俺の憧れってやつ。彼シャツだよ。ノエルを見た瞬間、いけるって思ったんだよね」
慶は嬉しそうだ。これは付き合うしかない。ノエルは覚悟した。
「それで、どうすればいいんですか?」
何だか落ち着かずもじもじすると、慶は今にも鼻血を出しそうな顔になった。
「堪らないね。でもまあ、横に座って。座り方は解ると思うけど」
「はあ」
ノエルはまたしても気のない返事をしてしまった。要求は解る。いわゆる横座りだろう。ほぼ女装と同じハードルだ。
胡坐をかいて座る慶の横に、ノエルはそっと座る。肌に触れる畳の感触が、冷たくてほぼ裸なのだと意識してしまう。そんな恥ずかしがるノエルを、慶は遠慮なく肩を抱き寄せた。この辺りは普通の客だ。ちょっと変わった格好を求められただけと思えば大丈夫だろう。
「いいね。一晩好きにしていいんだろ?」
「ええ」
それは契約がなされた段階で伝えてある。津久見の審査を通った以上、ノエルは要求に応えるだけだ。
「じゃあ」
もう本番か、ノエルはそう覚悟した。慶の手は先ほどから太ももを撫でている。
「キスのおねだり、してもらっていい?」
「――はい」
本当に中身はエロ爺だ。返事をしつつも引いてしまう。ただ押し倒されるだけがマシに思える。
「ほら」
太腿を撫でながら促され、ノエルは腹を括った。
「キスして」
少し可愛くしたほうがいいのか、ノエルは一応気を遣う。
「もちろん」
どうやら慶の好みにあったらしい。鼻息が荒い。しかし、キスは優しいものだった。舌が入ってきても、それほど激しくは求められない。
「――もう少し」
ちょっと面白くなってきたノエルは甘えてみた。格好だけが普通ではないだけで、やっていることはいつもと変わらない。
「さすが」
慶はご満悦だ。ある意味で扱いやすい。
再びキスをしていると、慶の手がノエルのあそこに伸びてきた。下は何も着けていないので、さっさと手の中に納まる。
「んっ」
欲望に忠実な客に、ノエルの緊張もほぐれた。そのまま首に両腕を巻き付ける。
「まだだ」
慶はそう言って、唇を離す。しかし、手はそこを握ったままだ。
「あんまりじらさないで下さい」
もどかしさに、ノエルは懇願する。刺激に弱いので、このままというのは困る。以前は朝まで根性で我慢したことがあるが、あれは別だ。事情が違う。
「そこは楽しませてよ。こういうのって、なかなか頼めないだろ?」
慶は遊び慣れているようだ。それも男相手にも。握ったまま、動かす素振りすらしない。
「意地悪ですね」
ノエルは顔を赤らめたまま怒った。これも慶の好みに合致したようで、慶まで赤くなる。
「ちょっと背を向けて」
慶は指示を出す。そこを掴まれたままでは動きにくいのだが、ノエルは何とか体勢を変えた。
「いい匂いだな。シャンプーしたてかい?」
ノエルの髪をくんくん匂う慶が訊いた。
「ええ。今日は指定時間が遅かったですから」
風呂の時間はないだろうと思っていたので、ノエルは来る前にシャワーを浴びていた。相手の使える時間を多くするのは、当然の配慮だ。
「時間に融通が利かないのは残念なところだよ。仕事はサボれないからな」
慶の呟きに、青年実業家との肩書きを思い出した。どれだけ軽く見えても、そこはしっかりとしているようだ。
「朝までは長いですから」
ノエルはそうとりなす。慶は軽く笑った。
「そう言ってくれるパートナーが欲しいよ。ノエルはビジネストークだろうけどさ」
割り切っている慶に、ノエルは苦笑した。最近では珍しいタイプだ。最近は妙な客が多かったから、ちょっと安心できる。
「んっ」
慶は背後から抱き締め直すと、ゆっくりとノエルの身体を愛撫する。明確な刺激ではない、ただ撫でるだけのような愛撫だ。
「んっ」
もどかしさに、ノエルは慶の胸に凭れた。
「いいね。エロい」
「――酷いですね」
ノエルは苦笑するに止めた。そんなノエルの唇を、慶は後ろから抱きしめたまま奪う。
いつになく甘く、ゆったりとした時間だ。
「早く」
思わず懇願したノエルに、慶は笑う。
「もうちょっと」
どうやら慶はこの甘い時間が気に入ったようだ。右手はあそこを握ったまま、左手で上半身を再び愛撫していく。
「意地悪ですね」
たった一枚だけのワイシャツが、余計にもどかしさを演出している気がする。
じらすことにしたらしい矢吹慶は、本当に優しい愛撫しかしてくれなかった。
「んっ」
慶の胸に凭れながら、ノエルはもどかしい感覚に困っていた。大きめのワイシャツが自然に汗ばんでくる。
「どう?」
あそこを握ったまま、ようやく胸の突起を触った慶が訊く。ようやく訪れた刺激に、ノエルは身をくねった。
「んっ、もっと」
刺激が欲しくて、ノエルは思わず懇願していた。
「本当にエロいな」
慶は嬉しそうに爪で弾く。
「あっ」
散々じらされて刺激にいつも以上に敏感になっているノエルには堪らない。思い切り身を捩った。すでにじんじんとしているアソコも、その刺激に反応して愛液を漏らし出す。
「ノエル」
十分耐える顔を堪能した慶は、刺激を強くしていく。胸の突起を刺激すると同時に、握ったままだったそこを扱いた。ぐちゅっと水音が部屋に響く。
「んんっ」
急に激しくなった刺激に、ノエルは身悶えた。しかし、慶はなかなかイかせてはくれない。
「もう少し我慢できる?」
慶は意地悪く、ノエルのあそこをぎゅっと握り、イクことを止めてしまう。
「む、無理」
もうノエルに余裕はない。慶の胸に思い切り体重を掛けて催促した。
「仕方ないか」
苦笑しつつも欲望の混ざった声で慶が言った。そして扱くことを再開する。そこからは呆気なかった。
「ああっ」
果てると、ノエルはぐったりとしてしまった。ずっと快感だけあり充足感がなかったのだ。思った以上に疲れてしまう。
「ノエル」
満足した様子の慶は、ぐったりとしているノエルの身体を横たえた。
汗ばんでいた身体に、ひんやりとした畳の感触が気持ちいい。ノエルがそのまま寝転んでいると、慶が足を開かせた。
「慶さん?」
「慶でいい」
苦笑しながら呼び方を訂正した慶は、そのまま指を尻の狭間へと入れる。
「んんっ」
じらされ続けた身体は、喜んで指を受け入れた。そのままぎゅっと締め付けてしまう。
「ノエル」
その敏感な反応に慶はご満悦だ。好きなように翻弄できたことも嬉しいのだ。だからか、中の感触を楽しむように指を動かす。
「まだ、慶をくれないんですか?」
中を動く指を感じながら、ノエルが訊いた。目は欲望で潤んでしまっている。
「もう少し」
ここでもじらす慶は、代わりに指をもう一本入れた。
「んんっ」
ノエルは喘ぐことしかできない。これほどじらされるというのはないのだ。しかし、ねだることはしても、怒ることはない。相手に合わせる。それはいつものことだ。
「ノエル」
その色っぽい顔を見ていると、さすがに慶も我慢できなくなった。指を引き抜き、自分を入れる。そして、それまでとは違い、一気に腰を進めて総てをノエルの中に入れた。
「ああっ」
散々じらされたせいで、ノエルは入れられた瞬間に果ててしまった。とぷっと、自分の白濁が二人の腹を汚す。
「最高だな」
「もう」
あまりにもエロい慶に、ノエルは潤んだ目で睨んだ。
「動くぞ」
「んっ」
ノエルの返事を待たず、慶は腰を動かし始めた。そうして、長くじらされた夜は終わったのだった。
「今度はじらさないでくださいよ」
ノエルはようやく脱ぐことのできたワイシャツを押しやりながら言う。
「どうだろ?」
慶は意地悪く笑った。
「じゃあ、こっちからしてもいいですか?」
ちょっとした意趣返しとして、ノエルは下から覗き込むようにして慶を見た。
「そんな可愛い顔して言われるとな」
慶はまんざらでもない様子で答える。
ノエルは座っている慶の男根に手をやると、にっこりと笑う。慶がごくりと唾を飲みこんだ。何をされるのか、期待に満ちた目が向けられる。
その期待に応えるように、ノエルは慶のモノを口に含んだ。そして、ゆっくりと舐める。
「くっ」
その刺激に、慶は唸った。感じやすいらしい。ノエルは丹念に舐め回す。
「ちょっと」
慶はじらされるのが得意ではないらしい。切羽詰まった声がする。自分はじらしておいてと、ノエルは苦笑する。
「もう。仕方ないですね」
そう言うと、一気に追い立てるように口を動かした。先端に舌を突っ込み、さらに吸い上げるように口をすぼめる。
「はあっ」
慶はノエルの頭を包み込むと、口の中で果てた。大きく肩で息をしている。
「どうでした?」
ノエルが笑顔で顔を上げると、慶は真っ赤になっていた。
「巧すぎ。全然我慢できない」
慶も一応我慢する気はあったようだ。悔しそうに言う。そしていきなりノエルを押し倒した。
「慶?」
「お返ししとかないとな」
慶はすぐにノエルのモノを口に含んだ。
「んんっ」
じらすことが上手いだけあって、口で追い上げるのも巧みだ。それもイケそうでイケないギリギリの動きを続けてくる。
「ずるい」
喘ぐ合間から、ノエルはちょっと拗ねたように言った。
「イキたい?」
「んっ、はい」
ノエルが頷いたのを確認した慶は、なぜかそのまま口を離した。
「慶?」
「こっちのほうがいいだろ?」
慶はそう言うと、ノエルの尻に自身をあてがった。それは先ほど果てたばかりだというのに、熱く滾っている。
「早く」
これ以上じらされたくないノエルは、艶っぽい声で懇願した。
「もちろん」
一気に慶はノエルを貫く。その逞しさに、ノエルは胸を逸らせる。
「ああっ」
これほどいいように抱かれることは珍しい。ノエルは慶にしがみ付いた。
「ノエル」
「んんっ」
もう返事をする余裕はなかった。ノエルはねだるように腰を動かす。慶もすぐに動き始めた。
絶頂はすぐに訪れ、二人同時に果てていた。
どっと疲れたノエルは、まだ着たままのワイシャツが汗ばんでいるのに気づいた。
「久々にいい夜だったよ」
横に寝そべる慶は満足そうに笑う。
「それなら、良かったです」
疲れようとどうであろうとノエルには関係ない。こうして無事に夜が過ぎればいいのだ。
「ノエル」
「はい」
横を向くと、慶の唇が触れてきた。そのままノエルは抱き付く。まだ時間は残っているので問題ない。
「お前は罪な奴だな。そんな可愛くキスをねだられたら、二回目を望む奴は多いだろ?」
「えっ?」
苦笑する慶に、ノエルは首を傾げた。そうだろうか。
「社長に、俺をどう報告するんだ?次がオーケーかは、ノエルが握ってるって聞いたぞ」
二回目とは、もう一度指名できるかという話のようだ。実際にノエルが禁止を言い渡すことは少ない。なぜなら客のほうが忙しくて忘れてしまうからだ。
この仕事の利点は、津久見のもとに舞い込む揉め事のついでとして受けているところだ。彼らは少し悩んで一晩の快楽を求めても、すぐに日常の忙しさに飲まれてしまう。ノエルに入れ込んでいる時間などないのだ。
「慶はいいですよ」
だから、ノエルは笑って答える。
「本当に次も入れるぞ。それに、今度はもっとじらすかもな」
少し脅すように慶は言う。どうやら受け入れられないとの判断で、このワイシャツでの一夜を求めたようだ。一回だけなら普段できない形で楽しみたい。そういう客も多い。
「いいですよ。まあ、変態は嫌なんですけど、現実にはそっちが多いですからね」
ノエルは思わず言ってしまった。
「俺も変態かよ」
「あれ?違いました?」
ノエルは笑った。そして自分からキスを求める。
「敵わないな。ノエル。いい奴だ」
慶の言葉は、ノエルに切なく響いた。またこうして会っても、慶は同じことを言うだろうか。その頃には、毎晩違う相手といることに何か思いが生まれているかもしれない。いや、きっと、呆れることだろう。
「もう一度」
だから、ノエルは今すぐに求めることにした。いい奴のまま、抱いてほしかった。
「ああ」
そんなノエルの気持ちは知らないだろう。慶は笑顔で答える。
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