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第2話 高校生・陵

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 今度の相手は高校生だというだけでも憂鬱なのに、社長の津久見俊彰は破格の対応をすることに決めたらしい。
 この日、ノエルはいつもと違ってホテルのロビーに昼間からいた。
 一日相手をしなければならない。相手が若いだけに、何をされるか解ったものではなかった。
「ノエルだよね?」
 ロビーにやって来た制服姿の少年は、笑顔でそう呼びかけてきた。
「えっと、お客様?」
 本当に高校生がやって来たので、ノエルはすぐに反応できなかった。マジかよというのが正直なところだ。
「そうだよ。陵って呼んでくれ」
 陵は言いながらノエルの腕に手を回した。
「はあ。あの」
「早く部屋に行こう。これから出かけたいんだ」
 ノエルが反論する前に、陵はエレベーターへと引っ張って行った。
 妙な展開だな。ノエルはエレベーターに乗り込みながら津久見を呪っていた。デート込みとは聞いていない。
 さらに部屋に着いてから、ノエルは津久見に殺意を覚えた。
「女装は聞いてなかったんですけどね」
 差し出された女子高生の制服を見て、ノエルは引き攣った笑いを浮かべた。
「いいじゃん。顔は女でも通用する感じだし。ノエルを指名することで解ると思うけど、俺って女に興味ないっていうか、興奮しないっていうか。でも、制服デートには憧れる年頃なんだよね」
 陵はさらりと性癖を暴露する。
「そうですか。ご希望なら着替えます」
 ノエルはもう反論する気にもならなかった。別に女装をしたことがないわけではない。そういった相手もさせられたことはある。しかし、これで街中に出るのは勇気がいる。津久見が何も詮索せず、相手の言うとおりにしろと指示してきただけに、嫌な予感はしていた。が、予想を上回る仕事である。
「その言葉遣いは止めてくれよ。俺たちは同級生ってことで」
 着替えるノエルを見物しながら、陵はにっこりと笑う。
 顔はイケメンなのに残念な奴。ノエルは自分のことを棚に上げてそう思っていた。
「女らしい話し方は無理ですから、丁寧語でいきましょう」
 ノエルは視線を避けたい気持ちになりながら提案する。
「いいよ、そんなの。今時の女子って男らしいぜ。下手に女言葉のほうが疑われるよ」
 陵は引き下がることをしない。ノエルはさらに憂鬱になっていた。
「そうか。では、こんな感じで」
「そうそう。あっ、足綺麗だな」
 スカートを穿いたノエルの脚をエロおやじのように陵は見つめる。
「どうも」
 これは夜の本番も何を要求されるか解らないな。ノエルは後でどう津久見に文句を言おうかと思案した。
「化粧道具とウイッグもね」
 陵はノエルに紙袋を差し出した。
「少し待ってくれ」
 ノエルは洗面所に行き、手早く用意をした。どうにもペースが掴めない。これなら一日中ベッドの中のほうが良かった。
「いいね。行こう」
 完成したノエルの女装を見て、陵は満足そうに笑った。
 デートはそれほど過酷ではなかった。女子よりやや背は高いものの、違和感はないらしい。
 内容も高校生らしかった。プリクラを撮ってみたりスイーツを食べたりと、ノエルには懐かしさを覚えるものである。
 夕食前にホテルに戻った時には、二人は打ち解けていた。
「はあ、楽しかった。ノエル、最初に着てたスーツに着替えてよ」
 ベッドに横になった陵は、まだ女子高生姿だったノエルにそう言った。
「何だ。本番もこのままかと思ってたよ」
 ノエルは苦笑する。
「ええっ。せっかく大人の男とするのに、それは遠慮する」
 陵はずけずけと言う。
「それはスーツでってことか?」
「当然」
 頷かれて、ノエルは呆れていた。将来が恐ろしいタイプだ。
「じゃあ着替えておくから夕食に行ってこい」
 ノエルは何気なくそう言っていた。途端に陵が寂しそうな顔をしたので困惑する。
「どうした?」
 着替える手を止めずにノエルは訊く。
「ノエルって、徹底してビジネスライクだな」
 質問に答えずに陵は非難するように言った。
「割り切らなきゃやってられないからな」
 ノエルは答えながら化粧を落とした。途中でシートタイプのメイク落としを買っておいたのである。
「割り切る、か。俺もそれが出来ればいいだろうな」
 陵はまた寂しそうに呟く。しかし、詮索するなと命じられているので、ノエルは何も聞かなかった。
「ノエルも何か食べるんだろ?」
 反応がなかったことが嫌だった陵は質問する。
「まあ。でも、ホテルの中のレストランには行かないよ。顔を覚えられると厄介だし。このホテルは仕事で使うことが多いからね」
 ノエルは苦笑した。
 大都会のホテルだが、もう何度も来たことがある。ホテルの場合、目撃されることが少ないからだろう。客はよく指定してくる。それも都会での仕事の場合はそうだった。地方だと旅館が多いのは、誰もが旅情を味わいたいからだろうか。
「じゃあ、ここで食べるのか?」
「そうだ。近くにコンビニがあるしな」
 着替え終わったノエルはほっとした。やはり着慣れたものが一番である。
「じゃあ、俺もここで食べる。ここにもう一週間泊まってるから、飽きてたとこだし」
 言うと陵は起き上がった。そしてノエルの手を握る。
「おい。もう女子高生じゃないぞ」
「いいよ。ここからは男同士で」
 それはそれで目立つんだけどな、という不満は抑えておいた。
 陵が必死にノエルの興味を引こうとしていることに気づいたからだ。あの女子高生デートも、ただ抱くだけの相手で終わりたくなかったからだろう。
 ノエルの推測だが、陵はいつも寂しいのではないだろうか。その寂しさが男への興味と代わっているように思う。女ではないのは、家庭環境のせいとも思えた。
 ホテル暮らしをしていたり、そう安くないノエルを雇ったり、お金持ちの坊ちゃんであることは間違いない。でも、陵が欲しいのはお金で買えるものではないのだろう。
 二人でコンビニ弁当を食べながら、今日一日のことを振り返った。よほど楽しかったのか、陵は嬉しそうに話し続ける。
「また機会があったら、今度はディズニーとかがいいな」
 陵はノエルを窺いながら言う。
「その場合は、女子高生は勘弁してもらいたいね」
 ノエルはオーケーする代わりとして言った。途端に陵の顔が笑顔になる。解りやすいところはまだまだ子どもだ。
「もう女子高生に興味はないよ。男同士のデートって浮くだろ?特に街中だとさ」
 どうやら経験があるらしい。ノエルは頷くだけにした。
「津久見さんと仲がいいんだ。ディズニーに行ける日を押さえといてもらおっと」
 陵は言いながらスマホをいじっていた。
 津久見と直接面識があるとは困ったものだ。破格の対応もそこからきているのだ。これは陵が上客となる日はすぐに来るのかもしれない。ノエルは頭痛がしてきた。
「ねえ。本当に抱いていいの?」
 メールを打ち終わった陵がノエルに近づく。
「ああ。俺の仕事にはそれも含まれてる」
 ノエルは何でもないように言った。
「子ども相手だよ?」
「でも、俺が抱く側ではないからな。それに、陵が裁判を起こすことも警察に駆け込むこともないだろ?」
 陵はにっこりと笑った。
「それはもちろん。津久見さんの前で誓約書も書いてるしね」
 言いながら陵は座っていたノエルを押し倒す。
「飯食ったとこだぞ」
 まだゴミも片付いていないベッドの上に、さすがのノエルも苦情を言った。
「本番って、何回までいいの?」
 陵はどこ吹く風で質問してくる。
「何回って。元気だな」
 ノエルに回数が言えるわけがない。下手をすれば自分の首を締める。
「俺のこと、忘れなくさせたい」
 陵は囁くように言うと、ノエルの唇を奪った。
 慣れたもので、すぐに舌を絡めてくる。
「のめり込むと津久見が許可しなくなるぞ」
 唇が離れたところで、ノエルは忠告した。
「解ったよ。ほどほどにする」
 陵は答えながらも、ノエルのネクタイを緩めていた。
 そこから夜が長かったのは、言うまでもないことだった。



高校生とは思えない手慣れた様子に、ノエルは思わず苦笑してしまう。
「陵」
 スーツ姿でと要望を出しただけあって、陵はノエルの服を総て脱がせることはしない。今もワイシャツの前を肌蹴させただけで、そのまま胸の突起に触れている。
「下手?」
 心配になったのか、陵が訊いてきた。
「いや。そうじゃなくて」
 さすがに大人として対応しなければと思うノエルは、どう振る舞っていいか決めかねていた。
「じゃあ、素直に反応してよ。これは」
「んっ」
 いきなり突起を摘ままれて、ノエルはついに声を出した。
「安心してよ。これでも経験豊富だからさ」
「んっ、そういう問題か?」
 指の動きに反応しつつも、ノエルとしてはいいのか迷う。受理された依頼と思っていても、良心はある。高校生が自分のような奴と関係を持つのがいいとは思えない。
「させてくれるって、言ったじゃん」
 陵はにやりと笑うと、ノエルの迷いを払うかのように両方を摘み上げた。
「んんっ」
 ノエルはぎりぎり、あられもない声を上げることを止めた。
「ノエル」
「解った。ちゃんとするから」
 摘ままれたまま呼ばれ、ノエルはそう言った。すると、陵は安心したように今度は突起に唇を落とした。
「んんっ」
 仕方なくノエルは腹を括った。相手をすると言っておいて手を抜くのは失礼だ。こうなったら陵に身を委ねる。
 陵は本当に慣れていて、すぐに舌先で転がすような動きを加えてくる。
「あっ」
 はっきりと声が出てしまい、ノエルは思わず口を手の甲で押さえた。
「強めが好きなんだ」
 ノエルの弱点を発見したとばかりに、陵は嬉しそうな声を出した。
「うん。でも」
 素直に認めつつ、その刺激ばかりは止めろと目で訴えた。
「ちぇっ」
 残念とばかりに舌打ちすると、陵の手がベルトに掛かる。引き抜く動作も慣れたものだ。しかし、ここでもスーツのままに拘るようで、ノエルのズボンはひざ下まで降ろされただけだ。
「陵。あの」
「ダメ?」
 言いながらも陵は下着も同じ位置までしかずらさない。本当に色々と慣れている。
「いや」
 ノエルは首を振ったが、上も下も服があるままというのは恥ずかしさを煽るものがある。
 が、許されたと解ると、陵はすぐに続きの行動へと移る。ノエルの前を握ると、ゆるゆると扱き始めた。
「あっ、んっ」
 巧みに追い上げられ、ノエルは素直に喘ぐ。
「これは」
 陵は言うと、指を離して口の中に含んだ。そしてねっとりと舌を絡めてくる。
「んんっ」
 口でのことも巧みである。我慢する暇もないほど呆気なく、ノエルは陵の口の中に出していた。すると陵は見せつけるように飲み込む。
「バカ」
 大人げなくノエルはそう言っていた。何だか恥ずかしい。
「おいしかったよ」
 陵はけろっとした顔で言う。本当に将来が恐ろしい奴だ。ノエルは呆れ返っていた。
 ようやくノエルのズボンと下着を総て取り払った陵は、自分の指をしっかりと舐めて尻へと潜り込ませる。
「んんっ」
 上はやっぱ着たままかと、指の動きを感じながらノエルは思った。しっかりとジャケットを着たままは、やはり恥ずかしさがある。前がはだけているからほぼ裸のようなものだが、それでもなお、羞恥心を煽るには十分だ。
「あっ」
 しかし、そんなことを考えている余裕はすぐになくなった。陵がノエルの感じる場所を探し当てたのだ。
「ここでしょ?」
「んんっ、あっ」
 集中して刺激され、ノエルは身悶えた。すぐに指も増やされる。ぐちゅぐちゅと、卑猥な音が響き始めた。
「んん。もう」
「入れていい?」
 確認され、ノエルは頷いた。このままずっと刺激されるのは辛い。陵も服を脱ぐ気はないようで、ズボンから勃起したモノを出しただけだ。
「陵」
「ノエルもさ。高校生としてるっていうのを楽しんでよ」
 言うと、ノエルの中に一気に侵入してきた。
「んんっ」
 入ってしまうと、若いからかすぐに追い上げてくる。絶えず刺激され、息次ぐ暇もない。
「ああっ」
 ノエルもその動きに合わせ、同時に果てていた。
「よすぎ。すんげえ締め付けられる」
 陵は抜くことなくそう言うと、すぐにまた動き始める。そこはすでに、大きく勃起していた。ぐじゅっと、卑猥な音が響きだす。
「ちょっ」
 ノエルは焦った。これは宣言どおり、何回も付き合わされるようだ。
「服着たままは、後一回だけだからさ」
 陵は不敵に笑う。いや、そうなると全部で何回なんだよ。ノエルは心の中で突っ込んだ。まったくもう、遠慮すらない。
 先ほどは性急だったと思ったのか、今度は味わうようにゆっくりとした動きだ。
「んっ」
 それでも的確に刺激され、ノエルは喘ぐ。
「堪んないね」
 陵は嬉しそうだ。本当に中身はエロおやじである。
「あっ」
 このまま緩慢な動きを続けられては身が持たない。ノエルは必死に刺激を返すことにした。腹に力を入れ、ぎゅっと締め付ける。
「くっ」
 陵が差し迫った声を出す。こうやってやり返されるのは初めてのようだ。すると、焦ったように激しく動き出す。
「んんっ」
 もう一度果てると、ようやく陵が抜いた。
「陵」
「まだ」
 陵はノエルの言葉を遮るように言うと、ノエルの服を総て取り払った。服は乱雑にベッドの下に落とされる。さらに陵も服を脱ぎ捨てた。
 まだ子どもらしさのある体格。ノエルの目には新鮮だ。しかし、そんな余裕を持っていられたのも一瞬だ。
 陵がまた、尻へと指を潜り込ませる。
「んっ」
 中にあるものを掻き出すような動きに、ノエルは悶えた。ぐちゅぐちゅと、大きな音がして足の間を愛液が伝う。
「一回出しとかないとしんどいでしょ?」
「んんっ。そうだけど」
 陵の指の動きはただ出すだけではない。次の準備をするように刺激も加えてくる。水っぽい音が室内に響き渡った。
「はあっ」
 ノエルは思わずねだるように陵の首に手を回していた。すると待ってましたとばかりに指が抜かれ、あそこがあてがわれる。
「いくよ」
 陵はそう言って、三度目を始めたのだった。



 朝目覚めると、ノエルより先に陵が起きていた。
 若さの違いだなと、ノエルは裸のまま背伸びをしていた陵を見つめた。
「あっ、起きた?身体、大丈夫?」
 陵がベッドに戻りながら訊く。
「やりすぎた自覚があるならいい。予約は半年以上先にしてもらわないとな」
 ノエルは苦笑した。
「ごめん。やっぱプロだなって思うとさ」
 陵は夜のことを思い出したのかにやけた顔をする。
「嬉しくないな、まったく」
 ノエルは顔を顰めた。正直に言うと腰が痛い。
「二回目、津久見さんが許可してくれた。でも、日付はまだ決められないって」
 陵がスマホの画面をノエルの前に差し出した。
 アドレスは本当に津久見のものだった。それもプライベートのものだ。
「そうか。まあ、予約がすでにいくつか入っているからな」
 ノエルは予定を思い出していた。今日は津久見がこうなることを予想してか休みだが、明日には西に移動しなければならない。
「独占はさせられないって、言われてた。でも、好きだ」
「――」
 いきなりの告白に、ノエルは見事に固まった。
「本当はノエルが働き始めた頃から知ってる。その時から好きだった。でも、津久見さんがなかなか許可してくれなくて。今回も頼み込んでようやくオーケーしてくれたんだ。お前がそれほど必死になるのは初めてだからって」
 陵の告白に、ノエルはどうしていいのか解らなかった。ひょっとしたら津久見は、ノエルが二度目を断ると思っていたのだろうか。
 誰かに執着したくない。そう願っているが、ノエルから断るのはトラブルになりそうな客だけだ。
 それにしても、この仕事を始めてもう三年になる。陵は中学生の頃からノエルを好きだった計算だ。
「ノエル。この仕事を続けるのか?」
 きっと自分のものになれと言いたいのだろう。
「続けるよ。俺は、逃げたいんだ」
 ノエルは陵の視線から顔を背けていった。まだ、自分の過去とは決別できていない。逃げなければならなかった。
「――そうか。じゃあ、また客としてだね」
 陵は色々と我慢して、そう言っていた。津久見と親しいのなら、ノエルの事情もある程度知っているのだろう。
「待ってる」
 ノエルに言えることはそれだけだった。
 その日の夜、津久見から詫びと苦情が混ざったようなメールが届いた。まあ、半分は愚痴なのかもしれない。
「津久見さんも訳ありってことだな」
 ノエルは最後に書かれた言葉を見て、思わず笑っていた。
『陵の孤独に気づいてくれたことは感謝する』
 そう思うなら、ノエルをくれてやるとでも言えばよさそうなものだ。それでもノエルのことを立てているのだから、気苦労の塊だと思ってしまう。
「まだ、誰のものにもなれない」
 久々に一人の夜に、ノエルはゆっくりとビールを飲んでいた。
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