国立第三魔法学院魔法薬学研究科は今日も平和です(たぶん)

渋川宙

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第47話 計画犯しかいねえ

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 それはともかくとして、天花は大きな壁にぶつかっている最中で、そこで事故に巻き込まれてしまったことがショックで記憶喪失になり、さらにその記憶喪失を利用して、自分で開発していたプログラミングのことも忘れたことにしているのではないか。
 というのが佳希の立てた仮説だ。
「なるほど。石川先生に期待されるくらいのプログラミングを作ろうと意気込んでいたけど、上手くいかなかったと」
 俺はなるほどねえと頷く。
「そうすれば、事故が起こった理由も自ずと見えてくる。壁にぶつかって意気消沈中。そうなれば、集中力がいつもより下がっていたと考えても不思議じゃない」
 佳希は何かと説明が付く状況になってきたと得意顔だ。
「じゃあ、夏恋ちゃんはそういうことを知っていて、記憶喪失を心配してるってことよね」
 胡桃も、徐々に何をすればいいか解ってきたわと大きく頷く。
「おおい、君たち。他学科のトラブル解決もいいけど、授業だぞ」
 そこに旅人をノックアウトした須藤がやって来て、話し合いは一旦お開きになるのだった。


 さて、夕方。俺は友葉に連絡し、再び夏恋を巻き込んだ女子会に参加もらうという役目を負っていた。
「しかし、なぜ俺が連絡しなきゃなんねえんだ? 友葉とも仲良くなったんじゃねえのかよ」
「それを言うならば、俺は完全に巻き込まれる理由はないからな」
 俺のぼやきに、今日も巻き込まれている大狼が、解ってんのかと睨んできた。
「乗りかかった船だろ。どうせお前だって天花先輩の記憶喪失が気になるくせに」
 しかし、それに関して俺は一蹴。と
「やっほ~」
 どごんと背中にぶつかる衝撃を感じた。振り向くまでもなく友葉だ。
「お前はなぜ俺に激突しなきゃ気が済まないんだ?」
「えっ、隙だらけだから? あっ、大狼くん、こんにちは」
「こ、こんにちは」
 俺への激突を初めて目撃した大狼は若干引いていたが、それでも挨拶を返した。この男、アンデッドには平然としているわりに、こういうところで驚くらしい。意外な一面だ。
「で、女子会が開かれているのに、なぜ俺はこいつと待ち合わせをして、しかもお前と女子会会場に向わなきゃならんのだ?」
「え? 聞いてないの? ほら、自分で言うのもなんだけど、私も一時、魔法科でやっていけるか悩んでたじゃん。で、それを真央に聞いてもらったでしょ。そんな感じの流れに持って行きたいからよ」
「はあ?」
 友葉の説明は要領を得ない。俺はどういうことだと顔を顰めていると
「一芝居打つということか」
 大狼は理解出来たようで、そう訊ねる。
「そうそう。私はもう悩みは吹っ切れているけど、でも、やっぱりエリート意識にはまだ馴染まないし、愚痴が一杯だよ。で、吐き出しやすい相手は真央でしょ。あれこれ愚痴言いながら歩くから、二人は適度に宥めてね」
「ええっ」
「了解」
 嫌がる俺とは違い、意外とあっさり了承する大狼だ。
(そういうところだぞ、巻き込まれる原因)
 俺はこいつも同じ犬タイプだったかと心の中で安心し、ともかく、友葉の愚痴に付き合いながら前回と同じ喫茶店に向うのだった。



 喫茶店に着くと、友葉以外のメンバーは揃っていた。それを確認してから友葉が
「本当に嫌になっちゃうのよねえ」
 これ見よがしに言ってくれる。
 それまで愚痴なのかただの世間話なのか解らない話を聞かされていた俺は
「そんなこと言っても仕方ねえだろ」
 本心から言っていた。
「ホント、真央って相談相手に向かないなあ。ごめんね、大狼くん。じゃあ」
 で、友葉はやれやれと言って俺たちから離れ、女子会のテーブルに向って行く。
「なるほど。お前が演技なんて出来ないことを見越しての愚痴か」
「てめえ、ぶっ飛ばすぞ」
 くすっと笑う大狼に、俺はマジでムカつきながら言った。要するに、先ほどの仕方ないという言葉に信憑性を持たせるために、俺は友葉を呼び出し無駄話に付き合ったということになる。
(だから、俺は便利屋じゃねえぞ)
 やっぱり納得出来ないポジションだと腹が立ってくる。
「藤城、早瀬、こっちこっち」
 と、そこに先にやって来て席取りしていた旅人が俺たちを呼んだ。そのテーブルにはすでに俺たちの分のアイスコーヒーが載っている。
「まったく、疲れたよ」
「お疲れ。俺はあいつらの会話に疲れたけどね」
 旅人は女子会を覗き見るってのも疲れるよと溜め息だ。すでに精神的ダメージを負うような会話が展開されていたらしい。
「で、天花先輩の問題は壁にぶち当たったからだって」
 大狼は早速コーヒーを飲みつつ、ついでに今日のオススメケーキを注文している。
「らしいね。あ、話題がそれっぽいのになったよ」
 旅人はそう言って女子のテーブルを指す。友葉が加わったことで、話題が自然とシフトしたというところか。
(本当に計画犯しかいねえ)
 俺はげんなりしつつも、女子たちの会話に耳を傾ける。
「そうなの。魔法科に入ったら自分より凄い人ばっかりでさ。なんとか一学期の定期試験は突破できそうだけど、これからが心配なのよ」
 友葉が先ほど俺と話していた内容を夏恋に伝えている。
 実際、その部分で友葉はリアルに悩んでいるらしい。周囲よりも見劣りする気がする。エリート意識を持てるほど魔法に自信がない。そういう話も愚痴の中には混ざっていた。
「魔法科でもそうなんだ。やっぱり、実際にやってみるのは違うんだね。私、隕石衝突前の自動車が大好きだから、第二志望工学にしたんだけど、進んだら色々と困惑させられるんだよね」
 で、夏恋の素直な愚痴も飛び出していた。
 って、夏恋。自動車が好きって理由で工学を選んだのか。それはそれで意外だ。
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