国立第三魔法学院魔法薬学研究科は今日も平和です(たぶん)

渋川宙

文字の大きさ
上 下
46 / 48

第46話 薬学科は楽天家

しおりを挟む
「個人的に? それって授業と関係なくってことですか?」
「そう。でも、これは工学科では珍しいことじゃないよ。色々と試作品を作ることは奨励されているし、そのために学院内にある機材を使うことも認められている。もちろん、先生たちに許可を貰う必要はあるけれども、よっぽど変なものを作ろうとしない限り、ほぼ百パーセント許可は出すよ」
 俺の質問に、石川は凄いだろと意気揚々と答えてくれる。ふうむ、本当に所変わればで、薬学科では考えらえない話だ。
 とはいえ、危険度で言えば明らかに薬学科が上だから、これは仕方ない。自白剤やら惚れ薬やら、すでに先生たち監修とはいえ、ヤバいものしか出来上がっていないのだから。
「ふむ。つまり、板東は申請をして新たなプログラミングを作っていたということか」
「そう。まだ電気魔法で使えるコンピュータは少ないからね。それに製品化されていない、試作品段階のものを使うことになるから、申請に対して少し慎重になるから、誰が何をしているか覚えているんだ。だから間違いない。俺は板東さんならばと許可したし、何が出来るようになるのかなって、ちょっと期待してたんだけど。まあ、忘れてしまうようなものだったとすれば、それほど進歩的なものは出来ていなかったのかもしれない」
 石川はそう言って笑い飛ばすが、それこそ偽装記憶喪失のヒントではないかと、俺も須藤も感じていた。


「なるほど。個人的に研究していたプログラミングか。それに誘導して夏恋から聞き出せばいいんだな」
「あ、ああ」
 昨日のことを佳希に報告すると、やはり物騒な返答があって俺はちょっと引き気味に頷く。ホント、女子って何なんだ?
「天花先輩、相当期待されているってことですよね。それなのに事故やら記憶喪失やら、変なことになってるのか。そりゃあ、夏恋ちゃんは心配よね」
 しかし、佳希と違って少し夏恋に同情する胡桃の反応にほっとする。普段は俺たちに謎の上から目線の胡桃だが、女子としての感覚は普通だ。
「そうだな。石川先生も、天花先輩だったら新しいものを作れるはずって期待していたって言ってたし」
 俺はそれだけ期待されるって、かなり優秀な学生ってことだよなと、改めて考える。事故は日常茶飯事らしいので仕方ないとしても、どうして記憶がなくなったと言っているのだろう。やはり裏があるように感じる。
「優秀だからこそ、壁にぶつかったのかもしれんぞ」
 が、佳希は石川の見解を聞いて違う感想を持ったようだ。そう言って俺の鼻先に指を向ける。
「な、なんだよ」
「藤城、お前は魔法科以外に何も考えられないほど、魔法能力に自信があったんだろ?」
 そしていきなりそんな質問をしてくる。
「え、ま、まあな」
 俺は確かにそのとおりだったし、何より両親が魔法科出身なので、自分もいけるものだと信じて疑っていなかった部分がある。
「ならば、魔法学院の受験で第一志望を落ちた時、壁にぶつかったわけだ」
「あ、ああ」
 一体佳希が何を言いたいのか解らないが、魔法科に入れなかったことで、国家魔法師を諦めるという一つの壁にはぶつかった。とはいえ、俺は魔法学院自体に憧れがあったから、何となくカッコイイ魔法薬学に進んでしまったし、大きな壁にぶつかったという感覚はなかった。
 っていうか、受験でもう無理だなと解らされるレベルに自分の魔法が足りていない実感を得てしまったし。
「意外だな。お前って増田先生に憧れもあったし、国家魔法師として対抗試合に出たいという夢もあったのに、あまりそれをダメージとして受け取っていないのか?」
 今更だがと、佳希は俺を不思議そうに見る。
「そうだな。ぶっちゃけ、魔法学院に入るってところが目標になっていたから、まあ、薬学でもいいよって感じだな。浪人すりゃ良かったかなって入学式の時にはちょっと思ったけど、その後のあれこれでぶっ飛んだし、今は楽しいし」
 俺の意見に、参考にならんなあと佳希は顔を顰める。
「まあ、薬学科来る人ってそういう人ばっかりじゃない? わりと楽天家っていうか。まあ、私は何が何でも魔法科じゃなかったけど、薬学選んだのは楽しそうだから、だし」
 胡桃は仕方ないよと、俺を援護しているのかしていないのか解らないまとめをしてくれる。
「ぐええええ」
 と、そこに今まで教室にいなかった旅人が、謎の呻き声とともに現われた。
「どうした?」
「ば、罰の、激マズジュースがっ。うおおおおっ、甘いジュースをくれええ」
 どうやらこの間の自白剤作りでビーカーを割った罰を受けて来たようだ。昨日は俺がずっと須藤と一緒にいたから、刑の執行が今日になったらしい。
「ほら、これやるよ」
 俺は教室に来る前に買っていたリンゴ味の炭酸ジュースを渡してやる。
「ああ、ありがとう」
 旅人は受け取ると、それを一気飲みし、ようやく苦さから解放されたようだ。しかし、そのまま机に突っ伏してしまう。ダメージが大きすぎたらしい。
「ねっ? うちら、悩むのが苦手だよ」
 胡桃がそうまとめたことに、俺も佳希も抗議する言葉を持ち合わせていないのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!

珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。 3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。 高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。 これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!! 転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!

伝説の魔術師の弟子になれたけど、収納魔法だけで満足です

カタナヅキ
ファンタジー
※弟子「究極魔法とかいいので収納魔法だけ教えて」師匠「Σ(゚Д゚)エー」 数十年前に異世界から召喚された人間が存在した。その人間は世界中のあらゆる魔法を習得し、伝説の魔術師と謳われた。だが、彼は全ての魔法を覚えた途端に人々の前から姿を消す。 ある日に一人の少年が山奥に暮らす老人の元に尋ねた。この老人こそが伝説の魔術師その人であり、少年は彼に弟子入りを志願する。老人は寿命を終える前に自分が覚えた魔法を少年に託し、伝説の魔術師の称号を彼に受け継いでほしいと思った。 「よし、収納魔法はちゃんと覚えたな?では、次の魔法を……」 「あ、そういうのいいんで」 「えっ!?」 異空間に物体を取り込む「収納魔法」を覚えると、魔術師の弟子は師の元から離れて旅立つ―― ――後にこの少年は「収納魔導士」なる渾名を付けられることになる。

大国に囲まれた小国の「魔素無し第四王子」戦記(最強部隊を率いて新王国樹立へ)

たぬころまんじゅう
ファンタジー
 小国の第四王子アルス。魔素による身体強化が当たり前の時代に、王族で唯一魔素が無い王子として生まれた彼は、蔑まれる毎日だった。  しかしある日、ひょんなことから無限に湧き出る魔素を身体に取り込んでしまった。その日を境に彼の人生は劇的に変わっていく。  士官学校に入り「戦略」「戦術」「武術」を学び、仲間を集めたアルスは隊を結成。アルス隊が功績を挙げ、軍の中で大きな存在になっていくと様々なことに巻き込まれていく。  領地経営、隣国との戦争、反乱、策略、ガーネット教や3大ギルドによる陰謀にちらつく大国の影。様々な経験を経て「最強部隊」と呼ばれたアルス隊は遂に新王国樹立へ。 異能バトル×神算鬼謀の戦略・戦術バトル! ☆史実に基づいた戦史、宗教史、過去から現代の政治や思想、経済を取り入れて書いた大河ドラマをお楽しみください☆

転生テイマー、異世界生活を楽しむ

さっちさん
ファンタジー
題名変更しました。 内容がどんどんかけ離れていくので… ↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓ ありきたりな転生ものの予定です。 主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。 一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。 まっ、なんとかなるっしょ。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

処理中です...