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第46話 薬学科は楽天家
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「個人的に? それって授業と関係なくってことですか?」
「そう。でも、これは工学科では珍しいことじゃないよ。色々と試作品を作ることは奨励されているし、そのために学院内にある機材を使うことも認められている。もちろん、先生たちに許可を貰う必要はあるけれども、よっぽど変なものを作ろうとしない限り、ほぼ百パーセント許可は出すよ」
俺の質問に、石川は凄いだろと意気揚々と答えてくれる。ふうむ、本当に所変わればで、薬学科では考えらえない話だ。
とはいえ、危険度で言えば明らかに薬学科が上だから、これは仕方ない。自白剤やら惚れ薬やら、すでに先生たち監修とはいえ、ヤバいものしか出来上がっていないのだから。
「ふむ。つまり、板東は申請をして新たなプログラミングを作っていたということか」
「そう。まだ電気魔法で使えるコンピュータは少ないからね。それに製品化されていない、試作品段階のものを使うことになるから、申請に対して少し慎重になるから、誰が何をしているか覚えているんだ。だから間違いない。俺は板東さんならばと許可したし、何が出来るようになるのかなって、ちょっと期待してたんだけど。まあ、忘れてしまうようなものだったとすれば、それほど進歩的なものは出来ていなかったのかもしれない」
石川はそう言って笑い飛ばすが、それこそ偽装記憶喪失のヒントではないかと、俺も須藤も感じていた。
「なるほど。個人的に研究していたプログラミングか。それに誘導して夏恋から聞き出せばいいんだな」
「あ、ああ」
昨日のことを佳希に報告すると、やはり物騒な返答があって俺はちょっと引き気味に頷く。ホント、女子って何なんだ?
「天花先輩、相当期待されているってことですよね。それなのに事故やら記憶喪失やら、変なことになってるのか。そりゃあ、夏恋ちゃんは心配よね」
しかし、佳希と違って少し夏恋に同情する胡桃の反応にほっとする。普段は俺たちに謎の上から目線の胡桃だが、女子としての感覚は普通だ。
「そうだな。石川先生も、天花先輩だったら新しいものを作れるはずって期待していたって言ってたし」
俺はそれだけ期待されるって、かなり優秀な学生ってことだよなと、改めて考える。事故は日常茶飯事らしいので仕方ないとしても、どうして記憶がなくなったと言っているのだろう。やはり裏があるように感じる。
「優秀だからこそ、壁にぶつかったのかもしれんぞ」
が、佳希は石川の見解を聞いて違う感想を持ったようだ。そう言って俺の鼻先に指を向ける。
「な、なんだよ」
「藤城、お前は魔法科以外に何も考えられないほど、魔法能力に自信があったんだろ?」
そしていきなりそんな質問をしてくる。
「え、ま、まあな」
俺は確かにそのとおりだったし、何より両親が魔法科出身なので、自分もいけるものだと信じて疑っていなかった部分がある。
「ならば、魔法学院の受験で第一志望を落ちた時、壁にぶつかったわけだ」
「あ、ああ」
一体佳希が何を言いたいのか解らないが、魔法科に入れなかったことで、国家魔法師を諦めるという一つの壁にはぶつかった。とはいえ、俺は魔法学院自体に憧れがあったから、何となくカッコイイ魔法薬学に進んでしまったし、大きな壁にぶつかったという感覚はなかった。
っていうか、受験でもう無理だなと解らされるレベルに自分の魔法が足りていない実感を得てしまったし。
「意外だな。お前って増田先生に憧れもあったし、国家魔法師として対抗試合に出たいという夢もあったのに、あまりそれをダメージとして受け取っていないのか?」
今更だがと、佳希は俺を不思議そうに見る。
「そうだな。ぶっちゃけ、魔法学院に入るってところが目標になっていたから、まあ、薬学でもいいよって感じだな。浪人すりゃ良かったかなって入学式の時にはちょっと思ったけど、その後のあれこれでぶっ飛んだし、今は楽しいし」
俺の意見に、参考にならんなあと佳希は顔を顰める。
「まあ、薬学科来る人ってそういう人ばっかりじゃない? わりと楽天家っていうか。まあ、私は何が何でも魔法科じゃなかったけど、薬学選んだのは楽しそうだから、だし」
胡桃は仕方ないよと、俺を援護しているのかしていないのか解らないまとめをしてくれる。
「ぐええええ」
と、そこに今まで教室にいなかった旅人が、謎の呻き声とともに現われた。
「どうした?」
「ば、罰の、激マズジュースがっ。うおおおおっ、甘いジュースをくれええ」
どうやらこの間の自白剤作りでビーカーを割った罰を受けて来たようだ。昨日は俺がずっと須藤と一緒にいたから、刑の執行が今日になったらしい。
「ほら、これやるよ」
俺は教室に来る前に買っていたリンゴ味の炭酸ジュースを渡してやる。
「ああ、ありがとう」
旅人は受け取ると、それを一気飲みし、ようやく苦さから解放されたようだ。しかし、そのまま机に突っ伏してしまう。ダメージが大きすぎたらしい。
「ねっ? うちら、悩むのが苦手だよ」
胡桃がそうまとめたことに、俺も佳希も抗議する言葉を持ち合わせていないのだった。
「そう。でも、これは工学科では珍しいことじゃないよ。色々と試作品を作ることは奨励されているし、そのために学院内にある機材を使うことも認められている。もちろん、先生たちに許可を貰う必要はあるけれども、よっぽど変なものを作ろうとしない限り、ほぼ百パーセント許可は出すよ」
俺の質問に、石川は凄いだろと意気揚々と答えてくれる。ふうむ、本当に所変わればで、薬学科では考えらえない話だ。
とはいえ、危険度で言えば明らかに薬学科が上だから、これは仕方ない。自白剤やら惚れ薬やら、すでに先生たち監修とはいえ、ヤバいものしか出来上がっていないのだから。
「ふむ。つまり、板東は申請をして新たなプログラミングを作っていたということか」
「そう。まだ電気魔法で使えるコンピュータは少ないからね。それに製品化されていない、試作品段階のものを使うことになるから、申請に対して少し慎重になるから、誰が何をしているか覚えているんだ。だから間違いない。俺は板東さんならばと許可したし、何が出来るようになるのかなって、ちょっと期待してたんだけど。まあ、忘れてしまうようなものだったとすれば、それほど進歩的なものは出来ていなかったのかもしれない」
石川はそう言って笑い飛ばすが、それこそ偽装記憶喪失のヒントではないかと、俺も須藤も感じていた。
「なるほど。個人的に研究していたプログラミングか。それに誘導して夏恋から聞き出せばいいんだな」
「あ、ああ」
昨日のことを佳希に報告すると、やはり物騒な返答があって俺はちょっと引き気味に頷く。ホント、女子って何なんだ?
「天花先輩、相当期待されているってことですよね。それなのに事故やら記憶喪失やら、変なことになってるのか。そりゃあ、夏恋ちゃんは心配よね」
しかし、佳希と違って少し夏恋に同情する胡桃の反応にほっとする。普段は俺たちに謎の上から目線の胡桃だが、女子としての感覚は普通だ。
「そうだな。石川先生も、天花先輩だったら新しいものを作れるはずって期待していたって言ってたし」
俺はそれだけ期待されるって、かなり優秀な学生ってことだよなと、改めて考える。事故は日常茶飯事らしいので仕方ないとしても、どうして記憶がなくなったと言っているのだろう。やはり裏があるように感じる。
「優秀だからこそ、壁にぶつかったのかもしれんぞ」
が、佳希は石川の見解を聞いて違う感想を持ったようだ。そう言って俺の鼻先に指を向ける。
「な、なんだよ」
「藤城、お前は魔法科以外に何も考えられないほど、魔法能力に自信があったんだろ?」
そしていきなりそんな質問をしてくる。
「え、ま、まあな」
俺は確かにそのとおりだったし、何より両親が魔法科出身なので、自分もいけるものだと信じて疑っていなかった部分がある。
「ならば、魔法学院の受験で第一志望を落ちた時、壁にぶつかったわけだ」
「あ、ああ」
一体佳希が何を言いたいのか解らないが、魔法科に入れなかったことで、国家魔法師を諦めるという一つの壁にはぶつかった。とはいえ、俺は魔法学院自体に憧れがあったから、何となくカッコイイ魔法薬学に進んでしまったし、大きな壁にぶつかったという感覚はなかった。
っていうか、受験でもう無理だなと解らされるレベルに自分の魔法が足りていない実感を得てしまったし。
「意外だな。お前って増田先生に憧れもあったし、国家魔法師として対抗試合に出たいという夢もあったのに、あまりそれをダメージとして受け取っていないのか?」
今更だがと、佳希は俺を不思議そうに見る。
「そうだな。ぶっちゃけ、魔法学院に入るってところが目標になっていたから、まあ、薬学でもいいよって感じだな。浪人すりゃ良かったかなって入学式の時にはちょっと思ったけど、その後のあれこれでぶっ飛んだし、今は楽しいし」
俺の意見に、参考にならんなあと佳希は顔を顰める。
「まあ、薬学科来る人ってそういう人ばっかりじゃない? わりと楽天家っていうか。まあ、私は何が何でも魔法科じゃなかったけど、薬学選んだのは楽しそうだから、だし」
胡桃は仕方ないよと、俺を援護しているのかしていないのか解らないまとめをしてくれる。
「ぐええええ」
と、そこに今まで教室にいなかった旅人が、謎の呻き声とともに現われた。
「どうした?」
「ば、罰の、激マズジュースがっ。うおおおおっ、甘いジュースをくれええ」
どうやらこの間の自白剤作りでビーカーを割った罰を受けて来たようだ。昨日は俺がずっと須藤と一緒にいたから、刑の執行が今日になったらしい。
「ほら、これやるよ」
俺は教室に来る前に買っていたリンゴ味の炭酸ジュースを渡してやる。
「ああ、ありがとう」
旅人は受け取ると、それを一気飲みし、ようやく苦さから解放されたようだ。しかし、そのまま机に突っ伏してしまう。ダメージが大きすぎたらしい。
「ねっ? うちら、悩むのが苦手だよ」
胡桃がそうまとめたことに、俺も佳希も抗議する言葉を持ち合わせていないのだった。
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