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第45話 女子ってスパイなのか
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ともかく話を聞き出すという難関が、佳希たちのおかげでクリア出来そうだ。これに関しては女子に任せるのが一番だろう。
「じゃあ、後は頼んだ」
俺は丸投げしても大丈夫だよなとそう思ったのだが
「お前は石川先生担当だ。前回の自白剤は妙な効き方をしてしまって、肝心の天花先輩に関する部分が薄い。朝倉先生か須藤先生と組んで、もう少し情報を引き出してくれ」
肩をガシッと掴まれ、新たな指示を頂戴する羽目になるのだった。
「やあ。この前は俺が意識を失った時、看病してくれたんだって。ありがとう」
「へっ、お、おう」
夕方。授業終わりの石川に突撃したところ、そんな礼を言われて俺は戸惑う。
「朝倉先生が適当は嘘を植え付けたんだな。自白剤はその間の記憶が残らないことが多い」
そんな俺に、須藤がそう説明してくれた。
「へえ」
俺はあっさり手伝うと了承してくれた須藤がいてくれて良かったと思いつつ、幼馴染みにホント容赦ねえなと朝倉の行動にドン引きだ。
(魔法学院の先生たち、やっぱ変な奴ばっかりなんだよなあ)
俺はきょとんとしている石川と、挑発的に笑っている須藤を見比べて溜め息を吐く。
「ええっと、それでどうしたんだい?」
石川が俺と須藤の表情の真意を読めず、戸惑った声で訊いてくる。
「ああ、そうそう。板東さんの成績がどんな感じか、少し教えて欲しくてね。記憶喪失に絡んで、影響がないかも確認したいんだ」
そして須藤はあっさりとそんな嘘を言う。もちろん成績にかこつけて天花に関する情報を引き出すつもりだというのは解るが、ストレートに訊いてもよさそうなものなのにと、俺は不思議な気持ちになる。すると
「馬鹿だな。成績の相談ほど、うっかり学生の情報を喋る瞬間はないぞ」
須藤が俺の考えを読んで、そう耳打ちしてくる。
(まったくもう、朝から何なんだよ。この学院の女子、みんなスパイか何かなのか)
情報を引き出す能力が長けた女子たちに、俺はますますがっくりと項垂れてしまうのだった。
「板東さんはとても成績が優秀でね。俺は凄く信用している子なんだ」
数十分後。石川は満面の笑みで天花をそう評していた。
凄いよね。俺は完全に主導権を須藤に明け渡し、横で二人の会話を聞いているしかない。
「これだけ数学が出来るとなると、将来は色々なことに生かせそうだな」
須藤は成績表を見て、にこにことさらに天花を褒めている。
「そうそう。今時の子に珍しいくらい、数学に真剣に取り組んでくれていてね。これならば失われつつあるコンピュータの技術も、彼女ならば再構築出来るんじゃないか、なんて期待しちゃうよ」
石川は須藤の指摘に満足して、そんなことを言う。
(よほど、石川は天花先輩のことを気に入ってるんだなあ。ひょっとしてこの二人、アヤシイ関係とか?)
俺はそんな邪推を展開しつつ
(でも、それならば記憶がないことをもう少し心配するよなあ)
二人がカップル説は弱いかと気づく。
むしろ情熱的に天花を見ているのは夏恋だ。夏恋のあの感極まった感じは、ちょっと種類が違うものの紬に通じる部分がある。
つまり、対象に対して思いが一直線。
そう考えると、恋心を抱いているのは石川ではなく夏恋か。
なんか面倒だ。
「そこまで褒めるとなると、彼女の卒研の指導は石川先生が担当するのか?」
と、俺は一人であれこれ考えている間に、須藤の質問がいつしか天花の来年の話になっていた。
卒研とはもちろん卒業研究のことだ。ここでの研究が卒業に必要な卒論に繋がるというわけである。このあたりのシステムは大学と変わりがない。
「そうだね。すでにコンピュータ開発を手伝って貰っているから、そのままコンピュータ関連のことを卒研にするはずだよ」
石川は間違いなくこの分野だろうねと大きく頷く。
「あの事故があったのに?」
と、ここで爆発事故があったのも、その研究室ではなかったかと須藤の目が光る。しかし、石川は表情を変えることがなかった。
「関係ないよ。爆発事故に関しては電気魔法を溜める機械の電圧の問題であって、コンピュータそのものに絡んでいるわけじゃない。それに、この機械の事故を恐れていては、工学研究科ではどうしようもないんだ。総てにおいての基本だし、それでいて、事故はかなりの頻度で起きることを、学生たちは学んでいるんだ。事故に巻き込まれたのは運が悪かった。そのくらいだよ」
それどころか、くじ引きで凶を引くようなものだと、めちゃくちゃ軽い例を出してくれる。
「そういうものなのか」
須藤も意外だったようで、そんなに軽い扱いなのかと驚く。薬学科であのレベルの事故が起こったら、それこそ大問題だからだ。
「うん。工学に携わっていたら人生で一回以上は経験、または近くで起こるレベルだよ。だからこそ、常日頃から対電気魔法と防御魔法を欠かさないようにと指導するんだ。事故は起こることが前提なんだよ。だから、一年の授業は二つの魔法を徹底的に身につけるところから始まるんだ」
石川は日常茶飯事だからねと苦笑する。
「ははあ。所変わればだな。しかし、これだけ機械に囲まれて何かをするのだから、事故は常に念頭に置くべきか」
辺りを見渡し、機械だらけの空間を見て、須藤はそういうものかと納得した。しかし、そうなってくるとますます奇妙なのが天花の記憶喪失だ。
「先生は天花先輩が妙な部分を忘れているって感じたことはないんですか?」
俺はそろそろ質問しても大丈夫だよなと、ようやく本日の目的の部分を訊ねる。
「ううん。そうだな。ちょいちょい忘れているんだなとは思ったけど、これといって決定的なことはなかったような・・・・・・ああ、個人的に組み立てていたプログラミングに関して忘れているようで、どうしてだろうと思ったけど」
そう言って石川は、妙なのはこの部分かなあと教えてくれた。
「じゃあ、後は頼んだ」
俺は丸投げしても大丈夫だよなとそう思ったのだが
「お前は石川先生担当だ。前回の自白剤は妙な効き方をしてしまって、肝心の天花先輩に関する部分が薄い。朝倉先生か須藤先生と組んで、もう少し情報を引き出してくれ」
肩をガシッと掴まれ、新たな指示を頂戴する羽目になるのだった。
「やあ。この前は俺が意識を失った時、看病してくれたんだって。ありがとう」
「へっ、お、おう」
夕方。授業終わりの石川に突撃したところ、そんな礼を言われて俺は戸惑う。
「朝倉先生が適当は嘘を植え付けたんだな。自白剤はその間の記憶が残らないことが多い」
そんな俺に、須藤がそう説明してくれた。
「へえ」
俺はあっさり手伝うと了承してくれた須藤がいてくれて良かったと思いつつ、幼馴染みにホント容赦ねえなと朝倉の行動にドン引きだ。
(魔法学院の先生たち、やっぱ変な奴ばっかりなんだよなあ)
俺はきょとんとしている石川と、挑発的に笑っている須藤を見比べて溜め息を吐く。
「ええっと、それでどうしたんだい?」
石川が俺と須藤の表情の真意を読めず、戸惑った声で訊いてくる。
「ああ、そうそう。板東さんの成績がどんな感じか、少し教えて欲しくてね。記憶喪失に絡んで、影響がないかも確認したいんだ」
そして須藤はあっさりとそんな嘘を言う。もちろん成績にかこつけて天花に関する情報を引き出すつもりだというのは解るが、ストレートに訊いてもよさそうなものなのにと、俺は不思議な気持ちになる。すると
「馬鹿だな。成績の相談ほど、うっかり学生の情報を喋る瞬間はないぞ」
須藤が俺の考えを読んで、そう耳打ちしてくる。
(まったくもう、朝から何なんだよ。この学院の女子、みんなスパイか何かなのか)
情報を引き出す能力が長けた女子たちに、俺はますますがっくりと項垂れてしまうのだった。
「板東さんはとても成績が優秀でね。俺は凄く信用している子なんだ」
数十分後。石川は満面の笑みで天花をそう評していた。
凄いよね。俺は完全に主導権を須藤に明け渡し、横で二人の会話を聞いているしかない。
「これだけ数学が出来るとなると、将来は色々なことに生かせそうだな」
須藤は成績表を見て、にこにことさらに天花を褒めている。
「そうそう。今時の子に珍しいくらい、数学に真剣に取り組んでくれていてね。これならば失われつつあるコンピュータの技術も、彼女ならば再構築出来るんじゃないか、なんて期待しちゃうよ」
石川は須藤の指摘に満足して、そんなことを言う。
(よほど、石川は天花先輩のことを気に入ってるんだなあ。ひょっとしてこの二人、アヤシイ関係とか?)
俺はそんな邪推を展開しつつ
(でも、それならば記憶がないことをもう少し心配するよなあ)
二人がカップル説は弱いかと気づく。
むしろ情熱的に天花を見ているのは夏恋だ。夏恋のあの感極まった感じは、ちょっと種類が違うものの紬に通じる部分がある。
つまり、対象に対して思いが一直線。
そう考えると、恋心を抱いているのは石川ではなく夏恋か。
なんか面倒だ。
「そこまで褒めるとなると、彼女の卒研の指導は石川先生が担当するのか?」
と、俺は一人であれこれ考えている間に、須藤の質問がいつしか天花の来年の話になっていた。
卒研とはもちろん卒業研究のことだ。ここでの研究が卒業に必要な卒論に繋がるというわけである。このあたりのシステムは大学と変わりがない。
「そうだね。すでにコンピュータ開発を手伝って貰っているから、そのままコンピュータ関連のことを卒研にするはずだよ」
石川は間違いなくこの分野だろうねと大きく頷く。
「あの事故があったのに?」
と、ここで爆発事故があったのも、その研究室ではなかったかと須藤の目が光る。しかし、石川は表情を変えることがなかった。
「関係ないよ。爆発事故に関しては電気魔法を溜める機械の電圧の問題であって、コンピュータそのものに絡んでいるわけじゃない。それに、この機械の事故を恐れていては、工学研究科ではどうしようもないんだ。総てにおいての基本だし、それでいて、事故はかなりの頻度で起きることを、学生たちは学んでいるんだ。事故に巻き込まれたのは運が悪かった。そのくらいだよ」
それどころか、くじ引きで凶を引くようなものだと、めちゃくちゃ軽い例を出してくれる。
「そういうものなのか」
須藤も意外だったようで、そんなに軽い扱いなのかと驚く。薬学科であのレベルの事故が起こったら、それこそ大問題だからだ。
「うん。工学に携わっていたら人生で一回以上は経験、または近くで起こるレベルだよ。だからこそ、常日頃から対電気魔法と防御魔法を欠かさないようにと指導するんだ。事故は起こることが前提なんだよ。だから、一年の授業は二つの魔法を徹底的に身につけるところから始まるんだ」
石川は日常茶飯事だからねと苦笑する。
「ははあ。所変わればだな。しかし、これだけ機械に囲まれて何かをするのだから、事故は常に念頭に置くべきか」
辺りを見渡し、機械だらけの空間を見て、須藤はそういうものかと納得した。しかし、そうなってくるとますます奇妙なのが天花の記憶喪失だ。
「先生は天花先輩が妙な部分を忘れているって感じたことはないんですか?」
俺はそろそろ質問しても大丈夫だよなと、ようやく本日の目的の部分を訊ねる。
「ううん。そうだな。ちょいちょい忘れているんだなとは思ったけど、これといって決定的なことはなかったような・・・・・・ああ、個人的に組み立てていたプログラミングに関して忘れているようで、どうしてだろうと思ったけど」
そう言って石川は、妙なのはこの部分かなあと教えてくれた。
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