国立第三魔法学院魔法薬学研究科は今日も平和です(たぶん)

渋川宙

文字の大きさ
上 下
44 / 48

第44話 女子会って恐ろしい!?

しおりを挟む
 しかし、何があったか他学科である自分たちに知る術はなく、夏恋の悩みを解決するにはほど遠い状況にある。
「っていうか、夏恋ちゃんは何がショックなんだろう。それほど天花先輩が気にしていないことにショックって、よく考えたら解らないなあ」
 記憶喪失が嘘ならば、どうして夏恋にあれだけ衝撃が走るのか。俺は謎じゃねえかと一同を見渡す。
「確かに。よくよく考えれば、記憶喪失じゃないのに騙されている夏恋ちゃんにも何かありそうよね」
 胡桃はそっちも疑わなきゃいけないのかと腕を組む。
「よし。では藤城。女子会を開いてくれ」
「は? 女子会? ってかなんで俺に言うんだ?」
 佳希からの提案は意味が解らないうえに、どうして女子じゃない俺が巻き込まれているんだ。解らんと首を捻っていると
「何を言っているんだ。お前の幼馴染みの協力が必要だ」
 何か思いついたらしい佳希は、にやりと笑ってそう言ってくれるのだった。


「なにこれ、美味しい」
「お茶も、飲んだことない味だけど、すっごく爽やかでいいね。ハーブティーなんだ」
 そう盛り上がる女子たちを横目で見ながら
「なにこれ」
「さあな」
 俺たち男子は離れたところで溜め息だ。
 場所は近所の喫茶店。俺が意地で巨大パフェを食い切った店である。そこで、夏恋をはじめとして提案者の佳希、胡桃、さらに魔法科の友葉、紬まで巻き込み、一年女子会が開かれている。それを俺たちがこっそ覗いているわけだが、なんでこうなる?
「女子同士ならば警戒心が薄れ、うっかりぽろっと喋るってところか」
 横では常に巻き込み事故に遭っている大狼が、俺のチャレンジした巨大パフェに食らいつきながら指摘する。
 っていうか、こいつの私服を初めて見たな。ジーンズにTシャツと至って普通、シンプルなものだが、スクラブ姿しか見たことがなかったので新鮮だ。
「うっかり喋るのを期待するのはいいけどさ。頼んでいる量がおかしくないか。そして、喋っている話題もとりとめがないよな」
 俺はそんな大狼から目を女子会に戻し、女子のお菓子に対する食欲とトーク力って凄えなと感心してしまう。よくまあ、あれだけぱくぱくとお菓子を食べ、話題がころころと変わり、そして常に笑っていられるものだ。お菓子はともかく、俺ならばあのペースで喋っていたら、三十分で力尽きる。今も
「石川先生、可愛いよね」
「でしょ。金髪に染めてて一見不良っぽいけど、性格は子猫なのよ」
「子猫。それはいいね」
「いいのか。それより私は犬っぽい男子が好き」
 と、石川の評価をしていたかと思えば
「犬っぽいっていうと、藤城じゃない。困っている人を見るとすぐに助けたくなっちゃうみたいだし」
「ああ、解る。真央って結局は尽くしちゃうタイプなのよねえ」
 と話が俺に飛び火している。
(おい、誰が犬だ。お前らの便利屋じゃねえぞ、俺は)
 犬の代表にしてくれた胡桃と、同意した友葉を俺は睨んでしまった。
「ドンマイ!」
 それに対して旅人は笑顔だ。自分が選ばれなくてほっとしているのだろう。今までに見たことがないほど笑顔が輝いている。
「朝倉先生は一匹狼っぽいけど、意外と群れを大事にするタイプだよな。常に全体を見ている」
 その間も話は進み、佳希のぶれない朝倉への評価が聞こえてきたかと思えば
「増田先生は子犬タイプよ。かまってちゃんだもん。しかもご主人様一直線のぶれないタイプで、他からちょっかい出されると怒っちゃう、超可愛い性格をしているんだよねえ」
 とこちらもぶれない紬の言葉が聞こえてくる。
「あいつら、男をそういう目で見てるんだな」
 すでに巨大パフェを半分食った大狼が、何やら遠い目をしている。
「まあ、俺たちが女子をあれこれ言うのと一緒なんだろうけど、何か違うよなあ」
 そう、男子がする女子の評価と何かが違う。こう、内面を抉ってくるというか、男子の妄想半分の評価と何かが違う、怖さを感じてしまう。しかし、それを言葉にするのは憚れる。そんな感じなのだ。
「生々しいんだよね、なんか」
 俺と同じ感想を持ったらしい旅人が、アイスコーヒーを飲みながらげんなりしていた。そして、女子会は二度と覗くまいと心に誓っている様子だ。
「あれだ。社会的な部分をしっかり評価されている」
「だああ。言うなよ」
 ついに結論に辿り着いた大狼がそう言うので、俺は肩をど突いておく。そう、彼女たちの話に怖さや生々しさを感じるのは、日頃の行いをしっかり見られているという点だ。全女子がこうだとは信じたくないが、びっくりするくらい挙動を観察されている。
 その後も女子たちの男子への評価は続き、俺たちはがっくりと肩を落とすしかないのだった。


「昨日のあれ、収穫はあったのか?」
 翌日。精神的ダメージを負ったので損害賠償を求めたいくらいの心境の俺だが、佳希に進展はあったのかと訊ねる常識と理性はあった。
「もちろん。あれにより、夏恋ちゃんの防御力は半減したと思っていい」
 でもって、佳希はなんとも独特な表情をしてくれる。お前らは俺たちの体力ゲージをゼロにした自覚はあるのか。
「防御力?」
 しかし、なぜそういう言い方になるのかと、俺は疑問になって首を傾げるしかない。
「記憶喪失になった天花先輩を助けて欲しい。この結論に至った動機を聞き出すには、まずは仲良くなってしまうのが手っ取り早いだろ。信頼できる友人だと思ってくれれば、すんなり吐いてくれるに違いない」
 佳希はあれを見ていて気づかないのかと言ってくれるが、俺はお前のその考えがゲスで怖いですとドン引きだ。
「つまり、昨日のアレは心の距離を縮めるためだったと」
「そういうことだ。しかも私たちだけでなく、友葉ちゃんたちがいたことで、警戒心は一気に低くなっていたはずだからな。ふふっ、見てろ」
「いや、ホント、お前ゲスだろ」
 俺はついに口に出して言ってしまった。すると当然のように、俺のすねが蹴飛ばされる。
「いてっ」
「正しい手順と言え。そもそもはお前が話を聞いて引き受けたのが問題だろ」
「はいはい。左様でございますね」
 ついつい声を掛け、泣かれてしまって助けてやると言ったのは俺ですよ。昨日犬と言われてしまった俺は、さっさと白旗を揚げておく。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!

珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。 3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。 高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。 これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!! 転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!

【本編完結済み/後日譚連載中】巻き込まれた事なかれ主義のパシリくんは争いを避けて生きていく ~生産系加護で今度こそ楽しく生きるのさ~

みやま たつむ
ファンタジー
【本編完結しました(812話)/後日譚を書くために連載中にしています。ご承知おきください】 事故死したところを別の世界に連れてかれた陽キャグループと、巻き込まれて事故死した事なかれ主義の静人。 神様から強力な加護をもらって魔物をちぎっては投げ~、ちぎっては投げ~―――なんて事をせずに、勢いで作ってしまったホムンクルスにお店を開かせて面倒な事を押し付けて自由に生きる事にした。 作った魔道具はどんな使われ方をしているのか知らないまま「のんびり気ままに好きなように生きるんだ」と魔物なんてほっといて好き勝手生きていきたい静人の物語。 「まあ、そんな平穏な生活は転移した時点で無理じゃけどな」と最高神は思うのだが―――。 ※「小説家になろう」と「カクヨム」で同時掲載しております。

伝説の魔術師の弟子になれたけど、収納魔法だけで満足です

カタナヅキ
ファンタジー
※弟子「究極魔法とかいいので収納魔法だけ教えて」師匠「Σ(゚Д゚)エー」 数十年前に異世界から召喚された人間が存在した。その人間は世界中のあらゆる魔法を習得し、伝説の魔術師と謳われた。だが、彼は全ての魔法を覚えた途端に人々の前から姿を消す。 ある日に一人の少年が山奥に暮らす老人の元に尋ねた。この老人こそが伝説の魔術師その人であり、少年は彼に弟子入りを志願する。老人は寿命を終える前に自分が覚えた魔法を少年に託し、伝説の魔術師の称号を彼に受け継いでほしいと思った。 「よし、収納魔法はちゃんと覚えたな?では、次の魔法を……」 「あ、そういうのいいんで」 「えっ!?」 異空間に物体を取り込む「収納魔法」を覚えると、魔術師の弟子は師の元から離れて旅立つ―― ――後にこの少年は「収納魔導士」なる渾名を付けられることになる。

大国に囲まれた小国の「魔素無し第四王子」戦記(最強部隊を率いて新王国樹立へ)

たぬころまんじゅう
ファンタジー
 小国の第四王子アルス。魔素による身体強化が当たり前の時代に、王族で唯一魔素が無い王子として生まれた彼は、蔑まれる毎日だった。  しかしある日、ひょんなことから無限に湧き出る魔素を身体に取り込んでしまった。その日を境に彼の人生は劇的に変わっていく。  士官学校に入り「戦略」「戦術」「武術」を学び、仲間を集めたアルスは隊を結成。アルス隊が功績を挙げ、軍の中で大きな存在になっていくと様々なことに巻き込まれていく。  領地経営、隣国との戦争、反乱、策略、ガーネット教や3大ギルドによる陰謀にちらつく大国の影。様々な経験を経て「最強部隊」と呼ばれたアルス隊は遂に新王国樹立へ。 異能バトル×神算鬼謀の戦略・戦術バトル! ☆史実に基づいた戦史、宗教史、過去から現代の政治や思想、経済を取り入れて書いた大河ドラマをお楽しみください☆

転生テイマー、異世界生活を楽しむ

さっちさん
ファンタジー
題名変更しました。 内容がどんどんかけ離れていくので… ↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓ ありきたりな転生ものの予定です。 主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。 一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。 まっ、なんとかなるっしょ。

処理中です...