国立第三魔法学院魔法薬学研究科は今日も平和です(たぶん)

渋川宙

文字の大きさ
上 下
41 / 48

第41話 自白剤の製薬だぜ

しおりを挟む
「それで、単純な記憶喪失の話じゃなくなったって、どういうことだ?」
 朝倉は大あくびをすると、改めて説明してくれと俺たちに訊ねる。ということで、朝からの出来事をざっと説明した。
「ふむふむ。じゃあ、石川先生に取り敢えず自白剤を飲んで貰うか」
 で、あっさり朝倉がそんなことを言うので
「いいんですか?」
 俺は不信感たっぷりな声を響かせて訊いてしまう。いくら先生同士とはいえ、自白剤なんてそう簡単に使っていい物とは思えない。
「大丈夫だろう。あいつはただの機械馬鹿だしね。よし、一年生諸君、自白剤を作ってくれ」
 しかし、朝倉の石川に対する扱いは軽い上に酷く、あっさりそんな指示だけ残して去って行ったのだった。


「今回の事件の担当を石川先生にしちゃうし、二人の関係ってなんなの?」
 さて、俺たちはそのまま実験室に移動して自白剤の製薬方法を須藤から講義されていたのだが、胡桃が作業に取り掛かる前に佳希に質問する。
「ああ。朝倉先生と石川先生は友人関係にあるんだよ。幼馴染みみたいなものだと言っていたから、今回の天花先輩と夏恋の関係みたいなもんだな」
 そしてそれに対して佳希はビーカーを用意しながら、あっさりと答えてくれる。
「あのさ、その情報って」
「増田先生からだ。昨日、あれこれ質問されたから、ついでに聞き出しておいた」
「ああ、そう」
 俺は確認するだけ馬鹿だったなと、溜め息を吐いてしまう。あの惚れ薬事件以来、佳希と増田は強力なタッグを組んでいる。是非とも紬にもこの同盟に入ってもらいたいものだ。
「ふうん。じゃあ、これを飲ましても問題ないのか」
 で、旅人が原材料である蠢くキョウチクトウを持ちながら、うげっと顔を顰めている。これを飲ましてオッケーって思っている幼馴染みなんて持ちたくない。顔が明確にそう訴えている。
「問題ないって言ってもいいかは不明だけど、同意は取りやすいんだろ」
 俺はどこかに置けよと、うねうね蠢くキョウチクトウに顔を顰める。別に動く植物なんて珍しくないが、こいつの動きはヘビを彷彿させて嫌だ。気持ち悪い。
「はあ。任せた」
 旅人はそんなヘビのようなキョウチクトウを俺に押しつけてくれる。俺はうねうねの動きにイラッとして
「てりゃ!」
 力任せに折り曲げていた。するとますますうねうね動く。
「うおおおっ。気持ち悪っ」
「馬鹿。刻まないと動き続けるぞ」
 うねうねが倍になったとドン引きする俺に、須藤はとっととやれと包丁を渡してくる。まったく、薬学科に入ってから、圧倒的に包丁を使う機会が増えた。俺はやれやれと思いながらも
「おりゃああああ」
 慣れた手つきで高速でみじん切りしていく。
「凄いぞ、藤城」
「さすが、伸びしろがある」
「おい、胡桃。さりげなく馬鹿にしてんだろ!」
 拍手してくれる佳希と違い、やっぱり上から目線の胡桃だ。俺は呆れつつも、無事にキョウチクトウの束をみじん切りすることに成功した。さすがにバラバラになってしまっては、キョウチクトウも動かない。
「ええっと次は」
「これだ」
 ぬっと差し出されたのは、この間、脱走事件を演じてくれた朝顔だった。といっても、須藤が持っているのはその種なので、脱走することはない。
「刻んだキョウチクトウと朝顔の種をミキサーに入れて混ぜ合わせろ」
「はい」
 俺が頷くと、佳希がささっとミキサーを持ってきてくれる。このおっぱい変人は、色々とおかしな部分があるものの、基本は優秀だ。
 こうしてミキサーで二つをしっかり混ぜ合わせる。その途中で止めて、魔法カリウムを混ぜ合わせながら、しっかりスムージー状になるまで混ぜる。
「よし。四つのビーカーに分けて入れろ」
 しっかり混ぜ合わさったことを確認し、須藤が胡桃にそう命じた。胡桃はテキパキと均等に四つのビーカーに液体を注ぐ。注がれた液体は、ただの緑色の不味そうなスムージである。
「さて、諸君。ここからが魔法薬学の本題だ」
 俺たち一年それぞれにビーカーを持たせた須藤は、空のビーカーを手に基礎を思い出せと、もう一方の手をビーカーの上に翳す。それは魔法を掛けて変性させる時の動きだ。
「うっ」
「あれか」
 入学初っ端、試薬でやってビーカーを粉砕した過去がある俺と旅人は顔を顰める。
「大丈夫だ。この二ヶ月でお前たちも様々なことを学んでいる。薬が正しく出来上がるように念じながら、そっと魔法を掛けろ」
 俺たちに向けて須藤は自信を持てと笑ってくれる。確かにこの二ヶ月は色んなことがあったが、基本魔法が上手くなったかは別だと思う。
「ええい」
 しかし、ここでやらないという選択肢はないので、俺はビーカーの上に手を翳し、大きく息を吸うと
「薬学魔法基礎・変性」
 気合いとともに魔法を発動した。すると、ぼふんとビーカーから煙が上がる。
「うっ」
 失敗したのかと俺は咄嗟に目を瞑ったが
「凄い」
「綺麗な水色になってる」
 旅人と胡桃の声で目を開けた。
「あっ」
「成功してるぞ」
 須藤よりも先に佳希が正しい状態だと教えてくれる。と、佳希の手には同じく緑から水色になった液体が入ったビーカーがあった。
「いや、お前、いつの間に」
「私は詠唱しなくても使えるようになってるからな」
「ぐっ」
 まだまだ薬学馬鹿には追いついていないってか。俺は悔しがるが
「薬学魔法基礎・変性!」
 横で旅人が魔法を発動。さらに、ばりんっというビーカーが砕ける音が続いてそれどころではなくなる。
「ぎゃあああ。へ、ヘドロが」
「お前は成長がないなあ。罰として特性激マズ薬草ジュースな」
 手や髪に飛び散ったヘドロ状になった薬品に顔を顰めると、すぐに須藤が罰を言い渡す。それに俺たちは苦笑しつつも
「ジュースもあるんだ」
 そっちが気になるのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

シェイドシフト〜滅びかけた世界で暗躍する〜

フライハイト
ファンタジー
ある日地球に《神裁の日》が訪れる。 日本の政府が運営する研究所ではとある物質の研究がなされていた。 だがある日その物質はとある理由で暴走し地球を飲み込んでしまう。 何故、暴走したのか?その裏には《究明機関》という物質を悪用しようとする組織の企みがあったからだった。 神裁の日、組織の連中は研究所から研究データを盗もうとするがミスを犯してしまった。 物質に飲み込まれた地球は急な環境変化で滅びの一途を辿ったと思われたが、 人類、そして他の生物たちは適応し逆にその物質を利用して生活をするようになった。 だが、その裏ではまだ《究明機関》は存在し闇で動いている。 そんな中、その研究所で研究者をやっていた主人公は神判の日に死んだと思われたが生と死の狭間で神近しい存在《真理》に引き止められ《究明機関》を壊滅させるため神裁の日から千年経過した地球に転生し闇から《究明機関》を壊滅させるため戦う。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!

珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。 3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。 高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。 これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!! 転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!

伝説の魔術師の弟子になれたけど、収納魔法だけで満足です

カタナヅキ
ファンタジー
※弟子「究極魔法とかいいので収納魔法だけ教えて」師匠「Σ(゚Д゚)エー」 数十年前に異世界から召喚された人間が存在した。その人間は世界中のあらゆる魔法を習得し、伝説の魔術師と謳われた。だが、彼は全ての魔法を覚えた途端に人々の前から姿を消す。 ある日に一人の少年が山奥に暮らす老人の元に尋ねた。この老人こそが伝説の魔術師その人であり、少年は彼に弟子入りを志願する。老人は寿命を終える前に自分が覚えた魔法を少年に託し、伝説の魔術師の称号を彼に受け継いでほしいと思った。 「よし、収納魔法はちゃんと覚えたな?では、次の魔法を……」 「あ、そういうのいいんで」 「えっ!?」 異空間に物体を取り込む「収納魔法」を覚えると、魔術師の弟子は師の元から離れて旅立つ―― ――後にこの少年は「収納魔導士」なる渾名を付けられることになる。

転生テイマー、異世界生活を楽しむ

さっちさん
ファンタジー
題名変更しました。 内容がどんどんかけ離れていくので… ↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓ ありきたりな転生ものの予定です。 主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。 一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。 まっ、なんとかなるっしょ。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

処理中です...