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第39話 爆発事故と板東天花
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機械だらけの廊下を進み、さらに機械で埋め尽くされた研究室が連なるフロアに案内される。もう、どこもかしこも色んな音を立てる機械だらけで、ここにいるだけで変になりそうだ。窓はところどころにあるものの、閉鎖された空間という印象が強い。
「ちょっと気分が悪くなってきた」
同じく目眩寸前らしい旅人が呟くので、俺もと同意しておく。
「ああ。ごめんね。魔法電磁波ってたまに体質と合わない人がいるみたいなんだ。魔法工学科に入ったはいいけど、魔法電磁波にやられて他の科に移動しちゃう人もいるからね」
石川が無理だと思ったら言ってくれ、と気弱そうな顔をさらに気弱なものにする。
「結構大変なんだな」
「ああ」
俺たちが魔法電磁波ってどんなものだろうと思いつつ、ここで研究することの大変さを考えていると
「ここか?」
現場の研究室を見つけた須藤が、石川に確認を取る。
「はい。魔法電気を溜めておく機械がありますよね。それが爆発したんです。研究室自体は魔法電気でも使えるコンピュータの開発中だったんですよ」
石川はさっさと研究室のドアを開け、どうぞと薬学科一行を招いてくれる。
「コンピュータってあれだよな。隕石衝突前は超重要だったっていう機械」
俺の確認に
「コンピュータがあれば何でも出来るという時代だったそうだ。今では魔法でどんなものでも記憶して持ち運べるが、魔法がない時代はそうはいかない。で、コンピュータに覚え込ませておくんだって。他にも計算やら文書の作成、動画を配信して見る、ゲームなど、使用方法は多岐に亘ったらしい」
何でも勉強してくる佳希が教えてくれる。
「へえ。便利なのか不便なのか解んないな」
だが、コンピュータが廃れて久しい世界に生きている俺には、今ひとつピンとこない話だった。
「まあ、魔法は万能だからね。全員が全員凄い魔法を使えるわけじゃないけど、機械文明に取って代わるだけの能力は全人類が有しているよ。AI搭載のスピーカーがあったなんて、もう誰も信じてくれないレベルだもん」
そんな俺の反応に、難しいよねえと石川は細くカットされた眉尻を下げる。
「ふうん。で、ここで爆発事故があったんだろ」
俺はますます解らん単語が出てきそうだと、さっさと話を事件に戻した。薬学科が興味を持っているのは、記憶回復の魔法薬が出来るのかという部分だ。
「そう。どうやら機械を立ち上げる時にエラーが起きて、電圧が急上昇したようなんだ。それでどっかんと爆発」
それに関して石川の説明は簡潔だ。事故そのもののは単純で、よくある部類の事故だったという。
「で、そこにいたのが板東っていう女子だったと」
「うん。板東さんは今年で三年だからね。機械の操作には慣れているから、朝の必要な機械の立ち上げを任されていたんだ。だから、事故が起こった時はびっくりしたよ」
石川は一年がやったならまだしもと難しい顔だ。
「板東さんはそれほど怪我をしていなかったようだな」
須藤はうちに連絡が来なかったがと、その点を確認する。
「ええ。それはもちろん。どんな機械を使う場合でも防御魔法と対電気魔法を使うように指導してあるから、大怪我にはなりませんでした。だから感電死することも、爆発によって身体のどこかが吹っ飛ばされることもなかったというわけです」
石川は一応安全対策はしてるのでと教えてくれる。つまり、それだけ防御していたので、医学科に運ばれて、そこにある在庫の薬で対応するだけだったというわけだ。
「ふうむ。記憶がないことに気づいたのは、うちに訴えてきた森本だけか?」
薬学科と違って一年だけでも三十人はいる工学科だ。他の人はおかしいと気づかなかったのかと須藤は確認する。
「いや、俺も名前を思い出してもらえなくて、あれってなりましたね。で、板東の周囲から話を聞いていると、どうやら部分的に記憶を失っているらしいって解ったんです。とはいえ、日常生活には影響がないし、覚えていないのも名前や魔法学院での出来事の一部みたいで、本人も気にしていなかったから、そのままになっていました」
石川はまさか薬学科に話が持ち込まれるとは思わなかったと困り顔だ。
「ふむ。森本さんも惚れ薬の開発を知るまで薬学科に頼ろうとは思わなかったようだが、それでも、ずっと記憶がないことを気に病んでいるようだったぞ」
しかし、問題認識にずれがあるなと須藤が指摘する。
「そうですね。俺たちに話している最中に泣き出したし」
俺も軽い感じじゃなかったよなと旅人に確認する。
「ああ。なんか重要なことを忘れているって感じだったぜ」
「ううん。なるほど。じゃあ、板東さんを呼んでくるしかないですね」
石川は簡単には終わらないのかと顔を顰め、ついでこめかみに指を当てて思念伝達を始める。すると、十分ほどで板東天花がやってきた。繋ぎ姿は工学部なので夏恋と同じだが、ショートカットでサバサバした性格をしていそうという印象を持つ女子だった。
「今日はわざわざすみません。夏恋が迷惑を掛けたようで」
しかも、本人はやはり失った記憶に関して深刻に考えていないようで、そう挨拶をしてくる。
「いえいえ。こちらとしても、記憶喪失を薬で治せるようになれば、他に困っている人を助けることも出来るようになりますからね。協力していただけると助かります」
そして須藤も、薬学科の実験の一環として扱うような挨拶を返す。そう言っておけば、少なくとも必要ないと会話を打ち切られることはないからだ。
「そうですか。そうですよね。私はたまたま運良く、人の名前やちょっとしたことを忘れている程度ですが」
それに天花も役に立てるのならばと頷いてくれる。
「ちょっと気分が悪くなってきた」
同じく目眩寸前らしい旅人が呟くので、俺もと同意しておく。
「ああ。ごめんね。魔法電磁波ってたまに体質と合わない人がいるみたいなんだ。魔法工学科に入ったはいいけど、魔法電磁波にやられて他の科に移動しちゃう人もいるからね」
石川が無理だと思ったら言ってくれ、と気弱そうな顔をさらに気弱なものにする。
「結構大変なんだな」
「ああ」
俺たちが魔法電磁波ってどんなものだろうと思いつつ、ここで研究することの大変さを考えていると
「ここか?」
現場の研究室を見つけた須藤が、石川に確認を取る。
「はい。魔法電気を溜めておく機械がありますよね。それが爆発したんです。研究室自体は魔法電気でも使えるコンピュータの開発中だったんですよ」
石川はさっさと研究室のドアを開け、どうぞと薬学科一行を招いてくれる。
「コンピュータってあれだよな。隕石衝突前は超重要だったっていう機械」
俺の確認に
「コンピュータがあれば何でも出来るという時代だったそうだ。今では魔法でどんなものでも記憶して持ち運べるが、魔法がない時代はそうはいかない。で、コンピュータに覚え込ませておくんだって。他にも計算やら文書の作成、動画を配信して見る、ゲームなど、使用方法は多岐に亘ったらしい」
何でも勉強してくる佳希が教えてくれる。
「へえ。便利なのか不便なのか解んないな」
だが、コンピュータが廃れて久しい世界に生きている俺には、今ひとつピンとこない話だった。
「まあ、魔法は万能だからね。全員が全員凄い魔法を使えるわけじゃないけど、機械文明に取って代わるだけの能力は全人類が有しているよ。AI搭載のスピーカーがあったなんて、もう誰も信じてくれないレベルだもん」
そんな俺の反応に、難しいよねえと石川は細くカットされた眉尻を下げる。
「ふうん。で、ここで爆発事故があったんだろ」
俺はますます解らん単語が出てきそうだと、さっさと話を事件に戻した。薬学科が興味を持っているのは、記憶回復の魔法薬が出来るのかという部分だ。
「そう。どうやら機械を立ち上げる時にエラーが起きて、電圧が急上昇したようなんだ。それでどっかんと爆発」
それに関して石川の説明は簡潔だ。事故そのもののは単純で、よくある部類の事故だったという。
「で、そこにいたのが板東っていう女子だったと」
「うん。板東さんは今年で三年だからね。機械の操作には慣れているから、朝の必要な機械の立ち上げを任されていたんだ。だから、事故が起こった時はびっくりしたよ」
石川は一年がやったならまだしもと難しい顔だ。
「板東さんはそれほど怪我をしていなかったようだな」
須藤はうちに連絡が来なかったがと、その点を確認する。
「ええ。それはもちろん。どんな機械を使う場合でも防御魔法と対電気魔法を使うように指導してあるから、大怪我にはなりませんでした。だから感電死することも、爆発によって身体のどこかが吹っ飛ばされることもなかったというわけです」
石川は一応安全対策はしてるのでと教えてくれる。つまり、それだけ防御していたので、医学科に運ばれて、そこにある在庫の薬で対応するだけだったというわけだ。
「ふうむ。記憶がないことに気づいたのは、うちに訴えてきた森本だけか?」
薬学科と違って一年だけでも三十人はいる工学科だ。他の人はおかしいと気づかなかったのかと須藤は確認する。
「いや、俺も名前を思い出してもらえなくて、あれってなりましたね。で、板東の周囲から話を聞いていると、どうやら部分的に記憶を失っているらしいって解ったんです。とはいえ、日常生活には影響がないし、覚えていないのも名前や魔法学院での出来事の一部みたいで、本人も気にしていなかったから、そのままになっていました」
石川はまさか薬学科に話が持ち込まれるとは思わなかったと困り顔だ。
「ふむ。森本さんも惚れ薬の開発を知るまで薬学科に頼ろうとは思わなかったようだが、それでも、ずっと記憶がないことを気に病んでいるようだったぞ」
しかし、問題認識にずれがあるなと須藤が指摘する。
「そうですね。俺たちに話している最中に泣き出したし」
俺も軽い感じじゃなかったよなと旅人に確認する。
「ああ。なんか重要なことを忘れているって感じだったぜ」
「ううん。なるほど。じゃあ、板東さんを呼んでくるしかないですね」
石川は簡単には終わらないのかと顔を顰め、ついでこめかみに指を当てて思念伝達を始める。すると、十分ほどで板東天花がやってきた。繋ぎ姿は工学部なので夏恋と同じだが、ショートカットでサバサバした性格をしていそうという印象を持つ女子だった。
「今日はわざわざすみません。夏恋が迷惑を掛けたようで」
しかも、本人はやはり失った記憶に関して深刻に考えていないようで、そう挨拶をしてくる。
「いえいえ。こちらとしても、記憶喪失を薬で治せるようになれば、他に困っている人を助けることも出来るようになりますからね。協力していただけると助かります」
そして須藤も、薬学科の実験の一環として扱うような挨拶を返す。そう言っておけば、少なくとも必要ないと会話を打ち切られることはないからだ。
「そうですか。そうですよね。私はたまたま運良く、人の名前やちょっとしたことを忘れている程度ですが」
それに天花も役に立てるのならばと頷いてくれる。
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