37 / 48
第37話 緊急・記憶回復薬は出来るのか会議
しおりを挟む
「はい。緊急・記憶回復薬は出来るのか会議です」
「おい。前と同じパターンだぞ」
教壇で仕切る遠藤に、俺は思わずそうツッコミを入れる。アンデッドの回収に来ただけのはずの大狼もまた巻き込まれていて、うんうんと頷いた。それと連動するように、横にいる女性アンデッドも同じように頷いている。
「いやあ、今年の一年生は面白い議題をよく見つけてきますねえ。これは授業に活かさない手はないでしょう」
しかし塩崎はそう言って呼び出した朝倉を見て笑顔だし
「そうですね。新たな視点を提供してくれます」
と朝倉は同意している。
「藤城、よくやった」
さらに須藤も面白い実験が出来そうだと生き生きしている。
「いやいや。トラブルが向こうから勝手に来ているだけだし」
俺はうっかり話を聞いてしまったが、呼び込んでいるわけではないと言い訳させてもらう。
「確かに、森本さんは惚れ薬の噂を聞いて、じゃあ他の薬も出来るんじゃないのって思っただけだからな。いや、そう考えると、惚れ薬開発のきっかけを作った藤城に責任がある」
だが、横で旅人が妙なことを言い出して、勘弁してくれよと思う。
そう、あのポニーテイルに繋ぎの少女、魔法工学研究科一年の森本夏恋《もりもとかれん》は惚れ薬の噂から、他の薬も作れるのではと考えてやって来た。
「記憶を取り戻す薬だって?」
俺は夏恋の言葉に、うっかり、そう、うっかりこう訊き返してしまった。すると夏恋はここぞとばかりに事情を話し始めた。
「先輩が事故で記憶を失っているみたいなんです。それも部分的に欠けている感じで、普通の記憶喪失とは違うんです。多くのことは覚えているんですよ。でも、肝心の部分がないんです」
「へ?」
しかも話が抽象的でよく解らなかったものだから、ますます相談内容を真剣に聞き出すことになってしまった。
「ああ、そうですよね。実は工学科で事故があって」
「それって四月の入学当初のやつ?」
旅人が農園にいる時に大爆発を起こしていたよねと、思い出して質問する。
「はい、それです。電気魔法を溜めておく装置が誤作動して大爆発をしたんですけど」
「凄え事故だな」
煙がもうもうと立ち上っていたのは見えたが、そんな事故があったのか。その割には魔法科の時のように、緊急呼び出しがなかったのが不思議だ。
「研究室にいたのは一人だけだったんです。すぐに魔法科が消火して、辺りに散らばった電気魔法も回収してくれましたから、医学科や薬学科には話が行かなかったんだと思います」
それに対して夏恋から明確な説明があった。しかし、その医学科や薬学科が関わらなかったせいでと悔しそうだ。
「まさか、記憶喪失に気づくのが遅れたってこと?」
「はい。怪我そのものは大きくなく、医学科に運ばれて簡単な手当を受けただけでした。でも、その頃から何かがおかしいんです。先輩、板東天花先輩は、事故の翌日から先生の名前を忘れていたり、簡単な魔法を忘れていたりと、変だったんです。もちろん事故のショックだろうと思われていたんですけど、二ヶ月近く経っても改善しません。それどころか酷くなっているようで。でも、医学科に相談しても脳に異常は見つからないって言われてしまって」
夏恋はぐすっとそこで鼻を啜った。
「その先輩と仲が良かったのか?」
四月の事故というと、まだ入学三日目くらいではなかったか。俺は不思議になって訊くと
「はい。近所に住んでいて、昔から何かとお世話になっていました。同じ工学科に入れて嬉しかったのに、先輩、何だかおかしくなっちゃって」
我慢できなくなったのか、そこで夏恋は大泣きしてしまった。そしてその泣き声を須藤が聞きつけ、何をやらかしたと俺と旅人はまとめて怒られ、実はと事情を説明したのが、緊急会議が始まる前の話だ。
「記憶喪失って医学じゃ解らねえの?」
俺はアンデッドの調子を確認している大狼に訊いてみる。
「脳に大きく損傷があれば解るが、それ以外だと特定できないだろうな。記憶喪失は心因性の場合も多いから」
大狼はこくこくと勝手に頷くアンデッドに辟易しながら、難しいぞと顔を顰めている。
「心因性。はあ、また心か」
今度はどんな変な植物をすり潰す羽目になるんだと、俺は顔を顰める。が、会議そのものが前回と違い、先生たちも難しい顔をしていた。
「香りが記憶を刺激しやすいと言いますから、そういう観点から攻めてはどうでしょう」
そう須藤が提案し
「いや、脳内に事故当時の映像を再現させるような働きを、惚れ薬の応用で起こさせるのはどうだ? 丁度、この間のネズミからメスを引き寄せるフェロモンを採取する事が出来た。これによって、特定の脳の動きを薬で促すことが出来るはずだ」
朝倉がそう言い
「そのショックはどうかと思います。それよりもリラックスさせて退行催眠がいいんじゃないですか」
遠藤が別の提案をしている。
というように、すぐに一方向に決まりそうにない。
「ともかく、その子に会わなきゃ始まりませんよ」
議論をのんびり聞いていた塩崎がそう言うと、俺の方を見てくる。俺は咄嗟に視線を逸らしたが、それで許してくれるはずがない。
「それもそうですね。おい、一年ども。明日は工学科に行くぞ」
夏恋を宥めてくれた須藤がそう言い、こうして俺たちは明日、朝から工学科に乗り込むことになるのだった。
「おい。前と同じパターンだぞ」
教壇で仕切る遠藤に、俺は思わずそうツッコミを入れる。アンデッドの回収に来ただけのはずの大狼もまた巻き込まれていて、うんうんと頷いた。それと連動するように、横にいる女性アンデッドも同じように頷いている。
「いやあ、今年の一年生は面白い議題をよく見つけてきますねえ。これは授業に活かさない手はないでしょう」
しかし塩崎はそう言って呼び出した朝倉を見て笑顔だし
「そうですね。新たな視点を提供してくれます」
と朝倉は同意している。
「藤城、よくやった」
さらに須藤も面白い実験が出来そうだと生き生きしている。
「いやいや。トラブルが向こうから勝手に来ているだけだし」
俺はうっかり話を聞いてしまったが、呼び込んでいるわけではないと言い訳させてもらう。
「確かに、森本さんは惚れ薬の噂を聞いて、じゃあ他の薬も出来るんじゃないのって思っただけだからな。いや、そう考えると、惚れ薬開発のきっかけを作った藤城に責任がある」
だが、横で旅人が妙なことを言い出して、勘弁してくれよと思う。
そう、あのポニーテイルに繋ぎの少女、魔法工学研究科一年の森本夏恋《もりもとかれん》は惚れ薬の噂から、他の薬も作れるのではと考えてやって来た。
「記憶を取り戻す薬だって?」
俺は夏恋の言葉に、うっかり、そう、うっかりこう訊き返してしまった。すると夏恋はここぞとばかりに事情を話し始めた。
「先輩が事故で記憶を失っているみたいなんです。それも部分的に欠けている感じで、普通の記憶喪失とは違うんです。多くのことは覚えているんですよ。でも、肝心の部分がないんです」
「へ?」
しかも話が抽象的でよく解らなかったものだから、ますます相談内容を真剣に聞き出すことになってしまった。
「ああ、そうですよね。実は工学科で事故があって」
「それって四月の入学当初のやつ?」
旅人が農園にいる時に大爆発を起こしていたよねと、思い出して質問する。
「はい、それです。電気魔法を溜めておく装置が誤作動して大爆発をしたんですけど」
「凄え事故だな」
煙がもうもうと立ち上っていたのは見えたが、そんな事故があったのか。その割には魔法科の時のように、緊急呼び出しがなかったのが不思議だ。
「研究室にいたのは一人だけだったんです。すぐに魔法科が消火して、辺りに散らばった電気魔法も回収してくれましたから、医学科や薬学科には話が行かなかったんだと思います」
それに対して夏恋から明確な説明があった。しかし、その医学科や薬学科が関わらなかったせいでと悔しそうだ。
「まさか、記憶喪失に気づくのが遅れたってこと?」
「はい。怪我そのものは大きくなく、医学科に運ばれて簡単な手当を受けただけでした。でも、その頃から何かがおかしいんです。先輩、板東天花先輩は、事故の翌日から先生の名前を忘れていたり、簡単な魔法を忘れていたりと、変だったんです。もちろん事故のショックだろうと思われていたんですけど、二ヶ月近く経っても改善しません。それどころか酷くなっているようで。でも、医学科に相談しても脳に異常は見つからないって言われてしまって」
夏恋はぐすっとそこで鼻を啜った。
「その先輩と仲が良かったのか?」
四月の事故というと、まだ入学三日目くらいではなかったか。俺は不思議になって訊くと
「はい。近所に住んでいて、昔から何かとお世話になっていました。同じ工学科に入れて嬉しかったのに、先輩、何だかおかしくなっちゃって」
我慢できなくなったのか、そこで夏恋は大泣きしてしまった。そしてその泣き声を須藤が聞きつけ、何をやらかしたと俺と旅人はまとめて怒られ、実はと事情を説明したのが、緊急会議が始まる前の話だ。
「記憶喪失って医学じゃ解らねえの?」
俺はアンデッドの調子を確認している大狼に訊いてみる。
「脳に大きく損傷があれば解るが、それ以外だと特定できないだろうな。記憶喪失は心因性の場合も多いから」
大狼はこくこくと勝手に頷くアンデッドに辟易しながら、難しいぞと顔を顰めている。
「心因性。はあ、また心か」
今度はどんな変な植物をすり潰す羽目になるんだと、俺は顔を顰める。が、会議そのものが前回と違い、先生たちも難しい顔をしていた。
「香りが記憶を刺激しやすいと言いますから、そういう観点から攻めてはどうでしょう」
そう須藤が提案し
「いや、脳内に事故当時の映像を再現させるような働きを、惚れ薬の応用で起こさせるのはどうだ? 丁度、この間のネズミからメスを引き寄せるフェロモンを採取する事が出来た。これによって、特定の脳の動きを薬で促すことが出来るはずだ」
朝倉がそう言い
「そのショックはどうかと思います。それよりもリラックスさせて退行催眠がいいんじゃないですか」
遠藤が別の提案をしている。
というように、すぐに一方向に決まりそうにない。
「ともかく、その子に会わなきゃ始まりませんよ」
議論をのんびり聞いていた塩崎がそう言うと、俺の方を見てくる。俺は咄嗟に視線を逸らしたが、それで許してくれるはずがない。
「それもそうですね。おい、一年ども。明日は工学科に行くぞ」
夏恋を宥めてくれた須藤がそう言い、こうして俺たちは明日、朝から工学科に乗り込むことになるのだった。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。
向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。
それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない!
しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。
……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。
魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。
木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ!
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
悪役令嬢は始祖竜の母となる
葉柚
ファンタジー
にゃんこ大好きな私はいつの間にか乙女ゲームの世界に転生していたようです。
しかも、なんと悪役令嬢として転生してしまったようです。
どうせ転生するのであればモブがよかったです。
この乙女ゲームでは精霊の卵を育てる必要があるんですが・・・。
精霊の卵が孵ったら悪役令嬢役の私は死んでしまうではないですか。
だって、悪役令嬢が育てた卵からは邪竜が孵るんですよ・・・?
あれ?
そう言えば邪竜が孵ったら、世界の人口が1/3まで減るんでした。
邪竜が生まれてこないようにするにはどうしたらいいんでしょう!?
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
婚約破棄してたった今処刑した悪役令嬢が前世の幼馴染兼恋人だと気づいてしまった。
風和ふわ
恋愛
タイトル通り。連載の気分転換に執筆しました。
※なろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、pixivに投稿しています。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
異世界に来たからといってヒロインとは限らない
あろまりん
ファンタジー
※ようやく修正終わりました!加筆&纏めたため、26~50までは欠番とします(笑)これ以降の番号振り直すなんて無理!
ごめんなさい、変な番号降ってますが、内容は繋がってますから許してください!!!※
ファンタジー小説大賞結果発表!!!
\9位/ ٩( 'ω' )و \奨励賞/
(嬉しかったので自慢します)
書籍化は考えていま…いな…してみたく…したいな…(ゲフンゲフン)
変わらず応援して頂ければと思います。よろしくお願いします!
(誰かイラスト化してくれる人いませんか?)←他力本願
※誤字脱字報告につきましては、返信等一切しませんのでご了承ください。しかるべき時期に手直しいたします。
* * *
やってきました、異世界。
学生の頃は楽しく読みました、ラノベ。
いえ、今でも懐かしく読んでます。
好きですよ?異世界転移&転生モノ。
だからといって自分もそうなるなんて考えませんよね?
『ラッキー』と思うか『アンラッキー』と思うか。
実際来てみれば、乙女ゲームもかくやと思う世界。
でもね、誰もがヒロインになる訳じゃないんですよ、ホント。
モブキャラの方が楽しみは多いかもしれないよ?
帰る方法を探して四苦八苦?
はてさて帰る事ができるかな…
アラフォー女のドタバタ劇…?かな…?
***********************
基本、ノリと勢いで書いてます。
どこかで見たような展開かも知れません。
暇つぶしに書いている作品なので、多くは望まないでくださると嬉しいです。
悪女の指南〜媚びるのをやめたら周囲の態度が変わりました
結城芙由奈
恋愛
【何故我慢しなければならないのかしら?】
20歳の子爵家令嬢オリビエは母親の死と引き換えに生まれてきた。そのため父からは疎まれ、実の兄から憎まれている。義母からは無視され、異母妹からは馬鹿にされる日々。頼みの綱である婚約者も冷たい態度を取り、異母妹と惹かれ合っている。オリビエは少しでも受け入れてもらえるように媚を売っていたそんなある日悪女として名高い侯爵令嬢とふとしたことで知りあう。交流を深めていくうちに侯爵令嬢から諭され、自分の置かれた環境に疑問を抱くようになる。そこでオリビエは媚びるのをやめることにした。するとに周囲の環境が変化しはじめ――
※他サイトでも投稿中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる