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第37話 緊急・記憶回復薬は出来るのか会議

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「はい。緊急・記憶回復薬は出来るのか会議です」
「おい。前と同じパターンだぞ」
 教壇で仕切る遠藤に、俺は思わずそうツッコミを入れる。アンデッドの回収に来ただけのはずの大狼もまた巻き込まれていて、うんうんと頷いた。それと連動するように、横にいる女性アンデッドも同じように頷いている。
「いやあ、今年の一年生は面白い議題をよく見つけてきますねえ。これは授業に活かさない手はないでしょう」
 しかし塩崎はそう言って呼び出した朝倉を見て笑顔だし
「そうですね。新たな視点を提供してくれます」
 と朝倉は同意している。
「藤城、よくやった」
 さらに須藤も面白い実験が出来そうだと生き生きしている。
「いやいや。トラブルが向こうから勝手に来ているだけだし」
 俺はうっかり話を聞いてしまったが、呼び込んでいるわけではないと言い訳させてもらう。
「確かに、森本さんは惚れ薬の噂を聞いて、じゃあ他の薬も出来るんじゃないのって思っただけだからな。いや、そう考えると、惚れ薬開発のきっかけを作った藤城に責任がある」
 だが、横で旅人が妙なことを言い出して、勘弁してくれよと思う。
 そう、あのポニーテイルに繋ぎの少女、魔法工学研究科一年の森本夏恋《もりもとかれん》は惚れ薬の噂から、他の薬も作れるのではと考えてやって来た。


「記憶を取り戻す薬だって?」
 俺は夏恋の言葉に、うっかり、そう、うっかりこう訊き返してしまった。すると夏恋はここぞとばかりに事情を話し始めた。
「先輩が事故で記憶を失っているみたいなんです。それも部分的に欠けている感じで、普通の記憶喪失とは違うんです。多くのことは覚えているんですよ。でも、肝心の部分がないんです」
「へ?」
 しかも話が抽象的でよく解らなかったものだから、ますます相談内容を真剣に聞き出すことになってしまった。
「ああ、そうですよね。実は工学科で事故があって」
「それって四月の入学当初のやつ?」
 旅人が農園にいる時に大爆発を起こしていたよねと、思い出して質問する。
「はい、それです。電気魔法を溜めておく装置が誤作動して大爆発をしたんですけど」
「凄え事故だな」
 煙がもうもうと立ち上っていたのは見えたが、そんな事故があったのか。その割には魔法科の時のように、緊急呼び出しがなかったのが不思議だ。
「研究室にいたのは一人だけだったんです。すぐに魔法科が消火して、辺りに散らばった電気魔法も回収してくれましたから、医学科や薬学科には話が行かなかったんだと思います」
 それに対して夏恋から明確な説明があった。しかし、その医学科や薬学科が関わらなかったせいでと悔しそうだ。
「まさか、記憶喪失に気づくのが遅れたってこと?」
「はい。怪我そのものは大きくなく、医学科に運ばれて簡単な手当を受けただけでした。でも、その頃から何かがおかしいんです。先輩、板東天花ばんどうてんか先輩は、事故の翌日から先生の名前を忘れていたり、簡単な魔法を忘れていたりと、変だったんです。もちろん事故のショックだろうと思われていたんですけど、二ヶ月近く経っても改善しません。それどころか酷くなっているようで。でも、医学科に相談しても脳に異常は見つからないって言われてしまって」
 夏恋はぐすっとそこで鼻を啜った。
「その先輩と仲が良かったのか?」
 四月の事故というと、まだ入学三日目くらいではなかったか。俺は不思議になって訊くと
「はい。近所に住んでいて、昔から何かとお世話になっていました。同じ工学科に入れて嬉しかったのに、先輩、何だかおかしくなっちゃって」
 我慢できなくなったのか、そこで夏恋は大泣きしてしまった。そしてその泣き声を須藤が聞きつけ、何をやらかしたと俺と旅人はまとめて怒られ、実はと事情を説明したのが、緊急会議が始まる前の話だ。


「記憶喪失って医学じゃ解らねえの?」
 俺はアンデッドの調子を確認している大狼に訊いてみる。
「脳に大きく損傷があれば解るが、それ以外だと特定できないだろうな。記憶喪失は心因性の場合も多いから」
 大狼はこくこくと勝手に頷くアンデッドに辟易しながら、難しいぞと顔を顰めている。
「心因性。はあ、また心か」
 今度はどんな変な植物をすり潰す羽目になるんだと、俺は顔を顰める。が、会議そのものが前回と違い、先生たちも難しい顔をしていた。
「香りが記憶を刺激しやすいと言いますから、そういう観点から攻めてはどうでしょう」
 そう須藤が提案し
「いや、脳内に事故当時の映像を再現させるような働きを、惚れ薬の応用で起こさせるのはどうだ? 丁度、この間のネズミからメスを引き寄せるフェロモンを採取する事が出来た。これによって、特定の脳の動きを薬で促すことが出来るはずだ」
 朝倉がそう言い
「そのショックはどうかと思います。それよりもリラックスさせて退行催眠がいいんじゃないですか」
 遠藤が別の提案をしている。
 というように、すぐに一方向に決まりそうにない。
「ともかく、その子に会わなきゃ始まりませんよ」
 議論をのんびり聞いていた塩崎がそう言うと、俺の方を見てくる。俺は咄嗟に視線を逸らしたが、それで許してくれるはずがない。
「それもそうですね。おい、一年ども。明日は工学科に行くぞ」
 夏恋を宥めてくれた須藤がそう言い、こうして俺たちは明日、朝から工学科に乗り込むことになるのだった。
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