35 / 48
第35話 悪魔小豆と妥協点
しおりを挟む
増田に手を引かれて立ち上がった胡桃だが、すぐにその手を離して俺のところに来ると
「カッコよかったじゃん。見直した」
ぐっと親指を立ててくれる。
「ははっ、どうも。って、なんでここでも上から目線なんだよ」
俺はお前のキャラがやっぱり解らんと苦笑いだ。
「ほらほら。どんどん白衣が臭くなるぞ。さすがに魔法でも取り切れないからな」
と、朝倉がそう言って胡桃を追い払う。胡桃もアンデッドの肉片と体液でどろどろなことを思い出し
「ああ。しばらくハンバーグが食べられなくなりそう」
愚痴を零しながら増田のところへと走って行く。
「あいつ、絶対そう言いながらハンバーグ食うな」
「ああ。なんなら今日の晩飯に食いそうだ」
大狼の呟きに、俺も激しく同意。胡桃は見た目以上にタフな女の子だ。
「おおい。回復薬だぞ」
そこに佳希と、どこかに隠れていたらしい旅人がやって来た。無理に飛び出さないあたり、旅人は意外と慎重な性格をしているようだ。その割に怪我をする確率が高いのだから、災難な人とも言える。
「あっ、俺って回復薬飲むのは初めてだ」
俺は回復薬の瓶(どう見ても昔ながらの栄養ドリンクの瓶)を受け取りながら、どういう味がするんだろうと興味津々だ。
「確かに、薬学科って作るばっかりで飲む機会はないよな」
旅人も味の感想をよろしくと軽い。
「よし」
瓶を開けてぐびっと飲み
「や、薬草たっぷりな味わいだ」
そこは栄養ドリンクとは味が全く違うと顔を顰める。なんだろう、苦めの青汁。ちょっと爽やか。そんな感じの味である。
「飲み慣れると癖になるけどな」
一方、日頃から回復魔法の後にお世話になっている大狼は慣れた様子だ。
「おっ、もう身体が楽だ」
しかし、味はイマイチでも効果は覿面で、俺はもう身体が軽いとびっくりしてしまう。
「そりゃあ、俺お手製だからな」
それに朝倉が作ったのは魔法薬学の権威の自分だしと苦笑してくれるのだった。
「重ね重ね、ご迷惑をおかけしました」
数日後。増田は魔法薬学科にやって来ると、俺たちに深々と頭を下げた。手土産に高級な悪魔小豆を使った饅頭まで持ってきて謝罪する。
「全くだよ」
「一応、世界一の魔法使いなんだよ」
「国家魔法師のトップなんだぞ」
「みんなの憧れなんだからね」
それに対して俺たちは一応文句を言いつつ、しっかり悪魔小豆饅頭に手を伸した。
この悪魔小豆は普通の小豆と違い、大きく身がほくほくなのが特徴だ。和菓子との相性ばっちりで、その美味しさは折り紙付きである。しかし、採取は非常に危険で、魔法薬学研究科出身者か、国家魔法師しか採取できないという、超貴重品でもあった。
「悪いね。一個千円もする饅頭まで貰って」
しかし、事の発端である朝倉の調子は軽い。おかげで一年全員がぎっと睨んでいたほどだ。
「そもそもは朝倉先生が、増田先生の気持ちをちゃんと汲み取っていなかったからですよね」
被害の大きかった胡桃が、しっかりと嫌味を言う。そんな彼女はしっかり饅頭を三個も確保していた。
「いや、だって、恐ろしく過去の栄光だよ」
だが、朝倉がそれくらいで反省するわけなかった。けろっとした顔で言う。
「酷いです。今もなお、燦然と輝く天才なのに」
おかげで増田が恨み言を述べたほどだ。
「ううん。だって、今は魔法薬学で注目されることが多いから、自分が国家魔法師であることも忘れちゃうんだよね。定期的に魔法省に呼び出されて仕事を言い渡されない限り、自覚しないっていうか」
しかし、それでも軽い調子を変えないのが朝倉の凄いところだ。ぼさぼさ頭を掻きつつ、饅頭を食らう姿はそこらのオッサンでしかない。
「そもそも、魔法省から直々に指名が来て仕事を頼まれること自体、凄いことなんですよ。なあ、学生の皆は解ってくれるよな。直轄業務はクエスト難度で言えばSS級の難しさなんだよ」
増田は朝倉を諦めて、俺たちに凄さを説き始めた。が、魔法省の業務と無縁の俺たちは
「そういうランク付けがあるんですね」
というところからである。
「ううっ。なんてアウェイなんだ。ともかく、俺でも二年に一回ほどしか任されず、そのほとんどが朝倉先生に振られるって言えば解るか」
増田は心が折れそうになりながらも、必死に説いてくれる。よほどこうやって凄さを訴える機会に飢えていたのだろう。そう解る必死さだ。
「へえ。凄いですね。さすがは我らの朝倉先生」
で、それに乗って上げられるのは、朝倉に憧れる佳希だった。しかし、朝倉はそっちで褒められても嬉しくないと、手をひらひらさせるだけだ。
「はあ。でも、いいんです。こうやって朝倉先生とたくさん喋れる機会が出来たし、その教え子たちとも仲良くなれたから」
そして、先に妥協点を見つけたのは増田だった。
「じゃあ、朝倉先生のストーキングはここで終わりってことですね」
胡桃が二度とやるなよとばかりに言うと
「もちろん。代わりに君たちから情報を貰う」
増田はぎゅっと俺たちと握手していく。
「おいっ」
俺は代わりに使うなとツッコミを入れたが、あの増田がここまで気さくな人と知れたのは、まあ収穫だろうか。仲良くなっておいて損はない人物でもあるし。
「まあ、惚れ薬は今後のトラブル対策のために仕上げてしまおう。丁度良く、昨日のネズミで有意義な反応が得られたしね」
そして問題の中心人物の朝倉は、やっぱり魔法薬学にしか興味がないのだった。
「カッコよかったじゃん。見直した」
ぐっと親指を立ててくれる。
「ははっ、どうも。って、なんでここでも上から目線なんだよ」
俺はお前のキャラがやっぱり解らんと苦笑いだ。
「ほらほら。どんどん白衣が臭くなるぞ。さすがに魔法でも取り切れないからな」
と、朝倉がそう言って胡桃を追い払う。胡桃もアンデッドの肉片と体液でどろどろなことを思い出し
「ああ。しばらくハンバーグが食べられなくなりそう」
愚痴を零しながら増田のところへと走って行く。
「あいつ、絶対そう言いながらハンバーグ食うな」
「ああ。なんなら今日の晩飯に食いそうだ」
大狼の呟きに、俺も激しく同意。胡桃は見た目以上にタフな女の子だ。
「おおい。回復薬だぞ」
そこに佳希と、どこかに隠れていたらしい旅人がやって来た。無理に飛び出さないあたり、旅人は意外と慎重な性格をしているようだ。その割に怪我をする確率が高いのだから、災難な人とも言える。
「あっ、俺って回復薬飲むのは初めてだ」
俺は回復薬の瓶(どう見ても昔ながらの栄養ドリンクの瓶)を受け取りながら、どういう味がするんだろうと興味津々だ。
「確かに、薬学科って作るばっかりで飲む機会はないよな」
旅人も味の感想をよろしくと軽い。
「よし」
瓶を開けてぐびっと飲み
「や、薬草たっぷりな味わいだ」
そこは栄養ドリンクとは味が全く違うと顔を顰める。なんだろう、苦めの青汁。ちょっと爽やか。そんな感じの味である。
「飲み慣れると癖になるけどな」
一方、日頃から回復魔法の後にお世話になっている大狼は慣れた様子だ。
「おっ、もう身体が楽だ」
しかし、味はイマイチでも効果は覿面で、俺はもう身体が軽いとびっくりしてしまう。
「そりゃあ、俺お手製だからな」
それに朝倉が作ったのは魔法薬学の権威の自分だしと苦笑してくれるのだった。
「重ね重ね、ご迷惑をおかけしました」
数日後。増田は魔法薬学科にやって来ると、俺たちに深々と頭を下げた。手土産に高級な悪魔小豆を使った饅頭まで持ってきて謝罪する。
「全くだよ」
「一応、世界一の魔法使いなんだよ」
「国家魔法師のトップなんだぞ」
「みんなの憧れなんだからね」
それに対して俺たちは一応文句を言いつつ、しっかり悪魔小豆饅頭に手を伸した。
この悪魔小豆は普通の小豆と違い、大きく身がほくほくなのが特徴だ。和菓子との相性ばっちりで、その美味しさは折り紙付きである。しかし、採取は非常に危険で、魔法薬学研究科出身者か、国家魔法師しか採取できないという、超貴重品でもあった。
「悪いね。一個千円もする饅頭まで貰って」
しかし、事の発端である朝倉の調子は軽い。おかげで一年全員がぎっと睨んでいたほどだ。
「そもそもは朝倉先生が、増田先生の気持ちをちゃんと汲み取っていなかったからですよね」
被害の大きかった胡桃が、しっかりと嫌味を言う。そんな彼女はしっかり饅頭を三個も確保していた。
「いや、だって、恐ろしく過去の栄光だよ」
だが、朝倉がそれくらいで反省するわけなかった。けろっとした顔で言う。
「酷いです。今もなお、燦然と輝く天才なのに」
おかげで増田が恨み言を述べたほどだ。
「ううん。だって、今は魔法薬学で注目されることが多いから、自分が国家魔法師であることも忘れちゃうんだよね。定期的に魔法省に呼び出されて仕事を言い渡されない限り、自覚しないっていうか」
しかし、それでも軽い調子を変えないのが朝倉の凄いところだ。ぼさぼさ頭を掻きつつ、饅頭を食らう姿はそこらのオッサンでしかない。
「そもそも、魔法省から直々に指名が来て仕事を頼まれること自体、凄いことなんですよ。なあ、学生の皆は解ってくれるよな。直轄業務はクエスト難度で言えばSS級の難しさなんだよ」
増田は朝倉を諦めて、俺たちに凄さを説き始めた。が、魔法省の業務と無縁の俺たちは
「そういうランク付けがあるんですね」
というところからである。
「ううっ。なんてアウェイなんだ。ともかく、俺でも二年に一回ほどしか任されず、そのほとんどが朝倉先生に振られるって言えば解るか」
増田は心が折れそうになりながらも、必死に説いてくれる。よほどこうやって凄さを訴える機会に飢えていたのだろう。そう解る必死さだ。
「へえ。凄いですね。さすがは我らの朝倉先生」
で、それに乗って上げられるのは、朝倉に憧れる佳希だった。しかし、朝倉はそっちで褒められても嬉しくないと、手をひらひらさせるだけだ。
「はあ。でも、いいんです。こうやって朝倉先生とたくさん喋れる機会が出来たし、その教え子たちとも仲良くなれたから」
そして、先に妥協点を見つけたのは増田だった。
「じゃあ、朝倉先生のストーキングはここで終わりってことですね」
胡桃が二度とやるなよとばかりに言うと
「もちろん。代わりに君たちから情報を貰う」
増田はぎゅっと俺たちと握手していく。
「おいっ」
俺は代わりに使うなとツッコミを入れたが、あの増田がここまで気さくな人と知れたのは、まあ収穫だろうか。仲良くなっておいて損はない人物でもあるし。
「まあ、惚れ薬は今後のトラブル対策のために仕上げてしまおう。丁度良く、昨日のネズミで有意義な反応が得られたしね」
そして問題の中心人物の朝倉は、やっぱり魔法薬学にしか興味がないのだった。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!
珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。
3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。
高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。
これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!!
転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!

伝説の魔術師の弟子になれたけど、収納魔法だけで満足です
カタナヅキ
ファンタジー
※弟子「究極魔法とかいいので収納魔法だけ教えて」師匠「Σ(゚Д゚)エー」
数十年前に異世界から召喚された人間が存在した。その人間は世界中のあらゆる魔法を習得し、伝説の魔術師と謳われた。だが、彼は全ての魔法を覚えた途端に人々の前から姿を消す。
ある日に一人の少年が山奥に暮らす老人の元に尋ねた。この老人こそが伝説の魔術師その人であり、少年は彼に弟子入りを志願する。老人は寿命を終える前に自分が覚えた魔法を少年に託し、伝説の魔術師の称号を彼に受け継いでほしいと思った。
「よし、収納魔法はちゃんと覚えたな?では、次の魔法を……」
「あ、そういうのいいんで」
「えっ!?」
異空間に物体を取り込む「収納魔法」を覚えると、魔術師の弟子は師の元から離れて旅立つ――
――後にこの少年は「収納魔導士」なる渾名を付けられることになる。

大国に囲まれた小国の「魔素無し第四王子」戦記(最強部隊を率いて新王国樹立へ)
たぬころまんじゅう
ファンタジー
小国の第四王子アルス。魔素による身体強化が当たり前の時代に、王族で唯一魔素が無い王子として生まれた彼は、蔑まれる毎日だった。
しかしある日、ひょんなことから無限に湧き出る魔素を身体に取り込んでしまった。その日を境に彼の人生は劇的に変わっていく。
士官学校に入り「戦略」「戦術」「武術」を学び、仲間を集めたアルスは隊を結成。アルス隊が功績を挙げ、軍の中で大きな存在になっていくと様々なことに巻き込まれていく。
領地経営、隣国との戦争、反乱、策略、ガーネット教や3大ギルドによる陰謀にちらつく大国の影。様々な経験を経て「最強部隊」と呼ばれたアルス隊は遂に新王国樹立へ。
異能バトル×神算鬼謀の戦略・戦術バトル!
☆史実に基づいた戦史、宗教史、過去から現代の政治や思想、経済を取り入れて書いた大河ドラマをお楽しみください☆

転生テイマー、異世界生活を楽しむ
さっちさん
ファンタジー
題名変更しました。
内容がどんどんかけ離れていくので…
↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓
ありきたりな転生ものの予定です。
主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。
一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。
まっ、なんとかなるっしょ。
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる